平成元年
年次世界経済報告 本編
自由な経済・貿易が開く長期拡大の道
経済企画庁
第3章 世界貿易の拡大と構造変化
第1章第1節でみたように,世界経済が83年以降長期の景気拡大を続けているなかで,世界貿易は,世界生産を上回る高い伸びを続けている。この節では,世界貿易の構造を品目別・地域別の二つの視角からとらえ,その変化をみる。
また,主要国について貿易の品目別変化の背景にある産業構造の変化,競争力の変化を比較し,今日の国際分業の現状及び貿易収支不均衡の背景を探る。
83年以降の世界経済の長期拡大は,製品を中心に世界貿易の拡大を導いた。
さらに,貿易拡大は,景気の相互波及を通じ,世界各国の同時的な景気拡大を可能にしている。特に,技術革新を体化した資本財の貿易拡大は,各国の設備投資ブームの反映であるとともに,生産拡大の原動力の一つともなっている。
以下においては,80年代の貿易の特徴を概観する。
81年代の世界貿易(金額ベース)は,80年19,980億ドルから88年28,800億ドルと44.1.%拡大した。この特徴をみると,第一に品目別シェアでは,製品が56%から73%へと大きく伸びた一方で,原燃料,農産物は,シェアを下げている(第3-2-1図)。世界貿易の拡大に対する寄与度にして実に46.4%となり,80年代の世界貿易の拡大は,製品貿易が支えたといえる。特に,87年,88年において,投資ブームを反映して資本財貿易が大きく伸び,88年には,世界貿易額における資本財のシェアは約30%と,80年の22%から大きく伸びた。
第二に,世界貿易に占める先進国のシェアが拡大した(第3-2-1表)。世界輸出において,先進国シェアは80年の63.1%から88年には70.5%に上昇し,途上国シェアは28,0%から19.8%へと低下した。世界輸入に占めるシェアでも先進国は拡大し,途上国は低下している。この背景を輸出品目構成で探らてみると,先進国輸出における製品シェアは,80年72.8%から87年79.6%へ増加した(付図3-1)。途上国もアジア途上国の工業化を反映して輸出に占める製品シェアは19.8%から44.6%と大きく増加したが,一次産品の輸出比率が高く,その輸出の伸びが低かったため,途上国はトータルとしてシェアを低下させたのである。製品輸出に限ると,途上国はむしろシェアを拡大している(第3-2-2表)。また,品目別にみると途上国がすべての品目でシェアを拡大しているのに対し,先進国は自動車と事務・通信機器でのみシェアを拡大ないしほぼ維持し,それ以外はシェアを低下させている。
第三に先進国の製品需要・輸入拡大が,製品貿易拡大に大きく寄与したが,これは,先進国間の製品貿易の拡大,及び途上国の対先進国製品輸出の拡大という2つの動きに現れている(第3-2-3表)。
先進国間の製品貿易については,先進国製品輸出における対先進国輸出のシェアは80年の69.28%から87年の78.3%に増加した。先進国間の水平貿易の拡大を示している。品目別にみると(第3-2-4表),先進国がシェアを拡大ないし維持した自動車,事務・通信機器はもちろん,途上国にシェアを奪われたその他の製品もすべて先進国向けのシェアが拡大している。これは,途上国が工業化により輸入代替を進めたこと,途上国に追い上げられる過程で先進国が高付加価値製品を開発し,先進国からの需要を喚起したことなどが考えられる。
