平成元年
年次世界経済報告 本編
自由な経済・貿易が開く長期拡大の道
経済企画庁
第1章 軟着陸をめざす世界経済
(力強く成長した世界経済)
世界経済は現在約20兆ドル(名目GNP)の規模に達している(第1-1-1表)。その中でアメリカ,ECはそれぞれ5兆ドル弱,日本は3兆ドル弱,途上国は3兆ドル程度,ソ連・東欧が3兆ドル強を占めている。
世界経済は82年を底に7年目の拡大局面にあり,85~87年にやや鈍化したものの,88年には先進工業国,アジアNIEsを中心に4.O%(実質,IMF″World Economic Outlook″より,以下同じ)と84年に次ぐ高成長を遂げた。89年に入ると,先進工業国,発展途上国共に,経済成長は若干鈍化しているものの,引き続き緩やかに拡大している。このなかで,ラテン・アメリカは低迷が続いている。
先進国では88年の成長率は4.4%とほとんどすべての国で設備投資主導の力強い成長を記録した(第1-1-2表)。設備投資ブームの要因については,第2章第2節で詳しく分析するが,①83年以降長期にわたる経済の持続的拡大の,供給制約が顕在化していること,②石油・国際商品価格の弱含み,穏やかやかな賃金上昇率等による投入価格の低下の結果,企業収益が拡大していること,③ハイテク資本財の価格低下により投資コストが低下していること,④ハイテク等の技術革新の進展とその設備化,⑤各国が直面している経済環境の大きな変化に対応した投資(日本の円高に対応した内需シフト,ECの92年単一市場形成に向けての競争力強化の動き等)が考えられる。
89年に入っても,設備投資が堅調に拡大を続けているなかで,アメリカ,イギリスでは金融引締めにより消費が鈍化し,成長に減速がみられるのに対し,西ドイツ,フランスでは依然力強い拡大が続いている。
発展途上国では,88年は全体で4.2%と高い成長を達成した。成長の主役は,輸出と内需が好調だったアジアNIEs及び中国であり,その高成長がアセアン,南アジアへと波及し,アジア全休の成長率が高まった。89年もアジアはアジアNIEsの鈍化はあるものの,堅調に拡大を続けている。他方ラテン・アメリカは構造的な低成長,高インフレが続いている。
ソ連・東欧をみると,全般的に経済成長の伸びは鈍く,消費財・食料品不足,インフレ等経済不振が慢性化している。国民の間に不満が高まり,政治・経済の改革を求める動きが活発になりつつある。
世界貿易は現在約3兆ドルの規模に達している。88年は先進工業国,及びアジアを中心とする途上国の力強い成長を背景に,世界貿易も数量ベースで9.0%(IMF“World Economic Out100k″,以下同じ)と76年来の極めて高い伸びを示した。これは,アメリカの輸出拡大(23.5%),日本,ECの輸入拡大(16.7%,9.2%)によるところが大きい。アジア諸国についても,輸出・入とも87年に比べ鈍化したものの,アジアNIEsを中心に依然高い伸び(13.1%,17.3%)を示した。
また,88年は各国の設備投資ブームを反映して,資本財貿易が大きく拡大した。88年の資本財貿易(輸出,金額ベース,GATT“International Trade″)は87年に比べ20%増加した(全体で14%,加工製品全休で17%の増加)。中でも先進主要国の資本財輸出入の伸びはめざましかった。数量ベースの資本財貿易の伸びをみると(前掲GATT統計),アメリカで輸出が30%強,輸入が20%強,日本で輸出10%程度,輸入が40%強,西ドイツで輸出入ともに10%程度拡大した。つまり,現在のハイテク・ブームのなかで設備投資に用いられる資本財も高度技術集約的なものが需要され,供給の担い手としての先進国の役割が大きかったことを示しているといえよう。
89年については,世界貿易は経済成長が若干鈍化するに伴いやや伸びが鈍化するものの,依然設備投資が堅調なことから引き続き6~7%程度と高い伸びが見込まれている(前掲IMF統計及びGATT統計)。
世界貿易は現在の長期拡大局面において実質GNPのほぼ2倍の速さで拡大している。このような顕著な貿易拡大を牽引したのは,製品特に資本財貿易の拡大であり,80年代を通じての世界的な産業構造の高度化(先進国における製品の高付加価値化,途上国工業化の進展等)の反映である。このような80年代の世界貿易構造と産業構造の変化は,第3章第2節で検討することとする。
アメリカ経済をみると,実質GNP成長率が88年に干ばつの影響を除く実勢で4.7%と84年以来の高い伸びになった後,89年に入ると前期比年率成長率が1~3月期実勢で1.5%,4~6月期2.5%,半期別前期比では88年7~12月1.9%の伸びから89年1~6月は1.2%の伸びと,成長は減速したものの,引き続き拡大を続けている(第1-1-3表)。アメリカ経済は,88年には個人消費の緩やかな拡大と堅調な設備投資,純輸出に支えられていたが,89年上半期には個人消費の伸びが一層緩やかとなる一方,民間設備投資は引き続き堅調に推移し,純輸出も成長に対してプラスの寄与となった。民間設備投資は87年に回復に転じ,88年には稼働率の上昇等の設備能力の制約の顕在化等から8.4%増と大きく増加した。89年に入ってからも,情報処理関係機器への投資を中心に堅調に推移している。純輸出も,85年初来のドル高修正の効果等から86年末以降,成長に対しプラスの寄与を続けているが,88年には世界経済全体の投資ブームから資本財を中心に輸出が17.6%増加し,輸入は消費の鈍化を反映して6.8%増と伸びが鈍化したことからさらにGNP成長率への寄与度のプラス幅が拡大した。88年後半にはこのような実質ベースの対外不均衡の縮小テンポは鈍化したが,89年に入って再びプラスの寄与度を拡大している。一方,個人消費は,株価大幅下落のあった87年10~12月期に減少した後,伸び率を鈍化させたものの依然堅調な伸びを続け,88年通年では経済成長率に対し,2分の1の寄与を示した。89年に入って,貯蓄率のもう一段の上昇とともに,伸びが鈍化している。住宅投資は低迷しており,87年,88年と2年連続で前年比マイナスとなった後,89年に入ってからも大幅な滅少を続けている。
