昭和63年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1987~88年の主要国経済
第7章 オセアニア
オーストラリア経済は,86年に経常収支赤字の大幅拡大から豪ドルが下落するなかで,金融が引き締められたことから投資が減少し,実質GDP成長率は前年比2.2%増となった後,87年は一次産品価格の上昇による輸出拡大や金利低下等による内需の回復から実質GDP成長率は同4.0%と高まった。しかし,88年に入ってからは,内需がおおむね増加基調にあり,経済は拡大を続けているが,輸入の増加から外需は伸び悩んでいる(第7-1-1表)。また,失業率はなお高水準にあるものの低下傾向にある。一方,消費者物価や賃金は87年に上昇率が低下したが88年にはやや高まりを示している。金利は依然高水準にある。87年に金融は緩和傾向となっていたが,88年は内需拡大による輸入増への懸念等を背景に再び引き締められている。87/88年度財政収支は35年ぶり黒字に転換し,88/89年度予算も黒字予算となっている。
実質個人消費は86年前年比1.1%増の後,実質賃金の低下の一方で所得税率引き下げ(86年12月,87年7月)もあって87年同1.5%増,88年も緩やかな伸びを続けている(88年7~9月期前期比0.6%増)。新車登録台数(乗用車)は豪ドル下落や排気ガス規制による価格上昇,フリンジベネフィット税導入等により86年央から87年央にかけて大幅に減少した後,一次産品価格の回復に伴う農家の商用車需要の高まりや買い替え需要等から回復傾向にあり,88年4月には輸入車に対する関税引き下げから急増した(4~6月期前期比11.2%増)。ただし,その後7~9月期も同4.7%増となったものの,水準はなお86年平均をわずかに上回るにとどまっている。実質可処分所得の伸びが一進一退を続けるなかで,87年以降消費が緩やかながらも伸びていることから,家計貯蓄率は低下傾向にある(87年1~3月期8.2%→88年4~6月期7.1%)。
実質民間設備投資は,高金利の影響に加えて,豪ドル下落による機械設備の輸入価格の上昇等から86年前年比1.4%減となったが,87年には金利の低下や工業生産の増加,企業利益の回復等から同5.9%増と回復し,88年前半も伸びを続けた(1~3月期前期比7.3%増,4~6月期同5.0%増)。ただし,直近7~9月期は同6.2%減となっている。実質民間住宅投資も高金利のため86年前年比6.6%減と低迷したが,87年に入り金利の低下や税制の変更もあり4~6月期以降前期比プラスの伸びを続けている(88年7~9月期前期比8.2%増)。民間住宅建築許可件数は87年前年比4.3%増となった後,88年1~3月期前期比11.8%増,4~6月期同10.6%増,7~9月期同11.0%増と大幅な伸びを続けた(第7-1-1図)。
工業生産は86年に減少傾向を示した後,87年は輸出増加や内需の回復等から増加したが,88年に入り豪ドルの増価(1豪ドル,87年10~12月期平均0.70米ドル→88年7~9月期同0.80米ドル)もあり再びやや減少ぎみとなっている(生産指数,1976/77年度=1,000,87年1~3月期1,086→10~12月期1,142→88年4~6月期1,127)。自動車生産台数は85年の41.1万台以降減少を続けた後,88年には87年をやや上回り33.4万台(年率換算)となっているほか,粗鋼は87年以降減少傾向にある。
雇用情勢をみると,経済の拡大から87年以降88年10月まで製造業等を中心に雇用者が約40万人増加した一方,失業者が約9万人減少し,失業率はなお高水準にあるものの低下しており,87年平均8.1%の後,88年は7%前後となっている(88年1~3月期・4~6月期前年同期比7.6%,7~9月期同7.0%,10月6.9%,11月6.7%)(第7-1-2図)。
賃金(男子平均週給)上昇率は,87年3月にこれまでの物価スライドを基本とする一律の賃上げに代わる新賃金制度(全労働者一律の一層目と自由交渉による二層目の2層式)の導入により賃上げの小幅化をはかったことから,87年は前年比5.2%増(86年同7.8%)と低下した。しかし,雇用状況が改善しており,88年2月には一層目週給6豪ドルの追加賃上げが実施され,賃金上昇率は1~3月期,4~6月期とも前年同期比6.8%増とやや高まりをみせている。
ただし,実質賃金の低下傾向は続いている。
