昭和57年

年次世界経済報告

回復への道を求める世界経済 

昭和57年12月24日

経済企画庁


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第4章 困難深まる発展途上国経済

第5節 途上国の経済発展のための課題

(途上国経済の今後の見通し)

以上みてきたように発展途上国経済は全般的な成長の停滞と南北・南々格差の拡大,対外不均衡の恒常化と債務累積の増大,執拗なインフレ等,極めて深刻な状態にある。

世界銀行の80年代の途上国経済についての見通し(第4-5-1表)によれば,今後先進国経済が急速に立ち直り,その後も安定した成長を遂げ,また途上国との貿易や資金移動も順調に拡大するという高適応の場合でも,1人当たりGNPでみた南北格差の縮小は僅少でしかない。まして先進国経済の低成長と貿易・資金移動の停滞を前提した低適応の場合では南北格差は一層拡大せざるを得ない。

以下ではこうした厳しい状況にある途上国をめぐる諸問題のうち,既に前節までにみた国際収支調整と債務累積,開発と外資,工業化と工業製品輸出等以外の問題についてその現状と今後の課題をみていくことにする。

(食糧問題と農業開発)

世界には今なお10億に近い人々が低所得ゆえ栄養不良,不健康,教育の欠如など人間らしい生活から程遠い絶対的貧困状態にあるとみられ,これらの人々の食糧需要を満すとともに,今後の人口増加と所得水準の向上から生ずる新たな食糧需要をまかなうことが発展途上国にとって最大の課題といえる。

もっとも一方で,世界の食糧供給は絶対量として世界の必要カロリー量をまかない得るとみられ(第4-5-2表),適切な分配さえ行われれば,食糧問題は解決されるといい得るかもしれない。

しかし,現実には絶対的貧困にあえぐ人々をかかえるのは経済開発に立ち遅れた,従って外貨獲得能力の低い後発発展途上国であり,貿易ではなく援助によらなければ必要な食糧の確保は困難である。また,同時に国内での所得分配や食糧流通上の問題点を克服しなければ絶対的貧困は解消できない。

そこで短期的には食糧援助の拡大と途上国内の食糧流通制度の改善を図ることが必要であり,このためにも国際緊急食糧備蓄(1976年),新食糧援助規約(80年),IMFの食糧輸入額急増対策融資(81年)等の国際的取り決めの充実と活用が今後の課題となる。

しかし,中長期的には後発発展途上国の所得向上を図ることが不可欠であり,その際,農業開発は工業開発と比べて資金・技術等の面でこれら諸国の置かれた状況に多くの場合より適し,またこれが食糧生産であれば直接に食糧の安定的供給と絶対的貧困の解消に寄与するものとなろう。

さらに農業開発の成功は同時に農村開発・農村の近代化を要件とするので,旧来の所得分配構造の変革を通じた農民の生活水準の向上も期待される。

しかし,多くの後発発展途上国にとって農業開発・農村開発は決して容易ではなく,①初等教育や技術指導の普及,②灌漑・排水施設や農道等の輸送手段の建設・維持,③肥料・農薬・種子等の供給体制の整備,④地域に適した品種や栽培方法の研究,あるいは,⑤農地改革と自立小農の育成まで様々な課題があり,かつこれらが整合的に実施される必要がある。そしてこのために先進国やFAO等の国際機関の技術・資金両面にわたる協力の果す役割の大きいことはいうまでもない。

(一次産品問題)

全般的な工業化の進展にもかかわらず,発展途上国の多くは依然少数の一次産品の生産・輸出に多くを負っている。一次産品輸出については,①短期的にはその価格や輸出数量の変動から輸出所得が不安定となりやすく,②長期的にも工業製品に対する交易条件が不利化する傾向にあることが指摘されてきた。そして第1節でみたように特にここ2,3年の一次産品輸出国の輸出所得の落込みと交易条件の不利化は著しい。

こうした一次産品問題への対応のひとつとして,OPECに代表される生産・輸出国機構がある。しかし,これがカルテルとして有効に機能するには,①当該産品の生産・輸出の少数国への偏在と加盟国間の強い協調,②需要・供給の価格弾力性が短期的に小さく,代替品供給の弾力性も小さいこと,③当該産品の世界貿易における重要性と輸入国側の報復措置への対抗力等の条件が必要であり,現在結成されている銅,ボーキサイト,木材,バナナ等の生産・輸出国機構はいずれもこうしたカルテルとしての条件を十分に満していない。またOPECについても第1章第5節でみたとおり,1980年代に入り.,その支配力は大きく低下している。

