昭和56年

年次世界経済報告

世界経済の再活性化と拡大均衡を求めて

昭和56年12月15日

経済企画庁


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第2章 世界的高金利の出現とその影響

第4節 為替相場の動向と金利

以上みてきたように欧州諸国にもインフレ対策としての金融引締め策をはじめとして内在的な高金利要因があった。しかし,それと同時に80年から81年にかけてアメリカの高金利がドル高,欧州通貨安を通じて欧州諸国に必要以上の高金利を強い,政策運営を困難にしたとの批判がある。オタワ・サミットにおいても,インフレ抑制のためにはある程度高金利の持続が必要なことを認めつつも,「一国における金利の水準及び動きが他の諸国の為替相場及び経済に影響を及ぼすことにより,これら諸国の安定化政策をより困難なものとしうる」とし,政府支出の制限を通じ,財政赤字の抑制に依存する必要があると提言し(オタワ・サミット宣言),間接的ながらアメリカの金融政策偏重の結果の高金利を批判した。これに対してアメリカは,OECD閣僚理事会などの場で,高金利政策を追求しているわけではなく,インフレ問題に直面している国はインフレと闘うことが望ましいと考えているだけであるとしている。そこで本節では最近の為替相場の動向と金利の関係をみ,また欧州諸国のとった通貨防衛策を検討する。

1. 最近の為替相場変動をどう解釈するか

最近の為替相場変動の特徴として(第2-4-1図),①金利動向と為替相場の動向との相関が強くみられたこと,②為替相場の短期変動が大きく,また相場調整の一方的な行き過ぎ(オーバー・シューティング)とみられる局面があったことなどがあげられる(以下の分析における為替相場決定要因の見方については「3.為替相場の決定要因-その整理-」を参照)。

(実質金利差)

まず金利と為替相場の相関の強まりの理由を考えてみよう。名目金利と為替相場との関係は一定でなく,為替相場を動かしうるのは名目金利に為替相場の先行き予想を考慮した期待収益率であるとみられるが,為替相場の先行き予想が大きく変らなければ,名目金利差の変化がほぼそのまま期待収益率の変化となって為替相場を動かすと考えられる。

そこで為替相場の先行き予想は予想インフレ率で決まる(後述の購買力平価説参照)とすれば,名目金利差から予想インフレ率差を差し引いた実質金利差が期待収益率差となると考えられる。そして実際に73年以降最近までの月次データでみても実質金利差は名目金利差以上に為替相場と相関しているとみられる(第2-4-2図)。

しかし金融資産の多くは購買力平価説がほぼ成立しうるとみられるよりも短かい償還期間をもつので,為替相場の先行き予想に際しては予想インフレ率以外の要因を考慮しなければならない。

また,実際の為替相場の時々の変化は金利差の変化から想定されるものよりはるかに大きい。すなわち,金利差の変化はほぼ直先スプレッドに吸収されるが,例えば金利差の1%ポイントの変化による直先スプッドの変化は,すべて直物相場の変動によりもたらされるとしても,それは直物相場を約1%動かすにすぎない(但し,先物相場は為替相場の先行き予想だけで決まるものとし,かつ金利差の変化は予想を変化させないものと仮定する)。しかし,実際には,例えば独マルクの対ドル相場でみると81年2月末から7月末までのユーロ預金金利3か月物の金利差の変化3.7%ポイントのドル有利に対して為替相場は13.6%ものドル高となっている。第2-4-3図によっても,最近の週毎の金利差の変化は直先スプレッドでほぼ吸収されているが,直先スプッドの変化と比べて直先両相場そのものの変化はそれぞれかなり大きく,その変化の方向も必ずしも同じでない。したがって先物相場の変化が直物相場の先行き予想の変化をかなり反映しているとすれば,81年夏までのドル金利上昇下でのドル高・マルク安は金利差の変化そのものによるよりも,直物相場の先行きドル高・マルク安予想の変化による方が大きいと考えなければならない。

(欧州通貨先安予想の要因)