89年に入ってアメリカ経済が減速したメカニズムは乗用車の販売,在庫,生産と密接に関連している(第1-1-1図)。乗用車販売台数は,89年初から1000万台(季節調整値年率)を下回り,4,5月には販売促進等から一時1000万台(同)を回復し,8月にも,10月からのモデル・チェンジ時に90年型車の値上げが予想されたことから購入の前倒しがあり,1140万台(同)となったが,基調としては弱含みで推移している。この最終段階の販売状況を反映して,89年初がら乗用車・同部品の在庫が積み上がり,高水準で推移した。また,生産も5~7月に減少し,メーカーでは,夏期に生産停止期間の延長,レイオフ等の減産を実施し,10~12月期の生産計画も低い水準となっている。アメリカにおける乗用車・同部品の生産は,1977年基準の鉱工業生産指数のウェイトで5.25%を占めるが,単にこのウェイトに表れるだけでなく,鉄鋼等でも5,6月に生産が減少するなど,川上産業に及ぼす影響も大きかった。個人消費の鈍化がこの乗用車の販売,在庫,生産のメカニズムを通じて,経済全休に波及し,経済減速につながったと考えられる。
民間設備投資は,88年前年比8.4%増の後,89年1~3月期前期比年率6.9%増,4~6月期同8.6%増の高い伸びとなった。この要因としては,堅調な内需と輸出の回復を背景として,生産の拡大,稼働率の上昇から設備能力の制約が顕在化したこと,企業収益が大きく改善していること等があげられる(詳しくは第2章第2節を参照)。非軍需資本財受注をみると,88年前年比18.0%増,89年1~3月期前期比5.3%増の後,4~6月期1.0%増と,このところやや弱含んでいる。商務省設備投資計画調査(89年7~8月実施)によると,88年の設備投資実績では,製造業の中の非耐久財部門,非製造業の中の運輸部門で前年比10%を超える実質伸び率となっており,89年の設備投資計画では,製造業の投資の伸びが鈍化する一方,非製造業の投資は伸びを高め,全体では実質ベースで前年比7.7%増の伸びと,88年の実績よりやや低くなっている。これを四半期別にみると,7~9月期までは堅調に推移するものの,10~12月期には製造業の減少等から横ばいとなっている。
純輸出の動向をみると,85年初来のドル高修正の効果もあり,86年末以降,実質GNP成長率への寄与度がプラスに転じ,88年にはさらにその幅を拡大し,89年に入ってもプラスの寄与度を続けている。これは,ドル高修正の効果と世界経済全体の設備投資ブーム等から資本財を中心に輸出が大幅に増加した一方,成長の減速から輸入が伸びを低めたことによるものである。88年全体では実質ベースで輸出が17.6%増,輸入が6.8%増となり,純輸出の実質GNP成長率への寄与度は1.1%となった(付表1-1)。後半は輸出は高い伸びを続けたものの,経済の拡大が続く中で輸入が大きく増加したことから実質GNP年率成長率への寄与度は7~9月期マイナス0.2%,10~12月期同プラス0.1%となり,実質ベースの対外不均衡縮小のテンポは鈍化した。89年に入って,輸出が堅調に推移する中で,内需の鈍化から消費財,乗用車を中心に輸入の伸びが鈍化し,実質ベースの不均衡は緩やかに縮小している。実質ベースの輸出入について,さらに,その中心となる非農業商品輸出と非石油商品輸入をみると,非農業商品輸出が88年前年比22.3%増の後,89年1~3月期前期比3.1%増,4~6月期同4.2%増と輸出の伸びを支えている。非石油商品輸入は88年前年比5.1%増の後,89年1~3月期前期比0.9%減,4~6月期同1.6%増と輸入の伸びの鈍化をリードする形となっている。
個人消費は,87年10月の,株価大暴落の影響等から9,10~12月期に前期比年率0.7%の減少となった後,88年中は貯蓄率の若干の回復からやや鈍化したものの堅調に推移し,88年全体では前年比3.4%の増加となった。89年に入ってからは個人消費は,年初金融引締めの中で金利に比較的感応的な耐久財が滅少し,1~3月期前期比年率2.0%増と伸びが鈍化し,4~6月期には同1.9%増となった。
このように個人消費が鈍化したことは家計貯蓄率の上昇に表れている。87年に極めて低い水準となった後,88年以降は低水準ながら回復し,89年1~3月期5.6%,4~6月期5.4%となった。この貯蓄率の上昇の要因としては,87年末からの回復での87年10月の株価大暴落によるマイナスの資産効果等に加え,さらに,88年春以降89年半ばまでの金融引締めによる金利上昇の価格効果等が考えられる。