このような製品貿易の流れの変化を貿易マトリックスでより詳しく見てみよう。80年~87年の間に,先進国の中で,アメリカ,日本,ECとも対先進国輸出を拡大したが,なかでも日本の対先進国向け輸出,特にアメリカ向けが24.8%から37.2%と顕著に拡大した(第3-2-3表①)。一方,輸入面をみると,先進国製品輸入における対先進国輸入のシェアは80年の88.3%がら87年の84.4%に低下している(第3-2-3表②)。国別にみると,日本・EC間,EC域内の輸入のシェアは拡大しているのに対し,日本,ECのアメリカからの輸入のシェア,アメリカのECからの輸入のシェアが低下し,特に日本におけるアメリカからの輸入のシェアが37.5%から30.2%へと顕著に低下した。日本・アメリカ間をみると,日本は輸出相手先としてアメリカのシェアが顕著に拡大し,輸入相手先としてのアメリカのシェアが顕著に低下した。アメリカからみても,輸出相手先として,日本のシェアは5.8%から8.0%と上昇はしたものの,輸入相手先としての日本のシェアが25.3%から27.l%と上昇した。,このことが,87年頃までの日米二国間の不均衡の拡大となって現れたのである。ECは輸出入とも域内依存度を高めた。また,ECの輸出先として,アメリカのシェアが拡大し,輸入先として,日本のシェアが拡大し,アメリカのシェアが縮小した。
次に途上国の輸出において,製品のシェアが,飛躍的に高まっているが,その背景には,鉄鋼,繊維製品,事務・通信機器,衣服をはじめとして,世界輸出に占める途上国のシェアが上昇したことによるところが大きい(第3-2-2表)。このような途上国の製品輸出の大宗は先進国に向けられており,途上国輸出における対先進国輸出のシェアは80年の61.1%から87年の69.6%に増加した(第3-2-3表①)。なかでも,アメリカ向け輸出の割合が顕著に高まった。一方,途上国の輸入をみると,先進国からの輸入シェアが減少しているなかで,日本からの輸入シェアは拡大している(第3-2-3表②)。
共産圏においては,貿易品目の変化は小さく,地域的にも共産圏間の貿易の割合が高いが,わずかながら,共産圏外との貿易シェアが拡大している(付図3-1,第3-2-3表)。
このように,先進国間の水平貿易拡大と途上国の工業生産拡大が,80年代の製品貿易拡大の原動力であるといえよう。また,日米間不均衡は,このような80年代の世界貿易のネットワークの再編成のなかで生じているといえよう。
そこで,80年代の製品輸出における国別ランキングとシェアの変化をみると,西ドイツの1位は変わらないが,アメリカ,日本では83年にはアメリが日本に抜かれ,それ以降3位となっている(付表3-1,第3-2-2図)。シェアの変化もアメリカは低下,日本,西ドイツは上昇と明暗をわけている。また,アジアNIEsが5,5%から9.1%へ大きくシェアを伸ばしている。ただし,第1節でみたように(第3-1-2図①),全品目でみればアメリカは西ドイツと並んで第1位となっており,また製品輸出においても88年にほぱ80年代初めのシェアを回復しているとみられている(IMF,World Economic Outlook88年10月,89年9月)ことに留意する必要がある。品目別に輸出入に占める各国のランキングとシェア(第3-2-5表)をみると,ランキングは10年足らずの期間内ではほとんど変化がなく,長期的・構造的な要因によるものと考えられる。しかし,シェアはかなり変化しており,短期的な経済条件のみならず,いずれはランキングの変化につながるような構造的変化も起こりつつあるとみられる。
主要品目別にみると,1.でみたように,第一に,先進国がシェアを維持し,先進国間で貿易が拡大した分野(事務・通信機器,自動車)では,アメリカが輸出シェアを喪失し,輸入シェアを大きく伸ばした一方,日本が輸出シェアを伸ばしている。事務・通信機器では,輸出において80年はアメリカ,日本,西ドイツの順であったが,日本の輸出シェアの上昇はめざましく,87年には,日米のランキングが逆転している。輸入はアメリカ,西ドイツ,イギリスの上位3国すべてでシェアが上昇しているが,アメリカの輸入シェアは倍増している。これをさらに詳しくみるために,電子製品(事務・通信機器+民生用電子機器とほぼ同義)輸出の金額の推移をみると(第3-2-3図),80年のアメリカ,日本,西ドイツの順位から87年は日本とアメリカの順位が逆転している。