昭和56年

年次世界経済報告

世界経済の再活性化と拡大均衡を求めて

昭和56年12月15日

経済企画庁


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むすび

2. 世界経済の課題

世界経済の困難の根は深く広い。世界経済が70年代の後遺症を断ち切り80年代を再びインフレなき持続的成長の時代とするためには極めて厳しい課題を克服していかなければならない。

その第1は,世界経済の構成要員たる各国経済の再活性化である。とくに重要なのは世界のGNPの約6割強を占め,世界経済全体の帰すうに大きな影響力を持つ先進工業国の再活性化である。

スタグフレーションに対する具体的な対応は,各国の経済的・社会的構造の相異等から国ごとに異なってこようが,それを克服するためには,その両側面であるインフレと失業に同時に対処していかなければならないのはいうまでもない。失業問題についてはそれが社会的混乱を招かないよう配慮すべきであるが,基本的には設備投資を中心とする持続的経済成長に基づく生産的雇用の持続的回復によって解決するべきである。そのためにも,将来の不確実性を低下させ経済主体の信認を回復させるインフレ抑制が重要なのである。

インフレ抑制のためには,名目需要の伸びの引下げと実質供給の伸びの引上げとが同時に達成されることが重要である。前者のためには広い意味での通貨供給量の抑制,財政赤字の削減等が必要であろうし,後者のためには投資・貯蓄に対するインセンティブ,行きすぎた政府規制の見直し,労働力の流動化,保護主義の防止,競争政策の強化等によって市場の活力を強化・活用していくことが重要であろう。省エネルギーの推進,代替エネルギーの開発によりひきつづき輸入石油への依存を引下げることが重要なのはいうまでもない。

この際各種政策手段はバランスのとれた形で用いられることが肝要であり,また各国経済の相互依存関係の深まりに鑑みて,自国の政策の他国に及ぼす影響にも十分配慮することが望まれる。

また,こうした経済再活性化の努力が,効果を現わすには,長い時間を要しよう。従って,その過渡期に於けるコストをできる限り軽減するよう政策のバランスをとるとともに,社会的公正を確保しつつ,社会全体の参加と合意の下にスタグフレーションと取り組むことが重要である。

世界経済の第2の課題は,自由貿易体制の維持・強化である。

70年代,世界経済は二度にわたる石油危機に見舞われ,多くの先進国がスタグフレーションに陥り,非産油途上国が累積債務の増大に悩まされる中で,世界貿易の伸びが鈍化した。こうした中でスタグフレ-ションに陥った欧米先進国では,雇用情勢の悪化等から保護主義的動きが強まっている。

欧米先進国の保護主義の強まりは,世界経済の成長鈍化と相まって,世界貿易の順調な拡大をさらに阻害するおそれがある。それは,中進国を中心とする発展途上国の経済発展にとって大きな障害とな全だけでなく,先進国自身にとってもその経済再活性化の妨げとなる。

こうした事態を未然に防ぎ,世界経済のダイナミックな発展を確保するため,自由貿易体制を維持・強化することが不可欠の課題となっている。そのため,まず第1に東京ラウンドの諸協定をひきつづき誠実に実施していくことが必要である。第2に,そこで残された課題を今後とも前向きに検討していかなければならない。とくに貿易自由化の一層の促進を図るとともにその成果の確保を図るために必要不可欠なセーフガード措置については,前向きの合意が形成されることが望まれる。81年11月のガット総会では,自由貿易体制を一層強化するため,82年にガット閣僚会議を開催することが決定され,またOECDにおいても,81年6月の閣僚理事会において今後10年間の貿易問題を検討することが決定されている。これらの場において自由貿易体制強化のための諸課題が,中長期的・総合的観点から前向きに検討されることが期待される。

また比較優位を失った産業を有する国,とりわけセーフガードを発動するに至った国では積極的な産業調整政策の展開が要請されるが,これについては現在OECDで作業が進められている積極的調整政策の検討成果が期待される。

世界経済の第3の課題は南北協力の推進である。

80年代はこのまま推移すれば南の国々の発展が阻害され,南北格差が一層拡大するおそれが大きい。特に70年代に世界経済が不安定化する中でも比較的順調な経済発展をとげた中進国も80年代には困難が増すとみられる。それは欧米先進国のスタグフレーションの深刻化,保護主義の強まり,累積債務と高金利圧力の継続などが懸念されるからである。低成長と低貯蓄の悪循環から抜け出せないでいる低所得国の困難が一層増大するとみられるのはいうまでもない。

一方北の国々では欧米先進国のスタグフレーションの深刻化や東西関係の不安定化から先進国の一部にいわゆる援助疲れや援助の政治化の動きもみられる。

しかし南の国々の健全な経済発展は,南の国々にとってはもとより,北の国々にとっても,世界経済の拡大均衡のみならず,国際政治の安定につながるなど利益となるものである。世界は今や経済的にも政治的にも相互に深く結びつけられている。その相互依存関係を深く認識し,連帯の精神に立って,南の国々の自助努力を支援することが今程求められている時はない。

そのため第1に,重要なのは政府開発援助のひきつづく拡充強化である。

そしてその主要部分は民間資金の流入が期待できない低所得国をはじめとして経済的困難に見舞われている国々に向けなければならない。

第2は,先進国がその経済を再活性化しつつ,市場開放を維持強化することである。それについてはすでに述べた。経済発展のために市場機構を活用することに関しては技術移転の容器としての直接投資の役割が重要視されねばならないが,途上国側でも民間資本の途上国への流れを阻害しないよう努力することが求められる。

第3は,先進国,産油国,国際金融機関が協力してオイル・マネーの適切な環流を図ることである。

もとより,経済開発の基本はそれぞれの国の自助努力であり,途上国自身が総合的な構造調整計画の推進,公正,かつ効率的な経済社会システムの確立,途上国間協力の推進等の努力を尽すことが求められるのはいうまでもない。こうした自助努力と公的・民間両様の経済協力により,途上国経済が80年代を生き抜くための構造調整を促進し,また途上国におけるエネルギー開発,食糧増産,人造り等を推進することが求められている。

こうして南北間の相互利益を現実のものとしていくためには,建設的かつ実質的な南北対話が必要不可欠である。81年10月にメキシコのカンクンで開かれた協力と開発に関する国際会議(いわゆる南北サミット)はそのための第一歩であった。これを踏まえて国連包括交渉(いわゆるグローバル・ネゴシエーション)については,できるだけ早期に南北双方の受け入れ得る手続,議題が合意され,開始の準備が整うことが期待される。

こうした中で東西関係の不安定化から東西両側で軍備増強への動きが強まっているが,抑止力としての力の均衡を確保しつつ,そのような均衡をできる限り低い水準に抑制し,その努力により軍備に向けられていた資源を解放して,それを第三世界の開発や自国経済の再活性化のために活用することが世界平和のためにはもとより世界経済の発展のためにも強く望まれている。


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