平成元年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1988~89年の主要国経済
第3章 イギリス:景気拡大の減速
貿易収支の赤字幅は,88年の208.3億ポンドの後,89年には更に拡大して1~10月累計204.9億ポンドと記録的高水準となっている。89年の赤字幅の拡大は,非石油収支赤字が引き続き大幅(88年236億ポンド,89年1~9月計193億ポンド)であるほか,石油収支が黒字幅を縮小(88年28億ポンド→89年1~10月10億ポンド)していることによる(第3-7表)。
輸出は,88年には,石油輸出の減少もあって前年比1.5%増(87年は9.3%増)と小幅な増加となった。89年に入ってからも,石油輸出が北海事故の復旧の遅れや,パイプ・ライン事故,ストライキなどもあって小幅増にとどまったが,全体では1~10月の前年同期比は13.5%増と回復している。数量ベースでみると,非石油輸出は89年1~9月には前年同期比11.0%増,石油は同31%減(88年12.5%減),全体では同4.5%増(88年は1.5%増)となっている(第3-4図)。
一方,輸入額は,88年12.3%増,89年1~10月の前年同期比15.0%増と輸出の伸びを引き続き上回っている。数量ベースでも,89年1~9月の前年同期比8.5%増となっている(88年は1.5%増)。製品輸入額は,1~9月の前年同期比16.8%増とより大幅に増加している。これは,消費ブームが鎮静したにもかかわらず,乗用車の輸入増(89年1~9月の前年同期比27%増)等のほか,生産拡大のための資本財,建材などの増加によるものである。製品貿易収支(船舶,北海石油リグ,航空機を除く)は,83年以降赤字化しているが,88年に137.3億ポンドに拡大した後,89年1~10月にも136.8億ポンドの赤字となっている。交易条件は,石油価格やポンド相場の動向を背景に88年の1.6%上昇の後,89年にはほぼ横ばいとなっている(1~9月の前年同期比1.0%の上昇)。
経常収支は,86年以降赤字に転じているが,88年には146.2億ポンドの大幅赤字を記録した。89年入り後も1~10月の赤字累計額は171.2億ポンドと更に拡大している(89年政府当初見通しは145億ポンドの赤字,改訂見通しは200億ポンドの赤字)。
89年の経常収支赤字幅の拡大は,貿易収支赤字幅が拡大しているのに加えて,貿易外収支の黒字幅が縮小したことによる。貿易外収支は,89年には,旅行,運輸収入などの黒字幅拡大,および保険収入増など金融サービス所得は増加したものの,利子・利潤・配当(IPD)黒字が縮小(上期16.3ポンド,88年は56.2億ポンドの各黒字)したことから全体として黒字幅が縮小した(第3-7表)。このような経常収支の赤字幅拡大を背景に,対外純資産残高は86年末の1,132億ポンドをピークに減少しており,87年末901億ポンド,88年末941億ポンド(対GDP比20.3%)となった。88年末の対外純資産残高が前年末より増加したのは,株価上昇とドル高による対外資産の評価額増が主因である(第3-8表)。