平成2年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1989~90年の主要国経済

第1章 アメリカ:景気の基調弱まる

3. 生産・雇用

(1)鉱工業生産の不振と稼働率の低下

鉱工業生産は,88年末から伸びが鈍化し始め,89年にはほぼ一貫して伸びが低下した。特に10~12月には,乗用車販売が極度の不振となるに及んで工場の一時的な操業低下やレイオフが相次ぎ自動車生産が大きく落ち込んだことに加えて,ボーイング社のストライキ(10~11月)やカリフォルニア地震(10月)の影響等もあって前年同月比で約1%の低水準の伸びで推移した。この結果,89年通年では前年比2.6%増と前年の伸び率(同5.4%)を大きく下回った。90年に入ると,年初に自動車生産の落ち込みが底入れしたことから,年央まで比較的安定した伸びを示していたが,年央に総じて不振となり,10月以降ほぼ全業種にわたって生産の減少がみられる。産業別の前年同月比増加寄与度をみると(第1-8図),89年末から90年初にかけて自動車産業を中心とした耐久財産業の寄与がゼロあるいはマイナスに落ち込み,その後幾分回復したものの1%台の低水準で推移した。また,非耐久財製造業の寄与も90年に入ってさらに縮小し1%の水準を下回って推移した。その後,90年11月には,耐久財,非耐久財製造業ともマイナスに転じている。

こうした生産の伸びの低下は稼働率の動きにも反映されている。製造業稼働率は,88年平均で83.6%となったが,89年1月には85.1%とピークを迎え,その後89年を通じて緩やかに低下し90年1月には82.0%まで低下した。この結果,89年平均では83.9%と88年平均と同水準となった。その後90年に入って,82~83%台でほぼ横ばいに推移していたが,夏以降低下傾向となっている(90年12月80.0%)。

(2)失業率の上昇と減少に転じた民間非農業雇用者数

雇用情勢をみると,失業率(分母の労働力人口に軍人を含む計数。分子の失業者数は軍人を含んでも含まなくても同じ。)は,経済の長期拡大を背景に89年前半まで低下を続けてきたが,3月に5.0%となった後は下げ止まり,89年後半から90年前半にかけて5.1~5.3%の水準でほぼ横ばいで推移した(89年平均5.2%)。89年に失業率が下げ止まったのは,89年に入って,景気拡大の減速とともに89年の民間非農業雇用者数の増加が287.9万人と前年(333.8万人)に比べて小幅化したためである。その内訳をみると,サービス業では272.6万人の増加と全体の増加分のほとんどを占めている。これに対して,製造業では生産の伸びの鈍化等から89年4月以降雇用者の減少が続いた結果7.6万人と伸びがほとんど止まった。90年後半になると,製造業や建設業での雇用者の減少に加えて,これまで雇用者の増加を支えてきたサービス業でも雇用の増加幅が小幅化したことから全体の雇用者数は減少に転じ,失業率も上昇している。また,90年前半の国勢調査実施のための一時的な雇用者の増減が90年前半には増加要因に,後半には減少要因となっていることも90年後半の雇用者数の減少,失業率の上昇に寄与した(第1-9図)。

雇用者について業種別にみると,89年から90年にかけて,サービス業では,医療等の「その他サービス業」では順調に雇用者が増加しているものの,金融・保険,不動産,運輸業ではかなり増勢が鈍化してきており,小売業,卸売業では秋以降減少に転じている。一方,製造業では,生産活動の不振を反映して,耐久財産業を中心にほとんど全ての業種で減少傾向にある。また,建設業は90年初めに暖冬の影響で大きく雇用者が増加した後は減少傾向にある。一方石油・ガスは増加を続けている。


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