昭和48年

年次世界経済報告

新たな試練に直面する世界経済(資源制約下の物価上昇)

昭和48年12月21日

経済企画庁


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第3章 強まる資源の制約

3. 新たな対応を迫られる石油問題

(1) 石油危機

73年10月の第4次中東戦争を契機とするアラブ産油国の供給削減と原油価格大幅引上げは,世界に大きな衝撃を与え,各国経済に様々な影響をもたらしつつある。

石油危機に至った基本的な背景は,アメリカが中東石油市場に大きく参入し始め,需給のひっ迫感を促進したことと,産油国のナショナリズムの新展開である。

今や石油の供給と価格の決定権は産油国にはほぼ完全に帰属し,当面石油供給の不安定化と価格高騰が続くものとみられる。戦後における先進国の経済成長は,石油の低廉かつ安定的な供給に大きく依存してきただけに,資源制約の強まりという大きな変化は今後の経済政策に大きな転換を迫ることになろう。

以下では,こうした観点に立って,石油危機の起きた背景と先進国経済に及ぼす影響を検討するとともに,各国がどのような緊急対策と中長期にわたる石油エネルギー対策をとりつつあるかを概観し,石油エネルギー資源の安定供給確保の方策と今後の政策運営のあり方,国際協力の方向を検討することにしよう。

(2) 石油危機の背景

(石油需給構造の特徴)

71年の世界における石油消費はアメリカ,西欧,日本の先進国で70%近くを占めるのに対し,生産量はアメリカとソ連を除けば中東,北アフリカ,ベネズエラ,インドネシアと発展途上国が大半を占め,OPEC諸国全体では51.5%(原油輸出量では実に80%)に達している。また長期の供給能力を示す埋蔵量でも中東が61%と圧倒的地位を占め,OPEC全体では世界の77.5%を占めている(第3-13図)。

とくに現在の生産量で今後何年供給できるかを示す可採年数をみれば,中東地域の優位はさらに大きくなる。このように石油資源は偏在性が著しく強いため,大消費地域である先進工業国は日本,西欧ともほぼ全面的に輸入に依存し,豊富な石油資源をもつアメリカさえ26%を輸入している。さらに先進諸国が主にどの地域から石油供給を受けているかをみると,アメリカはベネズエラを中心とするカリブ海域,カナダで約8割と圧倒的に西半球(南北アメリカ)の比重が大きく,今後ウエイトが急拡大するといわれる中東はまだ10%にすぎない。西欧諸国は中東とアフリカに集中し,日本は中東依存度が最も高く,残りはほぼ東南アジアに頼っている(第3-14図)。このようにアメリカを除く先進工業国はいずれも中東,北西アフリカ,東南アジア等のOPEC諸国に極端に高い比率で石油供給を依存し,今後はアメリカを含め中東依存度もますます高めざるを得ないところに共通点がみられる。

このように地域間の石油需給の極端なアンバランスを背景に,消費国と生産国との橋渡し役としてメジャーズと呼ばれる国際石油資本が介在し,世界における石油の生産,探鉱開発,流通,販売に支配的な力を及ぼしている。

例えば7大国際石油資本は71年の全世界の原油生産の54%,OPEC諸国原油生産の83%を,石油製品販売においても自由世界の約60%を占め,投資も生産,輸送,精製,販売,探鉱開発の各分野に積極的に行い,71年87億ドルの巨額の資金を投入している。他方,発展途上の主要な産油国は60年以降メジャーズに対抗して自らの利益を守るためにOPECという共同行動組織を結成し,年を追って供給独占的な機能を発揮している。

以上のように石油には,その偏在性を基礎としてOPEC→メジャーズ→消費国という国際間にまたがる一大供給ルートが形成され,60年代末までにはこれが石油の低価格,安定供給の保障となっていたところに特徴がある。

それは,ア.石油需要が急増したにもかかわらず,豊富な埋蔵量を持つ中東,アフリカ地域での相次ぐ大油田発見と,石油資本の販売競争激化によって石油は供給過剰基調をもたらし,低廉となったこと,イ.とくに最大の石油消費国であるアメリカの石油自給力が大きかったこと,ウ.原油産出国の財政基盤がぜい弱で,各国に対する影響力は小さく,逆に国際石油資本の影響力は大きかったこと等による。

