昭和50年
年次世界経済報告
インフレなき繁栄を求めて
昭和50年12月23日
経済企画庁
1974年末から75年の先進国経済は,戦後最大の不況を経験した。先進諸国の不況は,貿易の縮小を通じて相互に増幅し合うとともに,発展途上国にも広がった。その結果,2年続けて世界経済の成長は止まり,多くの国で失業が急増した。75年世界経済の最大の特徴はこのような同時的不況と世界貿易の縮小であった。
一方,不況に伴ない,前年に経験された異常なインフレは次第に収束し,先進工業国の経常収支も著しい改善をみせてきた。しかし,物価上昇率はなお高く,コスト圧力も多くの国でなお根強く残っている。また,先進工業国の国際収支改善の一方で,非産油発展途上国では経常収支の大幅な赤字が続いており,これまで順調に拡大してきた東西貿易にもかげりをみせてきた。
さらに,石油需給の緩和にもかかわらず75年10月には石油価格が再び引上げられるとともに,一次産品価格の低落を背景に「新国際経済秩序」を求める発展途上国の要求もひきつづき強いものがある。このように前年から持越された諸問題は若干の変容をみせながらもなお本質的には未解決のまま残されている。
以上のような共通の問題をかかえた各国が,その経済の密接な相互依存関係から,国際的な協調の必要性を再認識するとともに,混迷から脱するために将来に対する確信の回復を重視したことは本年の大きな前進であった。75年11月,フランスのランブイエで開かれた主要国首脳会議も,このような状況を背景に行われたのである。
現在,先進国経済は,アメリカを先頭に漸やく不況から脱出し,回復に向って歩みつつある。先進国景気の回復は,自由貿易の維持・推進と相まって,世界貿易の拡大をもたらし,発展途上国経済にも好影響を与えよう。しかし,一方で,インフレ再燃の危険は依然残っており,景気の持続的上昇を妨げる要因も従来になく大きい。
世界経済が,インフレのない持続的成長を達成するとともに,先進国,発展途上国の均衡ある発展を図っていくための国際的なわく組みを確立することは,今後の世界経済の最大の課題となっている。
本年度の年次世界経済報告は,世界経済が直面する以上のような諸問題を分析し,わが国経済政策への示唆を与えようとするものである。まず,第1章では,75年最大の問題となった世界不況の特徴・原因とそこからの脱出の現状を分析する。次に,第2章では,インフレ・国際収支問題の変貌と石油・一次産品需給及び価格の動向を扱い,第3章では,インフレのない安定的成長を指向する各国の動向と国際的に均衡のとれた経済発展への問題点を検討する。