先進国輸出におけるシェアの変化はアメリカと西ドイツ・ECは低下,日本は上昇と明暗を分けている。また,アジアNIEsの追い上げが急であり,87年の輸出額は,ほぼアメリカに匹敵する額まで上昇した。さらに,電子製品輸出における品目別内訳をみると,日本・アジアは民生用電子製品のシェアが高いが,アメリカ・ECは自動データ処理機械のシェアが高い(付表3-2)。このような中で,製品の高度化を反映して,日本は83年に比べて87年では民生用電気製品のシェアが低下し,代わって自動データ処理機械や電子部品のシェアが上昇している。
自動車では輸出の上位3国は,日本,西ドイツ,アメリカであり,上位2国の日本,西ドイツで輸出シェアの4割以上を占めている。87年は両国ともシェアをわずかに拡大したのに対し,アメリカはシェアを失っている。輸入においては,アメリカ,カナダ,西ドイツの上位3国のなかでも,アメリカは輸入のシェアが著増し,87年には世界輸入のほぼ3割に達している。
第二に,途上国の追い上げのみられる分野(鉄鋼,繊維製品(衣服を除く),衣服)をみると,先進国全体で輸入のシェアが増大しているなかで,特にアメリカの輸入シェアの上昇が大きい。
鉄鋼は輸出において,先進国の上位3国(日本,西ドイツ,フランス)すべてがシェアを低下させたが,その背後には,先にみたように,途上国の輸出シェアの拡大がある。
繊維製品,衣服では,西ドイツ,イタリアが資本集約的な生産の高度化に成功したことや伝統的な競争力から輸出国として健闘しているほか,中国,香港,韓国のアジア諸国が輸出シェアを拡大させている。輸入においては,アメリカのシェアが大幅に上昇した。
第三に,化学製品は以上みた2つの分野と若干タイプが異なる。化学製品はランキングの上位3国が西ドイツ,アメリカ,フランスというように輸出入で同じである。また,後でみるように,上位2国の西ドイツ,アメリカにおいて輸出特化の程度は低い。このことは,化学産業においては,先進国をリーダーとして,産業内の世界的分業が進んでいることを示すと思われる。
以上のことから,アメリカは80年代において,先進国間の競争,途上国からの追い上げ双方の過程で競争力を低下させ,輸出シェアを失い,他方内需の拡大を反映して大きく輸入シェアを拡大した。
80年代の製品貿易における上位3カ国,西ドイツ,日本,アメリカの貿易構造の変化をさらに詳しく分析してみよう。
まず,80年から直近に到るまでの相手国別貿易収支の推移をみてみよう(第3-2-4図)。アメリカでは,83年から87年にかけて赤字がほぼ全地域に対して急拡大したが,88年には縮小に向かい,89年(1ー6月)も緩やかに赤字は縮小している。相手国別にみると,ECに対しては,84年に赤字転落し,赤字は85年にかけて急拡大したが,86年後半から急速に縮小し,89年には黒字転換した。うち西ドイツに関しては,恒常的に赤字が続き,87年までは赤字が拡大していたが,その後急速に赤字は縮小している。日本に対してはECに遅れて86年まで赤字が急拡大したが,87年はほぼ同水準に落ち着き,それ以降縮小傾向にある。アジアNIEsに対してはEC,日本に対する赤字拡大が一服した87年もなお赤字は拡大したが,87年末頃から大きく縮小している。
日本は83年から86年にかけて対米黒字幅の拡大とほぼ軌を一にして黒字が急拡大した,87年以降は東南アジアに対して黒字幅が大きく拡大しているものの,88年にはアメリカへの黒字幅の縮小,89年には中近東への赤字幅の拡大もあり,全体の黒字幅はやや縮小している。
西ドイツも日本と同様83年から86年にかけて黒字が急拡大し,87年に若干ペースが鈍化した後,88年,89年と再びペースが高まっている。西ドイツの黒字は5~6割がEC向けであり,88年からの,拡大ペースの高まりもEC向けが原因である。アメリカに対しては,86年をピークに黒字は縮小している。OPECに対しては機械類,自動車等の輸出を反映して86年以降黒字となっている。
