平成2年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1989~90年の主要国経済
第1章 アメリカ:景気の基調弱まる
アメリカ経済は,90年に入り個人消費,住宅投資および設備投資といった国内最終需要の停滞が一層明確になってきており,生産や雇用面に影響が出ている。加えて,8月以降の石油価格の急騰は,国内物価に波及する一方,景気の先行きに対する企業や家計に不透明感をもたらしており,秋以降急速に景気後退(リセッション)懸念が高まりつつある(リセッションの定義については第1-9表を参照)。こうしたことから,91年のアメリカ経済については,国際機関や民間シンクタンクの予測では,実質GNP成長率でいずれも1%以下と大幅な減速は避けられないものとみられている。政府も非公式ながら,9月末の予算サミットの合意の中で90年の第4四半期対比0.7%増,91年同1.3%増と低い伸びを見込んでいた(第1-10表)。失業率は90年の5%半ばの水準から6%台に上昇し,消費者物価上昇率はやや低下するものと見込まれている。
ブルーチップが最近おこなったエコノミストに対するアンケートによると,全体の80%がアメリカ経済は90年第4四半期からリセッションに入るとみでおり,76%が2~3四半期マイナス成長が続くとみている。また,82%が前回(82年)の景気後退時より落ち込みは軽微であると予想している。
このように,仮にリセッション入りしても,過去の石油危機時に比べて今回の景気の落ち込みは比較的軽微であるとの見方が支配的である根拠としては,在庫水準が低いこと,物価が総じておちついており,金融緩和をおこないやすいこと,輸出が好調を続けていること等が挙げられる。しかしながら,過去と比較して,政府,企業,家計のいずれの部門も負債比率が上昇していることから金利の影響を受けやすく,収益が落ち込んだ場合債務の返済が滞る危険性があること,金融部門の貸し渋りの状況に改善がみられないこと,財政赤字削減策の実行によって短期的にはデフレ効果が懸念されることなど新たな要素も加わっており,今後の景気動向はなお予断の許さないものと考えられる。