住宅投資は,89年前半までの住宅抵当金利の上昇,貸家の空家率が86年以降おおむね7%台の高水準で推移していること等がら低迷が続いており,88年には前年比0.4%の減少,89年1~3月期には前期比年率5.0%の滅少,4~6月期同12.3%の大幅な減少となった。住宅着工件数でみても,88年10~12月期,89年1~3月期に150万戸台となったものの,4~6月期には135.2万戸となり86年後半以降の減少傾向が続いている。
在庫投資は,干ばつ等の影響から農業在庫投資は低い水準となったが,景気の順調な拡大を反映して,88年全体では実質GNP成長率への寄与度はプラス0.1%となり,89年1~3月期には前期比年率成長率への寄与度がプラス0.6%,4~6月期には同マイナス0.5%となった。千ばつの在庫投資へのマイナスの影響は88年全体で101億ドル(82年価格,前年GNPの0.3%)と見込まれており,GNP統計上は実質年率で88年4~6月期に67億ドル,7~9月期に117億ドル,10~12月期に218億ドルと分割された。
政府支出は連邦支出が減少したことから88年は前年比0.4%増にとどまり,89年1~3月期は前期比年率3.3%滅となったが,4~6月期同5.4%増となった。
日本経済は86年11月を底として回復に向かった後,87年後半以降,民間設備投資,個人消費が主導して,生産の拡大→雇用増,所得増,企業収益増→消費,設備投資の拡大→生産の拡大という自律的景気拡大を続けている(付表1-2)。88年の実質GNP成長率は5.7%となったが,うち内需がプラス7.6%と高い寄与度を示したのに対し,外需はマイナス1.9%と,3年連続マイナスとなった。先にみたように,アメリカの輸入が88年に数量ベースで7.0%増にとどまった一方で,日本は製品を中心に16.7%と輸入を伸ばし,世界経済に対する牽引力の1つとなった。一方輸出は先進工業国,アジアNIEsを中心とした設備投資ブームのなかで,旺盛な資本財需要に応えて高技術の資本財を供給し,相手国の生産性向上に貢献した。日本の場合力強い内需にもかかわらず,物価上昇率は概ね低い伸びにとどまり,インフレを輸出することなく,高品質の資本財を供給し,世界の物価安定に貢献したともいえる。
89年についても,1~3月期は実質GNPは前期比年率9.6%(うち内需寄与度10.1%,外需寄与度マイナス0.5%)の成長を示した後,4~6月期は同マイナス3.1%(うち内需寄与度0.8%,外需寄与度マイナス3.9%)の成長となった。
1~6月期でみると,前期比年率4.8%(うち内需寄与度6.0%,外需寄与度マイナス1.2%)であり,基調として内需主導型の着実な成長が続いているといえよう。
EC経済は83年初以来拡大を続けており,88年は,一層その力強さを増した(第1-1-4表)。実質GDP成長率(EC12か国)は,87年2.7%となった後,88年は,3.1%と高まった。88年は,外需は輸入の高い伸びによりマイナスの寄与となったものの,内需の伸びが,設備投資,個人消費等の好調を背景に近年にない高い水準となり,これがGDPの伸びに大きく寄与した。89年について主要国の1~6月の実質GNP/GDP成長率をみると,イギリスでは消費の鈍化により前年同期比2.8%と減速した一方で,西ドイツ,フランスは旺盛な設備投資により,また,イタリアは消費,投資ともに好調なことから,西ドイツ同4.6%,フランス同3.9%,イタリア同3.1%と堅調な動きとなっている。各国とも89年全体で3~4%の成長が見込まれている(IMF″World Economic Out-100k″)。こうした状況の下,各国において,インフレを抑えつつ持続的な成長を実現する軟着陸が期待されている。
①イギリスー過熱傾向から緩和ヘ
イギリスでは,88年には内需の急拡大から景気に過熱傾向がみられ,88年6月以降政策金利が相ついで引き上げられた。89年に入って,個人消費,住宅投資を中心に内需の伸びが鈍化し,物価上昇率の高まりも年央にはほぼ峠を越し,低下を示すようになった。
88年には,外需は引き続きマイナス(GDP寄与度マイナス3.4%)であったが,内需は個人消費,固定投資などの好調から前年比7.3%増となり,景気の過熱傾向がみられた(実質GDP,支出ベースの伸びは3.9%,付表1-3①)。
個人消費は,86,87年と実質5%台の伸びを続けた後,88年には6.9%増とさらに上昇テンポを高めた。この個人消費の好調持続は,①個人所得の増加,②インフレ率の低下,③個人所得税減税などから実質可処分所得が,87年3.6%増,88年4.9%増と着実な増加を続けたこと,さらには第2章第1節で述べるように住宅等資産価格の上昇から貯蓄率が低下したことを背景としたものである。しかし,89年に入って,インフレ率の高まりによる実質個人所得の伸びの鈍化,2%台という記録的な貯蓄率の低水準からの回復,消費者ローンの残高増,金利の上昇による住宅部門の不振などから,個人消費の伸びは上期年率2%強に鈍化した。
実質企業固定投資(民間設備・構築物)は,87年16.6%増,88年16.0%増と,このところ二桁の伸びを続けており,89年にも12.6%増が見込まれている(英貿易産業省投資予測調査,89年6月,付表1-4)。今回の設備投資ブームは,当初は非製造業が中心だったが,しだいに製造業部門に波及し,製造業投資は88年10.8%増の後,89年にも14.3%と高い伸びが続くと予測されている。88年6月初以降の相つぐ金利引き上げにもかかわらず,企業の投資意欲がなお旺盛であるのは,主として,①企業利潤の高水準が続いていること,②稼働率の上昇は頭うち傾向にあるものの依然高水準にあること,③1992年のEC単一市場完成への動き,などを背景としたものとみられる。
