昭和56年

年次世界経済報告

世界経済の再活性化と拡大均衡を求めて

昭和56年12月15日

経済企画庁


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第4章 世界貿易と動態的国際分業の課題

第4節 拡大均衡達成への道

以上のように,戦後成長のエンジンとして世界経済の発展に大きく寄与してきた世界貿易は,70年代には二度にわたる石油危機の影響等から鈍化した。そうした中で非産油途上国のうち,中進国等は成長を維持したが,低所得国等は低迷をつづけ,非産油途上国の分化が進んだ。一方スタグフレーションに陥った欧米先進国では保護主義的動きが強まっている。

こうした事態を放置すれば,途上国の経済開発も先進国の経済再活性化もともに不可能となり,一世界経済は縮小均衡へ陥ることになりかねない。それを未然に防止して80年代の世界経済を再び安定的な発展の道へ引き戻すためには,自由貿易体制の維持・強化と南北協力の推進が必要不可欠である。

1. 自由貿易体制の維持・強化

世界貿易の再拡大を図っていくためには,まず自由貿易主義のもつ経済合理性を国際的に再確認し,その共通認識の上に立って,戦後の貿易体制を支えてきたGATT体制を,維持・強化することが必要である。

このためにはまず第1に79年に終了した多角的貿易交渉(東京ラウンド)において合意された各種協定等を各国が速やかに実施することが求められる(第4-4-1表)。また発展途上国は大多数の諸国が未だ東京ラウンドの各種協定に署名していないが相互の利益となるこれら諸協定へのその積極的参加を求めていく必要がある。そのためにも今後とも先進国市場の開放努力を引続き行うと共に,対話の促進等によって南北間の意思の一層め疎通を図っていく必要があろう。

第2は,頻発する貿易摩擦と保護主義の問題の解決をガット体制の中で図っていくことである。すなわち,こうした問題はガットの諸条項をはじめとして,東京ラウンドで作成された諸協定に基づいて解決されるべきであろう。特に4-3-2図に示されるような措置から生ずる貿易摩擦についてはその早急な解決努力が期待される。さらに先の東京ラウンドでも検討されたが合意に至らなかったセーフガード条項(ガット条約第19条)は自主規制やダンピング防止措置の過度の適用等各種の非関税障壁をめぐる貿易問題の解決にとって大きい意味をもつものと考えられる。現行19条は発動要件が必ずしも明確ではなく,期間・限度等についても不明確であるので,その改善のための検討をすすめ,最近の貿易摩擦を解決する一手段として活用されるようになることが期待される。また,東京ラウンドで一部合意をみたものの,なお一部途上国等の不満が残っている農業問題,発展途上国問題や,サービスの自由化等新たな問題に対応するための努力が期待されよう。

OECDでは80年代の貿易問題の検討が行われており,また,82年にはガット閣僚会議の開催が決定されているが,これらの場で今後の貿易問題について幅広く,かつ前向きな検討が進められることが期待される。

第3は,比較優位を失った産業を有する国,とりわけセーフガードを発動するに至った国では積極的な産業調整政策の展開が要請される。この点についてはOECDで作業が進められている「積極的調整政策(PAP)」の検討成果が期待される。これは,需要構造の変化,コスト構造の変化等の諸変化に対して保護貿易主義につながるような消極的な政策をとることを避け,市場メカニズムを最大限生かすことにより,積極的に資源配分の効率化を促進していこうとするものである。

第4は,長期的な観点に立って,発展途上国を世界貿易体制の中に対等な貿易相手国として組み入れていく努力を行うことである。ガットはその条文の18条及び第4部を根拠として発展途上国に対する特別の扱いを実施している。また,東京ラウンドで作成されたフレーム・ワーク合意「異なるかつ一層有利な待遇並びに相互主義及び発展途上国のより十分な参加」において,締約国が発展途上国に対して特別優遇措置をとりうることが合意された。同時に一定の発展段階に達した発展途上国を先進国並みに扱うこととしたいわゆる「卒業条項」が作成されており,今後は,中進国等一部諸国についてはこの条項を活用して卒業していくことが期待される。

もちろん,低所得国等その他の途上国に対しては,ひきつづきこうしたガットにおける優遇措置が必要であり,また,UNCTADの一次産品総合計画の中での一次産品共通基金(CF)の早期発効及び一次産品協定の活用を促進し,一次産品価格の安定化を通じて発展途上国等からの一次産品輸入を安定化すること,また同時に市場開放等の努力を引続き行,うことによりこれら諸国を世界貿易のダイナミズムヘ組み込んでゆく努力を行う必要があるのはいうまでもない。

