平成元年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1988~89年の主要国経済

第1章 アメリカ:軟着陸に向かう

1. 概  観

アメリカ経済は,82年11月を底に回復に転じた後,7年を超える長期拡大を続けている。実質GNPは88年前年比4.4%増(干ばつの影響を除く実勢では4.7%増)の後,89年に入り減速し,1~3月期前期比年率3.7%増(同1.5%増),4~6月期同2.5%増,7~9月期(確定値)同3.0%増となった。88年は干ばつの影響を含めた成長率でも4%を超えるものとなり,84年以来の高い成長率となった(第1-1表)。

88年は,民間設備投資が堅調に推移するとともに,純輸出も世界的な設備投資ブームの中で資本財輸出を中心に輸出が伸びた一方,個人消費の伸びの鈍化から輸入が小幅の伸びにとどまったことから成長に対してプラスの寄与度が拡大した。個人消費は87年10月の株価大幅下落の影響等により家計貯蓄率の上昇とともに伸びがやや鈍化したが,GNPの成長の半分を支えるものとなった。これに対し住宅投資は,86年のブームの後低迷を続けた。89年上半期には,貯蓄率のもう一段の上昇とともに個人消費の伸びが一層緩やかになったことを主因として経済は減速した。民間設備投資は引き続き堅調に推移し,純輸出もプラスの寄与を続け,景気拡大を支えた(第1-1図)。住宅投資は減少を続けた。

他方,長期にわたる経済拡大が続く中で,稼働率の上昇に示される製品需給のひっ迫,失業率の低下に示される労働需給の引き締まりに加え,88年末からの石油価格の上昇もあり,89年半ばまで物価上昇率の高まりがみられた。しかし,89年央以降は金融引締めの効果や石油価格の低下,食料品価格の落ち着き等から物価は落ち着きを取り戻した。金融政策はインフレ警戒から88年春以降徐々に引き締められ,88年8月,89年2月と公定歩合が0.5%ポイントずつ引き上げられたが,89年6月からは緩和の方向にある。また,通関ベースの貿易収支の赤字は,88年には87年のl,521億ドルから1,185億ドルに大幅に縮小したが,88年後半には縮小傾向の鈍化がみられた。89年に入ってからは緩やかながら縮小傾向にある。経常収支赤字については,貿易収支赤字と同様に88年には87年の1,437億ドルから1,265億ドルに縮小したが,このところ対外債務残高の増加による投資収益支払の増加等から縮小傾向は鈍化している。

89年に入ってからのアメリカ経済の減速と物価上昇圧力後退のメカニズムは乗用車の販売,在庫,生産と密接に関連している。89年に入って貯蓄率のもう一段の上昇とともに個人消費の伸びが一層鈍化し,乗用車販売が弱含みである状況を反映して,自動車・同部品の在庫が積み上がり,高水準で推移した。在庫の積上がりから自動車・同部品の生産も8月に増加したほかは減少の傾向にあり,メーカーでは夏期の生産停止期間の延長,レイオフの実施等の減産を実施している。自動車・同部品の生産削減は,自動車産業のみならず鉄鋼業等の製造業を中心とする川上産業への影響も大きかった。このようにして製造業の稼働率の頭打ち,雇用者数の横ばい,製品需給の緩和,生産者価格上昇の頭打ちが起こった。個人消費の伸びの鈍化が,この乗用車の販売,在庫,生産のメカニズムを通じて経済全体に波及し,経済の減速,物価上昇圧力の後退へつながったと考えられる。


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