次に,品目別の特化係数(〔輸出-輸入〕/〔輸出+輸入〕)をみることにより,米・日・独の品目別の特化の状況をみる(付図3-2)。
まず,製品全般をみると,アメリカは,87年で化学製品以外すべての製品で輸入特化しており,80年と比べて,輸入特化係数のマイナスは拡大している。日本,西ドイツは衣服を除いて大体輸出特化しているが,両者の大きな違いは事務・通信機器にある。先進国間の貿易の拡大した分野(事務・通信機器,自動車)では,アメリカの輸入特化が進行した一方で,日本の輸出特化係数が高く推移している。このなかで,事務・通信機器はアメリカでは84年に輸出超過から輸入超過に転換し,マイナス幅が拡大している。西ドイツはわずかながら輸入超過である。日本では輸出特化しており,輸出増によりプラス幅がさらに拡大し,0.8近い高水準に達している。この分野における日本の国際競争力の圧倒的強さが示されているのに対し,第3-2-3図にもみたように,西ドイツの電子産業の伸び悩みが示されている。
自動車はアメリカでは輸入特化しており,87年は80年に比べ輸入増によりマイナス幅が拡大した。日本,西ドイツでは輸出特化している。日本では,輸入が86年頃から相当伸びているが,輸出も増加したことから特化係数はほとんど一定でありほぼ1.0に近い高水準である。
次に,途上国の追い上げのみられる鉄鋼,繊維製品,衣服をみると,アメリカでは,87年ですべて輸入特化,日本,西ドイツも衣服は輸入特化している。
鉄鋼はアメリカで84年まで特化係数はマイナス幅を拡大したが,輸入規制の導入によりその後縮小した。日本,西ドイツでは輸出特化しており,日本は,80年に特化係数が0.9と高かったが,輸入の拡大により,プラス幅が縮小している。繊維製品(衣服を除く)はアメリカで,82年に輸出超過から輸入超過に転換した。日本では輸出特化ではあるが,輸出の伸び悩み,輸入増により,プラス幅は縮小した。西ドイツでは輸出入がほぼ均衡している。衣服では,アメリカは-0.9程度にまで達している。西ドイツはほぼ-0.5程度で一定である。日本は円高の進んだ86年以降マイナス幅が急速に大きくなっている。
製品のなかでも化学については,アメリカ,西ドイツ,日本すべてで輸出特化係数の値が小さく世界的水平分業の進んでいることを示している。ただし,アメリカ,西ドイツは,日本に比べれば化学製品の輸出の特化程度は高い。
食料,原燃料類においては,燃料が3国すべてで輸入特化している一方で,食料,原材料及び鉄鉱石・鉱産物はアメリカが輸出特化,日本,西ドイツが輸入特化しており,特に日本では完全特化に近い値を示している。
アメリカは製品で化学を除き輸入特化(ただし,この図に含まれない航空機も輸出特化),燃料以外の一次産品で輸出特化しており,日本,西ドイツはほぼその逆である。また,日本が輸出特化係数のプラス幅,輸入特化係数のマイナス幅がかなり大きく,「加工貿易」型の貿易構造を示しているのに対し,西ドイツは輸出入の特化程度が小さく水平分業が進んでいるといえよう。
特化係数の分析から,製品全般において,アメリカの輸入依存が高まっていること,日本の輸出特化が高いこと,西ドイツの輸出特化が日本より低いことがいえるが,次に輸出・入超過品目のうち,代表的な品目別に,相手国/地域別ベスト3をみる(第3-2-6表)と,この傾向はますますはっきりする。同時に,日米の相互依存関係と,西ドイツのECとの結びつきの強さもうかがうことができる。
