昭和54年
年次世界経済報告
エネルギー制約とスタグフレーションに挑む世界経済
経済企画庁
第2章 第二次石油危機と世界経済
第一次石油危機発生当初,国際収支の悪化,物価の急騰等から非産油途上国経済は大きな困難に陥るとみる向きが多かった。しかし,発展途上国経済は第一次石油危機後も比較的高い,安定した成長を続けて来た(第2-2-1表)。発展途上国が予想以上に順調な成長を維持しえたのは主として次の五つの要因による。
第一は,輸出が一時低迷したものの,その後順調な拡大を続けたことである。
非産油途上国の輸出は,75年には世界貿易(金額ベース)が3.0%拡大したにもかかわらず,先進国の景気低迷の影響から4%の減少となった。しかし,その後は急速に増勢を回復し,76~78年の3か年間に年平均17.9%増と先進工業国の14.8%増を上回った。
産品別にみると一次産品市況の回復(75年に比較し,77年の発展途上国の一次産品輸出単価は33%上昇)から77年の非産油途上国の一次産品輸出は75年に比べ36.8%増となったほか,工業品輸出も好調で同58.0%増となっている。この工業品輸出は発展途上国全体でみても60~70年の10年間に年平均14.4%増のあと70~77年の7年間には同26.5%増と70年代に入ってから加速している。
これは70年代に入ってから先進諸国が発展途上国からの輸入に対し,特恵関税(南北問題解決の一方策として,先進国が発展途上国から輸入する製品及び半製品に対する関税を引下げ,または免除しようとするもの)を実施したことが大きな要因となっている。例えば,71年にわが国をはじめ西ドイツ,フランス,イタリア等8か国が実施したのを皮切りに72年に英国,スイス等8か国が,74年にカナダが,そして76年からはアメリカもこれを実施した。石油危機以降も発展途上国の製品輸出が好調だったのはアメリカの景気回復が比較的早かったこと,及び76年からの特恵関税実施によるところが大きい。こうした背景から非産油途上国の工業品輸出比率も77年時点では全輸出の1/3強(34.5%)と68年時点の1/5(20.7%)から大幅に高まっている。
この特恵の恩恵をもっとも受けたのはアジア中進4か国(韓国,台湾,香港,シンガポール)で,70年から77年の7年間にその工業品輸出は年平均で30.3%の増加をみている(第2-2-2表)。この4か国の発展途上国工業品輸出に占めるシェアは77年には実に58.2%に達している。
なお,アジア諸国は輸出と同様海外建設収入(主として中東から),観光収入,海外からの送金等の貿易外収入や移転収入も順調に増加した。
第二は74年に石油を中心に輸入が急増したものの,その後77年までは輸入増加率は低く,貿易収支赤字も76,77年と急速に改善したことである。
非産油途上国の石油及び同製品等(SITC3)輸入額は72年の62億ドルから73年に96億ドル,74年には282億ドルへと急増した。74年の石油輸入数量は73年とほぼ同水準であったから74年には石油価格高騰による支出増が186億ドルに達したことになる。これは74年の貿易収支赤字の約6割に相当する。この結果,非産油途上国の総輸入額に占める石油輸入の比率は72年の10%から74年には21%へと高まっている。
さて,74年に輸入金額が急増したあと,77年までの3年間の年平均輸入増加率は8.1%増と低い伸びにとどまった。これは同期間の輸出増加率11.9%を4%近く下回っている。これは主として,①各国が貿易収支の大幅赤字化から厳しい輸入制限措置を採ったこと,②73年以降非産油途上国の農業生産が総じて順調であったこと及び食料価格の安定から食料輸入が75~77年の間年平均0.5%と微増にとどまったことによる(68~74年の6年間には年平均20.4%増)。
この結果,75年に輸出の縮小から大幅赤字となった貿易収支は,76,77年と急速な改善をみせ,石油輸入を除いた貿易収支をみると,この2年間は黒字となっている(第2-2-3図)。
第三は非産油途上国に対する経常収支赤字ファイナンスが順調に行われたことから,国際収支が経済成長の制約にならなかったことである。
