平成2年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1989~90年の主要国経済
第5章 フランス:増勢やや鈍化ながら景気は堅調
輸出(FOB,季調値)は,89年は前年比14.6%増(11,433億フラン)と大幅に拡大し,90年1~3月期にも前期比3.9%増と拡大した。しかし,4~6月期は同4.5%減,7~9月期も同0.2%減,10月前月比8.7%増の後,11月も同1.9%減とこのところ伸び悩んでいる(第5-6図)。部門別の動向をみると1~3月期には農産物部門が前期比21.8%増と大幅な増加となったほか,乗用車を中心とした輸送機器部門で同7.4%増,航空機(30機80.2億フラン,89年10~12月期は24機70.7億フラン)を中心とした資本財で同2.7%増等工業品部門全体で同3.3%増と好調であった。しかし,4~6月期は農産物部門(前期比10.2%減),航空機輸出の伸び悩み(13機38億フラン)等により資本財部門(同9.1%減),中間財部門(同4.9%減)で減少した他,輸送機器部門も同1.7%減となり,工業品全体も前期比5.0%減となった。7~9月には,農産物部門は,前期比4.1%増となったものの,中間財,資本財を含め工業品が全般的に不調で同0.1%減となった。航空機輸出が伸び悩んだ背景としでは,イギリス,ブリティッシュ・エアロ・スペースのストライキの長期化が挙げられる(注)。10~11月には,航空機(19機46億フラン)や軍事関連等資本財部門が前2ヵ月比12.3%増と大幅に伸びたものの,農産物,乗用車,消費財が伸び悩んだ。国別の動きをみると,1~3月期には,全輸出の約6割を占めるEC域内向けを中心に,特に西ドイツ,イギリス向けが増加したものの,4~6月期には,全般的に落ち込み,イギリス,西ドイツ等では大幅減となった。7~9月期は,景気減速したアメリカが同11.8%減,イギリスが同1.2%減となる一方,ドイツが同8.8%増となる等対照的な動きとなっている。10~11月には,ECが前2ヵ月比12.9%増,イギリス同7.1%増,アメリカ同18.1%増となった(第5-6表)。
輸入(FOB,季調値)の動きをみると,89年15.3%増(11,875億フラン)の後,90年に入って,1~3月期前期比0.2%増,4~6月期同1.8%減,7~9月期同2.7%増の後,10月前月比4.1%増,11月同7.4%減となった。部門別では,1~3月期には好調な設備投資を背景に,資本財が増加したほか,個人消費の好調に伴い,消費財も増加した。4~6月期には,石油価格の下落からエネルギー製品部門で前期比15.1%減となった他,輸送機器,資本財も減少した。7~9月には,中東情勢緊迫化の影響による石油価格の上昇から,エネルギー製品部門が同19.9%増となったほか,資本財,輸送機器も増加した。しかし,10~11月は,国内の景気鈍化を反映し,エネルギー製品部門が前2か月比7.6%増となった以外は,資本財,乗用車をはじめ,ほぼ全部門で減少している。国別では,1~11月では,総じてアメリカ,イギリス,イタリアから増加したほか,西ドイツも増加しているが輸出ほどではなかった。
貿易収支(通関ベース)の推移をみると,89年は,88年を上回る443億フランの大幅な赤字となった後,90年も石油価格の上昇等から,89年と同様のペースで赤字が拡大しており,1~11月までの累計で440億フランの赤字と前年同期の445億フランをわずかに下回っている。部門別では,乗用車を中心とする輸送機器部門では黒字を続けているが,エネルギー製品部門で赤字が拡大している他,中間財部門でも赤字幅が拡大している。資本財部門では年前半,活発な設備投資を背景に輸入が増え,赤字幅が拡大したものの,年後半は,航空機や軍事関連財の輸出好調から赤字幅は縮小してきている。国別でみると,従来から黒字となっていた対イギリスの黒字幅がイギリスの景気減速に伴う輸入減により,このところ縮小しているが,西ドイツに対する大幅な赤字は縮小してきている。しかし,対アメリカ,対イタリアの赤字幅が大幅に拡大している。
なお,ローシュ貿易相は,9月下旬石油価格が年末まで高水準にとどまった場合には,90年の貿易赤字は,9月中旬の政府見通し(400億フラン)を上回り,500億フラン近くに拡大するとしている。
経常収支の動きをみると,89年に245億フランの赤字となった後,90年も,貿易外収支の中の旅行収支が1~3月期で76億フラン(前年同期60億フラン)と大幅黒字となっているものの,前述のように貿易収支の悪化が続いており,1~3月期91億フランの赤字と赤字基調となっている。長期資本収支は,89年は,フランス企業の活発な海外直接投資及び対外貸付が増加しているものの,EC市場統合をにらんだ海外からの直接投資や国内への証券投資が増加したことにより,524億フランの黒字となった。90年1~3月期も同様の状況から66億フランの黒字となっている。
(注)フランスの航空機輸出の重要性は,フランスがエアバスに中心的に参加していることに起因する。エアバス・インダストリーズは,フランス,イギリス,ドイツ(旧西ドイツ),スペインの4か国共同プロジェクトで,イギリスが主翼,ドイツが垂直尾翼,スペインが水平尾翼,フランスがコックピット,機体中央部の製造と組み立て,最終受け渡しを担当している。