アメリカ(88年)の輸入超過品目をみると,衣料・靴,鉄鋼のように,途上国に価格競争力の面において,比較優位が移っている品目のほか,自動車の88年387億ドルの赤字を筆頭に,通信機器,電気機械等の先進国型部門でも,150億ドルないし100億ドルの赤字となっており,その輸入相手国は日本が第一位であることが多い。ほとんどの耐久消費財はこの分類に属しており,過熱する消費需要にマッチした供給力は依然不足しているといえよう。輸出超過品目をみると,途上国型と先端先進国型の両極端の構造となっている。農産物,木材・パルプ・鉱石等が前者の例である。アメリカが技術的優位を有する航空機,化学品,科学機器は後者の例である。輸出相手国も多くの場合日本が第一位である。輸出入がほぼ均衡している品目をみると,情報処理・事務機器,産業機械,発電機等の投資財である。その主要輸出入相手国は,輸出においては,カナダ,中南米,イギリスであり,輸入においては,日本,西ドイツとはつきり分かれている。これは,品目別にみて均衡していても,品目内での国別不均衡が存在していることを示している。また,これらは,先進国型産業であり,アメリカの一層の国内海外供給力の強化により,輸出超過に転ずることが可能なはずと思われる。
日本(88年)は大部分の加工製品で輸出超過であり,多くはアメリカが第一位である。東南アジアに対する半導体等電子部品の輸出は,これら諸国の工業化及び日本企業の海外生産を反映していると思われる。輸入超過品目は,食料,原燃料及び価格競争力が相対的に低下した繊維製品であり,東南アジアとアメリカが主要相手国である。輸出入がほぱ均衡している化学製品は輸出は東南アジア,輸入はECJ,アメリカの割合が大きい。
西ドイツ(87年)においては,ほぼすべての品目でECの割合が格段に大きい。輸出超過品目は,機械類と化学,鉄鋼等であるが,対ECが5割前後,あとは多くの場合他の西ヨーロッパとアメリカである。鉄鋼,工作機械など,東ヨーロッパを含む共産圏に対する輸出は日米に比べて大きい。輸入超過品目は日本とほぼ同様のものである。西ドイツの場合,機械類も輸出入均衡品目が多く,輸出先はヨーロッパが中心であるが,輸入では日本からの輸入も多い。
先にみた輸出特化とは,視点を変えると,国内のみならず海外にも供給しうる生産力を有していることを意味しており,輸入特化とは,国内の需要に比べて生産力が不足し,海外からの供給に依存していることを意味する。ここでは,国内生産に対する輸出比率と,国内需要に対する輸入比率の推移を80年から直近にいたるまで主要産業別にみて,このような国内の生産力の過不足の状況をみてみよう,(第3-2-5図)。
アメリカにおいて輸出比率の高いのは,コンピュータ,電子機器,航空機であり,30~40%に達している。中でもコンピュータの最近の伸びはめざましい。
テレビ・ラジオは83年~86年まで10%前後で推移していたが,87年,88年と比率が高まった。その他の品目ではあまり大きな変化はみられない。輸入比率は20%を超えるものが多く,特に高いのはテレビ・ラジオの60%,電子機器の40%強,コンピュータの40%弱である。輸入比率が高く,輸出比率の低い品目(テレビ・ラジオ,衣服)では,生産力の不十分さが生じていると考えられる。電子機器は輸入比率は高いが,輸出比率も高く,生産力の問題はあまりないと考えられる。コンピュータは輸出比率は高いが,輸入比率が近年急速に高まってきている。航空樋では,輸入比率が低く,輸出比率が高くなっており,この分野におけるアメリカの生産力の強さを示している。
日本はアメリカ,西ドイツに比べて全体的に輸出比率,輸入比率がともに低い。輸出比率の高いのは自動車・同部品,電子計算機・同付属装置,一般機械であるが20%~30%程度である。電子計算機・同付属装置は,輸出の伸びも高いが,出荷がそれ以上に伸びているため,輸出比率が頭うちとなっている。また,プラザ合意以降の円高の動きの中で,自動車・同部品,鉄鋼,家庭用電気機器等で輸出比率が低下している。輸入比率は,衣服の伸びがこのところ顕著であるが,鉄鋼,自動車・同部品,家庭用電気機器等でも低水準ながら緩やかに伸びている。衣服,食料品を除いて,全般的に輸出比率の水準は輸入比率の水準より高くなっており,生産力の問題はほとんどない。
