昭和63年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1987~88年の主要国経済
第7章 オセアニア
ニュージーランドでは財政再建,インフレや経常収支改善等を目標に経済の市場原理導入と金融・財政引き締め策を実施してきている。
実質GDP成長率をみると,85/86年度(85年4月~86年3月)は金融・財政引き締め策による個人消費や設備投資の伸び悩みと主力輸出品である一次産品の貿易不振などから前年度比0.8%増と鈍化した後,86/87年度に入り一次産品の価格回復などによる輸出の好転を主因に同2.4%となった。しかし,87/88年度には輸出は増加を続けたものの,消費や投資が低調で,同0.2%減(87年4~6月期前期比0.4%減,7~9月期同0.4%増,10~12月期同0.4%減,88年1~3月期同0.0%増)と経済は停滞した(88年4~6月期同0.7%減)(第7-2-1表)。また,物価が改善している一方で雇用状況は悪化傾向にある。金融政策は引き締め基調にあり,NZドルは強含みとなった。財政は87/88年度に35年ぶりの黒字となり,88/89年度予算も黒字予算となっている。
個人消費の動向をみると,86/87年度は実質可処分所得は増加したが,金融引き締めによる高金利や先行き不透明感から来る貯蓄意欲の高まり等により,7~9月期に一時的に増加(86年10月の一般消費税(GST)導入前の駆け込み需要)したことを除き,総じて横ばいとなった。87/88年度は実質可処分所得が減少し,87年10月の株価下落の影響もあったとみられ,実質小売売上高は低下傾向となり,乗用車新車登録台数は低需要に対する自動車価格の低減競争もあり年度前半増加したものの,以後は自動車輸入関税引き下げ予定に伴う買い控えもあり再び低下しており,消費は総じて低調であった。
投資については,住宅投資が一般消費税導入前の駆け込み需要や不動産ブームなどもあって86/87年度前半は比較的好調だったものの,年度後半は同税導入や継続する高金利により伸び悩んだ。87/88年度も実質可処分所得の減少やモーゲージ金利が低下傾向にあるもののインフレ率に比べて低下が鈍いこと等から総じて低調で,住宅建築許可件数は期により増減を伴いながらも,86年月平均1,684件,87年同1,634件,88年4~6月期同1,446件と低下傾向にある。民間設備投資も国内市場の低迷による企業活動の後退から生産が低下しており,今後の投資マインドも低下し,金利も高水準であることから不振となった(第7-2-1図)。
製造業生産は,86年には回復を示したが,87年初に低下した後はおおむね横ばいとなり(生産指数,78年1~3月期=1,000,86年7~9月期1,464→87年1~3月期1,352→10~12月期1,394),88年には製造業設備稼働率は82/83年度の景気後退期以来の最低水準(88年4~6月期84.5%)まで低下しており,生産は鈍化しているものとみられる。
雇用情勢は悪化している。86年1~3月期に5万4千人だった登録失業者数は景気鈍化による工場閉鎖や農村部への補助金打ち切り等を主因に特に86年後半から増加し始め,更に政府事業の縮小を目指した森林・石炭鉱山などの事業の公社化による余剰人員の発生や関税引き下げに伴う低採算部門の合理化等から大幅に増加し,88年4~6月期には10万7千人となった。失業率も86年1~3月期4.2%から88年4~6月期8.0%と高水準となっており,従来の農村部を中心とする地方から都市部まで失業問題が波及している(第7-2-2図)。
消費者物価上昇率は,金融・財政両面の引き締めにより86年4~6月期前年同期比10.4%まで低下した後,86年10月の一般消費税導入により再び上昇率が高まり,86年10~12月期から87年7~9月期の間同17~18%の高い上昇となった。しかし,以後はNZドル高による輸入物価の低下,失業者の増加を反映した賃金の抑制,一般消費税の影響の剥落も加わり,大きく改善して88年4~6月期同6.3%まで低下している。
賃金上昇率は,86年7~9月期まで20%前後の上昇が続き,労働コストがアメリカやオーストラリアを上回る伸びを示し,企業収益が圧迫されていた。しかし,雇用の悪化から,86年,87年の主要賃金交渉では6~7%の引き上げで妥結し,86年10~12月期同8.2%増以降おおむね横ばいとなった後,88年1~3月期同4.6%増まで低下している(第7-2-3図)。