前述のように石油価格高騰による非産油途上国の支払い増加額は74年は186億ドルに達したが,これは73年末の外貨準備高の62.9%に相当する。国別にみてもインドの88.5%をはじめ,韓国,台湾等も高率で各国にとり大きな負担となった(第2-2-4表)。非産油途上国の産油国向け輸出が前年に比べる億ドル増大していることを勘案しても74年の支払い純増は161億ドル(73年末外貨準備高の53%相当)に上る。
非産油途上国の経常収支赤字幅を石油危機の前後各々4年間で比較してみると70~73年の年平均98億ドルから74~77年には288億ドルと約3倍に拡大している(第2-2-5表)。しかし,その一方で資本流入も順調で70~73年の年平均143億ドルから74~77年には同336億ドルに増大し,経常収支の赤字を充分に補填した。78年も非産油途上国は輸入急増で経常収支赤宇は75年に次ぐ大幅となったが,資本流入はそれを上回る好調を示した。こ.の結果,外貨準備高の増加額は石油危機前よりも後のほうが高まっており,とくに78年は一年間で,125億ドルと史上最高となっている。これを外貨準備高輸入倍率(外貨準備保有高で何か月分の輸入を賄えるかをみる)でみると,78年時点では4.4か月分と最も高い月数分を保有していた73年(4.5か日分)の水準に近づいている。ただ,地域別にみると中南米が6か月分を保有しているのに対し,アフリカでは2か月分と大きな格差が生じている。
一方,債務累積動向をみると,非産油途上国に対するファイナンスが順調であったことから債務残高は77年以降の4年間に年平均24.2%で増加し,77年末には2,013億ドルに達している(第2-2-7表)。
この間,個別にはペルー,スーダン,ザイール,ザンビア等一部諸国が債務返済不能に陥るなど問題も発生したが,全体としての債務問題は,77年まではさして悪化の動きは見られなかった。各国の77年の債務返済比率(債務返済の負担度合を示すもので年間債務返済額/財及びサービスを含む輸出で表わす)を前年ないしは70年代初期と比較してもこの比率はさして上昇していない。
ここで,発展途上国への資金の流れをDACベースでみると,石油危機後の5年間には年平均21.6%増と,石油危機前5年間の増加率18.2%増を上回った。
ただ,その資金の内訳をみると緩和された条件で供与される政府開発援助の伸びが低く,逆に貸付け条件の厳しいいわゆる非譲許的資金(ほとんどが民間資金なので以下便宜的「民間資金」と称す)の伸びが著しい。この結果,70年時点では全資金の48.1%を占めていた政府開発援助が78年には30.5%へ低下し,逆に民間資金は51.9%から69.5%へと高まっている。問題は,この民間資金が低所得国へはほとんど流入しないことである。73年以降ユーロ・ダラー等からの資金調達は著増しているが,それはあくまでも1人当り国民所得が281ドル以上の諸国においてであって,同280ドル以下の諸国(これらの諸国は1978年の非産油途上国GNPの17.8%を,人口では59.0%を占めている)はほとんどこの資金を利用していない。幸いなことに石油危機以降,政府開発援助は低所得国へ順調な流入をみており,このうち,LLDCに対しては71年に政府開発援助の10.1%が供与されたのに対し,78年には19.7%が供与されている(第2-2-8表)。
これは石油危機発生直後から発展途上国,なかんずく貧困途上国の経常収支赤字ファイナンスが困難に陥るのではないかとの懸念が強まり,これを救済するための国際世論が高まったことがその背景にある。この国際世論を背景にIMFは石油輸入価格上昇による打撃に対処するためのオイル・ファシリティーの創設(74年6月,貸出規模6,902百万SDR,76年3月終了,55か国利用),通常の引出しによっては解決できない発展途上国の国際収支悪化に対処するためのトラスト・ファンドの創設(76年8月,IMF保有金の1/6=2,500万オンスの市場売却益),一般資金による拡大信用供与の創設(74年9月),補完的融資制度の創設(77年8月,拠出額7,784百万SDR,79年2月発足)等各種信用拡大措置をとった。国連では74年4月の特別総会(別称,資源総会)で石油危機で最も深刻な影響を受けた国々としてMSAC(Most Seriously Affected Countries)42か国が指定され(その後46か国に増加),先進諸国及びOPEC諸国に対しこれら諸国救済のための資金拠出(特別基金の設置)を要請した。また,CIEC(国際経済協力会議)でも77年5~6月に先進国から低所得国に対する10億ドルの供与が合意された。
