平成2年

年次世界経済報告 本編

拡がる市場経済,深まる相互依存

平成2年11月27日

経済企画庁


[次節] [目次] [年次リスト]

第1章 世界経済の持続的成長と石油価格急騰

第1節 景気拡大の減速

1. 世界経済

(成長率の鈍化した世界経済)

世界経済は,現在約20兆ドル強(名目GNP)の規模に達し七いる(第1-1-1表)。その中で,アメリカは5兆ドル強,ECは5兆ドル弱とそれぞれ世界全体の4分の1を占め,日本は3兆ドル弱と世界の14%を占める。市場経済への移行を進めつつあるソ連・東欧は合わせて3兆ドル強と日本経済とほぼ同規模である。

世界経済は,82年を底に8年にわたる長期拡大を続けている。88年に4.1%と高い成長を示した後,89年初頭にかけて,過熱気味に推移した後,主に金融面の引締めにより,総じて景気拡大が減速している。89年は,アメリカ,イギリスを初めとする先進工業国,アジアを初めとする発展途上国の減速により,成長率は3.0%となった(実質,IMF:World Economic Outlook,以下同じ)。90年に入ると,先進工業国,発展途上国ともに引き続き緩やかに拡大を続けているものの,先進国を中心に,さらに減速がみられる。8月初の石油価格急騰により,多くの国で物価上昇,成長の一層の減速が生じている。例えばアメリカでは,IMFの見通し(10月発表)によれば,石油価格上昇により,前回(5月)に比べ,物価上昇率の上方改訂(90年0.5%,91年0.3%),実質GNPの下方改訂(90年0.4%,91年0.6%)がなされる等,経済へのマイナス影響が見込まれている。

先進工業国では89年に3.4%と,西ドイツを除く殆どすべての国で成長率が鈍化した。中でもアメリカ,イギリスでは,引き締め気味の金融政策により個人消費,設備投資の伸びが鈍り,成長率は大きく鈍化した。90年になると,アメリカ,イギリスでは個人消費,設備投資が弱含みで推移し,一層減速が顕著になっているのに対し,日本,西ドイツ,フランス,イタリアでは引き続き拡大している。また,長期め景気拡大が持続する中で,稼働率が高まり,雇用が顕著に拡大したが,アメリカ,イギリス等では,90年初来の減速により,頭打ちの状態となっている(第1-1-2表,付表1-1)。

発展途上国では,88年に4.2%と高い成長率を示した後,89年は3.0%と鈍化している。この背景として,主として,アジアNIEsで為替レート,賃金コストの上昇等により輸出が不振であったこと,中国で緊縮政策がとられたこと等が挙げられる。一方,アセアンでは,海外からの直接投資を契機に,経済は拡大の好循環を享受している。ラテン・アメリカ経済は,88年に比べ,若干拡大したが,依然低迷基調が続いている。90年になると,アジア経済は比較的堅調であるのに対し,ラテン・アメリカ経済は低迷が続いている。

ソ連・東欧をみると,生産の減少,物価の高騰,失業の増大等,中央統制経済から市場経済への移行の過渡期の経済混乱が生じており,90年にはマイナス成長の可能性が高い。

(世界貿易)

世界貿易は数量ベースで88年に前年比9.1%増(IMF"WORLD ECO-NOMIC OUTLOOK"以下と同じ)と極めて高い伸びを示した後,世界経済の成長鈍化を反映して89年は前年比7.3%とやや伸びは低下したが,依然87年の伸びを上回っている(付注1-2)。

89年の地域別輸出(数量ベース)をみると,先進国が前年比7.0%増であり,アメリカが同10.9%増,西ドイツも同7.7%増と前年に続き高い伸びとなったのに対し,日本は同3.8%増にとどまり,伸びが低下した(88年同5.1%増)。なお,世界輸出に占めるシェアをみると,アメリカが高い輸出の伸びにより,12.5%と前年1位の西ドイツの11.7%を追い抜いた。途上国は前年比6.7%増と拡大は続いたが,前年(同10.5%増)に比べると減速した。ただし,アジアは同9.2%増と引き続き高い伸びが続いている。

地域別の輸入(数量ベース)をみると,先進国が前年比8.1%増であり,アメリカ,西ドイツ,日本がそれぞれ同5.8%増,同7.1%増,同7.8%増と堅調である。なお,日本は前年が16.7%増であったのに比べると伸び率は低下したものの,引き続き緩やかな増加を続けている。途上国は前年比8.6%増と拡大は続いたが,前年(同10.6%増)に比べるとやや減速した。ただし,アジアは同13.6%増と二桁増を続けており,依然として高い伸びが続いている。

90年については,世界的に経済成長が減速するのに伴い,世界貿易も伸びがやや低下し,数量ベースで前年比5.4%増と見込まれている(前掲IMF統計)。

内訳をみると,輸出は,先進国が前年比6.3%増と前年よりやや伸びが鈍る見込である。途上国は前年比5.0%増と伸びが低下する見込である。

輸入は,先進国が前年比5.5%増とかなり低下する見込である。途上国は伸びが半減し,前年比4.1%増にとどまる見込である。特に寄与の大きいアジアでは同6.3%増と一桁に減速すると見込まれている。

2. アメリカ経済

アメリカ経済をみると,89年4~6月期以降減速しているものの,引き続き緩やかな拡大を続けている。89年の実質GNP成長率は2.5%と前年の4.5%から鈍化した後,90年に入ると,前期比年率成長率が1~3月期1.7%,4~6月期0.4%,7~9月期1.8%(暫定値)と増勢は大きく鈍化している(第1-1-3表)。89年についてみると,個人消費は通年では経済の拡大の主因となったものの,89年10~12月期以降停滞気味に推移している。また,住宅投資は低迷しており減少が続いている。民間設備投資も89年に製造業の生産不振による企業の設備投資意欲の減退等から大幅に伸びが鈍化した。外需をみると,輸出が年後半にボーイング社のストライキ等の一時的要因からやや伸び悩み前年比11.0%増となった一方,輸入が内需の鈍化からややかげりをみせたものの同6.O%増と前年並みの伸びを維持した結果,純輸出のGNP成長率への寄与度はプラス0.5%と前年のプラス1.1%からやや縮小した。90年に入ると個人消費,住宅投資および設備投資といった国内最終需要の停滞が一層明確になってきており,生産や雇用面に影響が出ている。また,輸出の伸び悩みから純輸出の改善傾向にも鈍化がみられる。

景気の先行きについては,国内最終需要に力強さが欠けていることから不透明感が根強かったが,8月以降の石油価格の上昇は,企業,家計に先行きに対する不安感をもたらし,景気後退懸念が強まりつつある。また,こうした要因以外にも,財政赤字の拡大,経営難の貯蓄金融機関の救済問題,民間金融機関の貸し渋りといった国内問題も抱えており,アメリカ経済は厳しい局面を迎えつつある。

(乗用車販売の不振と個人消費の停滞)

個人消費は,88年は前年比3.6%増と堅調に推移した後,89年は可処分所得の伸びの鈍化に加えて年後半の乗用車販売の落ち込みを反映して同1.9%増と伸びが鈍化した。四半期ごとの動きを追ってみると,サービス消費が堅調に推移する一方,耐久財消費が乗用車販売の動きに対応して大きく増減したことから,89年10~12月期前期比年率0.8%減,90年1~3月期同1.1%増,4~6月期同0.2%増,7~9月期同3.6%増と大きく変動している。89年第10~12月期以降,非耐久財消費の減少に加えて,耐久財消費も乗用車を中心に不安定な動きを続けていることから,基調としては停滞気味に推移している(第1-1-1図)。乗用車販売については,88年1~3月期の年率1,090万台をピークに緩やかに下降し,89年には販売促進等から一時年率1,000万台を超えたものの,モデルチェンジ後の10~12月期には同880万台と極端な不振となった。90年入り後は幾分回復したが,年率900万台後半の水準で依然低迷を続けている。