西ドイツは日米に比べて輸出入比率が全体的に高い。特に事務・情報処理機器は輸出入ともに70%~80%,繊維は50%~60%に達している。このように輸出入比率がともに高く,水平分業がかなり高度に進んでいる状態にあるとみることができる。
日本,西ドイツとも全般的に輸出比率の低下ないし頭打ち傾向がみられるが,日本がプラザ合意以降この傾向が比較的顕著なのに対し,西ドイツはドル圏向けの輸出がもともと低く,EC内での資本財供給国としての役割が定着していることから,それほど目立った変化はみられない。
以上みてきたように,米・日・独は80年代を通じて依然世界の製品貿易をリードする立場にあり,先進国間の競争,途上国の追い上げを通じ,競争力を喪失した分野の輸入拡大,高付加価値化を進めて競争力を強化した分野の輸出拡大を進めてきた。ここでは,前にみた貿易構造とその変化が,この3国の製造業全般と,製造業内での業種別の生産・雇用動向とどのように関わっているがをみる。
製造業の付加価値額のGDP比をみると(第3-2-6図),名目では日本,西ドイツでシェアが高く,アメリカ,フランス,イギリスでシェアが低い。他方,実質でみると,日本で顕著に上昇し,アメリカでは横ばいとなっている一方で,西ドイツでは緩やかに低下している。これは,日本とアメリカでは,製造業の中でも,コンピュータ,通信・情報関連機器,科学光学機器等のハイテク分野の割合が高まり,この分野での価格の低下が顕著なため実質付加価値が上昇しているからと考えられる。また,西ドイツのハイテク分野の成長が日米に比べ下回っていることをも暗示していると思われる。なお,日本では,技術革新により,中間投入財の価格上昇の最終財の価格上昇への波及を抑制していることも考えられる。
次に製造業の業種別の生産能力の変化をみてみよう(第3-2-7図)。アメリカでは製造業全体で5年間に14.7%(年率2.8%)生産能力が伸びている。中でも,電気機械,自動車,紙・同製品,化学製品の伸びは高い。電気機械は83年~84年で毎年7~8%の伸びを示していたが,86年以降,2%前後と緩やかなものとなっている。化学,紙・同製品は,概ね年率2~3%の安定的な伸びを示している。自動車は83~85年と伸びが高まったが,87~88年とそれぞれ1.5%と低い伸びにとどまっている。航空機は,83年から年々伸び率が高まっているものの,その伸びは緩やかである。鉄鋼は生産能力の低下が著しい。
日本は,製造業全体で,5年間で,8.4%(年率1.6%)と伸びはアメリカに比べて低い。中では電気機械が顕著に伸び,自動車,一般機械も好調である。
化学は産構法の適用下,生産能力の伸びは抑えられてきたが,86年~88年には需給関係の好転を受けて,緩やかに伸びた。鉄鋼は対米輸出自主規制協定の成立,円高等による影響を背景に,84年から低下を続けている。
西ドイツは,生産指数と稼働率から生産能力を近似的に計算すると,83年から88年の間に,基礎・生産財,消費財の低迷によりわずが3.3%(年率0.7%)しか伸びていない。ただし資本財は高く伸び,特に88年には前年比2.4%拡大している。
アメリカでは設備投資の伸びが,日本を大きく下回る(前掲第1-1-2表)にも関わらず,生産能力の増加率は日本より高い。DRIの調査によるとアメリカでは83年には能力拡大目的の投資の割合は40%近くあり,その後低下し,概ね30%前後で推移している(前掲付図2-2)。日本開発銀行の調査によると,日本は83年で「能力増強」目的は83年で30%程度だが,これには,「新製品・製品高度化」という必ずしも量的拡大といえない部分が含まれている。86年以降は「新製品・製品高度化」を含まない「能力増強」の割合が示されているが,87年で25.1%,88年でようやく31.3%である。両者の統計の厳密な比較は無理であるが,日本企業は88年にいたるまで能力増強には比較的慎重であったといえよう。
