平成元年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1988~89年の主要国経済
第1章 アメリカ:軟着陸に向かう
88~89年のアメリカの景気拡大の状況を需要項目別にみてみよう。
民間設備投資(実質,以下同じ)は,88年は情報処理関係機器を中心とする機械設備が同11.5%と大幅に増加し,全体でも同8.4%増と堅調に推移した。これに対し構築物は前年比0.1%減であった。89年に入っても民間設備投資は1~3月期前期比年率6.9%増,4~6月期同8.6%増,7~9月期同5.2%増と引き続き堅調である(第1-2図)。この要因としては,①稼働率が,89年初にピークを迎え,このところ頭打ち気味ながら依然として高い水準にあること,②企業収益が,89年4~6月期及び7~9月期にはやや減少したものの,従来のトレンドに比較して大幅に改善しており,将来の期待収益の増加から企業の投資マインドを向上させるとともに,設備投資資金のアヴェイラビリティを高めていること,③ハイテク技術革新等により投資財価格が相対的にも,絶対的にも低下していること,④構築物よりも機械設備が,機械設備の中でも情報処理関連機器が伸びを高めていることに示されるように,FA(ファクトリー・オートメーション)化やME(マイクロ・エレクトロニクス)等の進んだ技術革新を取り入れる設備投資が盛んに行われていること,⑤世界経済全体の順調な拡大や世界的な設備投資ブームから資本財を中心とした輸出が好調なこと等があげられる。
商務省設備投資計画調査(10~11月実施)によると,89年の設備投資計画は実質ベースで,製造業が前年比7.3%増,非製造業が同9.2%増,全産業で同8.5%増と見込まれており,また,90年は製造業が前年比1.4%増,非製造業が同7.1%増,全産業で4.9%増と伸び率は製造業を中心に低下するものの,引き続き堅調に推移するものと見込まれている。これを四半期別にみると,全産業で89年10~12月期は前期比ほぼ横ばいと鈍化するものの,90年1~3月期同3.1%増,4~6月期同2.5%増と90年に入って回復すると見込まれている(第1-2表)。また,民間設備投資の先行指標と考えられる非軍需資本財受注は,89年に入ってからは航空機及び同部品を除けばほぼ横ばいとなっている(第1-3図)。今後の民間設備投資の動向については,金融が緩和局面にあり,金利が低下する方向にあること,輸出がなお高めの伸びを続けることが予想されること等の反面,稼働率が峠を越えていること,企業収益が悪化しつつあること等,プラス,マイナスの要因が混在しており,慎重に見守る必要があろう。
純輸出は86年第4四半期以来改善傾向にある。88年は世界的な設備投資ブームの中での資本財輸出の伸び等から輸出が前年比17.6%増と2桁の伸びを示したのに対し,輸入が個人消費の伸びの鈍化等から同6.8%増の伸びにとどまったため,実質GNP成長率への寄与度は1.1%のプラスとなった。89年に入っても,実質GNP前期比年率成長率への寄与度は,1~3月期プラス1.9%,4~6月期プラス0.4%とプラスを続けていたが,7~9月期には,マイナス0.6%となった。
輸出は,85年来のドル高修正の効果,世界経済全体の長期拡大に支えられ,87年前年比13.5%増,88年同17.6%増と2年連続で2桁の伸びとなった(第1-3表)。89年に入っても,1~3月期前期比3.3%増,4~6月期同3.1%増と高い伸びとなった後,7~9月期同1.0%増となった。特に,資本財等の非農業商品を中心とする商品輸出が堅調で,88年前年比20.5%の後,89年に入って1~3月期前期比3.9%増,4~6月期同3.9%増,7~9月期同1.0%増と増加を続けている。
一方,輸入は,個人消費の伸びの鈍化とともに88年以降伸びが緩やかとなり,88年前年比6.8%増の後,89年に入って一層伸びが鈍化し,1~3月期前期比0.1%減となったが,4~6月期同2.3%増,7~9月期1.8%増となっている。商品輸入は88年前年比6.0%増,89年1~3月期前期比1.2%減,4~6月期同2.1%増と伸びが鈍化していたが,7~9月期には同3.4%増となった。