このような個人消費の停滞は家計貯蓄率の上昇に表れている。家計貯蓄率は87年に2.9%と極めて低い水準になった後,88年以降は上昇しており,90年4~6月期には5.O%となった。しかし,7~9月期には実質可処分所得が減少したことから4.0%に低下した。

乗用車販売の動向は在庫投資の動きにも影響している。在庫投資の実質GNP成長率への寄与度をみると,自動車関連の小売在庫が大きく増減するのと歩調を合わせ,90年1~3月期マイナス′2.0%,4~6月期プラス1.1%,7~9月期マイナス0.2%と大きく変動した。

(力強さに欠ける設備投資)

民間設備投資は,88年,に前年比8.3%増と大幅に増加した後,89年前半までは高い伸びを示し成長を牽引したが,後半に入ると,企業収益の悪化から製造業の設備投資意欲が弱含み,89年全体では前年比3.9%増と大幅に伸びが鈍化した。90年に入り,1~3月期前期比年率5.0%増,4~6月期伺4.7%減,7~9月期同7,4%増と89年後半から増減を繰り返している。商務省設備投資計画調査(90年7~8月実施)によると,90年の設備投資計画は,従来から弱気の製造業に加え,非製造業でも計画の下方修正が目立ってきており,全体では前年比5.1%増(実質ベース)と,過去2年と比較して低い伸びに止まっている。石油価格の上昇による景気後退懸念が来年以降の設備投資計画に影響することも考えられ,設備投資は当分力強さに欠けるものと予想される。

(住宅投資の減少)

住宅投資は,88年10~12月期以降減少傾向にある。89年に前年比4.1%の減少となった後,90年1~3月期には暖冬の影響等により前期比年率15.1%増と5四半期ぶりに増加したが,住宅抵当金利の高どまり,貸家を中心に空き家率が高水準で推移していること,更には金融機関による貸し渋りの浸透などによ64~6月期には同11.2%減,7~9月期同15.4%減と再び減少に転じている。住宅着工件数でみても,89年10~12月期年率135万戸の後,90年1~3月期に天候要因等により同145万戸に増加したものの,4~6月期同120万戸,7~9月期同114万戸と87年以来の減少傾向が続いている。

(改善傾向の鈍化する純輸出)

純輸出の動向をみると,85年年初来のドル高修正の効果,87年,88年の世界的な投資ブームを背景とした資本財輸出の大幅な増加,最近ではEC向け輸出の好調等から改善傾向にあり,GNP成長率への増加寄与度は87年以降3年連続でプラスとなっている。89年全体では寄与度がプラス0.5%と前年のプラス1.1%に比べてやや縮小した。これは,88年末から89年9月までドル高傾向であったことに加えて,輸出が年後半のハリケーン・ヒューゴ等の天災,ボーイング社のストライキといった一時的要因から前年比11.0%増と高水準ながら伸び悩んだ一方,輸入が10~1会月期に内需の鈍化によってややかげりをみせたものの同6.0%と前年並みの伸びを維持したことによる(第1-1-2図)。90年に入ると,GNP成長率への増加寄与度は,1~3月期プラス1.2%となった後,これまで高水準を続けてきた輸出に伸び悩みがみられることから,4~6月期マイナス0.9%,7~9月期マイナス0.8%と改善傾向に鈍化がみられる。今後は,輸出面では,ヨーロッパを中心とする海外の景気動向,輸入面では国内景気の先行きが影響するものと考えられる。

(労働市場の動向)労働市場については,83年以降7年もの長きにわたりサービス業を中心に雇用者数の増加傾向が続き,失業率もここ1年以上の間5.2~5.3%と低い水準で推移していたことから,全般的な雇用環境は安定的に推移してきたといえる。

しかしその一方で,製造業や建設業では雇用の減少が続いている。しかも,雇用増を支えてきたサービス産業でも90年に入り卸売,金融・保険,不動産等の分野で伸び悩みが目立ってきた結果,雇用者数もこのところ伸び悩みをみせている。また,失業率も7~9月期5.5%,10月5.6%と上昇しており,雇用面での安定もここにきて転換点を迎えている。

3. 西欧経済

EC経済は,83年初以来の経済拡大を持続しており,89年も大幅な伸びを示した88年をやや下回ったものの,引き続き高水準の伸びとなった。実質GDP成長率は(EC12か国)は,87年2.9%,88年3.9%の後,89年は3.3%と引き続き高い伸びとなった。89年は,個人消費,設備投資とも伸びが若干弱まった結果,内需の伸びが88年の5.0%から,3.6%へと鈍化した。他方,外需は,依然マイナスの寄与とはなったものの,輸出の大幅な伸びにより,マイナスの寄与度は大幅に縮小した(第1-1-4表)。

90年について,主要国の1~6月の実質GNP/GDP成長率をみると,イギリスでは,内需の鈍化により前年同期比1.9%と減速している。西ドイツは,統一による東独からの需要増効果を背景に,個人消費,設備寝資を中心に同3.9%と,引き続き力強く拡大している。フランス,イタリアでは,同2.4%,2.4%,と若干減速しているものの,内需主導で緩やかに拡大している。

(1)イギリス-成長大幅に減速

イギリスでは,89年には内需の伸びが鈍化して前年の過熱傾向が鎮静化し,成長率は半減した。90年に入ってからも,成長減速が続く中で,インフレが高進し,企業の景況感も夏以降更に悪化している。政府は,高金利政策等の効果によりインフレ圧力が低下してきたとみているが,物価上昇率が依然高いことから,インフレ抑制の政策スタンスをなお維持している。この中で,10月上旬,ECの為替相場調整メカニズム(ERM)に参加し,同時に,政策金利を1%引下げた。

(成長大幅に減速)

実質GDP(生産ベース)の伸びは,88年4.9%,89年2.5%,90年上期1.9%(前年同期比)と鈍化しており,政府は90年全体では1%に止まるとみている。89年には,個人消費,設備投資の伸びが鈍化し,住宅投資が減少するなど内需の伸びが鈍化し,内需のGDP寄与度は88年の8.O%から3.2%に低下した。

これに対して,外需は,引き続きマイナスではあるが,輸出の伸びが高まり,輸入は伸びが鈍化したことから,マイナス幅は縮小した(付表1-3,(1))。

90年に入ってからも,実質個人消費は増勢を維持してきたが,小売売上数量(乗用車を除く)でみると,4~6月期前期比0.5%増,7~9月期同0.7%減(前年同期比1.0%増)と年央以降伸び悩みを示している。新車登録台数は89年央以降減少傾向にあり,89年下期前年同期比1.0%減の後,90年上期には同11.7%減となっている。実質個人可処分所得は,89年4.8%増,90年1~3月期5.O%増(前年同期比)と堅調な伸びを続けているものの,高金利の下で家計の負債比率が高まる傾向にあり,インフレの高進とともに消費者心理も慎重化し,家計貯蓄率もやや高まっていることなどから消費の伸びが鈍っているものとみられる。

87,88年の設備投資プームも89年には鎮靜化し,90年の民間設備投資は1%減と政府は予測している。実質製造業固定投資(リースを含む)は,89年9.1%増の後,90年1~3月期前期比4.6%増,4~6月期同6.3%減(前年同期比3,O%減)となっている。企業利潤の伸び悩み(90年1~3月期,前年同期比2.9%減),製造業稼働率の低下(最近のピーク)時88年4月94.8%→90年7月86.2%),企業の景況感の悪化などを背景としたものである。

