昭和50年

年次世界経済報告

インフレなき繁栄を求めて

昭和50年12月23日

経済企画庁


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むすび-回復をめざす世界経済とわが国の立場

(2) 安定的成長への条件

世界経済を順調な回復軌道に乗せ,安定的な成長経路へ復帰させることが,現下の各国最大の課題であり,この目標を達成するために,現在主要諸国は以下の諸点にみるような対応を進めていると考えられる。

(国内政策の対応)

石油危機を含めたはげしい二桁インフレに対してとられたきびしい引締めの長期化は,不況の深刻化,国際波及による後退の増幅,途上国の窮乏化拡大という事態を不可避的に伴った。景気回復に関しても比較的対外依存度の低いアメリカではほぼ順調であるが,日本の足取りは重く,また,EC諸国は協力して浮揚策を実施した。このように各国の国内政策に対する国際面からの影響と国内政策の国際波及効果が増大し,「国内政策の国際化」ともいうべき現象が顕著となった。このため各国の政策に関してより機動的に,多様な手段を動員して,またその結果生ずる将来の問題点について事前に対処することによって安定度を向上する必要が生じた。

①機動化

引締めや解除,景気浮揚策等の各種政策の必要性の発生,政策手段の採用,効果の発現までのタイミングのずれは,国際波及の過程でさらに増幅され,副作用も拡大されるので,その短縮の必要性が増大している。西ドイツの経済安定成長法は,景気調整準備金による景気対策財源の蓄積や政令による税率の変更等,機動力が発揮されやすい制度的特徴をもっている。また,同国においては73年春の引締め期における投資税導入や74年12月の投資刺激のための補助金の実施等,安定法の規程をこえたきめ細かい政策を,必要に応じ適宜単独立法によって機敏に導入している。政策を効果的なものとするためには,政策必要性の認知を早期に,しかも的確に行うことが一層重要である,と思われる。

②多様化

世界経済の安定性を増加するために,各国のとり得る政策手段を多様化し,きめ細かい政策運営を行う必要が高まっている。政府と労使の話合いにより,おだやかな賃金上昇を実現しつつある西ドイツの「協調行動」は,一段とその定着性を高めたように見受けられる。また景気浮揚策において公共投資の増強と並んで個人消費支出,住宅投資,および民間投資の刺激にも力点がおかれた国が多かった。

アメリカにおける個人消費刺激は殊に効果的であったと考えられる。投資刺激については速効性を期待し得ないが,需要の構造変化への対応や,新しい環境での国際競争力の形成を通じて,潜在成長力を培養する必要が強く認識されているものと思われる。インフレ再燃の可能性をはらんだ景気回復の過程においては,物価政策についても,殊にきめ細かく多様な施策の実施によって,安定的発展をはかることが望まれる。

③ 中期的展望の明確化

安定成長をめざす各国にとって,前途における問題を事前に把握する必要は高い。日本,フランスおよびイタリアでは,現在新らしい5ヵ年間の経済計画を策定中であり,従来計画の経験を全くもたないアメリカでも,一部でその必要を提唱する声も聞かれるようになった。

財政計画の分野では,毎年の政策が将来に及ぼす影響を把握するため,毎年更新される5ヵ年間の中期財政計画が作成される例がある。不況によって各国の財政は,収入減と支出増の両面から巨額の赤字を負担することになったが,西ドイツでは,財政構造改革法,中期財政計画等を通じて,いち早く将来5ヵ年間における財政再建方策を示した。イギリスおよびアメリカでは,これより単純に財政支出のみの5ヵ年計画が毎年作成されている。

以上の様々な問題に対して,各国はそれぞれの国の事情を反映した対応をみせている。日本の政策運営の対外的な影響が増大している現状から,以上の諸点について,わが国としても適切な対応を検討していく必要があるといえよう。

(国際経済の新しい枠組み)