(70年代における石油情勢の変化)

しかし70年代に入ると新たな基調的変化が現われた。全般的には,ア.石油資源発見率が低下し始める一方,原子力やタールサンド等の代替エネルギーの実用化が技術開発の遅れや環境問題の制約を受けて遅れている,イ.70年代には民生用需要の急増を主因に引続き高い伸びを続けている等の諸事情のもとで,世界の石油需給は売手市場に転じ,なかでもアメリカで石油不足が表面化し,国際石油市場に巨大な消費者として登場し始めたこと,ウ.OPECとくにアラブ産油国が一般情勢の有利な展開を利用してそのナショナリズムを一段と強めてきたことである。

以下順をおってみることにしよう。

① アメリカにおける石油不足の進展

60年代,先進工業国としては例外的に高い石油自給率を誇ってきたアメリカは,70年以降国内供給力が減退し急激に輸入依存度を高めた。第3-15図にみられるように,アメリカ国内の原油生産は60年代に年々増加を続け70年には964万バーレル/日とピークに達したが,71年,72年には連続して減少し,石油輸入依存度は60年代の20%台から71年26%,72年30%と急激に上昇,さらに73年4月には30数%にまで達した(第3-15図)。このような輸入依存度の急激な上昇は環境問題から資源開発や製油所の建設が進まなかったこと等による国内供給力の伸び悩みが主因である。また,先行きについても大陸棚の開発等に時間を要することもあって,短期的には輸入依存度の上昇は避けられないとする見通しが強まっている。例えば,72年末の全米石油審議会報告によると,石油輸入量は71年の392万バーレル/日(うち原油168,製品224万バーレル/日)から急増し,1985年には最も現実的なケース(新規油田の開発と原油回収率向上等により国内における石油供給力の増大がかなり見込める場合)では,1,347万バーレル/日(消費量の50%以上)と71年の3倍以上に達すると予測され,しかもこのうち約80%を東半球から輸入し,その圧倒的部分を供給余力のある中東に依存せざるをえないことが明らかにされている。

このような情勢で,72年未から73年にかけてアメリカにおいて石油不足が表面化し,同じ頃エネルギー調査報告書や諸論文,さらには大統領エネルギー教書が相次いで発表され,「今すぐ適切な措置をとらなければ,真のエネルギー危機に直面する」ことが明らかにされたことは,エネルギー需給の先行きに対して著しい不安惑を生んだ。とくに従来国内の豊富な資源と西半球にほぼ全面的に供給を依存してきた大エネルギー消費国のアメリカが,ごく近い将来,世界の石油供給基地である中東の石油に大きく依存せざるを得ないことが明確にされるに及び,世界の石油需給構造に急激な変化をもたらすものとして,世界的に安定供給への不安感を増大させることとなった。

② OPECにおけるナショナリズムの強まり

1960年9月,メジャーズの原油公示価格引下げを契機として結成された0PEC(「石油輸出国機構」サウジアラビア,クエート,イラン,イラク,ベネズエラの5カ国で発足,後にカタール,アブダビ,インドネシア,リビア,アルジェリア,ナイジェリア,エクアドルが加盟して現在12カ国)は設立以来一貫して公示価格の引上げ,所得税率の引上げ,生産調整の実現,事業参加等の目標を掲げ,石油以外にほとんど収入の途のないこれら発展途上国はその目標の実現に努めてきた。70年代に入って,石油需給が過剰からタイト化の傾向を示すとともに,OPEC諸国は70年10月のリビア原油の公示価格,所得税率引上げを皮切りに,価格の引上げや通貨調整によるドル減価の補償,石油会社の国有化,事業参加などの諸目標の実現を次々に進めてきた。さらに73年に入ると,3月イランのコンソーシアム接収に続き,6月ドル減価補償のためのジュネーブ協定改定,さらに6,8,9月にはリビアによる国際石油会社の国有化実施と,急テンポな攻勢をかけメジャーズの原油供給能力を減少させていった。情勢が産油国に有利に展開するに伴い,OPE C諸国の中には原油価格を引上げる国が現われたほか,アラブ産油国では,石油資源を自己の政治的要求実現のために武器として使う“石油戦略論”が順次浸透してきた。

