平成2年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1989~90年の主要国経済
第2章 カナダ:マイナス成長,2四半期続く
89/90年度(89年4月~90年3月)の財政赤字は当初見通しでは,歳入を個人所得税収入の安定的推移や,連邦消費税率の引き上げ等から前年比8.1%と見込む一方,歳出は各種の補助金の減額や,国防費の伸びの抑制,さらにODA費の大幅削減により,前年比4%とすることとし,赤字は305億加ドル(GDP比4.7%)としていた。しかし,先程発表された速報値によると,実績では295億加ドルと目標額をやや下回った。
90/91年度に関しては歳入の伸びを前年比6.1%,一般歳出を同3.0%と見込んでおり,財政赤字額は285億加ドル(GDP比4.2%)とすることを目標としている。90/91年度予算では増税を行わないこと,そのかわり赤字削減策として国防費,ODA費,オンタリオ州等比較的経済基盤の強固な州への補助金の抑制を挙げているほか,政府関連企業への経費,補助金の削減が示されている。また94/95年度までに財政赤字を100億加ドル(GDP比1.1%)とする中期見通しも発表された。
(2)「財・サービス税」のその後の動き
税制改革の第一段階としての88年の個人所得税,法人税改革に引き続き,連邦政府は現行の連邦売上税(製造業者売上税,平均13.5%)に代わる「財・サービス税」の91年1月導入を目指し,法案審議を国会で行った(平成元年度世界経済白書各国編参照)。国会での審議の結果,当初は一律9%とされていた税率が7%に引き下げられ,その補填措置として,①課税所得27,006-55,000加ドルの納税者に対する連邦所得税率引き下げ(26→25%)の取り止め,②年間所得70,000加ドル以上の個人に課せられる個人所得付加税率引き上げ(3→5%),③タバコ・アルコール税は「財・サービス税」導入後も現行の19%とする,④資本金1,000万加ドルを越える部分に課税する大規模企業法人税率引き上げ(0.175→0.2%),⑤中古住宅は当初案通り非課税とされるが,新築住宅の税額還付率を引き下げること等が提示された(89年12月19日発表)。この法案は与党が多数を占める下院は90年4月10日に通過したものの,過半数をもたない上院では審議が難航し,9月下旬にはマルルーニ首相が特別権を発動して上院議員の定数増加(8名)を行う等与党議員の確保等の対策を講じ,12月13日,賛成55票,反対49票で漸く上院を通過した。
金融動向をみると,短期金利(公定歩合)は88年の厳しい引き締め政策の結果ほぼ一貫して上昇したが,89年に入ると4月末に12.62転でピークをつけた後,住宅投資の減少等内需の鈍化を背景にほぼ横ばいで推移した(第2-6図)。しかし90年に入ると賃金上昇率及び消費者物価上昇率が依然高い水準にあったため引き締めを強化し短期金利は一段と高まり,アメリカとの金利差も拡大する一方となった(ピークは90年5月末13.92%)。しかし5月末のピークを境に短期金利は緩やかな低下を示し,カナダ銀行も国内景気の情勢悪化から,はっきりと金融緩和の必要性を示唆した。プライムレートも90年4月20日に14.75%まで高まった後,8月半ばには2回の引き下げがありその後も徐々に引き下げが実施され,12月末には12.75%まで低下している。また長期金利は,89年中はほぼ横ばいで推移した後,90年に入ってから上昇傾向となっていたが,その後,中東情勢の緊迫化による一時的な上昇を除けば,ほぼ横ばいから羽含みとなっている。
カナダの貿易構造は,原油,天然ガス等のエネルギー及び食料,一次産品で黒字を稼ぎ,製品貿易で輸入超過(赤字を計上する)となっているため,今回のように石油・石油製品価格が上昇することは貿易黒字を拡大する要因となり,カナダ経済にとってはむしろ好影響を与えるともみられる。事実過去86年の石油価格の低迷がカナダ経済の低迷につながったこともあり,その後の石油価格の底入れがカナダ経済の回復のきっかけになったこともある。今回の影響としては石油産出州である西部地域経済の活性化が期待される。また新たな油田の開発(東部の大西洋沖等)にも拍車がかかり,石油自給率(過去の石油ショックから天然ガス等への移行が進んでいる)をさらに,高める等,これまでの政策スタンスを踏襲した割合軽微なものであると思われる。
一方物価については,先進国中で最も影響の少ない国といわれているものの,消費者物価,工業製品価格に高まりがみられる等影響が出てきている。そのため90年半ば以降景気後退局面にあることから大幅な金融緩和が期待されているものの,引締めを即座に緩和できないでいる。カナダでは石油価格上昇の影響が現れるのは実際の上昇から約2か月後とみられており,今後どのように物価にはねかえってくるかを注視しながら,慎重な金融政策を進めていくものと思われる。