① 自由貿易体制の推進

ランブイエ宣言は,世界貿易の量的増大と価格の安定を,開放された貿易体制の維持により促進することをうたった。そしてOECD貿易プレッジを再確認し,東京ラウンドの77年中完結を提案した。世界貿易数量が,75年上期の前年同期比で7.2%も減少し,先進国においてすら国内産業保護の傾向が高まりつつある状況下で,その意義は殊に重大である。これを機会に,関税引下げと非関税障壁の除去に向って全世界を誘導するわが国のリーダ-シップが強く発揮されるべきであろう。また,世界景気の回復がこれと平行して進行し,各国の経済活動水準が上昇することは,貿易自由化の拡大と定着にも不可欠であり,さらに先進諸国の輸入縮小が途上国に深刻な影響を与えている現況からの脱却のためにも強く望まれるのである。

② 資源の安定的供給

世界経済の安定的成長に対する基本的条件の1つは資源の安定的供給である。これは,供給価格安定を軸とする新国際経済秩序樹立の要求を,資源輸入国がどう受止めるかの問題である。ここにおいて,75年2月ECとACP諸国の間で締結をみたロメ協定の示唆するところは多い。これによって,第1に特恵の供与,逆特恵の廃止とともに一次産品の輸出所得安定のため所得補償融資制度が導入されたが,価格や輸入量の安定化は原則として含まれなかった。第2に資源輸出国の工業化に対してEC側への工業品輸出促進スキームも含む多面的な協力が規定された。第3に参加国は55ヵ国に及び,EC諸国とアフリカ,カリブ海,太平洋地域の旧植民地諸国との結合が資源と工業化を軸として強化されたのである。

資源ナショナリズムを基盤とした途上国と資源消費国との間に世界的規模での望ましい合意が成立するまでには,なお長い道程が必要であろう。また資源保有途上国の究極の目的は自国の開発による経済的繁栄を実現することであり,先進輸入国側からの多面的な協力が当然に必要となる。従って先進国としては資源国の輸出所得を安定させること等により,資源国との経済的な相互関係を緊密化することが,途上国の究極的目的に近づく方途であると思われる。このことは石油以外の資源に乏しく人的能力にも不十分な産油国の開発について,特に重要であろう。

資源輸入の大宗国である日本は,その安定的供給確保が重大な問題であると同時に,その行動が供給国側に与える影響力も少くないことに鑑み,相互繁栄の基本的原則の上に,資源なかんずくエネルギーの供給,安定と多角化,および技術面を中心とする資源保有途上国開発協力を推進すべきである。さらに,これを背景として,自由貿易の原則に立脚しながら,必要に応じ諸制度の拡充の検討を行っていくべきであろう。

資源の供給安定化と並んで,不測の事態に対処し得るよう備蓄水準を確保することは,安定的成長に不可欠である。国際エネルギー機関は加盟国石油備蓄水準を90日とする目標を決定しており,わが国も応分の努力を払う必要がある。食糧備蓄についてはパーマ提案やキッシンジャー提案が行われたが,これは今後の検討課題となろう。

③ 途上国援助

途上国の分極化の傾向は石油危機によって一層顕著となり,世界不況の中で貧困途上国の困窮度は著しく高まった。ここにおいてIMFオイル・ファシリティーの引出しにかかる利子に対する補給金勘定がIMF内に設置されたほか,利子補給,特別信託基金の設置等,国際機関による途上国,殊に貧困途上国を対象とした強化措置を採ることについて原則的な合意が得られている。また,補償融資制度の拡充についても,検討が進められている。二国間援助においてもこれと軌をーにして,政府開発援助を貧困途上国へ一層集中させる必要度が高まっている。一方産油国による途上国援助も急速に拡大してきたが,資金面以外の領域において先進国協力の余地は多い。また途上国側において,各種の援助が整合的に進行するよう調整し,自助努力を強化して,効果的な開発を推進する必要がある。途上国援助については,分極化した途上国の態様に適合し,多様化した態勢をもって応ずる必要があり,技術,経営能力等の分野における貢献の重要性がますます増大してくるものと思われる。


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