消費者物価上昇率は豪ドル下落による輸入物価の上昇を主因に87年前半まで前年同期比9%前後(86年10~12月期同9.8%)となっていたが,87年後半以降豪ドル上昇に伴う輸入物価の下落や賃金上昇率の低下等から改善し始め,88年1~3月期には依然高水準ながらも同6.9%まで低下した。しかし,その後は食料品や住宅建材等を中心にやや高まりの兆しを示している(88年4~6月期同7.1%,7~9月期同7.3%)(第7-1-2図)。
87年は輸出(FOB,季調値)が金,羊毛,肉類のほか工業製品の増加もあり375.6億豪ドル(前年比13.6%増)となり,輸入(同)が機械類や輸送機器の伸び悩みにより382.2億豪ドル(同5.7%増)にとどまったため,貿易収支は6.5億豪ドルの赤字と前年(31.1億豪ドルの赤字)から大きく改善した。経常収支赤字(季調値)は,貿易外収支赤字が増加する対外債務の利払いを主因に前年を上回ったものの貿易収支の改善により123.7億豪ドルと縮小した(86年144.6億豪ドル)。
88年は輸出が豪ドルの増価があったものの羊毛,金,アルミ等の増加から1~10月期累計348.3億豪ドル(前年同期比13.5%増)となった一方,輸入が投資の増加を背景に機械や輸送機器が増加したほか航空機の一時的増加もあって同355.8億豪ドル(同13.7%増)となり,貿易収支は7.5億豪ドルの赤字(1~3月期2.9億豪ドルの黒字,4~9月期4.8億豪ドルの赤字,10月5.6億豪ドルの赤字)と前年同期(5.9豪ドルの赤字)に比べ再び悪化し始めている。貿易外収支は観光収入の増加があるものの対外債務(88年9月末1,204億豪ドル)利払いが依然大きな負担となっており,赤字は拡大している。経常収支赤字は年前半は前年よりも改善していたが,貿易収支の悪化から7~9月期以降拡大し,1~10月累計117.0億豪ドルと前年同期(107.2億豪ドル)を上回っている(第7-1-2表)。
なお,87年以降輸出額は伸びているが,これは主に一次産品価格の上昇によるところが大きく,実質輸出では伸び悩んでおり,一方で実質輸入が増加し,外需寄与度は88年7~9月期までで7期中5期マイナスとなっている。
金融面をみると,金利は87年はなお高いものの財政・経常収支の改善等から低下傾向となり,公定歩合は87年3月(17.6%)以降頻繁に引き下げられ,10月の株価下落にも配慮して12月12.5%となった。しかし,88年は内需の伸びに伴う輸入増への懸念などからやや引き締めぎみに転じ,公定歩合は87年12月以降下げ止まり,さらに輸入増から88年7月以降11回引き上げられている(89年1月15.2%)。また,豪ドルは一次産品価格の回復や内外金利差を背景に87年以降上昇傾向にある(1豪ドル,86年平均0.67米ドル→87年同0.70米ドル→88年7~9月期同0.80米ドル)。一方,マネーサプライ(M3)は87年を通じてほぼ増加率を高めたが,88年にはやや伸びを低めている(87年1月前年同月比11.1%増→87年11月同17.0%増→88年9月同14.1%増)(第7-1-3図)。
財政面をみると,87/88年度(87年7月~88年6月)の財政収支は,歳出が787.6億豪ドル(前年度実績比5.2%増)の一方で歳入が808.1億豪ドル(同11.9%増)と大幅に伸び,20.4億豪ドルと35年ぶりに黒字に転換した(86/87年度27.2億豪ドルの赤字)。88/89年度予算は前年度実績を上回る54.7億豪ドルの黒字予算となっており,歳出は地方政府交付金等の抑制や公的資産売却などから820.1億豪ドル(前年度実績比4.1%増)と抑制ぎみの一方で,歳入は法人税率引き下げ(88年7月実施,49%→39%)にもかかわらず好調な輸出を主因とした税収増から874.8億豪ドル(同8.3%増)となっている。
なお,政府は88年5月,88/89年度予算編成方針に関連して,法人税減税,関税引き下げ(88年7月から4年間で実施),所得税減税(89/90年度実施予定,税率未定),繊維・衣料・履物への輸入割当制廃止(95年まで)等の施策を発表し,一部を実施に移している。
88/89年度予算策定時の政府見通しは,実質GDP成長率3.5%増,経常収支赤字は内需拡大による輸入増が見込まれるものの輸出や観光を中心としたサービス収入の増加から95億豪ドルに改善,失業率7.25%,賃金上昇率6.5%,消費者物価上昇率4.5%などである。しかし,88/89年度に入り輸入の急増から経常収支赤字は拡大しており(88年7~10月55.1億豪ドル,前年同期47.7億豪ドル),物価も上昇の兆しをみせていることから,11月に政府は上記見通しのうち,経常収支赤字,消費者物価上昇率をそれぞれ105億豪ドル,5.0%に修正している。