今後の純輸出の動向については,世界経済の拡大や世界的な設備投資ブームが今後も続くと考えられることから資本財を中心に輸出が伸びを続ける一方,個人消費の伸びの鈍化から消費財輸入を中心に輸入の伸びが鈍化すると考えられるため,引き続き改善するものと見込まれる。
個人消費は,87年10月の株価大幅下落による逆資産効果等から87年10~12月期以降,個人貯蓄率の上昇とともに伸びが鈍化し,88年前年比3.4%増となった。89年に入って貯蓄率の一段の上昇とともに一層伸びが鈍化し,1~3月期前期比年率2,0%増,4~6月期同1.9%増となったが,7~9月期には自動車を中心とする耐久財が伸びを高めたことから同5.6%増となった(第1-4図)。この個人消費の伸びの鈍化が乗用車の販売,在庫,生産を通じてアメリカ経済全体の減速につながった。
また,個人可処分所得は,88年前年比4.4%増の後,89年1~3月期前期比年率6.6%増,4~6月期0.6%増,7~9月期4.4%増と伸びを続けている。4~6月期の伸びが低いものとなったのは,個人税等の支払いが前期比年率16.4%と高い伸びとなったこと等による。家計貯蓄率は,87年に3.2%と極めて低い水準となった後,88年はなお低水準ながら4.2%に回復し,89年に入ってからも1~3月期には5.6%に上昇した。その後4~6月期5.4%,7~9月期5.1%と上昇は一服している(第1-5図)。この貯蓄率上昇の要因としては,87年10月の株価大幅下落による逆資産効果等に加え,さらに,88年春以降89年半ばまでの金融引締めによる金利上昇の価格効果等が考えられる。
今後の個人消費の動向については,自動車等の耐久消費財需要の伸びの鈍化等から,個人消費の伸びの鈍化が続くものと考えられる。
住宅投資は,89年前半まで住宅抵当金利が上昇したことや貸家の空家率が86年のブーム以降おおむね7%台の高水準で推移していること等から低迷が続いており,88年前年比0.4%減の後,89年1~3月期前期比年率5.0%減,4~6月期同12.3%減,7~9月期同9.2%減となった。住宅着工件数でみても,88年前年比8.5%減(149.5万戸)の後,89年1~3月期前期比2.7%減(季節調整値年率151.7万戸),4~6月期同10.9%減(同135.2万戸),7~9月期同1.1%減(同133.8万戸),10~12月期同0.3%減(同133.3万戸)と低迷している,(第1-6図)。
今後の民間住宅投資の動向については,住宅抵当金利が低下する方向にあり,貸家の空家率が高水準にあること等から引き続き低水準で推移するものと考えられる。
在庫投資は,88年は干ばつの影響から農業在庫投資が低い水準となったものの,経済の順調な拡大を反映して非農業在庫投資は増加し,全体ではGNP成長率への寄与度はプラス0.1%となった。89年に入ってから,GNP前期比年率成長率への寄与度は,1~3月期プラス0.6%,4~6月期マイナス0.5%,7~9月期プラス0.3%となった。なお,88年の干ばつの影響は,88年全体で101億ドル(82年価格,前年GNPの0.3%)と見込まれており,GNP統計上では,82年価格年率で88年4~6月期に67億ドル,7~9月期に117億ドル,10~12月期に218億ドルと分割された(第1-4表)。なお,在庫残高を1か月の販売高で除した在庫率をみると,個人消費の伸びの鈍化等から,89年央に製造業で1.6か月台になるなど全般にやや高まりをみせたが,その後は落ち着いており,全産業ではこのところ1.5か月前後の水準となっている。
政府支出は,連邦政府支出の減少から88年前年比0.4%増と低い伸びにとどまった。89年に入って,1~3月期前期比年率3.3%減,4~6月期5.4%増,7~9月期2.4%減となった。これを連邦政府支出と州・地方政府支出に分けてみると,連邦が88年前年比3.2%減の後,89年1~3月期前期比年率9.4%減,4~6月期同10.0%増,7~9月期同8.4%減と,低い水準にある一方,州・地方は,88年前年比3.2%増の後,89年1~3月期前期比年率1.5%増,4~6月期2.2%増,7~9月期2.2%増と増加を続けている。