輸出(FOB)は,85/86年度には農産品輸出が85年初からの豪ドル下落により相対的に国際競争力が弱まったこともあり前年度比2.4%増と緩やかな伸びにとどまったが,その後,NZドル高にもかかわらず食肉,羊毛,果実等の農産品やアルミ等の一次産品の価格上昇から輸出が好転し,86/87年度同7.3%増となり,87/88年度は同9.6%増と拡大した。一方,輸入(FOB)は85/86年度前年度比3.7%増の後,86/87年度は自動車が86年10月の輸入規制緩和から伸びたものの合成ガソリン・プラントの操業(85年10月開始)や原油価格下落から原油輸入額が大幅減少するなど同5.8%減となった。87/88年度は景気が低迷したものの,自動車の輸入規制緩和や88年7月実施の工業製品関税引き下げ等から自動車が急増したほか,鉄鋼,一般機械,電気機械等が増加し,NZドル高もあり,同6.0%増となった。貿易収支は85/86年度4.2億NZドルの赤字の後,86/87年度は輸出の回復から10.2億NZドルの黒字に転換し,さらに87/88年度も引き続く輸出の増加により14.9億NZドルの黒字となった。
貿易外収支は恒常的赤字となっており,85/86年度25.7億NZドル,86/87年度30.7億NZドル,87/88年度も対外債務の利払い増や観光収入の伸び悩み等により38.3億NZドルの赤字と悪化している。
経常収支は,赤字幅が85/86年度29.9億NZドルから86/87年度20.5億NZドルへと縮小したが,87/88年度には貿易外収支赤字の拡大が大きく23.4億NZドルど再び拡犬し7た(第7-2-2表)。
政府は思い切った自由経済への転換のため,87年12月に税制改革(所得税減税(88年10月実施),法人税率引き下げ(88年4月実施),一般消費税率引き上げ(88年10月実施予定だったが当面見送り)等),産業保護の緩和(工業製品関税引き下げ(88年7月実施),自動車輸入ライセンス制度撤廃(89年1月実施)等),事業の自由化(NZ通信公社による電話通信事業の独占廃止等),国有資産売却による公的債務の削減などを骨子とする包括的新経済政策を発表した。
金融面をみると,基調として引き締め策がとられており,金利は高水準が続いている。ただし,特に株価下落以降は株式市況への配慮から引き締めスタンスが若干緩和されており,低下傾向にある(公定歩合,86年末24.60%→87年末18.55%→88年9月末16.95%)。また,NZドルは87年に入り,一次産品市況が強含みに転じたこと等による高金利を背景に88年半ばまで上昇した(1NZドル,86年平均0.52米ドル→87年同0.59米ドル→88年4~6月期同0.68米ドル)。
財政面も緊縮政策を続けており,87/88年度の財政収支は35年ぶり黒字(4.7億NZドル)となった。ただし,前年度の19.9億NZドルの大幅赤字から黒字転換したのは,緊縮財政による支出抑制や一般消費税による歳入増のほか,政府系企業の株式売却によるところが大きかった。88/89年度の予算も財政緊縮,経済自由化路線のもとに,歳入255.3億NZドル(前年度実績比8.2%増),歳出232.7億NZドル(同0.7%増)で,収支は22.6億NZドル(GDP比3.6%)の黒字予算である。当年度についても,政府系企業の株式売却から大幅な黒字が見込まれている。なお,個人所得税・法人税の減税や一般消費税増税の見送りにもかかわらず歳入増としているのは,消費増による経済活性化を予測しているものといわれている。
ニュージーランド経済研究所(NZIER)の見通し(88年10月発表)によれば,88/89年度の経済は所得税減税やインフレ率低下を背景とした可処分所得の増加等による消費の増加から,年度後半以降やや上向くとみられ,実質G DP成長率は前年度比0.5%増とされている。また,NZドル高の影響はあるものの,輸出は引き続き拡大する左みられる一方,輸入も関税引き下げや消費の増加等が加わるため拡大し,経常収支赤字はわずかに増加(25億NZドル)するとみられる。その他,消費者物価上昇率や賃金上昇率は低下し,失業率は引き続き悪化傾向にあるとみられている。