実質住宅投資は減少を続けており,89年全体で3.O%減少の後,90年1~3月期前期比3.9%減,4~6月期伺5.O%減となっている(90年政府見通し61/4%減)。

(失業率年央以降高まる)

成長減速の中で,これまでみられた雇用情勢の改善もほぼ頭打ちとなっている。雇用者数は,89年中に51万人増加した後,90年1~3月期には7.3万人増と小幅化した。サービス業では引き続き増加しているが,製造業では89年中に2.3万人の純減の後,90年1~3月期にも2.3万人減少した。

失業者数は,過去44か月にわたって減少を続けて今たが,90年4月以降増加に転じ,その後9月までに6.0万人増加して約167万人となった(ピーク時の86年7月は321万人)。失業率も90年2~4月の5.6%を底にやや高まり,5~7月5.7%,8~9月5.8%となっている(86年夏のピーク時は11.3%)(第1-1-3図)。

(経常収支赤字の緩やかな縮小)

経常収支赤字は89年夏以降徐々に縮小しており,90年1~9月累計は136億ポンドと,前年同期(153億ポンド)を下回ったものの,依然高水準となっている。

これまでの経常収支赤字の緩やかな縮小は,主として,貿易収支赤字が,①石油輸出が,北海油田事故の復旧により増加した,②製品輸出が,89年中のポンド安やEC経済の拡大持続から,特に資本財,乗用車などを中心に好調である(90年上期の非石油輸出,前年同期比12.4%増),③内需の鎮靜化から,輸入の伸びが鈍化した(上期の非石油輸入,同3.3%増)などの理由から縮小したことによるものである。一方,貿易外収支黒字は,支払い利子の増加などによる利子・利潤・配当(IPD)の黒字幅の縮小がら,小幅化を続けており,88年59億ポンド,89年40億ポンドの後,90年上期には約20億ポンドとなっている。

イギリスは石油純輸出国(89年石油収支黒字14.8億ポンド,GDP比0.3%)であるため,90年8月の原油価格急騰により,石油収支黒字幅は拡大するとみられる。

(2)ドイツー90年10月3日,統一ドイツ誕生

①西独地域一力強い景気拡大を持続

83年初からの西独地域の景気拡大は,8年目に入った。89年は,年初の暖冬等の特殊要因に加え,投資,輸出がプラスの成長要因として働き,実質成長率で前年比3,.9%増と,80年代最高の経済成長を達成した。89年秋がらの東独・東欧からの移民の大量流入は,消費や住宅需要を一段と増加させ,内需主導の景気拡大要因ともなった。90年に入っても,暖冬,移住者向けの住宅建設による建設業の好調や年初における減税の実施を主因とした消費の好調により,高い成長を持続している。

(内需主導型の経済成長へ)

89年の国内需要は前年比2.7%増と,比較的穏やがな伸びとなった。個人消費が前年比1.7%増,政府消費は同0.9%減となった一方,設備投資と建設投資の好調(各々9.7%,5.1%の増加)から固定投資は同7.1%増と大きく伸びた。89年の輸出は前年比11.5%増と80年代最高め伸びとなり,経済成長の牽引役となる一方,輸入も前年比8.8%増と大きく伸びた。また純輸出の寄与度は,89年には1.2%のプラスとなった(付表1-3)。

90年に入ると,内需の力強さが増している。個人消費は,年初の所得税減税,雇用拡大,移民流入等から景気拡大の原動力として堅調に伸び,1~3月期に前期比2.7%増となった後,4~6月期同0.6%増となった。設備投資は,西独製品に対する東独市民の需要増が見込まれるなか,増産・合理化投資を中心に拡大しており,1~3月期同6.6%増の後,4~6月期同横ばいとなった。

住宅等の建設投資は1~3月期同20.2%増と大きく伸びた後,4~6月期はその反動で同12.8%減となった。建設部門では,大量の移民流入,公的住宅振興策および建築価格上昇期待が長期金利上昇による抑制効果を上回っている。このため他の部門を上回る価格,賃金上昇が生じるなど需要超過の初期の徴候がみられる。

(経常収支黒字は縮小へ)

通関統計をみると,商品輸出は,88年に前年比7.6%増となった後,89年にも西ドイツの資本財に対する強い外需や西独企業の強い競争力を背景に,EC諸国,アメリカ,途上国を中心に増加し,同12.9%増と大幅な伸びとなった。90年に入ると,1~3月期前期比4.O%増と大きく伸びた後,4~6月期には東ドイツへの財供給の増加等により他国への輸出が減少したことから同5.O%減となった。同様に,西ドイツの輪出の6割近く(89年で55.8%)を占める資本財輸出も,90年1~3月期959億マルクの後,4~6月期には902億マルクと減少した。また財別受注をみると(第1-1-4図),90年に入り国内向け(東ドイツ向けを含む)で資本財,消費財がともに増加しているのに対して,海外向けではいずれも減少している。一方,商品輸入も,88年に前年比7.3%増となった後,89年にも好調な国内需要を反映して完成財の輸入を中心に増加し,同15.2%増と80年代最高の伸びとなった。90年に入ると,1~3月期前期比0.7%減となった後,4~6月期同0.2%増となった。この結果,貿易収支黒字は89年に1,346億マルクと史上最高を記録した後,90年に入ると1~3月期の366億マルクから4~6月期には281億マルクへと大きく縮小した。経常収支黒字(原数値)も89年に1,041億マルクと史上最高となった後,90年1~3月期288億マルク(前年同期309億マルク),4~6月期180億マルク(前年同期272億マルク)と黒字幅が縮小した。

東西ドイツ間貿易(統計上国内取引として計上され,通関統計には含まれない)は,依然拡大が続いている。東ドイツへの輸出は資本財や消費財を中心に拡大し,90年1~5月には前年同期比45.8%増と急増した。一方東ドイツからの輸入は,1~5月同0.3%減となった。これにより,東西ドイツ面貿易における西ドイツの黒字は,90年1~5月期に14.4億マルクとなった。

今後,西独地域の製造業稼働率が90年6月時点で89.4%と高水準に達しているなかで国内需要の増大や東独地域の復興需要が見込まれることから,輸入は増加し,中長期的には西独地域の経常収支黒字は縮小するとみられる。

(雇用の拡大)

最近の力強い景気拡大を反映して雇用者数は89年に1.6%増加し,90年に入っても1~3月期前年同期比2.6%増,4~6月期同2.7%増と好調な伸びを示した(付表1-4)。このような雇用の好調な伸びのため,東独・東欧からの大量の移民にもかかわらず失業者数は順調に減少し,90年1~3月期には200万人を割って195万人となった(4~6月期192万人,7~9月期189万人)。失業率も89年4~6月期に8%を割り7,9%となり,その後も低示を続け,90年4~6月期7.3%,7に9月期7.2%となった。雇用者数が順調に増加する一方,失業率は90年3月以降5か月連続で7.3%と下げ止まったが,この理由としては,労働力人口が東ドイツや東欧からの移民流入によって増加したことから失業者数の減少ペースが鈍化しhことが考えられる。雇用者数の最近の動向を業種別にみると,サービス業で好調に雇用拡大が進んでいるほか,製造業で89年1~3月期以降,雇用の伸びが高まっている。

② 東独地域-90年に入りマイナス成長(詳細は 第2章第1節 を参照)

89年の生産国民所得は,前年比2.0%増(計画4.0%増)と伸びが鈍化した後,90年1~6月には前年同期比で7.3%の減少に転じた。鉱工業生産は,(1)東独製品に対する需要の低迷,(2)労働者の減少,(3)原材料不足等により,1~6月期前年同期比で7.3%減となった後,7月には前年同月比で42%減と大幅に落ち込んだ。