第四は農業生産が順調に増大したことである。
発展途上国の農業生産はこれまで比較的大きな豊凶を繰返しながら推移してきており,1965,66,72年の不作は国際的にも大きな問題となった。しかし,73年以降は比較的安定した順調な生産が続いており,73~78年の年平均農業生産増加率は3.5%と60~68年の2.2%,68~73年の2.8%を大きく上回っている。そして,アジア諸国の中では韓国やフィリピン,そしてかつては大量の食料輸入国であったインドが近年主要穀物の自給を達成している(但し,インドの79年農業生産は干ばつの影響から不作が懸念されている)。
第五はアジア諸国におけるインフレの終息である。
非産油途上国の物価は従来から先進諸国に比べ相対的に高く,総じて二桁台の上昇が続いている。そうした中で,68~71年にかけての上昇率は比較的落着いた動きを示したものの,それも一時的で12年から再び騰勢を強めだした。これは,①72年の農業生産不振で食料価格が上昇したこと,②先進国からの工業製品輸入物価が上昇してきたこと,③輸出の急増を主因としてマネー・サプライが急増したこと等による。そして,74年以降は石油価格の急騰からほとんどの諸国で物価は一段と加速をみている。
そうした狂乱物価の中でいち早く物価終息に成功レたのがアジア諸国である。アジア諸国の68~72年の年平均消費者物価上昇率は4.6%と極めて安定していたが,73年に16.4%,74年28.7%と急騰した。しかし,75年には9.9%と落着きをみたあと,76年には0.7%下落するなどその後は安定している。これは豊作により,食料価格が安定したのに加え各国の金融,財政面での引締め策や一部諸国における輸入自由化の促進等が効を奏したものである。こうした物価安定は,輸出の順調な拡大とあいまってアジア地域が石油危機以後も石油危機以前を上回る高い経済成長を達成している大きな要因となっている。
もっとも,その他地域の物価は相変わらず高い騰勢が続いており,とくに中南米では最近のほうが石油危機直後よりも加速している(後述)。
,こうしておおむね第一次石油危機をうまく乗り切って来た非産油途上国は,経常収支赤字幅の再拡大とインフレの再加速の中で起った第二次石油危機に前回同様うまく対応できるであろうか。
第二次石油危機自体の非産油途上国に及ぼす影響は,直接の所得移転分だけを見るとそれ程大きいものではない。すなわち,79年における非産油途上国の石油輸入支払増加額は160~180億ドルと推定されるが,これは74年の186億ドルと比べて,対輸出比率,対GNP比率等ではもとより絶対額でも小さい(第2-2-11表参照)。
しかしながら前回危機をおおむねうまく乗り切って来たといいながら非産油途上国経済にもその過程で累積債務の量と質の悪化,インフレの底上げ,高中所得国と低所得国の格差の拡大,輸入石油依存度の高まり等構造面での後遺症が生じている。こうした中で非産油途上国が前回同様今回の石油危機を乗り切れるかどうかはとくに次の三点にかかっている。
第一は非産油途上国が前回同様輸出を伸長させることができるかどうかである。これには非産油途上国側でのひきつづく工業化,輸出推進努力が必要なのはいうまでもないが,さらに大きい影響を及ぼすのはその最大の市場であるアメリカ等先進国市場の動向である。
まず前回は,非産油途上国輸出は先進諸国の同時不況とそれに伴う一次産品価格の下落から75年には減少したが,その後アメリカの急速な景気回復等に助けられて急速に増勢をとりもどした。
今回の場合,アメリカは景気後退に向いつつあるもののその落込みは前回より軽いとみられているほか,日本,西ヨーロッパは当分拡大基調にある。
したがって非産油途上国の輸出は伸びの鈍化はあるものの減少にはならないと思われる。ただ,80年以降については,アメリカの景気回復力が弱いと見込まれるため,逆に前回のような急角度の増大は期待できそうにない。また前回時非産油途上国の輸出を支えた中東諸国の輸入増も今回はあまり期待できそうにない。