第5に,国内・国際両市場における競争政策の強化,労働・資本等の一層の流動化促進などにより,自由貿易がその本来の機能を十分に発揮できるよう条件の整備・確保を図ることが必要である。

その他,貿易摩擦を未然に防止するため直接投資,技術協力等の産業協力や相互理解の促進を図ることが重要であろう。

以上のように,自由貿易体制を守るためには各国に多くの努力を求めることとなり,かつ,相互依存の強まりは各国の対応の自由度を狭めることにもなるが,それが最終的には各国民の福祉を向上させることになるのである。

2. 南北協力の推進

世界経済の拡大均衡にとっては,世界人口の約55%を占める発展途上国の経済開発を促進することが極めて重要である。その中でも低所得国等は第2節で述べたように低成長に悩み,世界貿易のダイナミズムからも取り残されている。これら諸国の経済開発を促進するためには人的資源の開発,エネルギーの確保,農業開発,投資阻害要因の除去,社会資本の整備,輸出振興,社会的公正の確保等長期的観点からの着実な努力の積み重ねが求められる。

そのためにはまずなによりも途上国自らの自助努力が求められるが,先進国を中心とする経済協力の拡充も必要不可欠である。とくにその資金面では,非産油途上国全体の資金調達の主要部分は民間資本市場を通じて行なわれようが,民間資金がほとんど流入しない低所得国をはじめとして経済的困難に見舞われている非産油途上国に対しては政府開発援助(ODA)の質・量両面における拡充が求められる。

「第2次国連開発の10年のための開発戦略」で先進国のODAの量を70年代央までにはGNPの0.7%相当量に達するよう最大限の努力を払うと設定したにもかかわらず,80年のDAC(OECDの開発援助委員会)加盟諸国のODAのGNP比率は,0.37%にとどまるなどODAは伸び悩んでいる。最近ではアメリカやイギリスなどが援助に消極的姿勢を示すなど先進諸国にいわゆる援助疲れもみられる。こうした中で80年の第11回国連特別総会及び第35回国連総会で「第3次国連開発の10年のための国際開発戦略」が採択された。この国際開発戦略では,発展途上国の80年代の年平均成長率を7%に設定する等の目標を掲げている(第4-4-2表)。そして,こうした目標を達成するために,ODAの対GNP比0.7%を達成していない先進国は,この目標を85年までに,遅くとも80年代後半中には達成するよう最善の努力を払うべきである等と規定している。また,途上国が高エネルギー価格により大きな打撃を受けていることからエネルギー開発の促進を図る等エネルギーについての政策措置が掲げられているほか,国際貿易,工業化,食糧・農業等多方面にわたる政策が合意された。低所得国をはじめ非産油途上国が80年代に着実な成長を達成するためにはこれら合意事項の早期達成への努力が望まれる。その際,西側先進国の経済協力の拡充だけではなく,共産圏諸国の経済協力の増大及びOPEC諸国の経済協力の一層の拡充が求められる。さらにIMFや世銀等国際機関の役割も一段と重要となっている。

その他一次産品価格安定を主目的に合意された共通基金設立協定の早期発効のための努力も,とくに低所得国の経済開発促進にとっては重要であろう。なお,81年9月に開催された国連主催のLLDC(後発発展途上国)会議ではLLDC向けODAをGNPの0.15%あるいは倍増すること等「LL DCのための80年代の新実質行動計画」が採択された。

以上のような南北協力を有効に推進していくためには,建設的かつ実質的な南北間の対話が必要不可欠である。

81年10月にはメキシコのカンクンにおいて「協力と開発に関する国際会議」(いわゆる南北サミット)が開催され,南北22か国の首脳が参加した。本会議では南北問題解決のための諸問題(食糧増産・農業開発,貿易,エネルギー,通貨・金融等)について討議が行われた。南北間の意見の相違等はあったものの,開発のための国際協力の将来と世界経済の再活性化という共通の目的に向けて,南北首脳間で卒直な意見の交換がなされ,国連包括交渉(グローバル・ネゴシエーション)の取扱いにつき合意が成されたのは大きな成果であった。

国連包括交渉については,カンクンでの合意を踏まえてできるだけ早期に南北双方の受け入れ得る手続,議題が合意され,開始の準備が整うことが期待される。


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