内需の過熱傾向から実質輸入が大幅な伸びとなり,一方輸出は,北海石油採掘の事故もあって伸び悩んだために,純輸出の寄与度はマイナスを続けた。89年に入って,輸入の伸びは依然大きいが,輸出が持ち直してきており,純輸出の寄与度は4~6月期にはプラスとなっている。国際収支ベースで,輸出・入額の動きをみる(第1-1-2図)と,88年には輸出が前年比1.5%増にとどまった(非石油輸出は5.1%増)一方で,輸入は同12.3%増となり,貿易収支は208億ポンドの大幅赤字を記録した。89年1~9月には,輸出が前年同期比12.7%増(非石油輸出は同14.9%増)に回復しているが,輸入が,資本財の増加を中心に同16.O%増と輸出を上回る伸びとなったために,貿易収支赤字は185億ポンドと前年を上回る大幅な赤字を続けている(前年同期は144億ポンドの赤字)。経常収支赤字も,88年の146億ポンド(GDP比3.2%)の後,89年1~9月には156億ポンドの赤字となっている(前年同期は93億ポンドの赤字)。
②西ドイツー堅調な景気拡大続く
西ドイツの景気拡大は,83年初から,すでに6年が経過した。88年のGNPは,消費,投資及び輸出の全てがプラスの成長要因として働き,年初の暖冬等の特殊要因も加わり,実質で前年比3.6%増と79年以来の高成長となった。その後,89年上半期は設備投資と輸出の好調を背景に,前年同期比4.6%増加し,良好な経済パフォーマンスを示している。しかし,経常海外余剰の寄与度は87年のマイナス1.1%から88年には0.0%となり,89年1~6月期には1.9%とプラスとなり,外需依存型となっている(付表1-3②)。
88年の国内需要は前年比3.7%増とGNPの伸びを上回る成長を示した。個人消費が前年比2.7%増,政府消費が同2.2%増となったのに加えて,設備投資と建設投資の好調(各々7.5%,4.7%の増加)により固定投資は5.9%の上昇となった。89年に入ってからも成長の主役は設備投資であり,設備投資は1~6月期前年同期比10.6%増と好調な伸びを示し,さらに例年にない暖冬の影響から建設投資が89年1~6月期同8.2%増と大幅に伸びた。一方,個人消費は1~6月期前年同期比1.7%増と低い伸びにとどまっている。
また旺盛な内需と外需の結果,最近多くの業種で稼働率の上昇,受注数量の増加がみられ,特に88年4~6月以降,輸出向け受注が国内向け受注を上回っている(第1-1-3図)。また,雇用情勢が改善するなかで,多くの業種で熟練労働者の不足,残業時間の増加等の労働供給面での制約が指摘されている。
財・サービスの輸出は,世界的な設備投資ブームを背景とした西ドイツの資本財に対する強い外需の存在及びマルク安傾向により,EC諸国,途上国を中心に増加し,88年には前年比5.8%増と高い伸びになった(87年同0.8%増,第1-1-4図)。西ドイツの輸出の半分以上(88年で55.5%)を占める資本財輸出は,87年1~3月期から89年4~6月期にかけて,711億マルクから892億マルクへと高い伸びを示している。また財・サービスの輸入は,旺盛な国内需要を受けて,88年は前年比で6.3%増となった(87年同4.8%増)。89年に入ると,輸入が堅調に伸び続けているものの,依然資本財の輸出が好調なのに加え,対外資産の積み上がり及び利子源泉課税導入前後から大幅に増加した外債投資にともなう投資収益の増加などから,財・サービスの輸出は引き続き高い伸びを示しでいる。
③フランス-引き続き拡大
フランスでは,実質GDP成長率が,86年2.3%,87年1.9%とやや低い伸びに留まった後,88年は,3.4%と76年以来の高い成長を記録した(付表1-3③)。89年に入ってからも堅調な個人消費,活発な設備投資等好調な内需に支えられ,89年1~3月期,前期比年率4.7%と高い伸びを示した後,4~6月期同2.6%と鈍化したものの前年同期比3.4%と引き続き拡大を続けている。しかし,従来しばしば見られたような,インフレの高進,物価と賃金のスパイラルといった脆弱性は今回は特に顕在化していない。すなわち,賃金上昇率は低く抑制され,若干過熱ぎみの景気に対しては金融の引き締めが行われた。高まりがみられる物価上昇率も年央には頭を打ち,落ち着きを取り戻しそうな気配である。
実質個人消費は,88年は年初若干伸び悩んだものの,年後半は政府の引き続く付加価値税減税等政策の効果もあり,衣料品等非耐久財,乗用車等耐久財ともに回復したことから総じて堅調に推移し,88年全体では前年比2.8%となった。89年に入ると,乗用車部門は依然好調を維持しているものの,衣料品等は伸びが鈍化するなど,部門によりばらつきが見られる。全体でも若干鈍化が見られ,1~3月期前期比年率2.9%の後,4~6月期同0.8%となっている。
実質民間設備投資は86年以来,景気の牽引役を果たしてきたが,88年はその傾向が特に顕著であり,年ベースでは10.4%増と高い伸びを示している。これは,経済拡大が続く中,企業収益の拡大と1992年EC統合をにらんだ企業の競争力強化の目的等を背景に,企業が従来の更新投資に加え,新規投資をも積極的に行ったこと等が主因と考えられる。89年に入っても,好調を持続しており,89年1~3月期前期比年率4.5%増の後,4~6月期同4.9%増となっている。なお,INSEEの企業設備投資アンケート調査(89年6月)によれば,89年は部門により若干ばらつきがあり,資本財及び消費財部門の伸びが緩やかになることから全体では,88年に比し若干鈍化するものの,好調な乗用車等輸送機器部門及び中間財部門を中心に実質7~8%と引き続き高い伸びになるとしている(第1-1-5図)。