この間OPECと国際石油資本の力関係は60年代の石油資本優位から70年代に入ると均衡,さらにOPEC優位へと転換してきた。

OPEC諸国の力が強まった背景には,ア.産油国内において,経済的にも政治的にもナショナリズムの気運が強まっていること,イ.OPEC内部では協調政策推進による数々の成果によりますます共同歩調を強めてきたこと,ウ.サウジアラビア,クエート,リビアを申心に外貨蓄積が急テンポで進み,財政基盤が強化されたこと等があげられる。しかし,70年代に入って石油需給がタイトの方向に転じたことや国連での発展途上国による「天然資源恒久主権」の宣言にみられるように資源保有国のナショナリズムが国際世論に浸透してきたこと等,国際環境がOPECに有利に展開してきた点も見逃せない事実である。

しかし,72年以降のOPEC諸国の行動には従来の石油収入の増加要求を中心とする姿勢からさらに一歩進めて,石油にからむ幅広い政治的経済的要求を積極的に実現しようとする新たなナショナリズムの展開がみられる。その内容も,ア.天然資源に対する主権の確立(事業参加協定に基づく合弁事業の促進,国有化推進,利権契約から請負契約への切換え,ダウンストリーム部門一精製,輸送,販売部門一への進出),イ.自国および協調国の工業化,経済発展の推進(先進国からの経済技術援助受入,留学生派遣)等の経済的なものにとどまらず,自らの政治的要求の実現が新たに加わるなど,一段と広がっている。

また行動様式においても,従来はほとんどの場合メジャーズとの交渉を通じて自己の要求を実現する穏健な態度を保持していたのに対して,一方的に自己の要求を実施に移す強硬な姿勢が目立っている。

さらに石油資源の利用についても,外貨収入の潤沢化,インフレの世界的な高進,資源枯渇のおそれなどを背景に,従来需要に見合う増産を行なっていたのを改め,自国の経済的利益を重視して石油生産の抑制に傾斜し始めている。

以上のように,OPEC諸国は共通の要求を掲げ共同歩調を強めているが,構成各国は人口,政治形態,社会制度,石油賦存状況,経済発展段階,石油収人の必要性など多くの点で異なっているため,利害の不一致があり,見解の相違もみられる。

③ 原油価格の急騰とメジャーズ収益の急増

こうしたなかで,従来主にメジャーズに石油供給を依存してきた主要消費国は,石油の安定供給の確保に強い不安感を抱き,先を争って原油手当てに乗り出したため,産油国の著しい増産体制にもかかわらず世界の石油需給はひっ迫し,原油の価格はかってない速さで上昇した。例えば72年末から73年9月まで原油公示価格は24%の上昇であったのに対し,市場の実勢価格は45%も上昇した。これは一方でメジャーズの原油単位当りの利益を2倍以上にする反面,OPECの利益を25%しか増加させなかったため,OPECの価格面での不満を募らせていった(第3-16図)。

(中東戦争による急激な変化)

以上のように石油情勢が急速な展開を示すに伴い,危機感は主要消費国を中心に広がっていったが,真の意味での石油危機にまで発展させたのは第4次中東戦争であった。すなわちその最中の10月16日,OPEC加盟のペルシャ湾岸6カ国は原油公示価格の70%(市場実勢価格の約30%,第3-16図)引上げを一方的に実施するとともに,新しい価格算定方式の採用と価格決定権の産油国帰属を明確に宣言した。翌田こはOAPEC(アラブ石油輸出国機構)10カ国が73年9月の生産水準を基礎に毎月5%の生産削減とアラブ敵対国に対する輸出禁止措置を実施,さらに11月4日改めて11月-の削減率を9月水準比25%に引上げ,今後もさらに減産を拡大していく方針を明らかにした。OAPECは石油供給制限を「イスラエルがアラブの全占領地から撤退し,パレスチナ人民の復権が認められる」まで継続することとしたが,これは文字通り“石油戦略”を発動したものであり,石油危機と中東問題は不可分の形で解決を迫られることになった。