それではドル高・マルク安予想あるいはより広く欧州通賃安予想が次々に生じたのはなぜであろうか。

ひとつは欧州諸国の経済パフォーマンスの悪さである。81年夏の時点まで主要国の経済指標は実績においても先行き見通しにおいてもアメリカと比べて欧州諸国の悪さが目立った。為替相場の中長期的動向に関係深い物価は西ドイツを除くほか先行きも芳しくないとみられ,経常収支も80年下期以後黒字に転じたアメリカに対し,石油収支の黒字化という特殊要因のあるイギリスを除く欧州諸国は軒並み大幅赤字が継続する見通しであった。

また,最近における経済政策の転換も為替相場の先行き予想に大きな影響を与えた。アメリカのレーガン政権(81年1月20日発足)はインフレの抑制,供給構造の改善等によって強いアメリカを再生するものとしてドルの先高予想を生じさせたのに対し,フランスのミッテラン政権(同5月21日発足)は企業固有化政策,インフレより雇用重視の政策姿勢等がフランの先安予想をもたらした。

また,政治・軍事情勢も概して欧州諸国に不利に作用した。イラン,イラクを始めとする中東の緊張は石油をほぼ全量海外に依存する欧州諸国のエネルギー事情悪化を懸念させ,またポーランド情勢の緊迫化は西側最大の貿易相手国であり債権国である西ドイツの先行きに不安材料を提供した。

さらに,こうした欧州各国の通貨先安予想は欧州通貨制度(EMS)を通じて他のEMS加盟国に波及したとみられる。例えばフランスの政権交替は仏フランの対ドル相場の先行き予想を悪化させるものであったとしても,独マルクの対ドル相場にはあまり関係はないはずである。しかし,EMSにより独マルクと仏フランの変動幅は固定されているため,仏フランの対ドル相場の下落が大きいと独マルクの対ドル相場も下落せざるをえないことになる。

(金利差の変化が為替相場を動かす場合)

しかし最近においては金利差の変化がより強く為替相場を変化させる局面があったようにみられる。これはどのような理由によるのであろうか。

ひとつは為替相場の先行き予想が動かない,あるいは動きにくい場合である。

例えばEMS内では,参加国通貨は互いに中心相場の上下2.25%(伊リラのみ6%)の幅の中でしか変動できず,中心相場の変更がないとすれば,この限界を越えることはない。したがって例えば独マルクが仏フランに対するかい離の下限にあるとき,直物相場の先行き予想も先物相場もこの下限を下まわらないと考えられる。したがってここでもし独マルク金利が上昇すれば,これが直先スプレッドに吸収されることを通じて直物相場は独マルク高,仏フラン安となる。

変動幅が固定されていなくても,通貨当局が介入等により一定の相場を維持するものと判断される場合にも,同様に金利上昇が通貨価値上昇を生むことがある。81年2月の西ドイツによる特別ロンバート貸付導入等に伴う金利上昇と独マルク相場の回復はこうした場合の一例とみられる。しかし,同年5月のフランスの市場介入金利引き上げによるフラン防衛の場合は,EMS中心相場の調整予想もあって,先物相場がかい離の下限を下まわって下落しており,こうした効果は限定的なものでしかなかった(第2-4-4図)。

金利差の変化が為替相場を大きく変化させるもうひとつの場合は,金利差の変化が為替相場の先行き予想を変化させる場合である。金利は金融引締めの程度を表わす指標とみられるので,その上昇を金融当局が誘導あるいは追認する行動をとっていると理解されると,こうした金融引締め姿勢がインフレや経常収支の改善予想を通じて為替相場の先高予想をもたらすことがある。アメリカの高金利の背景にある金融引締め堅持の強い姿勢はこうした観点からドル高の一因となったとみられる。

さらに,名目金利差が為替相場をリードするような局面がここ最近続いたことが,市場参加者に短期的な為替相場の先行き予想にあたって金利を重視する傾向を生じさせたことも否定できない。とりわけ最近のドル高についてはこうした傾向が強くあらわれたとみられる。

(ドル高・欧州通貨安の原因)