東西ドイツ間貿易を除く貿易全体では,商品輸出が90年1~5月前年同期比で8%減,商品輸入は同9.1%減となった。この結果,1~5月は26.7億マルクの輸出超過(対西側諸国16.5億マルクの輸入超過,対コメコン諸国46,2億マルクの輸出超過)となっている。

雇用情勢をみると,7月の通貨同盟発効前後から失業者数が急増し,7月末27.2万人の後,8月末36.1万人,9月末44.5方人となr),失業率も7月の3.1%から8月4.1%,9月5.O%と上昇した。また実質的な失業者とみることのできる操短労働者の数は,農業,繊維・衣類,機械,電気産業部門番中心に増加し,7月末65.6方人の後,8月末150.0万人,9月末172.9万人と大幅に増えた。

(3)フランス――好調ながら増勢やや鈍化

フランスでは,89年,好調な内外需に支えられ,実質GDP成長率が3.6%と高い伸びとなった4,90年1~3月期も内外需の好画を背景に前期比年率2.5%と引き続き拡大したが,4~6月期は外需及び設備投資の大幅な落ち込みにより,同0.7%と増勢がやや鈍化した(付表1-3)。これに加え,石油価格上゛昇が内外経済に及ぼす影響も考慮し,90年9月発表の政府見通しでは,90年の成長率は,純輸出の悪化を中心に2.8%と,4月発表時の3.2%から下方改訂された。

消費者物価上昇率は89年後半以降はおおむね落ち着いていたが,90年8~9月には,中東情勢緊迫化に伴う石油価格の上昇から前年同期比3.6%(7月は同3.0%)と高まった。一方失業率は緩やかながら改善しているものの,依然としてその水準は高い。

(活発な消費と堅調な設備投資)

実質個人消費は,一貫して好調を持続し,89年の経済成長に最も寄与した。

90年1~3月期も前期比年率4.4%と経済成長の牽引役となった後,4~6月期は,同2.1%増となった。なお,政府見通しでは,90年は前年比3.3%増としている。

個人消費が賃金が抑制されているにもかかわらず,堅調な伸びを示したのは,実質可処分所得の上昇に起因している(第1-1-5図)。この背景としては,①石油価格,一次産品価格の低下の他,EMS内のフラン安定を重視した金融政策による物価の安定,②付加価値税の引き下げ(自動車,家電等に適用されている割増税率を28%から25%に引下げ)等の税制改革,③雇用者数の増加等があげられる。なお,90年9月から,原油価格主昇による物価への影響を緩和するため,付加価値税の引き下げ(割増税率を25%から22%に引下げ)が行われた。

実質民間設備投資は,89年も前年比6.6%増と引き続き堅調に推移した。これは,政府の安定した金融政策及び法人税の軽減(留保利益に対する税率を39%から37%に引下げ)等の財政政策,1992年EC統合をにらんだ企業の新規投資の積極化等が主因とみられる。90年1~3月期は前期比年率13.O%増と高い伸びとなったが,4~6月期はその反動から同7.0%減と伸びが落ち込んだ。

また,INSEEの企業設備投資アンケート調査(90年6月)によれば,90年は資本財,中間財部門の伸びが緩やかになるものの,輸送機器,消費財部門の大幅な伸びに支えられ,実質11%増と89年を上回る高い伸びになるとしている(第1-1-6図)。

(純輸出の改善)

純輸出は,89年は輸出が工業品を中心に73年以来の高い伸びを示し,前年比11.0%増と輸入の伸び(前年比8.3%増)を上回り,寄与度は84年以来5年ぶりにプラスとなった。90年1~3月期も,暖冬等によるエネルギー需要減を主因に輸入の伸びが鈍化,逆に輸出は航空機を中心とする工業品が伸び,寄与度がプラスとなったが,4~6月期には,輸出の大幅な落ち込みにより,寄与度はマイナスとなった。政府見通しでは,90年は輸出が伸び悩む(前年比5.1%増)としており,この結果,寄与度もマイナスとなるものとみられる。

一方,通関ベースでは,89年には輸出,輸入とも前年比14.6%増,15.3%増と88年を上回る伸びを示し,貿易収支赤字は88年の328億フランから89年は455億フランへと大幅に拡大した。貿易収支赤字は90年1~3月期には,輸出の伸びにより,月平均8億フランへと減少したが,4~6月期には,輸出の落ち込みにより,月平均35億フランへと拡大,7~9月期も月平均70億フランとさらに拡大した。1~9月の貿易収支赤字の累計は324億フランで,前年同期の312億フランを上回っており,政府見通しでは90年は大幅な改善は見込まれず,400億フランに達するとしている。

(雇用の緩やかな改善)

フランス経済が順調な拡大を続ける中,雇用状況も改善に向かい,雇用者数(期末値,非給与所得者及び非市場部門を含まず)は,89年4~6月期の1,404万人か,ら90年4~6月期一は1,434万人へと増加し,また失業者数も89年253万人から90年7~9月期には,250万人へと減少している。産業部門別雇用者数は,サービス業部門で引き続き増加するとともに,製造業部門でも堅調に推移した(付表1-5)。この結果,失業率は89年9.4%の後,90年1~9月(平均)は8.9%となっている。

しかし,女性及び25歳以下の若年者の高い失業率等により,失業率の水準自体は依然として高い。政府も職業訓練等の雇用対策を実施しているものの,雇用状況は依然として厳しい。

(4)イタリアー好調ながらやや減速

イタリア経済は89年には,88年の4%台の成長に比べやや鈍化したものの,実質GDPは,前年比3.2%増(うち内需寄与度3.5%)と,消費,機械設備を中心とした投資により好調に推移した。しかし90年に入ると,1~3月期前期比0.6%増,4~6月期同0.2%減とやや減速がみられる。

(内需の好調からやや減速へ)

内需の動向をみると,個人消費は89年中,も好調が続き(前年比3.8%増),GDPに対し,最も大きく寄与した(前年比寄与度2.4%)。小売売上金額は前年比二けたの伸びが続き(前年比11.3%増),乗用車販売台数も,依然好調に推移した。90年に入ってからも消費の堅調は続いているが,90年半ばには,乗用車販売台数に伸び悩みがみられる。

また投資は,89年も機械設備を中心に好調に推移し,消費に次ぐ成長拡大の要因となった(前年比5.1%増)。87年,88年に二けたの伸びとなった機械設備は,89年にやや鈍化したものの,依然として好調である(同6.3%増)。建設投資は88年に比べ伸びを高めたが(同3.6%増),90年に入りやや伸び悩んでいる。

このように内需は,89年は好調に推移したが,90年入り後,やや減速気味となっている。

(物価上昇率は安定から高まりの兆し)

物価をみると,生計費上昇率は付加価値税の引上げ(89年1月)等の影響から,89年に前年比6.6%の高い上昇率となった。90年に入ると,高水準ながらも上昇率に落ち着きがみられ,一時,前年同月比5.6%(6月)まで低下したものの,8月以降は石油価格の上昇を受け,同6.3%(8~10月)と再び高まった。これに対し9月から,政府は石油製品価格の凍結を実施したが,その後税収の減少が財政に与える影響力大きいことから,2週間で凍結を解除した。

(雇用情勢の改善と賃金上昇率の高まり)

雇用情勢は依然厳しい状況が続いているが,89年以降やや改善の兆しがみられる。雇用者数は,89年全体では前年比0.5%減となったものの,89年10月より,3四半期連続して増加している。失業者数は89年に,80年以来はじめて減少し(前年比0.7%減),90年に入ってからも大幅な減少が続いている(7月261万人)。失業率(当庁季節調整値)は87年以降12%で高止まっていたが,89年末以降,ようやく低下を始めている(90年7月11.O%)。南北格差は依然深刻であるが,北部では,89年に失業率は6%まで低下しており(うち男子3.4%),労働需給が非常にひっ迫し,これが賃金上昇率の高まりの要因ともなっている。賃金上昇率は,89年前年比6.1%となったが,89年中徐々に伸びを高め,90年に入ると,7%台となった。予の対策の一つとして,政府(よ賃金上昇と,物価上昇のスパイラルを増ける等の意味もあり,スカラ・モビレ(賃金物価スライド制)゛の廃止を提案したものの(90年6月),労働組合の強い反発にあい,91年については存続させることで妥協した。

