平成2年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1989~90年の主要国経済

第5章 フランス:増勢やや鈍化ながら景気は堅調

2. 需要動向

実質GDPは,89年は堅調な個人消費,企業設備投資をはじめとした固定投資のほか,純輸出(85年以来4年振りに寄与度がプラス)等に支えられ,前年比3.6%増と88年に引き続き高成長を記録した。90年に入って,1~3月期には,固定投資,純輸出を中心に前期比0.8%増,4~6月期には同0.1%増と増勢がやや鈍化したものの,7~9月には設備投資の伸びにより,同1.2%増となった。外需寄与度は,1~3月期に農産物及び自動車,航空機を中心とした工業品部門の輸出好調により,プラスとなったが,その後4~6月期には,輸入以上に輸出が落ち込み,再びマイナスとなった。7~9月期には,個人消費の伸びはさらに鈍化し,純輸出の寄与度もマイナスとなったものの,固定投資が大幅に伸び,経済拡大を支えた。

90年の成長率について,政府は,4月時点では投資,個人消費を中心に,3.2%としていたものの,その後の増勢鈍化と石油価格の高まりの影響を考慮し,9月には2.8%と下方改訂している。

(増勢が鈍化した個人消費)

個人消費(GDPベース)は,89年は年前半は伸び悩んだものの,年後半に,盛り返し,前年比3.1%増と引き続き高水準の伸びとなり,前年同様経済成長に最も寄与した。90年も1~3月期は,暖冬によるエネルギー需要減はあったが,乗用車,家電製品等の耐久財部門での増加により,前期比1.5%増となった。4~6月期に乗用車販売の伸びが鈍化し,家電製品,衣料品の売れ行きが不振で,前期比0.5%増と鈍化した後,7~9月期も同0.2%増と低調に推移した(第5-1表)。工業品消費の動きをみると,1~3月期は乗用車販売の大幅な伸びに支えられ,前期比2.5%増,4~6月期は,衣料品等の不振により同0.5%減となり,7~9月には乗用車販売の伸びの鈍化から,前期比1.1%減となった。乗用車登録台数は,1~3月期前年同期比10.7%増の後,4~6月期同2.3%増,7~9月期同2.0%増と伸びが鈍化し,10~12月期も,9月の乗用車に対する付加価値税の引き下げ(25%から22%へ)の効果もなく,同0.8%減と落ち込んだ。この結果,90年は前年比1.6%増と低水準の伸びにとどまった。

実質可処分所得の動きをみると,89年前年比3.4%増とやや低い伸びとなった後,政府の賃金抑制政策等もあり,90年に入っても1~3月期前期比0,7%増,4~6月期同0,4%増と低い伸びが続いたが,7~9月期同1.1%増と高まった。なお,89年の実質可処分所得の伸び及び実質個人消費の伸びには,89年後半の実質可処分所得の伸び(前年同期比3.5%増)が大きく寄与している。

貯蓄率は,89年12.3%の後,90年1~3月期12.5%,4~6月期12.4%の後,7~9月期13.2%とやや高まった。

(総じて堅調な設備投資)

総固定資本形成は,89年は前年比5.9%-と堅調に推移し,90年に入って,1~3月期前期比1.4%増となった後,4~6月期同横ばいとなったものの,7~9月期には同2.1%増となり,経済拡大を支えた。

次にその内訳をみると,実質企業設備投資は,振幅はあるものの,基調としては堅調に推移している。90年1~3月期は,暖冬による建設投資の伸びもあり,前期比3.7%増と大幅な伸びとなった後,4~6月期は同0.9%減となったが,7~9月期同2.6%増と盛り返した。なお,INSEEの設備投資アンケート調査(90年6月実施)によれば,90年の企業設備投資は,乗用車を中心とする輸送機器部門(名目で23%の伸びが見込まれている),消費財部門(同14%の伸び)を中心に,実質で11%の増加となるとしている(88年は6.6%増)。企業規模別にみると,大企業(従業員500人以上)の伸びが高かった89年とは対照的に,90年は中企業(従業員100~500人)及び小企業(従業員100人以下)の伸びが高くなるとしている。

賃金上昇率の高まりから設備投資計画を中止する企業が増加し,設備投資の落ち込みも一時的にはみられたものの,稼働率が高水準(90年7~9月期,85.7%)となっていること(第5-2図)に加え,EC市場統合を控え競争力強化のための設備投資意欲が依然旺盛であることから,設備投資は基調としては今後とも堅調に推移することが見込まれる。

第5-2表 フランスの総固定資本形成

企業の留保利益にかかる法人税率は,90年度に39%から37%に引き下げられているが,政府は9月,91年度予算案発表のなかで,これをさらに3%引き下げ,34%とすることとしている。これは,企業の生産投資の促進と雇用環境の整備が狙いとされている。

実質住宅投資は,88年は前年比4.6%増の後,89年も同3.4%増と好調に推移した。しかし,90年に入り,1~3月期前期比3.4%減の後,4~6月期同1.7%増,7~9月期同1.1%増と伸びがやや鈍化してきている。

在庫投資の動きをみると,1~3月期には,設備投資や輸出の増加に支えられ,大幅な在庫調整がすすめられたが,4~6月期には設備投資及び個人消費とも伸びが鈍化し,在庫も増加し,7~9月期も引き続き大幅に増加した。

(引き続き低調な純輸出)

純輸出は,86年以降低調に推移しており,実質GDP成長率への寄与度もマイナスが続いていたが,89年1~3月期には,航空機等工業品輸出の好調に支えられ,実質輸出も前期比10.9%増と大幅に伸び,寄与度も0.4%と4年ぶりにプラスとなった。90年に入り,1~3月期には乗用車,航空機を中心に輸出が伸び,寄与度もプラスとなったが,4~6月期には,乗用車,航空機とも低調となり,その結果寄与度は,再び大幅なマイナスとなった。7~9月期にも,輸出は航空機を中心とした工業品輸出の不調により伸び悩み,輸入は旺盛な設備投資を背景として資本財等を中心に増加し,寄与度も引き続きマイナスとなった。航空機輸出の不調の背景としては,BAe(ブリティッシュ・エアロ・スペース)のストライキの長期化があげられる。BAeのストライキが終結すれば,航空機輸出も伸びるものとみられる。


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