昭和60年
年次世界経済報告
持続的成長への国際協調を求めて
昭和60年12月17日
経済企画庁
第1章 1985年の世界経済
西ヨーロッパ経済は,84年には,イギリスの炭鉱スト,西ドイツの金属労組ストなど大きな労働争議が主要国で発生したにもかかわらず,全体としてかなりな成長をみせた。85年に入ってからも,ほぼ前年なみの2%台の緩やかな成長を続けている。しかし,OECD全体の成長率,84年4.9%,85年見通し31/4%と比較しても,また,西ヨーロッパの70年代後半の景気回復局面と比較しても,最近の成長は緩やかである(第1-2-1表,第1-2-1図)。
こうした最近の景気動向を景気日付け等で前回と比較すると(第1-2-2図),今回の場合,景気回復への転換時期が主要国で大きく違っていたが,回復・上昇の期間が前回より概して長期にわたっているという特徴がみられる。すなわち,前回の第1次石油危機後の不況からの回復の場合には,各国とも75年央頃ほぼ同時に景気上昇に転じたが,ほとんどの国で1年半程度で上昇に足踏みがみられたり,ミニ・リセッションに陥ったりした。今回は,イギリスで81年5月頃からスタートした景気回復は4年以上にわたって続いているのを始めとして,フランス及び西ドイツが約3年となっている。したがって,炭鉱ストや金属ストによる一時的な落ち込みを別とすれば,今回の上昇局面は息が長いといえよう。しかし,景気の回復テンポは緩やかであり,鉱工業生産でみると,ほとんどの国でいまだに過去のピークに達していない(第1-2-2図)。これは,製造業についてみると特に顕著で,中でもイギリスの85年7月の製造業生産の水準は,前回ピーク時を約9.5%下回っている。実質GNPの水準では,84年中にはほとんどの国が過去のピークを超しているのと比較して対照的な動きである。
西ヨーロッパ経済は,景気が回復に転じた時期やテンポが国別に異なるものの,83年以降はほぼ足並みをそろえて緩やかな成長を続けている。しかし,その成長の要因は時期によって変化がみられ,概して回復当初は内需主導型であったが,83年後半以降は輸出主導となり,85年に入ってから再び内需依存型となっている。これは,第1次石油危機後の回復期では総じて純輸出が景気回復に貢献した後,内需に成長主導要因のウェイトが移って拡大を続けたのとは異なっている(第1-2-2表)。
今回の回復パターンを国別に時期を追ってみると(第1-2-3図),81年4~6月期を谷としてイギリスが他国に先がけて回復に転じ,企業設備投資,民間住宅投資及び個人消費等の内需を中心とした成長を続けた。フランスでもやや遅れて緩やかな回復に転じたが,ここでは景気刺激策等による個人消費の拡大が主導的役割を果たした。しかし,インフレの高進,国際収支の悪化等をひき起こす結果となったため,緊縮策に転じることとなった。西ドイツは,これら2か国に更に遅れて82年10~12月期を景気の谷として回復局面に入った。投資補助金などの効果もあって,機械設備投資が伸び,個人消費も力強さに欠けるものの83年には増加するなど,回復の初期には内需主導型のパターンをみせていた。
83年後半になると,各国とも輸出が急速に増加し始めた。これは,アメリカ経済の拡大に負うところが大きく,84年を通して輸出はほぼ一貫して増加を続けている。逆に内需は総じて増勢に鈍化がみられ,成長の牽引力は輸出にとって代わられた。
しかし,85年に入ると再び主役の交替がみられるようになった。フランスでは年初来,輸出(実質GDPベース)が減少に転じ,再び内需主導型に変わりつつある。イギリスでも85年4~6月期に輸出の伸びが鈍り,代わって個人消費等の増加による成長となっている。西ドイツでは依然輸出は拡大を続けているが,このところ,ドル高修正の動きの中でその増勢にもかげりが見える。代わって,個人消費や固定投資が増加に転じており,内需の成長に対する寄与も大きくなっている。
既にみたように,今回の西ヨーロッパの成長力は弱い。それは,成長をりードする主役が時期によって交替をみせ,各需要が一斉に増加するという局面がほとんど無かったからといえよう。しかし,このことが逆に,弱いながらも今回の回復期間を第1次石油危機後の回復期と比べ長期化したのである。