純輸出は,86年以降設備投資ブームにより資本財輸入が大幅に増加したことから,悪化傾向が続いている。87年に大幅に悪化した後,88年には輸出も工業品を中心に大幅に伸び,寄与度のマイナス幅は縮小したものの,プラスに転じるには至らなかった。89年1~3月期は,暖冬等によるエネルギー需要減を主因に輸入の伸びが鈍化した一方,輸出は各部門で大幅な増加を示し,寄与度はプラスとなったものの,4~6月期は航空機の受注好調にもががわらず,工業品全体の不調により輸出が伸び悩み,再びマイナスに転じた。
④イタリアー好調な成長続く
イタリアでは,83年央に景気拡大に転じて以来,好調な成長を続けているが,とりわけ87年以降は,個人消費の堅調な伸びに加え,それまで低迷していた設備投資も大幅増加に転ずるなど,消費・投資両面ともに好調な内需により高めの成長を続けている。88年の実質GDP成長率は3.9%となったが,その増加寄与度をみると,内需は,個人消費2.4%,機械設備投資0.7%,建設投資0.4%などの高い寄与度により全休で4.5%と好調であったが,一方外需は,実質輸出が1.3%と好調だったものの,実質輸入が好調な内需から急増,マイナス1.9%の寄与度となったため,全体でマイナス0.6%となった(付表1-3④)。
89年に入ってからの内需の動向を,生産・消費関連指標でみると,鉱工業生産指数は84年から5年連続して前年比で増加し過去最高水準となり,また製造業稼働率(当庁季調値)も,4~6月期80.0と70年4~6月期(81.1)以来の高水準に達し(第1-2-3図),88年に史上最高を記録した乗用車販売台数も,7~9月期月平均16万台(前年同期比11.4%増)とさらに増勢を強めるなど,内需は過熱気味となるほどの好調さを示した。その後,設備投資の伸びの鈍化や在庫投資の低下等から,内需の過熱はやや緩和傾向を示している。一方外需は,実質GDP前期比増加寄与度では四半期毎に増減を繰り返しているものの,実額では大幅な赤字が続いている。この結果,実質GDP成長率は1~3月期前期比0.8%増(前年同期比3.2%増),4~6月期同0.4%増(同3.1%増)となっており,89年全体では3.4%(政府・実績見込み)の堅調な成長が見込まれている。
一方,比較的落ち着きをみせていた物価は,生計費上昇率が88年前年比5.0%から89年4~6月期前年同期比6.8%に,卸売物価上昇率も同4.7%から同6.8%とをるなど,過熱気昧の内需の影響を主因に付加価値税率引き上げ(88年7月及び89年1月)等の影響も加わり高まりをみせた。その後,生計費上昇率が7~9月期前年同期比6.8%に,卸売物価上昇率も7月前年同月比6.4%となるなど,上昇テンポにはやや落ち着きがみえたものの,依然高い上昇率が続いている。
そのため,アンドレオッティ内閣は,財政再建とともに内需過熱防止等によるインフレ抑制を経済運営の重点課題としている。
なお90年度政府経済見通し(89年9月)によると,実質GDP成長率は,89年(実績見込み)の3.4%から90年は3.2%へとやや低下するものの,引き続き内需中心の好調な成長を続けるとみており,内外需のバランス改善も合わせて見込んでいる。
84年の輸出の回復をきっかけに,その後順調な成長を続けてきたカナダ経済は,88年に強い国内需要を背景にインフレ懸念が急速に高まったが,89年に入って過熱傾向も若干和らぎ,緩やかな拡大をみせている(付表1-3⑤)。
88年のカナダ経済の成長を支えたものは,主に国内需要であった(88年実質GDP成長率前年比5.0%,うち内需寄与度6.1%)。稼働率の上昇と,企業収益の増加から,設備投資意欲が高まり(民間設備投資同18.9%増),機械設備財を中心に強く伸びた。消費,住宅投資も,88年初の個人・法人税減税や,雇用の改善による可処分所得の増加から,88年後半に加速した。また,個人・法人部門ともに,借り入れにより消費を増加させ,なかでも,個人部門の負債の対可処分所得比は急速に高まり,貯蓄率も9.2%と72年以来の低水準となった。失業率は7年ぶりの低水準となり,稼働率は過去14年間で最高となるなど,労働面,供給面でのひっ迫がみられ,インフレ懸念が急速に高まった。こうした中で,カナダ銀行は,金融を引締め,公定歩合は88年初と比べ,ピーク時には4%以上上昇した。貿易黒字は,加ドル高(88年:対米レート7.7%上昇)に加え,旺盛な内需を反映して,設備投資関連財を中心として輸入が増加したこと等により縮小した。
89年に入ると,需要の一巡や高金利により住宅投資が低迷するとともに設備投資もやや鈍化しているものの,消費の勢いは強く,内需は依然堅調である。
同時に対米自動車を中心とする輸出の不振と堅調な消費を背景とする輸入増から貿易黒字が縮小し,高金利による利払い増から経常収支の赤字が拡大しており,外需のマイナス幅は拡大し,経済全休の成長率を押し下げている。一方,物価については,財政赤字補填のための連邦税増税(大規模企業法人税の導入,個人所得税の付加税の税率引き上げ,製造者売上税率の引き上げ)の実施(4~7月)直後に消費者物価の上昇がみられたが,その後は落ち着いた動きとなっている。
