昭和61年

年次世界経済報告

定着するディスインフレと世界経済の新たな課題

経済企画庁


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第4章  変わる国際収支不均衡の構図

第5節 債権債務関係と強まる相互依存

80年代前半においては,上でみたように,先進国間において,アメリカの経常収支赤字と日本,西ドイツなどの黒字というコントラストが顕著になってきているが,同時に,先進国,発展途上国を通じて,国際収支面で資源に恵まれた国が不調,資源に乏しく工業品の輸出に特化している国が好調,というコントラストも目立っている。かっての「南北」の格差の問題に似たものが再び現われてきたと単純化することもできる。しかし,かつて「南」の中にあったNICの位置がかなり変化するなどもはや南北という2極に整理しきれない面もある。

いずれにせよ,こうした格差は各国の貿易構造が異なることによる面も大きいことは前節までの検討で明らかであろう。したがって,為替レートの調整機能に期待しても全面的な解消は難しい。

また,80年代においてフローの面で明暗がはつきりしてきたことは,80年代半ばの今日,ストックの面においても世界経済の構図が大きく変化しつつあることを意味している。まずアメリカが1985年末に戦後はじめてネットの残高でみて債務国に転落した(第4-5-1表)。他方,日本の対外純資産(債権超過)は80年末には115億ドルであったものが,85年末には1,298億ドルに膨れあがった。OPEC諸国のそれはさすがに4,236億ドルと格段に大きいが,最近ではむしろ減少している。包括的な統計はないが,累積債務国での債務超過が増大しているであろうことは前節から明らかである。

こうしてストックの面ではフローの面以上に立場の変化が急速に進みつつあるともいえる。

次に,ストックをネットではなく資産,負債のそれぞれについてみると,国際金融における相互依存関係が強まる一方であることが前出の第4-5-1表からみてとれる。第2章ではアメリカの金利が各国の金融政策に影響を与えたことを述べたが,このように金融政策が為替レートになんらかの配慮しなければならないとすれば,こうした相互依存関係の強まりはそれだけ金融当局によるかじとりを難しくさせる可能性がある。

第3章では累積債務国,特に中南米のそれとアメリカの銀行部門の関係が強いことをみた。アメリカの地域別の資産,負債の統計をみてもこの点がうががわれる(第4-5-2表)。中南米に対して純債権国であるアメリカが現在,対世界では純債務国であることは,他のいずれかの地域との関係で債務超過となっていることを意味する。第4-5-2表をみると日本や欧州が対米で債権超過となっているのがこれに相当する。

国際金融面での相互依存関係の強まりは,国際競争を通じた効率化を意味しており歓迎すべきことであるが,同時に債権国における国際金融制度の維持に対する責務が重要になってきていることをも意味している。


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