4. ソ連・東欧経済

(1)ソ連経済-生産の減少傾向強まる

ソ連経済は,89年秋以降の「革命的ペレストロイカ」政策(第3章で詳述)の下,経済改革の急進化を一層強め,市場経済への本格的移行に乗り出そうとしている。しかし,ゴルバチョフ政権成立(85年3月)以降の経済成長率の低下傾向は続いており,90年に入ってからはマイナス成長に落ち込み,ソ連政府も「危機的現象」との認識を示している。物不足とインフレは深刻さを増し,低所得者層の生活を圧迫している。

実質GNP成長率は,88年5.5%,89年3%と次第に鈍化し,90年に入ってからは,1~3月期前年同期比1%減,1~6月期同1%減,1~9月期同1.5%減と,マイナス成長に陥っている。このような生産減少の理由として政府は,各地のストライキ,民族紛争の影響等を挙げているが,連邦政府の共和国に対する統制が弱まる中で連邦政府の指令に基づく共和国間貿易が機能不全に陥り,共和国間の物流が停滞していることも影響しているとみられる。

(生産の低下)

工業総生産は,80年以降のおおむね前年,比3~4%増前後の比較的堅調な推移から89年の同1.7%増を経て90年1~9月期には前年同期比0.9%減と,マイナスに落ち込んだ。工業の二大部門別でみると,清費財生産部門は,消費財重視の政策を反映して90年1~9月期前年同期比4.5%増と堅調な伸びを示しているが,工業総生産の7割以上のシェアを占める生産財生産部門は,同2.9%減と生産が減少しているため,これが全体の経済の成長の足を引っ張っているとみられる。個別品目の生産動向を90年1~9月期前年同期比でみると,石油5%減(87年前年比1.5%増,88年同横ばいし,89年同2.7%減と徐々に低下),石炭5%減,圧延鋼材2%減,鋼管5%減等と原燃料部門の不振がみられる。

石油の減産は,無理な採掘や新規投資不足による設備老朽化・技術革新の遅れ等の構造要因に加え,89年のアゼルバイジャンの民族紛争が影響じた(同地域に集由する精油設備生産工場の操業低下,バクー油田の滅産等)。石炭の減産は,89年に頻発した炭鉱ストライキによる停滞が影響した。他方,NC鍛造・プレス機械14%増,医療機器・同部品25%増,,計算機器・同部品10%増等と先端分野の製品が伸びている(90年1~6月期前年同期比)。また,90牟1~9月期前年同期比でVTR260%増,ラジカセ26%増,カラーテレビ15%増,洗濯機18%増,ミシン17%増,電気掃除機14%増等と耐久消費財も堅調な増産となっている。しかし,消費財全般では90年1~9月期前年同期比で200億ルーブルの増加に止まっており,90年の年間増加目標の600億ルーブル(9か月間では450億ルーブル相当)の半分以下の増加テンポに終わった。

投資は,国家集巾基本投資が90年1~9月期前年同期比19%減と大幅に減少したのに対し,企業・組織の資金自己調達による基本投資は同10%増となった。

これにより,両基本投資による固定資本の稼働開始高は同6%減となった。固定資本の建設期間は依然として予定の2倍以上を要しており,未完成主事残高は2,120億ルーブルに上り(90年6月時点),これは89年の年間投資総額2,194億ルーブルにほぼ匹敵している。

農業総生産は,88年前年比1.7%増,89年1%増と微増し,穀物生産は88年1億9,500万トンへと減少した後,89年には2億1,110万トンへと回復した。90年に入って穀物の予想外の豊作が伝えられているが,人手不足や流通・保管の不備から収穫に支障が出ているとされる。食肉は,家畜頭数の大幅減少から90年1~9月期前年同期比4%減,ミルクは同1%増,卵は同2%減となった。

(物価,賃金の上昇)

消費者物価上昇率(総合)は90年1~9月期前年同期比で3.7%となり,うち国家価格(小売商品取引の95%は当価格による)は3,6%,協同組合価格(同2.4%)は6%,コルホーズ市場(自由市場)価格(同2.6%)は24%の上昇となっている。コルホーズ市場では,肉製品は同30%(9月前年同月比49%),野菜は同31%(同41%),果物は同26%(同29%),ジャガイモは同4%(同30%),卵は同17%(同50%)と高い上昇を示している。物価上昇率は国民の実感でも10%以上といわれている。

賃金動向をみると,住民の貨幣所得の伸びは90年1~9月期前年同期比14.4%で当初見込みの7.1%を大幅に上回った。労働者・職員の月平均賃金は同8.4%増,コルホーズ農民の労働報酬は同10.8%増となった。

(貿易赤字の拡大)

貿易動向をみると,90年1~9月期前年同期比で,輸出12.0%減,輸入0.3%増で貿易収支は90億外貨ルーブルの赤字となった。取引圏別には,対先進資本主義諸国が輸出1.2%増,輸入2.1%増,対コメコン諸国が輸出16,7%滅,輸入4.O%減で,先進資本主義諸国からの輸入増大が全体の貿易収支の赤字につながっている。その輸入品目をみると,前年同期比で肉類71%増,薬剤44%増,絹織物41%増,靴下26%増,動物性油脂10%増となっている。なお,ソ連の貿易収支は,89年に14年振りに赤字転換し,同年の赤字額は年間33億ルーブルであった。

(2)東欧経済-生産減少と失業増大続く

東欧諸国では,90年に入り,国による差はあるものの,市場経済への移行を目指じた改革が各国で進められているが,成長は大きく鈍化した。国内需要の減少や対コメコン向け輸出減少,政情の混乱等によって,工業生産は減少し,失業が増大し始めている。また,ポーランド,ユーゴスラビアでは,大幅なインフレを安定化するための緊縮政策が同時に進められたため,生産減少と失業増大が一層大きくなっている。対外貿易では,ポーランド,ハンガリーでは,輸出(特に西側向け)の増加と,輸入(特に対コメコン)の減少により,貿易収支黒字が拡大している。チェコ・スロバキア,ユーゴスラビアでは,輸入が輸出よりも増加している。ルーマニア,ブルガリア両国では輸出が減少している。また,各国とも,中東情勢の緊迫化による原油価格上昇により,下半期の貿易収支は悪化することが予想される。

(工業生産の減少,失業の増大)

工業総生産をみると,ポーランド,ユーゴスラビアでは,90年に入り大幅な減少が続いている。ポーランドの国有部門では,上半期,前年同期比29.7%減となっており,今年全体では,前年比約26%の減少が見込まれている。ユーゴスラビアの社会有部門では,4~6月期,前年同期比14.7%減となっている。

他の東欧諸国に比べて政治的に不安定であったルーマニアでも,1~7月には,同22%の減少となった。

ハンガリーでは,1~5月の前年同期比が9,9%減で,ハンガリー中央銀行発表の倒産企業数は,6月末で240社に達しており,ブルガリアでも,1~8月は同9.7%の減少となった。一方,チェコ・スロバキアでは,1~6月は前年同期比で2.2%の減少に止まった。

次に,失業者数をみると,ポーランド,ユーゴスラビアで工業生産の大幅減少が続くなか,既に大量な数に達している。ポーランドでは,7月末で69.9万人に上っており,今年末には130万人に達するものと予想されている。ユーゴスラビアでは,5月末で127.4万人が失業している。