もっと問題なのは今後先進国の保護主義的風潮が強まるのではないかということである。OECDの工業品輸入額に占める発展途上国のシェアは特恵実施の効果もあって70年の5.3%から77年には9.0%へと高まっており,とくに繊維品は18.3%から29.4%へと増大している(第2-2-10表)。発展途上国からの輸入比率の高いアメリカでは工業品輸入に占める発展途上国のシェアは70年の12.7%から77年には21.3%へと急拡大しており,繊維品は7割近くが発展途上国製品となっている。こうした大幅なシェア・アップに対して失業水準がいぜん高く,今後成長鈍化の予想される先進諸国で保護主義の動きが強まることが懸念される。ただ多角的貿易交渉(東京ラウンド)の結果の実施により,80年以降先進諸国等の関税が大幅に引下げられる予定であること,また第二次ロメ協定の調印(援助規模の拡大,輸出所得保障制度の強化等,80年4月から発効)等がこうした貿易環境悪化の中で発展途上国の輸出を支える一因とはなろう。
第二は非産油途上国が予想される大幅経常収支赤字をスムーズにファイナンスできるかどうかである。この問題は借り手側の問題と貸し手側の問題との2つの側面がある(後者は第3節で検討)。
まず,非産油途上国の外貨準備高をみると,前述のように78年末にはほぼ同年の輸入の4.4か月相当分にまで増加しており,79年に入ってからもこの増加傾向は続いている。そして,この外貨準備高に対する石油輸入増加額の比率は第一次石油危機時には非産油途上国全体で6割強にまで達したが今回はその%程度の2割強程度と推計され,当向の支払いに対しては前回ほど問題はないと考えられる(第2-2-11表)。
ただ今後はいくつかの問題点が生ずる可能性がある。
その一つは70年代に入ってから,民間資金債務が急増したことを主因に,債務全体の償還期間の短縮,貸付け金利の上昇等貸付け条件が悪化していることである(第2-2-12表)。まず返済期間については,民間資金の集中している中南米への貸付けが70年の14.2年から77年には9.7年へと大幅に短縮されるなど条件の悪化が目立っている。世銀によると,77年末における発展途上国の債務残高のうち,約50%が1978~82年の5年間に返済期限が到来することになっている。そのうち,民間資金債務はその70%が82年までに返済することになる。
また,民間資金の貸付け金利も最近の世界的高金利を反映して上昇している(ユーロ・ダラーの貸付金利は76年末の5.5%から78年末には12.06%と倍以上に上昇し,79年8月末には12.49%になっている)。こうしたことから78年,79年と急増した債務返済比率がさらに上昇することが懸念される。とくに民間資金債務の多い中所得国の債務返済比率は80年代央には危機ラインに近い18.3%に上昇すると予想されている(第2-2-13表)。
また,民間資金はメキシコ,ブラジル,韓国の上位3か国に非産油途上国向け融資の50%が集中(第2-2-14表)するなど特定国への集中が著しい。貸し手側も,米国銀行の中で主要な10行が発展途上国債務の3/4を供与している(世銀による)。こうして貸し手,借り手両者が極めて集中していることがリスクを大きくしている。
その二は,第一次石油危機後は民間資金のほとんど流入しない低所得国に対して比較的順調に政府ベース(ODA=政府開発援助)の資金が流入したが,今回もそれが継続するかどうかである。
政府ベース資金の大部分を占めているDCA諸国のODAの流れをみると,その増加率は民間資金増加率や非産油途上国の貿易収支赤字拡大率等に比べ低い (第2-2-15表)。 なかでも,最大の援助供与国であるアメリカやフランスの伸びが低い。今後の増額についても79年5月の第5回UNCTAD総会でアメリカ,フランス,イギリス等の先進諸国がODAの急速な増大をコミットすることには消極的であった。この中で日本が1977年から3年間にODAを倍増することを国際的に公約するとともに,総会後ドイツ等も拡大の方針を明らかにしている。
第三は今後の物価動向である。
