平成元年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1988~89年の主要国経済
第3章 イギリス:景気拡大の減速
労働市場の引き締まり,インフレ率の高まりを背景に,賃金上昇率は89年にも9%台の高水準を続けている(第3-5表)。
平均賃金収入(基本指数,全産業)は,88年には夏から秋に上昇テンポを高め8,9月に前年同月比9.25%の上昇となったが,年末にかけてはやや鈍化した。89年に入って上昇率はやや高まり,8.75~9.50%となっている(製造業では88年,89年とも8.5%~9%)。
89年に入って,港湾スト(8月~9月),公務員スト(看護婦,救急車),地下鉄ストなど賃上げ等をめぐってストライキが増加しており,労働喪失日数も1~8月間で317.9万日と前年同期の31.2万日を大幅に上回っている。89年上期平均の交渉妥結賃上げ率(CBI調査)は,民間サービス8.5%,公務員8%%となっており,さらに89年夏以降の賃上げ交渉では,9%を越す賃上げ,妥結がみられる。
消費者物価上昇率(前年比)は,88年春の3%台を底に上昇テンポを高め年末には6.8%となった(年平均4.9%上昇)。89年に入ってからも上昇率は更に高まったが,5,6月の8.3%をピークに緩やかに低下し,7~9月期7.7%,10月7.3%,11月現在7.7%となっている(第3-5表)。
過去1年半にわたる消費者物価の上昇は,住宅ローン金利(1989年ウエイト6%)の引き上げによる住居費の上昇によるところが大きく,住宅ローン金利を除くと5~6%台の上昇となっている(住宅費88年1~12月間に17.9%,89年1~9月間に12.8%,非住宅は同4.7%,4.2%の各上昇)。そのほかでは,国有企業料金等(同7.3%,7.0%),光熱費(同6.0%,4.7%)などの上昇が大きい(第3-6表)。
原燃料卸売物価は,89年に入って,ポンド相場は低下(実効相場,1~9月に6.7%低下)しているものの,国際商品市況の軟化や石油価格の安定などによる輸入価格の上昇率の鈍化もあって,89年上期の前年同期比上昇率6%強,7~9月期同5%強となっている。工業品生産者価格も,88年4.5%上昇の後,89年1~10月の前年同期比は5%前後の上昇とやや高まったものの,落ち着いた動きとなっている(第3-5表)。
製造業の生産性(雇用者1人当たり)は,88年5.3%上昇の後,89年1~3月期前年同期比6.1%増,4~6月期同6.0%増と伸びを続けている。しかし,賃金が高水準を続けているため,製造業賃金コストは緩やかに上昇している(88年3.0%,89年1~9月は前年同期比3.7%上昇)(第3-5表)。