ハンガリー,チェコ・スロバキア,ブルガリアでは,失業者数は未だ限定的であるが,今後増加するとみられる。国別にみると,ハンガリーでは,6月末で4.2万人が失業者として登録されており,年末までには8万人弱になる見込みである。チェコ・スロバキアでは,8月末で1万人,年末には約2.5万人が見込まれているが,民営化等の改革カ体格化する来年には失業者の急増が予測されている。ブルガリアでは,7月末で3.7万人となっている。

(インフレの推移)

大幅なインフレを記録していたポーランド,ユーゴスラビアの2国では,90年初頭からの緊縮政策によって,インフレは鎮靜化している。ポーランドでは,今年上半期の消費者物価上昇率が,前年同期比で1090%であったが,8月は前月比1..8%の上昇に止まっており,今年全体では前年比580%の上昇に止まるものと予測されている。ユーゴスラビアでも,1~3月期は前年同期比3000.8%(前月比118.8%)の上昇を記録したが,47-6月期は同1849.7%(同12.3%)と上昇幅がかなり縮小しており,7月前月比1.7%,8月同1.9%と鎮静化がうかがわれる。

ハンガリーでは,上半期の上昇率は,前年同期比25.7%,7月同27%(前月比2.6%)と比較的落ち着いている。チェコ・スロバキアでは,多くの品目について価格規制が続けられており,上半期の前年同期比上昇率は3.3%に止まっている。しかし,ソ連からの石油供給削減に伴い,7月にはガソリン価格が50%引き上げられた。また,主要品目の価格自由化が91年1月に予定されている。ブルガリアでも,6月の前月比上昇率は4.O%に止まったが,ガソリンの2倍近い値上げが7月に実施されたため,7月の同上昇率は104%となった。

ルーマニアでもガソリンが大幅に値上げされている。

(対外貿易)

ポーランド,ンガリーでは,西側向け輸出が増加し,対コメコン輸入が減少している。ポーランドでは,1~7月の輸出のう,ち,交換可能通貨建ては17.3%増加したが,ルーブル建ては2.8%減少した。同期間の輸入でも,交換可能通貨建て29.4%減に対し,ルーブル建ては40%減少している。この結果,同時劾の交換可能通貨建て貿易収支は,24.8億ドルの黒字,ルーブル建て貿易収支は26.9億ルーブルの黒字となった。ハンガリーでも,上半期の輸出をみると,交換可能通貨建ては17%増加したが,ルーブル建ては29%減少している。

輸入では,交換可能通貨建て1.3%増に対し,ルーブル建ては20%減であった。

同時期の交換可能通貨建て貿易収支は,5.5億ドルの黒字,経常収支でも2億ドルの黒字となった。

ユーゴスラビア,チェコ・スロバキアでは,輸入増が顕著である。ユーゴスラビアでは,1~5月の輸出は前年同期比19.3%の増加,同時期の輸入は同35.1%の増加となった。チェコ・スロバキアでは,1~3月期の輸出が前年同期比で4.6%増,輸入が同20.0%増となった。

ブルガリア,ルーマニアでは,輸出が大幅に減少している。プルガリアでは,1~7月の輸出が前年同期比で大きく減少した。ルーマニアセは,1~7月の対西側輸出が前年同期比47%減,対コメコン向け輸出が同52%減となった。

90年7月,ソ連のルイシコフ首相は,石油生産の減少と国内への振替を理由に,東欧への石油供給を平均30%削減すると発表した。エネルギーの多くをソ連に依存していた東欧拷国は,これによる不足分を中東等がら交換可能通貨・国際価格によって購入しなければならなくなった。また,中東情勢の緊迫化に伴うイラク,クウェイトからの石油輸入の停止や,石油による債権回収の不能,石油価格の上昇による影響も,このためにより大きく受けることとなった。各国当局から発表された,予想被害額(90年)は,ポーランドが約25億ドル,チェコ・スロバキアが4.5億ドル以上,ハンガリーが約2億ドルとなっている。

5. アジア・太平洋経済

(1)日本一内需主導型成長持続

日本経済は,86年11月を谷として回復に転じて以来上昇を続け,既に4年近くになっている。89年の日本経済は,物価が落ち着いた動きを続ける中で,設備投資,個人消費に牽引された自律的な性格の強い内需主導の拡大を続けた。89年の実質GNP成長率は,前年に比べやや鈍化したものの,4.9%と着実な伸びとなった(付表1-7-(1))。内外需別寄与度をみると,国内需要は,5.9%と3年連続で5%を超えた。特に,設備投資の伸びは顕著であり,研究開発投資,生産能力増強投資,更新投資,省力化投資が盛り上がりをみせた。一方,外需の寄与度は4年連続のマイナスとなった。これは,円安傾向にもかかわらず,対米,対中国向けを中心に,輸出が伸びを鈍化させた(数量ベース,5.1%→3.8%,大蔵省貿易統計)一方で,輸入が内需の好調を背景に若干鈍化したものの,着実に増加(16.7%→7.8%同上)を続けたことによる。

90年についても,1~3月期は,実質GNPは前期比年率11.4%増(うち内需寄与度5.16%,外需寄与度5.8%)の成長を示した後,4~6月期は同3.6%増(うち内需寄与度9.7%,外需寄与度マイナス6.1%)となっている。1~6月期でみると,前期比年率7.4%増(うち内需寄与度7.1%,外需寄与度0.3%)となっており,内需主導型の成長が持続しているといえる。

(2)アジア太平洋地域の発展途上国の経済動向

アジア太平洋地域の発展途上国の実質GDP成長率は,88年の9.3%から89年には5.4%へと減速した(アジア開発銀行「1990年開発報告」)。これは,中国,インド,アジアNIEsの成長率鈍化の影響が大きい。

90年に入って,アジアNIEsとアセアンをみれば,概して北に位置する国々・地域の経済が外需の不振から伸び悩み,他方,南の国々の経済は海外からの直接投資の効果等もあって活況を続けている。中国では,引締め策の見直しから経済は次第に回復を示している。南西アジアも農業生産の安定から回復基調にあったが,石油価格の高騰と中東情勢の緊迫化は,石油輸入,消費財輸出,出稼ぎ労働等を通じて中東との経済的結びつきの強い多くのアジア途上国にとって,国際収支,雇用,物価等の種々の面に直接・間接に悪影響を与え始めており,成長見通しを引き下げる国が現れるなど,先行き不透明感が増している。

(アジアNIEs一外需不振から伸び悩む)

アジアNIEsでは,89年には,消費,投資等,内需は好調であったものの,自国通貨の上昇,賃金コストの上昇等による国際競争力の低下が顕在化し,このため,輸出が伸び悩み,成長率は鈍化を余儀無くされた。

90年に入って,89年より幾分経済状況の改善がみられる国もあるが,概して,外需の不振から成長率は伸び悩んでいる。さらに,中東情勢の緊迫化が石油価格の高騰,対中東輸出の困難化等,様々の不透明な事態を生み出しており,高度成長下で石油消費を著しく増加させていたアジアNIEsは,引き続き難しい経済運営を強いられることになろう。

韓国では,ウォン高,生産性を上回る大幅な賃金上昇,さらに,労使紛争の多発等によって,89年の実質GNP成長率は前年比6.7%と3年続きの二桁成長から大きく鈍化した。内需は好調であったものの,輸出不振から外需がマイナスとなった。90年に入っても,輸出の回復は遅れ,外需のマイナス傾向は続いている。一方,内需は,建設投資の急拡大,民間消費の好調から成長を牽引し,実質GNP成長率は1~6月に前年同期比9.9%となった。しかし,中東情勢の混乱は,石油輸入,対中東輸出,中東での建設活動等,対中東依存を強める韓国経済にとって,大きな不透明要因となっている。