以上みてきたように80年から81年夏にかけての為替相場変動の原因は先ずは為替相場の先行き予想がドル高,欧州通貨安に大きく傾いたことに求められよう。そしてこれには欧米間の経済のパフォーマンスの差のほか,経済政策の転換や政治・軍事情勢の推移も影響した。また,こうした各国の為替相場先安要因がEMSを通じてその参加国全体に波及したとみられる。

しかし,これに加えて,特に今回は金利の変化が為替相場変動に強く影響する局面もあったようにみられる。相場の変動幅が限られている場合,あるいは金利変化が金融当局の政策スタンスの変化と解釈されて相場の先行き予葱を変化させる場合など金利の変化が為替相場の変化の原因となりえた。また,為替相場の先行き予想にあたって金利をとりわけ重視する傾向が強まったことも一因となった。

為替相場が短期的に大きく変動した原因についても以上のような状況下で市場の先行き見通しが極めてつきにくく,またこれらと為替相場の関係がつかみにくいなかで,相場の先行き見通しが短期的に大きく揺れたことが原因であると考えられる。また,アメリカにおける金利の乱高下そのものが上述と同様な経路を通じて為替相場の短期的変動を大きくした面もあったとみられる。

さらに,こうした為替相場の先行き見通しの立てにくさは相場がある方向に動き出すと多くの市場参加者がこれに追随する現象を伴い,これがオーバー・シューティングの原因となったとみることができる。

2. 欧州諸国の通貨防衛策

欧州通貨の対ドル相場の下落,欧州通貨制度(EMS)の緊張に対して欧州諸国はどう対応し,またその結果はどうであったろうか。

欧州諸国は最近の為替市場の混乱に対して積極的な市場介入と為替管理,金融引締め特に金利の上方誘導等を行うとともに,経済全体のパフォーマンスを改善するための財政の健全化等に着手しつつある。これは対ドル相場の下落が原油をはじめとする輸入品価格の高騰を通じて国内インフレを激化させ,またEMSの緊張がECの域内貿易(1980年においてEC9か国の輸出の52.8%,輸入の50.4%を占める)や資本取引における不確定要因の増大を通じてEC経済そのものの縮小や不均衡拡大をもたらすおそれがあるからである。

(市場介入と為替管理)

EMSの参加国は中心相場からのかい離の上限及び下限において無制限の介入義務があり,また一般的に相場に不安定要因が強く,オーバー・シューティングがみられる場合については,介入が相場の先行き予想を安定させることを通じて現在の相場を安定させる効果もある。為替管理も外国為替ρ需給関係を人為的に変えることを通じて相場を安定させる効果がある。しかし,いずれも市場の先行き予想の反転を伴わない限り,効果は一時的なものにとどまらざるを得ない。

また介入については,例えば買介入が行われると,外国通貨と交換に市中へ中央銀行通貨が供給され,不胎化政策(例えば証券類の売却)により先に供給した通貨を吸収しない限り,通貨供給量は増加する。したがって市場実勢に逆行するような過度の介入は金融政策運営特に通貨供給量管理上の撹乱要因となる。為替管理もその強化が長期化すれば輸出入や資本移動の阻害を通じて国内経済に悪影響を及ぼす。

第2-4-5図は最近の欧州諸国の外貨準備の月間変動をみたものであるが,EMSポジションの改善時期に外貨準備が減少していることがわかる。しかし,アメリカではレーガン大統領の新政策のもと為替市場については「市場の無秩序な情勢に対応する必要があるときに限って介入する」として,81年2月半ば以降介入を殆ど行っていがいこともあって,欧州側の介入は対ドル相場へは大きな効果を及ぼしていないとみられる。

また第2-4-1表には最近の欧州諸国の為替管理政策がまとめられているが,国内経済に及ぼす悪影響が大きいため規制の強化は比較的早期に解除される例が多い。

(金融政策の活用)

欧州各国はまた通貨防衛策として,あるいは通貨下落による輸入インフレの国内波及を最小化するため,市場介入や為替管理以外の金融政策を発動した。すなわち,第2-4-1表に示すように,①公定歩合等の引上げ,②支払準備率の引上げ(非居住者預金については資本流入促進のため逆に引下げ),③公開市場での売操作等により金融を引締め,金利を高目に誘導することによって資本流入を図り,また,通貨供給量の増加を抑えて国内インフレを最小限に止めるとともに,自国通貨に対する超過需要を通じて相場の改善を図ろうという意図である。また,金融引締め,通貨防衛の姿勢を示すことによって為替相場の先行き予想の反転を狙う意図もあった。