輸出は85年春から夏にかけて次第に鈍化していった。しかし,こうした時期に設備投資は景気支持的役割を果たした。第1-2-4図をみると,西ドイツの実質機械設備投資は82年秋以降回復して景気反転の一因となっていた。84年4~6月期には,自動車産業におけるストの影響で大きく落ち込んだが,その後再び増加し,84年10~12月期には前回ピークの80年1~3月期の水準を上回った。フランスの実質非住宅投資は82年中急増の後減少したが,84年末を底に85年に入ると再び増加を始めている。イギリスの実質非住宅投資も81年以降緩やかな増加に転じ,83年秋以降はややテンポを高めて増加を続けている。イタリアの実質機械設備投資は83年後半から急増を示し,85年4~6月期時点で前回ピークの81年1~3月期の水準にほぼ戻している。
このような設備投資増加の背景としては,各国における設備稼働率の上昇,資本財価格の安定,企業収益の改善,新技術導入の必要性などに加え,85年春以降は金利が低下していることが挙げられる。西ドイツにおける企業投資予測調査の結果によれば,製造業は85年に前年比実質12%増の設備投資を計画している。また,目的別にみると,拡張投資を主目的とする企業の割合が,84年,85年と増加している。更に新技術の導入も80年以降増加傾向にある(第1-2-5図)。
イギリスの産業別設備投資の動き(第1-2-6図)には,製造業の投資の持ち直しという特徴がみられる。製造業の実質設備投資は79年1~3月期をピークに82年10~12月期の底まで約4年間減少を続けたが(約40%減),85年4~6月期までに約30%の回復となっている。また,金融・サービス業は不況期にも増加を続け,83年後半からは力強い増加を示している。
西ヨーロッパ主要国では,この回復期を通じて総じて個人消費の拡大テンポが鈍く,緩やかな成長の要因となっている(第1-2-7図)。
イギリスの前回の景気回復局面では,賃金自主規制による収入の伸び悩み等から,77年に停滞をみせたものの,回復局面の後半では大幅に増加した。一方,今回の回復局面では消費は82年秋以降と比較的早くから緩やかな増加を続けたが,84年に入ってからは炭鉱ストの影響もあり,伸びを鈍化させた。実質GDPに対する増加寄与度をみると,今回の回復期は1.4%と前回の2.0%を下回っている(第1-2-3表)。
西ドイツでは,失業問題の深刻化を背景に実質可処分所得の伸び悩みなどから,今回の回復局面での個人消費の伸びは前回及び前々回と比べると著しく低い。実質GNPに対する増加寄与度も前回の1.9%から今回は0.6%へ大幅に低下している。
フランスの個人消費は,83年春以降の緊縮強化策等の影響から,83年,84年と低迷が続き,84年の実質伸び率は少なくとも過去20年での最低となった。前回の回復期と比べても,今回は総じて拡大テンポが鈍く,実質GDP成長率に対する寄与度も,前回の2.9%から0.9%へ低下している。
このように,個人消費の拡大鈍化はヨーロッパ主要国に共通してみられ,緩やかな成長の一因となっている。
個人消費とならんで,住宅投資の弱さも,西ヨーロッパの成長を緩やかなものにとどめる原因となった。第1-2-8図をみると,西ドイツの住宅受注数量指数は,83年初から急速に低下しており,フランスでも実質住宅投資は80年初から低下傾向にある。またイギリスでは81年から84年上期にかけて増加を示してきた実質住宅投資が,84年下期以降力強さを失い,やや減少している。
このように,住宅建築が不振である理由としては,住宅コストの上昇,実質可処分所得の減少,また西ドイツでは住宅供給が過剰気味であり,賃貸住宅も空家が多いということが指摘されている。
在庫投資の動きも,西ヨーロッパが緩やかな成長を続けた一つの要因である。
イギリス,フランスなどの今回の回復局面では,在庫投資増も前回復期より緩やかなものにとどまり,その景気浮揚力も弱いものとなっている。