前述のとおり,第一次石油危機によるインフレの悪化はアジアでは見事に抑制されたが,中南米,アフリカでは物価上昇率は石油危機以前の水準に戻らず,その結果,非産油途上国全体でみれば明らかに底上げされている(第2-2-18図)。79年に入ると輸入石油依存度の高い韓国,台湾,フィリピン,などを中心に物価騰勢を強めている。中南米では更に一段とインフレが加速するきざしが見える。今回の石油危機の価格引上げ幅は前回と比べるとかなり小幅であり,かつ,世界経済全体の環境も前回のような過熱状態にないことからすると前回のような大幅なインフレ悪化は起らないものと考えられる。しかし,インフレ悪化は輸出競争力を弱めて国際収支を悪化させレート切り下げ→輸入物価上昇→インフレ悪化という悪循環をひき起すほか経済社会的基盤の不安定な発展途上国では,社会不安につながるおそれもあり,今後のゆくえが懸念される。
第2-2-17図 非産油途上国の公的債務残高と債務返済の対輸出比率
以上のように今後非産油途上国が第二次石油危機を再び乗り切って,高い成長を確保することができるかどうかは,第一に輸出市場の確保の問題,第二に経常収支赤字のファイナンスの問題,第三にインフレ抑制の問題,の解決ができるかどうかにかかっている。これらの諸問題は非産油途上国の自助努力と国際協力の両面から取り組んでいかなければならない。
まず,非産油途上国の自助努力の第一はインフレ抑制である。インフレは国内開発努力の成果を無にして,それ自体弊害となるのはいうまでもないが,さらに貿易収支,経常収支の赤字を招き,またその国の信用度を低めて外資流入を阻害する。前回の石油危機から,とくにアジアの諸国が目覚ましい立ち直りを示したのは,順調な農業生産に助けられたためでもあるが厳しいインフレ対策でインフレ抑制に成功したのが大きく貢献しているのは前述のとおりである。
これとの関連で重要なのは農業開発の推進であろう。国内産業に占める農業のウエイト,また食料価格の安定の必要性からしても農業開発は最優先の課題とされるべきである。このことはエネルギーと合わせて食料価格の急騰している中南米諸国についでとくにあてはまる。
農業開発を重視することは工業開発を無視してよいということではもちろんない。輸出を伸ばし,雇用を促進し,高い成長を維持するためには工業開発が不可欠なのはいうまでもない。資源の浪費を削減して開発効率を上げ,農・工間のバランスと連係を保ちつつ,これを推進していかなければならない。
国内産業開発の推進に当って必要不可欠なのはエネルギー対策の強化である。第一次石油危機以降の発展の過程で,非産油途上国のエネルギー依存度は中進国を中心に逆に高まっている。エネルギー面からの制約が成長阻害要因とならないようエネルギー節約,石油資源・代替エネルギーの開発を促進しなければならない。アジア諸国では79年に入ってから韓国,タイ,フィリピン等で相ついでエネルギー消費節約策が打ち出され,またブラジルでは国産石油の増産,アルコール等代替エネルギー開発の推進等が決定された。こうした方向での政策努力の一層の強化が望まれる。
次に,先進国に求められるものはひきつづく市場の開放と援助の拡充である。市場の開放については,発展途上国とのより効率的な分業関係は先進国経済の効率を高める主要要因の一つである。保護主義はこうした世界貿易の拡大循環と動態的な国際分業の進展を妨げることにより,直接的に発展途上国を苦しめるだけでなく究極的には先進諸国に不利益をもたらすものである。
先進国の援助拡充もひきつづき求められる。とくに第一次石油危機以降中進国と低所得国との格差が一層拡大しており,対外信用力が乏しく,民間資金の借入れが困難になっている低所得国に対してはODAの拡充が必要である。
援助の拡充が求められているのは先進国だけではない。再び大幅な経常収支黒字を累積しつつある産油国も本源的資金供給者として,二国間,多国間の援助資金を飛躍的に増大させることが求められる。
IMF,世銀等国際機関は前回の石油危機時には低所得国のファイナンスに貢献した。今回は79年2月からIMFの補完的融資制度が発足しており,当面本制度を活用することが考えられる。しかし非産油途上国の困難が急増した場合には,同制度の拡充強化,IMF拡大信用供与措置の貸付条件の緩和等が検討されるべきであろう。また,国連,世銀等の非産油途上国に対するエネルギー開発援助も一層拡充されるべきであろう。
以上のような非産油途上国の自助努力と国際協力が相まって非産油途上国が前回同様あるいはそれ以上順調に今回の石油危機を乗り切っていくことが期待される。