昭和51年
年次世界経済報告
持続的成長をめざす世界経済
昭和51年12月7日
経済企画庁
第2部 70年代前半の構造変化とその影響
第3章 変動要因の持続性と影響
まず,第1章で指摘した諸要因の主なもののうち,比較的一時的ないし一過性とみられるものとしては,以下のものが挙げられる。
第一に,70~73年にかけて生じたような,主要通貨すべてにわたる大幅なレート調整が,近い将来再び生ずる可能性は小さい。これは,それ以前20年余にわたって維持されていた固定レート制が崩れ,フロートに移行した際に生じた特殊な現象であったとみられるからである。もとより,その背景となった各国経済力の相対関係の変化や,国毎の経済パフォーマンスの相違,とくに物価上昇率の差は,今後もひきつづいてみられるに違いなく,したがって,各国通貨のレートも変化しつづけ,場合によっては一部の通貨がかなり大幅に変化することは考えられる。
第二に,70年代初期にみられた国際流動性の著しい増大も,一時的要因が大きかったと思われる。世界の金・外貨準備総額は,60年代の10年間には年平均20億SDRの増大であったが,69~73年の4年間では,787億SDRから1,526億SDRへ,2倍近くに激増した。 第3-1表 にみられるように,この増加分の7割は対米公的債権の増加によるものであり,この期間の激増が,主としてアメリカ国際収支の大幅赤字を反映したものであったことを示している。その後,75年までに,世界の国際流動性は28%とかなりふえているが69~73年のふえ方にくらべればゆるく,この間のインフレのため,世界の輸出総額に対する比率でみると,73年の33%から75年には28%に低下している。また増加分の内訳をみても,その9割近くが産油国によって占められていることからも分るように,73~75年の増大は,オイル・マネーの運用によるところが大きかった。
第三に,インフレ加速の一因となった主要国のマネー・サプライの急増も,今後再びくり返さないようになる可能性がある。OECD諸国全体としてみると,60年代後半には年10%弱の増加を示していたマネー・サプライ(M2)は,71年に17%,72年は22%,73年25%と異常に増大した。これには多くの国が景気拡大を急いだために金融緩和が行きすぎたという面もあるが,同時に,通貨危機の頻発により国際収支黒字国へ巨額の資本が流入したことが大きく響いているとみられる。今後については,各国政府当局の政策態度によることはもちろんであるが,①投機的な外資の流入が71~73年ほどの規模になるとは思われないこと,②各国当局者が,近年,マネー・サプライの管理に著しく慎重になっていること,を考えると,70年代初期のような事態の再来は回避できるものと思われる。
第四に,石油価格の4~5倍にものぼる大幅な引き上げも恐らく再び繰り返されることはないであろう。今後の石油価格の推移については,石油消費国の経済動向,代替エネルギー開発の見通し,石油の需給関係はもとより,OPEC諸国の政策によっても大きく左右されるとみられ,予測は至難である。しかし,最近2年間の石油価格の動きを見ると,堅調を示しているが,OPEC諸国自身もこれまでの価格の大幅な引上げに伴う悪影響に悩まされたことから考えると,その数倍にものぼる大幅な価格の引上げが再び起る可能性は余りないとみてよかろう。もちろん,最近の石油価格の大幅上昇の影響の多くは決して一過性ではなく,国際収支構造の変化,オイル・マネーの問題,エネルギーの相対的価格上昇に対する消費構造,産業構造の適応など,今後数年にわたり石油消費国や世界経済に少なからぬ影響を与えつづけるであろうことはいうまでもない。