イギリスでは在庫調整が長引いているが(第1-2-9図),この理由として以下の4点が指摘できる。第1に,成長率の鈍化を背景に,企業の活動が慎重かつ安定的なものになっており,インフレ期待の鎮静化に伴い投機的な在庫積増しの動きが後退している。第2に,高水準の実質金利が在庫のコストを押し上げている。第3は税制上の改正である。イギリス政府は1980年度の予算で,在庫評価の特例措置を一部廃止し,84年度には撤廃した。この制度は労働党政権時に導入され,当時の急激なインフレによる在庫の名目増部分を非課税とするものであるが,インフレが鎮静化したことなどがら,当初の目的は達したとして廃止された。最後に,在庫管理技術の発達により,同じ販売量,生産量に対しても必要とされる在庫水準が低くなってきたことが指摘できる。以上のようなことから,イギリスでは1981年以降,在庫水準だけでなく在庫・生産比率も低下傾向を持続している(第1-2-9図)。こうしたことから,在庫投資の実質GDPの伸びに対する寄与度は(第1-2-4表),前回の回復期では平均0.5%となっていたのに対し,今回は0.3%にとどまっている。
フランスでは,在庫・最終需要比率は上昇している(第1-2-9図)。しかし,成長率の低下による企業行動の慎重化などがら,在庫投資の景気浮揚力は失われている。現回復局面での在庫の実質GDPに対する増加寄与度は,前回の0.8%からマイナスに転じている。
西ヨーロッパの物価は,84年秋から85年央にがけて,鈍化傾向に一時的な足踏みがみられたものの,概して鎮静化を続けた。OECDヨーロッパの消費者物価上昇率は,83年8.1%,84年7.5%,85年7月(前年同月比)6.8%に低下した(第1-2-5表)。最近では主要国の上昇率はすべて一桁となり,上昇率格差の縮小がみられる。また,最近では,西ドイツが1.8%(10月),フランス5.3%(9月)などと,二つの石油危機間ばかりでなく,60年代末以来の低水準となっている国もみられる。
84年秋から85年央にかけて,イギリスや西ドイツでは物価上昇率(前年同月比)の高まりがみられ(西ドイツ;84年9月1.5%→85年5月2.5%,イギリス;84年7月4.5%→85年6月7.0%),フランスやイタリアでは鈍化傾向に足踏みがみられた(フランス;85年2月6.4%→5月6.5%)。
この鈍化傾向の一時的足踏みは,主として,85年春までのドル相場の急上昇による輸入価格,特にエネルギー価格の上昇と,年初の異常寒波による季節性食品の値上がりによるものであった(表1-2-5表,第1-2-10図)。このほか,イギリスでは住宅ローン金利の上昇(84年4月12.5%→85年2月14.0%),政府関与価格(たばこ,アルコール等)の例年以上の引き上げなども影響したとみられる。
しかし,年央以降は,ドル高の修正に伴う輸入価格の上昇率鈍化ないし低下,季節性食品価格の値下がりなどから,いずれも上昇率は鈍化している。イギリスの住宅ローン金利も9月以降は12%台に低下している。
第2次石油危機後の西ヨーロッパの物価上昇率の低下テンポ(ピークの15.2%から1年後の81年4月には12.2%へ)は,第1次石油危機後のそれ(ピークの14.7%から1年後の75年11月には11.5%へ)と比べて当初はあまり差がみられなかった。しかし,前回はその後10%前後で下げ渋り,78年末の8%を底に再び上昇に転じたのに対して,今回は,景気が回復に転じて2年以上たっているにもかかわらず,物価は引き続き落ち着いた動きとなっている。
このように,今回回復期における物価のパフォーマンスは第1次石油危機後の回復期のそれより優れたものとなっている。これは,①マネーサプライの伸びの抑制を中心とした節度ある財政金融政策を足並みを揃えてとっていること,②労働需給の緩和を反映して賃金上昇率の鈍化が続いていること,③生産の回復は緩やかだったが,雇用調整が続けられたこともあって生産性の伸びが大きかったこと,④設備稼働率の低水準が続いたこと,⑤ドル高が続いたが,一次産品価格や石油価格の低落により,輸入価格の上昇がかなり緩和されこと,⑥インフレ期待の鎮静化がもたらされたこと,などによる。