オーストラリア経済は,87年には世界景気の拡大を背景とした一次産品需要の高まりによる輸出数量の増大に加えて,金利低下等による内需の回復から実質GDP成長率は4.3%となった後,88年は住宅および設備等の民間投資を中心とする内需の力強い伸びにより3.7%と高い伸びを続けた(付表1-3⑥)。しかし外需は内需の拡大にともなう輸入の増加からマイナスの寄与度となった。一方雇用は引き続き改善したが,物価は改善に鈍化がみられ再び高まり始めた。また年後半より経常収支の大幅悪化等を理由に金融カ引き締められた。89年に入ってからも,内需が設備投資,個人消費を中心に一時過熱気昧になるなど,経済は依然拡大を続けている。
内需の動きをみると,88年は総じて住宅や設備といった民間投資部門が大きく拡大した(前年比20.0%増)。88年末から89年初めにかけては,住宅ローン金利の上昇により住宅投資が伸び悩んだ一方,可処分所得の増加を背景に個人消費の伸びが高まり,内需全体としてはやや過熱気味となった。しかし,このところ金融引き締めによる内需抑制効果がみられ過熱傾向は一服している。今後については,7月より個人所得税滅税(総額49億豪ドル)が実施されており,年内に予定されているACTU(オーストラリア労働組合評議会)との合意に基づく賃上げとともに消費の刺激要因となろう。
外需をみると,実質輸出が停滞する一方,実質輸入は投資の増加を背景に機械や輸送機器等の資本財を中心に急増しており,外需寄与度は89年4~6月期まで5期連続マイナスとなっている。
アジア発展途上国・地域の実質GDPは,アジアNIEs,アセアンの高度成長の貢献もあって80年代に入り年平均7%と世界経済の中でも際立って高い成長をみせているが,88年には先進国経済の持続的拡大等を背景に世界貿易が引き続き高い伸びを示したこともあって同期間中でも最も高い9%の成長を記録した(アジア開発銀行「89年開発見通し」,付表1-5)。89年に入って,アジアNIEsの一部では輸出の伸び悩みなどにより成長率の鈍化が顕著となっているが,アセアンでは活発な海外直接投資を背景に経済は引き続き活況をみせており,アジア経済は強いて言えば「南高北低」のばらつきをみせつつ,全体としては世界経済の成長の核の役割を維持している。
アジアNIEsの88年の成長率は,一部の地域の供給制約,国際競争力低下等を映じて,全体としては86,87年の二桁成長から9%へと僅かながら鈍化したが,引き続き高度成長を達成した。89年に入って,国によって状況が異なるものの,全般に為替レートの切り上がり,賃金コストの上昇等による国際競争力の低下に遭遇しており,このためこれまで成長を牽引してきた輸出が伸び悩んでおり,成長テンポの鈍化が顕著となっている。もっとも,これまでの高度成長による所得上昇から消費は総じて好調であり,設備投資の増加と合わせて内需が外需の不振を補う効果を果たしており,景気の下支えをするようになっている。
韓国では,ウォンの上昇,生産性を大幅に上回る賃金の上昇等,経済環境は厳しさを増しているが,88年は内外需の好調により実質GNPは12.2%と3年続けて二桁成長となった。しかし,89年に入り,引き続く経済環境の悪化とストライキ頻発の影響から生産,輸出が停滞し,実質GNPは1~3月期に前年同期比5.6%,4~6月期も同7.4%と88年に比べ拡大テンポが目立って鈍化している。また,消費の過熱傾向,賃金の大幅上昇からインフレ圧力も強く,物価は依然高水準の上昇が続いている。また,輸出は伸び悩み(ウォン・ベースでは滅少している),他方,輸入は消費の好調から消費財を中心に大幅な拡大が続き,この結果,貿易収支黒字は目立って縮小している。台湾では,88年は投資,消費等,内需が好調であったものの,台湾元の上昇等による国際競争力の低下から輸出が伸び悩み,実質GNPは7.8%へと鈍化した。89年に入っても基本的には前年と同じ成長パターンを続けており,実質GNPは1~3月期に前年同期比6.8%,4~6月期も同6.8%と韓国同様,一頃の高度成長期に比べると伸び悩みが顕著となっている。しかし貿易収支黒字は拡大している。香港では,中国経済の対外開放指向の強まりによる経済関係拡大,香港ドルの下落等による競争力の上昇から86,87年と二桁成長となったが,88年には設備余力の限界,労働力不足等,供給制約が顕在化し,また,実質GDP成長率は7.4%へと鈍化した。89年に入っても製造業では低成長が続いており,政庁のGDP成長率見通しも5%台の控え目なものとなっている。シンガポールでは,国際競争力回復に向けて為替,賃金等の調整を実施した結果,経済は85,86年の不振から回復し,88年には実質GDPは11%と二桁成長を記録した。89年に入り,実質GDPは1~3月期に前年同期比9.2%,4~6月期同9%と引き続き高い成長をみせ,政府は89年成長見通しを7.5%-8.5%へと上方改訂した。
アセアンでは,85~86年の成長率低下ないし一部の国のマイナス成長からほば同時期に回復を示し,製品輸出の拡大,非石油産品の価格堅調による輸出所得の増加,海外直接投資の急増,消費の好調等を背景とした内需の拡大により経済は活況を呈するようになっている。この結果,アセアンにインドシナ2カ国を加えた東南アジア(ここではアジア開発銀行の統計を引用しているため,同行の分類による東南アジア諸国を東南アジアとしている)のGDP成長率は,88年に7.2%と87年に比べ約2%ポイントも上昇した。