台湾では,89年は内需が引き続き好調だったものの,元高,労働賃金の上昇等による国際競争力の低下から輸出が伸び悩み,実質GNP成長率は前年比7.3%へと鈍化した。90年も企業の海外移転,輸出産業の停滞から工業生産が不振となり,成長率も4~6月期で前年同期比5.1%と更に鈍化する傾向にある。

また,台湾も韓国と同様に中東地域とは経済的な関係が強く,今回の中東情勢の緊迫化は物価上昇等,経済に大きな影響を与えるとみられ,政府は8月下旬に90年の成長率の見通しを前年比5.2%へ下方修正した。

香港では,89年の実質GDP成長率は前年比2.5%と88年の同7.2%′から大幅に低下した。これは,物価上昇に伴い輸出競争力が低下し,輸出の伸びが低下したためであり,それが繊維製品等の生産の伸び悩みとなって現れている。物価上昇率は89年が前年比10.1%と大きく高まっている。これは,労働需給の逼迫(89年の失業率が1.4%)から賃金が大きく上昇1(89年前年比13.4%増)したこと等が原因である。しかも,89年6月に起きた天安門事件の影響から86年以来二桁増を続けていた観光客が89年に前年比0.4%減と減少に転じ,貿易も対中国取引が大幅に伸びが鈍化したため89年後半から経済が一層伸び悩んだ。

しかし,中国と先進各国との関係が修復されつつあり,それに伴い香港経済もやや上向いている。

シンガポールでは,89年の実質GDP成長率は前年比9.2%と88年2(同11.1%)に続き好調である。産業別にGDPの動向をみると,商業,金融業カ引き続き好調であり,製造業も高い伸びどなった。また,観光客も年々増加しており,89年は前年比15.4%増となった。輸出は,電気機械がやや伸びが低下したが,タイ,マレーシア等の近隣諸国の経済拡大に伴う輸出増により,前年比10,2%増と引き続き好調である。

なお,香港,シンガポールとも中東情勢の緊迫化は物価上昇圧力をやや高めるものと予想されるが,その直接的な影響は比較的軽微にとどまるとみられる。しかし,先進国の景気に対する打撃が大きくなれば,輸出の減少によりその影響が大きくなる可能性がある。

(アセアン――拡大続く)

アセアンでは,海外からの直接投資を契機に建設活動が活発化し,輸出向けを中心に生産も好調となった。しかも経済の拡大がこうした生産面だけでなく,消費にも及び,経済は好循環により拡大を続けている。

タイでは,海外からの直接投資を契機に繊維,電気製品,ICといった工業製品の輸出及び生産が増加し,雇用の増加,消費の拡大につながった。実質GDP成長率は89年は製造業,建設業を中心に前年比12.3%となった。経済活動の急拡大に伴いインフラ整備の遅れ,労働需給のアンバランス等のボトルネックが顕在化し,物価は上昇傾向にある。90年は中東情勢緊迫化に伴う石油製品価格上昇等の影響から当初見込み(前年比10.4%)を下方修正したが,同9.8%と高成長は維持する見込みである。マレーシアでも海外からの直接投資を梃子とした工業化の進展により,成長率は高まっており,89年は前年比8.5%となった。90年も直接投資の増加を主因に拡大を続け,同7.8%の成長が見込まれている。インドネシアでは,脱石油化によるモノカルチャー経済からの脱皮が進展している。製造業の順調な生産拡大,工業品輸出の増加がみられ,89年の実質GDP成長率は前年比7.4%となった。さらに最近,海外からめ直接投資が一層活発化しており,それにつれて国内投資も大幅に増加していることから成長率は加速化しつつある。フィリピンでは,直接投資の増加による建設プームから89年の実質GDP成長率は前年比7.2%となったが,90年に入り,政情の不安定さや電力不足,交通渋滞等の深刻なインフラ整備の遅れから直接投資が減少し,物価上昇率も二桁増を続けており沈静化の傾向がみられないことから経済活動の先行きが懸念されている。さらに,中東情勢緊迫化に伴い,中東への出稼ぎ労働者が多いことやエネルギーの輸入依存度が高い点から,物価,成長率両面でかなりの影響を受けるとみられ,90年成長率は9月に前年比3.8%へ下方修正された(6月時点では同5.4%)。また,フィリピン中央銀行では,イラク,クウェイトからの送金は89年で3,300万ドル(GNPの0.7%)以上に上るものと試算している。

なお,中東情勢緊迫化に伴い,インドネシア,マレーシアでは,アジア各国からの要請を受け,生産能力の上限まで原油増産を行うことを表明した。

(中国-回復しつつも依然伸び悩み,)

中国では,過熱した経済を引き締めるため,88年秋以降,緊縮政策がとられてきた。その結果,消費は鈍化し,物価上昇も鎮静化したものの,一方で市場の萎縮,工業生産の停滞,失業率の増加等の新たな問題も生じた。これに対し政府は,89年末より金融緩和,重点業種への融資強化を行う等,基本的には引締め策を堅持しつつも,その一部を見直している。実質GNP成長率をみると,89年は引締め策の下で前年比3.9%となり,90年上半期も前年同期比1.6%と鈍化している。89年に前年比8.3%増と鈍化した鉱工業総生産額は,90年に入り次第に回復しているが,上半期・では前年同期比2.2%増と90年目標の6%増を下回っている。投資は抑制策がとられていることから,89年は大幅に減少し,90年に入っても基幹産業部門を中心に増加しているもののその伸びは依然として小さい。小売物価上昇率は,89年も前年比17.8%と高まったが,消費の落ち込みに加え,農産物価格を引き下げたこと等から鎮静化し,90年は上半期で前年同期比3.2%に落ち着いている。失業率(都市部のみ)は,新規求人の抑制,労働者解雇が続き,89年は2.6%へ上昇した(88年は2.0%)。貿易収支は,輸入が抑制策の影響から引き締まり,輸出が為替レートの切り下げ等の効果もあって増加していることから,90年に入って黒字へと転化した。このように,89年末からの経済引締め策の見直しにより,経済は回復しつつあるものの,依然として伸び悩んでいる。

(南西アジア――回復基調にあるものの中東情勢緊迫化の影響懸念)

南西アジア諸国は,88年が実質GDP成長率が前年比8.5%と高い成長であったのに対し,89年成長率は同4.4%にとどまった。しかし,これは農業部門の伸びが前年の急増の後,鈍化したことによるもので,全体としてはインドを中心に回復基調にあったが,中東情勢緊迫化の影響が今後懸念されている。

インドの成長率は89年前年比4.5%にとどまったが,農業は豊作であった前年並みの収穫量を89年も確保しており,経済は回復基調にある。また,物価上昇率も沈静化しており,89年は前年比6.3%と88年の同9.4%から低下した。しかし,工業部門では,自動車の生産が前年比6.5%増であったのに対し,粗鋼生産は同0.8%増にとどまる等分野毎にまちまちで,総じて伸び悩んでいる。

――これは,需要に対して供給能力が低い分野がある一方で,過剰設備が存在するといった需給のミスマッチが存在するためである。インド政府は90年4月に輸出入認可手続の簡素化や輸入自由化品目の拡大等により産業活動の活性化を図るために「輸出入政策」を発表し,5月に小規模産業及び農業関連産業の振興並びに中規模投資及び外国からの投資自由化の具休的措置を含む「新産業政策措置」を発表した。パキスタンでは,恒常的な財政赤字やインフレの加速に対応し,財政赤字削減努力と金融引締め政策を実施して,89年度の実質GDP成長率は前年比5.2%を達成し,前年度実績(同4.8%)を上回った。バングラデシュでは,農業の生産動向が重要であり,穀物生産が前年度比15%増を記録し,89年度の実質GDP成長率は前年比5.5%に回復した――(88年度同2.3%)。