これに対して76年の第4回UNCTAD総会で採択された一次産品総合計画(IPC)は,従来からある国際商品協定や輸出所得補償制度等の仕組を包括的に統合し,発展途上国にとって特に輸出への関心の高い一次産品(現在18品目)の価格安定,輸出所得の改善等を図ろうとするものである。

そしてこの目的のために,①共通基金(緩衝在庫操作のための必要資金の貸付と個別産品の研究開発・生産性向上等のための貸付・贈与にあてられる)の設立と,②対象産品についての個別産品協議(緩衝在庫等の価格対策,多角的貿易取決め,生産面での多様化・加工度向上,補償融資制度等が対象となり得る)が進められている,このうち共通基金については80年6月に設立協定が採択されたが,その後未だ協定の批准国数と出資が協定発効要件を満すに至っていない。また,個別産品協議については,79年10月に新たに天然ゴムについて商品協定が締結され,従来からの砂糖等を加えて7品目(但し,小麦はIPCの対象外)について現在,商品協定が機能している。さらに82年10月にはジュート協定が採択された。しかし現在,価格安定措置を有する5協定についてみると,すず,天然ゴム,コーヒーの価格は支持価格帯の下限前後で推移しているものの,砂糖,ココアについては下限価格を大きく下回っており,世界的に景気停滞が長期化するなか全般的な供給過剰や有力輸出入国の協定不参加もあって協定は種々の困難な問題に直面している。

したがって一次産品問題の今後の課題としては,①共通基金の発効,既存商品協定の機能強化及びその他の産品の個別産品協議の促進とともに,②既にIMFやECにおいて一定の成果をみている輸出所得補償制度(第4-5-3表)の拡充,③途上国における輸出産品の多様化・加工度向上の推進等があげられる。なお途上国側からは一次産品輸出に係る輸入制限措置の軽減・撤廃等の市場アクセスの改善の必要性も指摘されている。

(エネルギー問題)

発展途上国のエネルギー需要は高い所得効果もあって今後とも増大し,1990年までの10年間に約1.6倍になると推定されている。そしてこうした高い需要の下で,多くの途上国で森林の崩壊による土壌の流出や砂漠化を伴いつつ,薪などの伝統的エネルギーの不足に直面している。また,最近ではやや低下傾向をみせているものの,商品輸出額に対するエネルギー輸入額の割合は79年で低所得国29%,石油輸入中所得国25%と,市場経済工業国の24%を上回る高い水準にある。

このため81年8月の新・再生可能エネルギー国連会議では,世界的な課題としてエネルギー供給構造の転換を促し,かつ途上国経済の基盤を強固にするため,主として再生可能なエネルギーの開発と利用を主眼としたナイロビ行動計画が採択され,また,82年9月のIMF‐世界銀行合同開発委員会ではエネルギー開発向け融資の拡大につき早急に検討すべきとの合意をみた。

途上国のエネルギー問題の克服は,今後ともこうした枠組のなかで,途上国の自助努力に対する先進国を中心とする技術・資金両面からの協力のもとに進められる必要があろう。

(軍縮と南北問題)

発展途上国の経済発展を阻害するのは,前節までにみた金融・開発問題や上記の食糧・農業・一次産品・エネルギー問題などの経済的要因ばかりでなく,内乱や戦争による破壊や資源の浪費といった要因も大きい。

内乱や戦争に至らないまでも,途上国の軍備拡大は著しく,世界の軍事支出に占める途上国の軍事支出の割合(中国を除く)は国連によれば1955年の3.3%から,70年には7.2%,そして80年には16.1%へと拡大している。途上国の武器輸入も先進国からの政府開発援助の5割近くもの規模に達している。

また,資源の利用という面から軍事部門をみると,世界全体で軍事目的にあてられている各種資源の規模は,国連等の推計によれば,約5,000万人の労働力,1,250~1,500億ドルの工業製品,あるいは土地の0.5~1%,石油の5~6%などとなっており,世界の軍事支出は対GDP比で4.9~5.3%にも達している(第4-5-4表)。

この関連でこうした軍事目的にあてられている各種資源が軍縮の結果利用可能となる場合には,これを各国とも自国経済の再活性化に利用するとともに,途上国の開発のためにも活用することが,世界平和はもとより,世界経済の発展と安定のためにも強く望まれる。


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