昭和63年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1987~88年の主要国経済
第2章 カナダ:景気の拡大続く
87/88年度(87年4月~88年3月)は,歳入が前年度比13.6%増の974.6億加ドルとなり,歳出が同7.9%増の1,255.4億加ドルとなたため,赤字額は280.8億加ドル(対名目GDP比5.1%)となり,前年度より25.3億加ドル縮小した。
87/88年度は,4~9月期の歳入は景気拡大を受けた法人税収の増加等から,前年同期比9.5%増の483.3億加ドルとなり,歳出は国債費等の増加により同6.6%増の595.5億加ドルとなった。その結果,4~9月期の赤字額は前年同期比6.1%減少し,112.2億加ドルとなった。
なおカナダ大蔵省は,88/89年度の財政赤字の見込み額を289億加ドルとしており,93/94年度までに年間200億加ドル以下の赤字幅に抑えることを目標としている。
88年11月21F3lこ,米加自由貿易協定の承認等を争点とした総選挙が行われ,再び進歩保守党が下院の過半数を獲得した。新政権からの正式なステートメントはまだ発表されていないものの,今後も引き続き政府財政赤字の削減を最大の目標とし,税制改革の第二段階としての全国売り上げ税導入の着手等が早急にとり行われると思われる。また税制改革の第一段階としての個人所得税減税(88年1月実施)と,法人税増税(88年7月実施)がすでに施行されており,間接税改革案が作成され,議会での審議を経て発効されれば一連の税制改革が完了することになる。この改革の主な内容をみると,個人所得税改革では税率ブラッケットを現行の10段階から3段階に減らし,最高税率を34%がら29%に引き下げるとともに,公平性確保の観点から租税優遇措置の縮減をおこなった。
また法人税改革では基本税率を36%から28%に引き下げる二方で,特別償却制度の縮減,キャピタルゲイン課税の強化等優遇措置を大幅縮減し,納税企業割合を72%から84%に高める等課税ベースの拡大で増収を計っている。結果として,個人所得税改革により8割以上の890万世帯で減税となり,減税額は今後5年間で110億加ドルと見込まれているが,その財源には法人税収入(今後5年間で50億加ドルの増収)や,草案作成中の全国売上税収入を当てることにしている。全国売上税については,現行の連邦売上税を州の小売売上税と統合し,新たに連邦,州を合わせた多段階付加価値型売上税(全国売上税)の導入をはかり,州側と協議をおこなっているとろである。州側との調整が困難と思われる点は,税の執行と課税ベースの統一に関してであり,連邦は税の執行を連邦が統一的に行うことで効率性を高めることを提案しているが,州側は現在売上税が州の運営している最大の税源であることから,これに関する州の権限の減少に抵抗している。また,各州は自州の売上税の非課税品目を全国売上税においても非課税とすることを主張するなど課税ベースの統一等で難しい問題を残しているものの,89年央には具体的な草案が提示されるものと思われる。なお近年カナダ政府は,規制緩和と外資の導入による国内投資に積極的であり,引き続き進歩保守党が政権をとることになったため,今後も同様の傾向が続くと思われる。
金融政策に関する基本的なスタンス(物価抑制,カナダドル維持),は変わらないが,87年から88年にかけての金融動向をみると,カナダドル,金利とも上昇傾向にあった(第2-5図)。対米レートは,カナダ経済のファンダメンタルズを反映して87年初から88年央にかけて,12.4%上昇した。一方金利も賃金,物価の高まり,アメリカの金利の影響等から上昇を続け,公定歩合は2月末11.19%,プライムレートも12月8日以降12.25%となっている。
89年1月より,商品貿易のみならず金融を含むサービス貿易や,投資の原則自由化をも対象とした自由貿易協定が発効された(本文第3章2節参照)。カナダでは,輸出がGNPの約30%(87年)を占めており,そのうち対米輸出が約76%であることから,カナダ経済における対米貿易の重要性に鑑み,本協定によって一層の対米輸出拡大と,カナダ経済の発展を意図している。またカナダ大蔵省では,協定実施後4年間にGDPの2%上昇,12万人の雇用創出等の経済効果があるとみている。