主要国の国内需要デフレーターの上昇要因を,交易条件要因および賃金コスト要因に分解してみると,第2次石油危機による交易条件悪化がもたらしたインフレ加速は,国により差があるものの,影響度は前石油危機によるものとほぼ同程度であった。しかし,今回は84年から85年にかけてドル高による交易条件の悪化の影響が大きくなっている。賃金コスト要因の寄与度は交易条件要因の寄与度に比べて相対的に大きいが,今回は賃金上昇率の鈍化,生産性の上昇,分配率の低下などから着実な低下を続けている国が多い(第1-2-11図)。
このほか,各種の物価・賃金規制をとっている国(フランス,スペインなど)がある一方で,市場メカニズムの機能を改善するため政府介入・規制の緩和ないし廃止(イギリス)などの措置が採られており,物価鎮静にそれぞれ寄与したとみられる。
緩やかながら息の長い成長が続いているにもかかわらず,西ヨーロッパでは85年に入ってからも失業者の増加が続いている。EC9か国の失業者数(季調値)は84年に約37万人増加した後,85年1~9月にも更に約34万人増加して1,285万人に達しており,失業率も84年初の10.6%から85年初には11.1%,8月現在11.2%へと上昇している(第1-2-12図)。
雇用者数は,イギリスでは83年後半から,西ドイツでは84年秋以降,小幅ながら増加を示すなど改善を示しているものの,過去の景気回復局面に比べると改善の度合は著しく遅れている(第1-2-6表)。一方,労働力人口は,①64年頃をピークとするベビー・ブームの影響を受けて,生産年齢人口が増加を続けていること,②景気回復に伴ってイギリスなどでは,女子を中心に労働力率の高まりがみられること,などから依然増加を続けている(第1-2-13図)。
西ヨーロッパで,今回特に雇用の回復が遅れているのは,①製造業,建設業の回復が緩やかであること,②労働力の地域間移動の少なさなど労働力市場の調整力が不十分であること,③実質賃金の硬直性,などによると指摘されている。特に,実質賃金の硬直性は,高失業の下でも賃金上昇率の低下を抑制して,労働分配率を高め,企業に労働節約的な圧力を与えているといわれる(第1-2-7表)。
政策面では,引き続きインフレ抑制を重視しながらも,失業に対する配慮を強める傾向がみられる。
主要国の財政政策を85年度,86年度予算についてみると,いずれも財政再建のために財政赤字抑制を基本とする引締めスタンスを維持している(第1-2-8表)。一方,この枠内で主要国は依然厳しい雇用情勢に鑑みて,景気や雇用面への配慮も重視するようになっている。直接的な雇用・失業対策が強化拡充されており(第1-2-9表),また,各国とも租税・社会保障負担が極めて高いことを背景に,所得税等については減税が実施されている。すなわち,西ドイツでは,財政再建の基本的スタンスを維持する中で,租税の高負担是正などを主目的に86年,88年の二段階に分けた所得税減税が導入され,また,86年度予算案に建設投資の促進策が盛り込まれた。イギリスでも,税体系の所得課税から消費課税へのシフトが引き続きとられているが,特に85年度予算ではインフレ率を上回る所得税基礎控除の引上げを実施するとともに,雇用増対策の強化など,雇用面も配慮している。フランスの財政スタンスも引き続き引締め型であるが,86年度予算案では,財政赤字をGDP比3%内に抑制するため,国営企業に対する政府補助金の大幅削減などにより支出の伸びを小幅にとどめるとともに間接諸税の増税を図る一方,所得税減税,設備投資促進のための法人税率引下げなどを織込んでいる。
金融面でも,マネーサプライの伸びを引き続き抑制している一方で,金利については,為替相場の低下を回避しながら,可能な限り低金利を誘導するような政策をとっている。このため,85年に入って対ドル相場の急落から主要国金利は上昇したが,2月以降は為替相場の回復に伴なって徐々に低下している(第1-2-14図)。このように,金融政策のコントロールの方式については,従来のマネーサプライ重視から,金利,為替レートなど他の指標をも重視するなど弾力化がみられる。これは主要国のマネーサプライの伸びが,近年における新金融商品の導入などもあって,従来の指標でみると,西ドイツを除いて,目標を大幅に上回るようになったことを反映したものである。