インドネシアでは,脱石油化を軸としたモノカルチャー経済からの脱皮努力により,製造業が順調に拡大し,工業品輸出も伸びており,海外直接投資による活発な投資活動と相まって経済は安定度を高め,88年の実質GDPは5.7%の成長となった。マレーシアでも,海外直接投資を梃とした工業化の進展による工業品輸出の拡大と一次産品価格の堅調による輸出の好調等により成長率は高まりをみせており,88年の実質GDP成長率は8.1%となった。89年1~3月期も前年同期比7.3%と僅かな成長鈍化に止まっている。タイでも,海外直接投資の急増を背景とした工業化の進展,工業製品の輸出拡大,消費の活発化等により成長率の高まりがみられ,88年は農業生産の回復もあって実質GDP成長率は11%を記録した。しかし,最近では,インフラ整備の遅れ,労働力需給のアンバランス等,ボトルネックが顕在化し始めており,インフレも高まりをみせるなど,先行きに不安材料もみられる。フィリピンでは,長らく続いた経済低迷から漸く脱し,87,88年と成長率の加速がみられた。また,最近ではフィリピンに対する信頼度も徐々に回復し,海外直接投資も増大しており,こうしたことが経済活動の活発化に繋がっている。もっとも,最近では,賃金の引き上げ等によりインフレ圧力が増しており,89年央には二桁インフレとなっている。
中国では,87~88年の経済過熱状況の下で原材料・エネルギー等がひっ迫し,一部食料品価格の自由化措置も加わり物価が高騰したことから,88年秋以降,調整策が採られている。88年に前年比20.7%増と過熱化した鉱工業生産の伸びは,89年半ば過ぎまでの実績を前年同月比でみると国家計画の8%増を下回る水準にまで鈍化している。これまでに大幅に拡大してきた投資は,引き締め策により,89年に入って減少をみせており,固定資本投資総額(国営部門)は上期に前年同期比6.3%減(89年計画は約20%減)となった。セクター別投資では,製造業部門では抑制し,インフラや原材料・エネルギー部門では重点的に行うとしているが,依然,原材料・エネルギーの需給ひっ迫は緩和されていない。
小売物価は,88年には食料品価格の上昇を中心に前年比18.5%と高まった後,89年に入って,上期は高水準の物価上昇が続いたが,年央以降,物価上昇率は目立って鈍化してきている。国内需給のひっ迫から,輸入が大幅に増加し,他方,輸出が伸び悩む中で貿易収支が悪化する傾向が89年央まで続いていたが,その後は,輸入の増勢が鈍り,輸出が伸びを高めたことから貿易収支赤字は縮小している。このように87~88年の経済過熱は徐々に鎮静化に向かっている。
また,4~6月の北京等における混乱の実体経済への影響は,中国の統計によれば状況を大きく悪化させるものとはなっていない。
南西アジア諸国では,相対的に農業部門の比率が高く,天候に左右され易い経済構造にあるが,全体としてみれば88年は87年の天候不順,災害の影響から回復し,経済成長率は7.8%の高い成長となった。89年は,天候が平年並みに推移すれば5%程度の成長とこれら地域としては高めの成長が見込まれている。
インドでは,87年の干ばつから農業が急回復し,また,政府の工業セクター活性化政策の実施による工業生産の活発化から88年の実質GDP成長率は9%の高い成長を記録した。パキスタンでは,大幅な財政赤字補填のため政府借入の増大が民間資金需要を圧迫し,投資,建設の減退がみられたことに加え,天候不順による穀物不作から88年のGDP成長率は80年代前半の平均を下回る5.3%となった。バングラデシュでも,天候不順から88年は経済は不振であった。
ラテン・アメリカでは,81年以降景気は後退を続けている。ラテン・アメリ力全体の実質GDP成長率は,82年,83年にマイナス成長を記録,84~86年も3.6~3.9%と低迷,87年に2.5%へ低下した後,88年はさらに落ち込み僅か0.7%の成長にとどまった。また,1人当たり実質GDP成長率では,87年前年比0.3%増の後,88年は同1.5%減と,5年ぶりにマイナス成長となった。88年の実質GDP成長率をみると,非石油輸出国は87年の3.2%から0.6%に大幅に成長が鈍化し,石油輸出国も87年の1.5%から0.9%に低下するなど,ともに振るわなかった。国別動向では,特にパナマ(マイナス25.0%),ニカラグア(マイナス9.O%),ペルー(マイナス7.5%)等が大きな落ち込みをみせたほか,経済規模の大きいブラジル(マイナス0.3%),メキシコ(1.1%),アルゼンチン(0.5%)もそろって不振であった。こうした中,チリ(6.5%),コロンビア(4.0%)等がわずかながら好調であった(付表1-6)。またラテン・アメリカの投資動向を,実質国内投資の対GDP比でみると,このところ低迷を続けており,81年の25.3%から87年には15.6%へと落ち込んでいる。他の地域に比べ元来低水準にある投資の一層の低下は,ラテン・アメリカの経済成長の大きな阻害要因となっている。
ソ連では,ゴルバチョフ政権.(85年3月~)による既存の社会主義システムの再構築,「ペレストロイカ」(改革)が5年目を迎え,以前にも増して積極的な改革が叫ばれているが,それは反面,ペレストロイカが経済面での十分な実効をあげていないことも意味している。