なお,中東情勢緊迫化に伴い,南西アジア各国では出稼ぎ労働が大きな外貨獲得源とな毛ており,南西アジア諸国はかなりの影響が出ると予想されている。出稼ぎによるイラク,クウェイトからの送金は,インドでは年間約4億ドル(GNPの約0.1%),パキスタンでは89年3億ドル(GNPの0.8%),バングラデシュでは89年1.5億ドル(GNPの0.8%)となっており,さらに原油産出国のインドも含め,原油の輸入価格の上昇から,物価上昇率が高まることが懸念されている。

(3)カナダ経済――マイナス成長ヘ

カナダ経済は87年から89年前半にかけて,景気過熱,インフレ圧力の高まり,経常収支赤字の大幅拡大(貿易収支黒字の縮小)という問題に直面した。政府はこれを受けて,財政・金融とも引き締め政策を講じた。そのため公定歩合は82年以来の高水準となった(ピークは90年5月末13.92%)。その結果89年末以降,消費,投資等内需が鈍化し,経済は減速をみせ始めている(付表1-7(2))。実質GDPは89年前年比3.0%増,90年1~3月期前期比0.5%増の後,4~6月期は同0.4%減となり,86年10~12月期以来のマイナス成長となった。

(内需の過熱から不振へ)

)個人消費は,89年夏に乗用車の不振等から鈍化したが,10~12月期には,エネルギー消費,サービス関連支出の伸び等,一時的な要因もあり盛り返し,年全体では前年比3.8%増となった。しかし90年に入ると,高金利の影響等から耐久財消費が伸び悩み,1~3月期前期比0.1%増,4~6月期同0.4%減となっている。乗用車販売台数も,89年前年比6.4%減と大きく落ち込んだ後,90年に入ってからも不振が続いている。

設備投資は,企業収益の悪化,高金利から89年7~9月期以降伸び悩んでおり,89年全味では前年比5.0%増と,前年に比べ大幅に伸びが鈍化した(88年前年比15.2%増)。特に87,88年と好調であった,機械設備投資は89年7~9月期に大幅減(前期比7.7%減)となり,90年に入っても減少している。住宅投資も,需要の一巡,モーゲージ金利の高まりから,88年後半以降低迷しており,90年に入ってからは前期比マイナスが続いている。

消費者物価上昇率は,カナダドル高による輸入物価の安定等の好影響はあったものの,連邦税率の引き上げもあり,89年中は5%台で推移した。しがし90年半ば以降は,全般的に落ち着いた動きとなり,4%台で推移している。

(経常収支赤字の拡大続く)

89年の経常収支赤字は,166.9億加ドルと,前年比65億加・ドルの増加となった。その理由としては,高金利による利払い費の増大から投資収益収支赤字が拡大したこと(前年比33億加ドル増),内需の過熱がら輸入が増加し,貿易収支黒字が減少したこと(同26億加ドル減)が挙げられる。90年に入ってがらは,輸入の伸びが減速し,貿易黒字はやや拡大傾向にあるものの,利払い費の増大が続いている,ことから,経常収支赤字は,依然として拡大傾向にある。

(4)オーストラリア――内需の鈍化傾向,鮮明に

88,89年は個人消費及び民間設備投資等を中心とする内需の力強い伸びにより実質GDP成長率は高い伸びを示した。一方,外需は内需の拡大に伴う輸入の増加から大幅なマイナスの寄与度となった。このため内需を抑制し,経常収支赤字とインフレの悪化を抑えることを目的として88年後半から金融引締め政策がとられたものの,89年前半まで景気は依然過熱ぎみに推移し,消費者物価には高まりがみられた。しかし89年後半以降は,それまで景気を主導していた民間投資がマイナスに転じるとともに個人消費の伸びが鈍化し,また,内需の減速を反映して経常収支も改善の方向に向かった。

内需の動きをみると,89年の後半には金融引締め政策の効果により,民間設備投資及び民間住宅投資がマイナスとなるなど内需の大幅な落ち込みがら実質GDP成長率は89年10~12月期前期比0.2%減となった。その後,90年1~3月期には,消費及び輸出等の伸びに支えられて同2.1%増と拡大したものの,4~6月期には民間設備投資及び在庫投資が落ち込み,再び同0.9%減とマイナス成長となった。小売売上高もこのところ弱含みで推移し,民間住宅許可件数も高金利を反映して依然減少傾向が続いている。

貿易収支の動きをみると,89年には機械,コンピューターなどの製品輸入が増え,118億ドルと大幅な赤字を記録したものの,90年に入ると内需の鈍化により輸入が減少するなど貿易収支は改善傾向にある(90年1~3月期12.6億ドルの赤字,4~6月期2.9億ドルの黒字)。

一方,失業率は89年を通じて改善傾向にあったが,90年に入ってからは悪化傾向に転じ,9月には7.4%(前年同月は6.1%)となった。また,消費者物価指数は景気の鈍化を反映してこのところやや落ち着きがみられるものの,依然高い水準で推移している。

金融面をみると,90年1月下旬,キーティング蔵相は経済が減速傾向を示していることから,金融政策を引締めから緩和の方向へ転換した。再割引金利は89年10月以降18.O%で推移していたが,1月下旬以降5度にわたって引き下げられ13.6%となった。なお,政府の経済見通し(8月21日発表)によれば,民間投資はマイナス成長となるものの,外需主導により2%の成長を見込んでいる。しかし,中東紛争が世界の一次産品市況及び各国の経済状況の見通しの不透明さを増大させており,貿易依存度の高いオーストラリア経済にとってその動向次第で大きな影響を受ける可能性もある。

6. ラテン・アメリカ経済

(経済の不振続く)

ラテン・アメリカでは,実質GDP成長率は89年前年比1.1%増と,88年の同0.6%増より若干高まったが(付表1-9),81年以降の低迷基調は続いている(81~89年の年平均成長率は1.4%)。うち非石油輸出国の成長率が88年の前年比0.1%から89年は同1.9%となった一方,石油輸出国が88年の前年比1.6%から89年には同マイナス0.3%となっている。国別動向では,チリが88年に続いて高い成長を示したほか,メキシコ,ブラジルも成長率を高めたが,アルゼンチン,ペルー等はマイナス成長率が拡大した。また,1人当たりGDP成長率では,5年ぶりにマイナス成長となった88年(前年比マイナス1.5%)に続いて,89年も同マイナス1.0%となった。

ラテン・アメリカの投資動向を実質国内投資の対GDP比でみると,88年は17.4%と87年の16.9%からは若干高まったものの,依然低迷が続いている(70年代平均23.O%,80~88年平均18.3%)。

(国際収支動向)

貿易動向をみると,89年はラテン・アメリカ全体で輸出が1,110億ドル(前年比9.6%増),輸入が813億ドル(同7.3%増)となり,貿易黒字は88年の255億ドルから89年には297億ドルに増加した。経常収支は,89年には金利支払いと利益送金が369億ドルにのぼったことから,貿易収支黒字が増加したにもかかわらず,95億ドルの赤字となった。この赤字に対し,105億ドルのネットの資本流入があり,総合収支では10億ドルの黒字となったため,多くの国で外貨準備が増加した。

(物価動向)

消費者物価上昇率は,ラテン・アメリカ全体で89年前年比346.1%と,88年の同218.O%よりさらに悪化した。90年1~3月期は同670.7%と,物価を取り巻く厳しい状況が続いている。国別にみると,ペルー,ブラジル,アルゼンチン等が四けたの上昇率を記録した一方で,メキシコ,チリ等は慎重な経済運営等によって比較的安定した推移を示した。