しかし,これらの金融政策が通貨防衛の効果を発揮するためには,それによって相場の先行き予想を改善させることが必要である。そのためには,それが対症療法的な金利引上げ等ではなく,物価安定,経常収支不均衡の改善等経済の基礎的条件の改善をねらったより長期・安定的なものであることが不可欠であるほか,財政政策等がこれと整合的に発動される必要があろう。

3. 為替相場の決定要因―その整理―

(1) 為替相場の中長期的な変動とその決定要因

主要国通貨が変動相場制に移行した1973年以降の為替相場の動向をみると,各通貨とも中長期的にかなり変動している(第2-4-6図)。これらの中長期的な変動はどのように説明されてきたのであろうか。

(購買力平価説)

為替相場の決定要因として従来から重視されてきたものに物価(あるいは通貨の購買力)がある。国際的にも非貿易財を含めて一物一価の法則が成立するとすれば相対的に物価上昇率の低い(高い)国の通貨の相対価値は増価(減価)するという考え方である。こうした関係を実質実効為替相場(実効為替相場から物価格差の効果を除いたもので,購買力平価説が成立すればその値は一定となる)でみると (第2-4-7図), 数年単位でも購買力平価からのかい離はかなり大きく,特に英ポンド,スイス・フラン,日本円では著しいことがわかる。しかし,より長期的には購買力平価への収れん傾向があるともみられる。

(経常収支と為替相場)

為替相場は外国為替の価格であり,他の商品と同じく市場における需要と供給の量から決まると考えることができる。ここで国際収支のうち資本勘定(資本収支及び金融勘定)に係る取引は経常収支をファイナンスするためだけに受動的に為替市場に参入するとすれば,為替相場は外国為替の需要と供給の差である経常収支尻で決まり,経常収支の黒字(赤字)はその国の通貨を増価(減価)させることになる。しかし第2-4-8図に示すように,両者の関係は国によりかなり相違がある。

これは経常収支尻と為替市場における需給とが先物市場の存在やリーズアンド・ラグズ(相場の先行き予想に応じて決済の時期を早めたり遅らせたりする操作)の影響等から一致しないためもあるが,資本勘定に係る取引も単に経常収支尻をファイナンスするだけではなく,独自の要因から為替市場に参入し,需給に影響を及ぼすためでもある。

(短期的な資本移動と為替相場)

資本勘定に計上される資本のうちには比較的短期の収益率の変化に応じて各通貨間を移動するものがあり,こうした短期的な資本移動に伴う外国為替需給の為替相場への影響が考えられる。第2-4-9図は,こうした短期的な資本移動と為替相場の関係を独マルクについてみたものだが,資本収支のうち特に短期的な収益率予想に応じて移動するもの(「短期性の資本収支」という)の動向は経常収支以上に為替相場の変動との相関が高い。

(2) 為替相場の日々の変動とその決定要因

(各国通貨建資産残高による為替相場の決定)

これまでは為替相場は輸出入等の決済や資本移動などに伴う外国為替の需給のフローによって決まると考え,そこで考えた為替相場もある期間の平均値であった。しかし,実際の相場は時々刻々と変動しており,ある期間においてはじめて意味を持つフロー量である経常収支や資本収支と明確に対応するものではない。そこで最近ではこうしたごく短期の相場変動を説明するにあたって外国為替需給のフロー量ではなく各時点における各国通貨建資産のストック量を考え,各国通貨建資産の相対価格である為替相場は各時点において資産の保有者(投資家)がその残高を満足して過不足なく保有するような水準に決まるという考え方が有力となりつつある。

(外貨建資産の収益率)