88年の経済実績を前年比でみると,生産国民所得は4.4%増(87年は2.3%増),GNPは5%増(同3.3%増)と回復を示した。ただし,工業総生産は3.9%増(同3.9%増)で横ばい,農業総生産は0.7%増(同0.6%減)でやや回復したものの穀物生産は7.7%減と不振が続いている(なお,米CIA推定では88年GNPl.5%増,工業総生産2~2.5%増,農業総生産2%減)。貿易では,輸出はコメコンに対する燃料・エネルギー価格が低下したこと等から1.5%滅(数量ベースでは2.5%増),輸入は西側からの機械設備,消費財の増大や食料品の国際価格の上昇から7.1%増(同2.8%増)となっている。消費者物価上昇率は8.4%(87年7.2%,86年6.2%)で年々高まってきている。消費財・食料品の不足,インフレ等に対する国民の不満が高まるとともに,「民主化」の進展も手伝って,労働者のストライキや民族運動も活発となってきており,問題の早急な解決が迫られている。
東欧諸国は80年代以降,全般的に経済成長(生産国民所得)の伸びが鈍化し(付表1-7),近年に至って,消費財・食料品不足,インフレ,失業,対外債務増大等の経済不振が,構造的,慢性的なものとなってきている。これらに対する国民の不満の高まりから,政治的な変革を求める動きも活発化している。以下,各国別に88年実績を中心にみていく。
88年は生産国民所得が前年比3%増(計画4.1%増)にとどまり,84年(5.5%増)から年々低下してきている。これは,原材料供給の制約(石炭採掘の頭うち,石油輸入の負担増)や労働力供給の制約(労働力人口80~87年年平均0.3%増,70~80年同1.2%増)など,供給面での制約の強まりが原因となっている。農業部門は穀物生産が前年比11%減と不振に終わった。貿易総額は0.3%増とほぼ横ばいであるが,貿易収支は約31億為替マルクの黒字となった。対OECD貿易(西ドイツを含む)は輸出5%増,輸入7%増と拡大している。
88年は生産国民所得が前年比4.5~5%増(前年は1.7%増)と回復し,特に工業は,計画を上回る6.0%増の投資に支えられて5.4%増と順調であった。ただし,多額の対西側債務(88年末373億ドル,OECD″Financial Market Trends,No42″)返済のための輸出優先策から輸出向け製品が8%増となったのに対し,国内用消費財は4%増にとどまった。また農業は0.6%増と前年(3.0%滅)に続き依然低い水準にとどまっており,89年にはEC委員会を中心に食料援助を決定している。このように,生産国民所得の回復にもかかわらず,国内では消費財・農産物の不足は依然解消していない。他方,88年の消費者物価上昇率は60%,賃金上昇率は78%と,いずれも大幅な上昇となっているため,国民の不満が高まっている。貿易は西側との取引活発化から,輸出9.4%増,輸入8.7%増と大幅な増加を示した。
88年は生産国民所得が3.0%増(前年は2%増)で,農業の回復等を中心に前年よりやや高まりをみせたが,工業は依然低調であった。工業では新規拡大投資を抑えて,設備更新や未完成工事の完成促進に投資を集中させている。貿易総額は3.5%増で,うち輸出5.5%増,輸入1.5%増であった。対社会主義諸国との取引2.7%増に対し,対資本主義諸国との取引は6.5%増(うち輸出6.9%増,輸入6.1%増)とこれを上回った。
88年は生産国民所得が0.5%増と計画(1.0%増)を下回った。これは,近年の消費拡大による対外債務増加のため個人消費を中心に内需抑制策をとったこと,及び投資,建設等もかなりの低下となったこと等による。また消費者物価は,消費財・サービスに対する付加価値税の導入と価格補助金の削減から15.7%(前年は8.6%)の上昇となった。貿易(数量ベース)は,ルーブル建てで輸出0.5%増,輸入4%増,収支は1億3千万ルーブルの黒字,また,ハード・カレンシー建てで輸出9%増,輸入7%減,収支は5億7千万ドルの黒字となった。
88年は生産国民所得が3.2%増と,計画(9~10%増)を大幅に下回るとともに84年実績の7.7%増から次第に低下傾向を示している。農業総生産は2.9%増(計画5.O~5.5%増)と伸びはあまり高くないものの,農業重視策もあって穀物生産を中心に高水準で安定している。貿易総額は6%増で,うち輸出は10.5%増,輸入はほぼ横ばいとなり,貿易収支は約40億ドルの黒字となった。
88年は生産国民所得が6.2%増,工業総生産が5.1%増と,85年(それぞれ1.8%増,3.2%増)を底に次第に回復を示している。ただし農業総生産は0.7%減で,前年(5.1%減)に続きマイナス成長に終わった。貿易総額は1.1%増で,うち輸出4%増,輸入1.8%滅であった。貿易収支は,ソ連への輸出堅調を背景に黒字転換したが,対西側取引は,積極的な西側技術導入の姿勢にもかかわらず輸出入ともに滅少した。
88年は社会的総生産が2.0%減(前年は0.5%滅),工業総生産が0.7%減(同0.7%増),農業総生産が3.O%減(同7.5%減)とさらに減速を強めた。同年の消費者物価上昇率は195%(同120%)と大幅な上昇を示しており,一方名目賃金上昇率はこれを下回る172%(同105%)にとどまっているため,実質賃金は8%の下落(同4%の下落)となり,生活水準は低下している。また失業率は14.1%(同13.6%)と高まっている。このため,労働者のストライキや民族間対立が頻発し,社会の混迷が続いた。貿易は,輸出10.3%増,輸入4.4%増で,貿易収支赤字が減少した。