平成2年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1989~90年の主要国経済
第4章 ドイツ:西の景気拡大,東の生産縮小
89年11月のベルリンの壁開放によって,大量の東独移民が西独地域に流入した。このことは東独地域にとって,労働力の減少による生産の停滞など主としてマイナスの影響をもたらした。一方西独地域にとっては,住宅不足の悪化,財政負担の増大等のマイナスの側面のほか,住宅建設の増加,個人消費の好調など内需の押し上げ要因となり,熟練労働者不足の解消につながるなどプラスに作用した側面もある。
90年1月末に閣議決定された「年次経済報告」では,90年の経済成長率は3%以上とされた。しかし3月には,年初の所得税減税の実施による個人消費の盛り上がり,暖冬や東独・東欧移民の流入による建設投資の増加等内需の好調をうけて3.5%に上方修正された。東独地域経済の落ち込みの一方,西独地域経済の活況という通貨同盟の影響が現れてきた9月には,西独地域の経済成長率は90年に4%(90~94年平均3%成長)とされた。統一ドイツ総選挙を目前に控えた11月中旬には,選挙対策もあって90年に東独地域からの需要増を主因として4.5%(90年7~9月期に前年同期比5.5%)と高い成長見通しが出されていたが,実際にはそれを上回る4.6%の成長が達成褌れた。
10月末,五大経済研究所は秋季合同報告を発表した(第4-4表)。同報告は,初めて統一ドイツの経済見通しを行ったことで注目されたが,成長率の鈍化や失業率の高まりなど総じて悲観的な見通しとなっていたため,ハウスマン経済相は「東独地域経済の回復を過少評価している」と反論した。
統一ドイツの経済成長率については,91年に前年比1.5%増とされた。うち西独地域は,90年に個人消費,設備投資を中心に前年比4.0%増(90年4月の春季見通し3.75%増から上方修正)の後,91年には各分野で全体的に伸びが鈍化し市2.5%増と予想されている。一方,東独地域については,90年が前年比14.5%減,91年が5.0%減とマイナス成長が見込まれている。
統一ドイツの実質的な失業者数(失業者+操短労働者)は,90年304万人から91年には523万人に急増し,失業率は90年の6.0%から91年には9.5%に上昇するとされた。統一ドイツの経常収支黒字は,90年580億マルク,91年160億マルクと縮小が進む(89年西独実績:1,041億マルク)一方で,統一ドイツの財政赤字は90年715億マルクから91年905億マルクと拡大する(89年西独実績:286億マルク)としている。
11月中旬,政府諮問機関の経済専門家委員会(五賢人委員会)は年次報告を発表した(第4-4表)。同報告は,統一ドイツに関する見通しは行っていないが,西独地域については先に発表された五大研秋季合同報告に比べやや楽観的な見方をしている。
西独地域の経済成長率は,90年に前年比で4,0%増となった後,91年には同3.0%増と引き続き堅調な伸びを見込んでいる。東独地域に関しては,統計上の不備から予測は困難であり,経済の落ち込みは91年半ばに底を打っことが期待されるものの,西独地域とは対照的に当面低迷を続けるとみられるが,いずれ建設ブームが生じるとみている。
西独地域の貿易収支黒字は,取引相手国の景気鈍化から輸出の伸びが抑えられる反面東独地域からの需要増大に伴い完成品のほか資本財・消費財の輸入が増大することから,90年の1,150億マルクから91年には870億マルクに縮小するとしている(89年実績:1,346億マルク)。雇用については,西独地域で就業者数が90年70万人増,91年58万人増となる一方,東独地域では合理化の進展から就業者数は減少し,91年の東独地域の失業者数はピーク時で約200万人に達すると見込んでいる。物価については,西独の消費者物価上昇率が90年2.5%の後,91年3.5%に上昇するとしており,東独地域の物価は賃金交渉の展開如何で91年に一段の高まりをみせる可能性があると指摘している。
政策に関しては,①公共部門の財政赤字に対しては,歳出削減努力を怠らず,基本的に借入の増加で対応すべきである,②旧東独国営企業の迅速な民営化を図るべきである,③91年のマネーサプライ目標値を前年比5%程度に設定すべきである等が提言された。