こうした節度ある財政金融政策の継続は,かなりの成果をおさめつつある。第1は,主要国で続けられた財政面での引締めの主要目的の一つであった財政再建の成果があがり始めていることである。財政支出の規模の拡大に歯どめがかかり,財政赤字幅の削減が各国でみられる(第1-2-15図)。特に西ドイツでは,84年度の財政支出の実績は前年度実績比2.0%増と予算の同4.2%増を下回っており,財政赤字も予算を50億マルク強下回る等,財政再建が順調に進んでいる。ただし,利払の歳出に占める比率は各国とも大きく財政の硬直性は依然として大きな問題である。
第2は,インフレの鎮静化が,節度ある財政金融政策もあって,広くみられるようになったことである。もっとも,インフレ鎮静化の定着のためには,賃金面での硬直性の改善などが更に進むことが必要であり,その改善が大きいほど,景気政策実施のための余地が大きくなるとみられる。
第3は,各国で重視されてきた供給面での改善を目指した政策が徐々に成果をあげ始めていることである。政府規制の緩和,公企業の民営化の動きが進展しており,設備投資も84年後半から各国で回復を続けていることがそれを裏付けている。
以上のような成果を前にして,各国ともインフレなき持続的成長のためには今後とも節度ある財政金融政策が必要であるとしている。
一方,今回の回復局面でほぼ継続してみられたドル高が,85年3月以降,修正局面にあり,特に,9月下旬,5か国蔵相・中央銀行総裁会議の合意が発表されるなど,この傾向を定着させるための努力が続けられている。85年9月末現在,主要通貨の対ドル・レートは,いずれも83年春頃の水準まで戻している。
これは西ヨーロッパの金融政策運営の自由度がより高まっていることを意味する。
西ヨーロッパ主要国は以上にみたように,各国ともインフレなき持続的成長のためには節度ある財政金融政策が必要であるとしている。しかし,景気はすでに自律的成長過程に入っているとみられるものの,その盛り上がりは弱く,失業率はなお上昇を続けているという認識に基き,雇用増加をめぐる政策論争が国際機関などを中心に活発になっている。
第1は,財政再建の基本的スタンスを維持する中で,需要支持が可能となるようなバランスのとれた政策運営をとるべきだという主張である(OECD)。
たとえば,財政面での制約が軽減された国では,供給能力の改善と需要支持が同時に可能となるような方式の滅税を実施すべきだとする提言(OECD),雇用機会の拡大のため,公共投資を促進すべきだとする提言(EC)などがなされている。
更に,西ヨーロッパの高水準の失業が社会的,個人的コストを著しく大きいものにしていることを重視して,たとえば,失業率の特に高い若年層や1年以上の長期失業者や失業を繰返している層などに対する集中的失業対策など短期的にも有効な政策をとるべきであるとする提言もある(OECD)。
第2は,こうした総需要支持が過去と同じ失敗をしないためには,供給面での政策が同時に採られることが不可欠であり,特に,労働市場の硬直性を緩和する必要があることも指摘されている。
第3は,一国だけの政策には限界があるという観点から,国際的な協調の重要性が強調されていることである。5月のボン・サミットや9月下旬の5か国蔵相・中央銀行総裁会議では,これまでの節度ある財政・金融政策を維持するとともに,主要国間におけるより緊密な連携を保つことが合意された。ECにおいても,加盟国が個別に政策をとるよりも協調して実施する方が効果があるとされている(EC年次報告1985-86)。
国際機関では,こうした政策提言が出されているものの,具体化には国毎にそれぞれ置かれている状況が異なっているため,国際協調が国内的要請と矛盾することもありうる。したがって,こうした政策が適用された場合の有効性については,その国別条件によって制約されざるをえないだろう。