また,アメリカでは,生産能力は概ね堅調に伸び,しかも稼働率も全体として高水準にある(前掲第1-2-3図)にもかかわらず,第3-2-5図でみたように輸入比率の高まりがみられる。これは第一に,国内需要が生産能力を上回って増加したことが考えられる。たとえば,自動車の生産能力は,83年~88年で年率3.7%増加しているが,同時に国内市場規模(新車登録台数)は83年~87年で年率6.1%拡大したので,生産能力の拡大にも関わらず自動車の輸入依存度が高まったことがいえる。第二に,電気機器,コンピュータ等の分野では,現状では比較的稼働率が低いことに加え,技術集約度の程度等によって,製品が差別化し,国ごとの製品の棲み分けが生じ,生産能力と輸出入比率の同時上昇が起こることも考えられる。たとえば,アメリカでは,コンピュータ産業についてスーパー・コンピュータでは世界的に優位を誇る一方で,パソコン,コンピュータ周辺装置では輸入が急増しているというように,製品の種類により,競争力が異なるのである。
製造業就業者の全産業就業者に占める割合をみる(付図3-3)と,付加価値額の場合と傾向はほぼ同様であるが,製造業のシェア低下は,付加価値額でみると労働生産性の向上(特にハイテク分野が貢献していると思われる)に一部相殺されているのに対し,就業者数でみるとより明確である。
製造業就業者数は,日本,84年以降の西ドイツを例外として,低下傾向にある。アメリカ,日本,西ドイツについて,製造業の業種別雇用者の推移をみる(第3-2-8図)と全般的には,製造業の中でも競争力が強く,輸出比率の高い業種では,雇用が増加しているのに対し,競争力が弱く,輸入比率の高い業種では,雇用が滅少している。
アメリカでは,航空機の伸びがめざましい他は,85年以降概して雇用は減少している。特にコンピュータは輸入比率が急速に高まった85年頃から,雇用が急速に減少している(前掲第3-2-5図)。生産規模の縮小の顕著な鉄鋼は雇用の減少が著しい。
日本では,主力輸出商品の,電子計算機・周辺機器,ICの雇用の伸びが顕著である。一方,自動車は,85年のプラザ合意以降の円高局面で輸出環境が厳しくなったのに伴い,雇用も伸び悩んでいる。ラジオ・テレビは,海外生産の進展が雇用の著しい滅少をもたらしたと思われる。もっとも,雇用の減少といっても,ラジオ・テレビの生産に従事する人間が減少したのであって,企業内の配置転換などにより,他の成長製品を生産するようになったと考えられる。
西ドイツでは,事務・情報処理機器で,雇用が顕著に増加したほか,電気機器,自動車でも増加している。全般的に,増加した業種,減少した業種もそのペースは,日米に比べ緩やかである。ただし,鉄鋼はアメリカ同様かなり人員削減が進められていると思われる。
以上みたように80年代は,世界経済の長期拡大を背景に,世界貿易は生産を上回る拡大を示した。拡大の主役は製品であり,中でも資本財の活発な貿易が生産の拡大を支えた。先進国では,技術革新による製品の高付加価値化,多様化を通じ,先進国間の貿易取引が拡大した。一方,80年代はアジアを中心とする途上国が工業化を進め,輸出主導型の力強い経済成長を遂げた時期でもあった。その過程で,途上国は,貿易面で先進国を追い上げ,部分的とはいえ先進国のマーケット・シェアを奪った。こうしたなかで,製品のさらなる高付加価値をめざして,先進国間,先進国対途上国,途上国間で,競争が繰り広げられ,その結果,貿易市場におけるシェアの再編成が行われた。貿易におけるこの動きは,それぞれの国の生産・雇用構造にも反映され,競争力を喪失した分野から競争力をもつ分野へと生産・雇用の重点が移動した。
80年代を通じてアメリカの競争力の低下は著しかった。先進国間の競争において日本と西ドイツに対し,追い上げてくる途上国に対し輸出シェアを譲り,輸入依存を著しく高めた。次節では,アメリカの競争力低下のミクロ的要因の分析が行われる。