それでは投資家は各国通貨建資産の残高をどのような基準により選択するのであろうか。ひとつは収益率の高さであり,もうひとつはその確実性(リスクの小ささ)であろう。

収益率の高さは自国通貨建資産の場合は金利(またはこれに準ずる収益率)のみで決まるが,外貨建資産の場合は為替相場の変動もこれに影響する。例えば日本の居住者がドル建資産と円建資産との間で資産選択を行うとし,ドル建資産の金利が20%,円建資産の金利が10%のとき,収益率の差は10%ではなく,資産取得から元利償還までの円・ドル相場の変動も影響する。この間相場が250円/ドルから200円/ドルへと円高に変化したとすれば,収益率差はこの間のドルの減価率25%を差し引いたマイナス15%となり,名目金利差にかかわらずドルでの運用は極めて不利になる。

すなわち2つの通貨建資産間の選択は名目金利差に(から)「資産取得から元利償還までの間の投資通貨の予想増価(減価)率」を加えた(差引いた)期待収益率に応じてなされる。なお,投資リスクの大小は予めリスク・プレミアムのかたちで金利に含まれているか,あるいは為替相場の増価(減価)率に反映するものと考えることができる。

ところでこの投資通貨の増価(減価)率は資産取得時点では不明である。

そこで収益率を資産取得時点で確定しようとする投資家は先物為替を用いて,例えば上の例ではドル建資産の取得と同時にドル建資産の元利合計に相当する額の元利償還時受渡しの先物ドルを売却(先物カバー)しておけばよい。この場合,2通貨間の資産選択は名目金利差に投資通貨の先物マージン率(直物相場に対する先物相場の増価率)を加えた「先物カバーによる確定収益率」に応じてなされる。

したがって自由な資本移動が可能なもとでの各国通貨建資産間の選択は,先物カバーを考慮しない場合は期待収益率差に,先物カバーを考慮する場合は「先物カバーによる確定収益率差」に応じてなされ,これらの収益率差が変化すると各国通貨建資産の選択が変化し,その結果,各々の収益率差を平準化するように直物相場,直先スプレッド,先物相場が調整されると考えることができる。

(金利の変化と為替相場)

それでは金利の変化は為替相場にいかなる影響を及ぼすであろうか。例えばドル建資産と円建資産を考え,ドル金利のみが上昇したとすると,これに伴う直物相場の先行き予想の変化に応じて,直先両相場は第2-4-10図のように変化すると考えられる(金利差の変化は直先スプレットに吸収される-各国通貨建資産間の移動が自由なユーロ預金についてはこうした関係がほぼ成立する(第2-4-1図)-という関係に加え,先物相場は直物相場の先行き予想の変化と同方向に同程度変化すると仮定する)。

すなわちドル金利の上昇とドル直物相場の上昇が並行するのは,ドル直物相場の先行き予想が不変か,現在より先高予想となる場合,あるいは現在より先安予想となるがその幅が小さく金利の上昇による期待収益率の上昇を相殺しない場合となる。

(為替相場の先行き予想を決めるもの)

それでは直物相場の先行き予想はどのようにして決められるであろうか。

それは各市場参加者の持つ相場決定要因についての見方によって,また予想の対象とする期間によって異なるが,一般に次のように要約されよう。

    ① 経済成長率,物価上昇率,経常収支等によって代表される当該国経済のパフオーマンス

    ② これらの基底となる石油等の資源の供給状況,産業構造,企業体制,労働事情等

    ③ 中長期的また短期的な経済政策,特に金融政策,為替政策

    ④ これらを基本的に支える政治的・軍事的な安定性

そして石油情勢あるいは政治・軍事情勢の急変等を別にすれば,為替相場の中長期的動向に関係の深い物価や経常収支の動向が特に重視され,経済政策の影響もこうした観点から判断されることが多い。

なお,経常収支と為替相場の関係については,既にみた外国為替の需給ギャップ(国内流通分を含めた通貨全体の需給ギャップと考えてもよい)という見方のほかに,相場の予想形成に関しては,経常収支の均衡作用を通じて黒字(赤字)は当該国通貨の増価(減価)を生むと考えられ,またストックとしての各国通貨建資産を重視する立場からは,経常収支の累積額イコール対外資産の残高と考え,その増加(黒字)は当該国通貨の増価を,減少(赤字)は減価を生じさせると考えられる。