この結果,主要消費国はいずれも当面かなりの石油不足に見舞われることが確実となり,その影響が経済各部門や国民生活のすみずみまで及び始めている。各国政府は石油消費規制等様々の対策を相次いで打ち出すとともに,石油の安定供給確保対策に苦慮している。

(3) 石油に依存した先進国経済

先進国は戦後の順調な経済成長の過程でエネルギー資源や,石油化学の原料として石油への依存度を著しく高めてきた。その理由は第1に,50,60年代には石油過剰の時代で石油資本(メジャーズ,独立系を問わず)の販売競争激化によって石油の低価格と安定供給とが十二分に保障されたこと,第2に,当時は石油化学の新製品の開発や製造技術の開発が活発に行われ,均一の品質で大量生産が可能となり大幅なコストダウンで多くの商品に代替していったことである。この結果,産業構造,輸送体系はもとより,国民生活のすみずみまで石油に著しく依存する体制を作りあげてきた。以下でその実態をみよう。

(石油依存度の高まり)

60年代末までの安定した石油供給体制の下で,先進国のエネルギーに占める石油の割合は飛躍的に上昇した。例えば一次エネルギー供給に占める石油の割合は,50年にはアメリカ40%,西欧12%,日本7%,60年においてもそれぞれ45%,35%,42%であったのが,72年にはアメリカ46%,西欧62%(うちイギリス49%,西ドイツ58%,フランス70%,イタリア80%),日本76%と著しく高まっている。とくに西欧,日本の上昇が著しい(第3-17図)。

このような石油への傾斜は各国の経済成長とエネルギー消費との関係をより典型的に示すものである。エネルギー消費と経済成長,鉱工業生産との関係をみると,多くの国で50年代よりも60年代においてそれぞれのエネルギー消費弾性値が上昇しており,エネルギー多消費型の産業構造が定着したとみられる。さらに,先進主要国の国民1人当りエネルギー消費増加率はイタリアを除いていずれも50年代よりも60年代に一段と高まり,しかも各国とも家庭用の消費ウエイトが急上昇する傾向にある。これば60年代のエネルギー消費加速化の主因が,主に各国国民生活の向上と深く結びついていたことを物語っている。ただし,石炭や原子力がコスト,環境問題,技術開発力の遅れなどの制約から主たる供給源となりえなかったことも見逃せない。

(国によって石油エネルギーの使い方は異なる)

しかし,国民経済における石油エネルギーの使い方は国によりかなり異なる。例えば70年の石油エネルギー消費の部門別構成をみると第3-18図に示されるように,アメリカは交通用が圧倒的に多く産業用が極端に小さいのに対し,西欧は産業用(家庭用,その他は一般家庭用に限らず商業事業用をも含む)を筆頭にしながらもほぼ3等分されている。他方,日本は産業用の比重が大きいのが目立っている。次に各部門のエネルギー需要のうち,どの程度石油に依存しているかをみると,交通部門では各国とも石油が圧倒的に高い。産業部門ではアメリカが低いのに対し,日本,西欧では約5割とかなり高い(第3-18図)。

(国民生活に浸透する石油化学製品)

石油を原料とする石油化学工業は,技術開発を通じ多様化した石油化学製品の国民生活における役割を著しく高めてきた。

石油は合成繊維,合成樹脂,合成ゴム,合成洗剤等となって国民生活のすみずみにまで浸透している。たとえば,石油を原料とした化学繊維品の繊維品全体に占める割合(72年)をみると,世界全体で26%であり,日本の場合は輸出入分も含めて47%とすでに大きな比重を占め各国国民にとって不可欠のものとなっている。

したがって,石油の供給が不足すれば,石油を原料とする各種工業製品の供給不足も避けられず,国民生活への影響もエネルギー,原材料の二重の意味で圧迫を加えることになる。

(4) 石油危機の影響

石油供給の不安定化,原油価格の急騰が当面避けられないことは明らかであるが,供給削減がいつ終るかなど事態が極めて流動的であるので,はっきりした影響は見定め難い。しかしOAPECの供給削減措置がたとえ早期に解除されたとしても,以前のように需要に見合って供給されるという状況に復帰するわけではないので,石油需給ひっ迫,原油価格の上昇等は,他の代替エネルギーが主役となり得るまで,-かなり長期にわたって続くことが,明確になった点は極めて重要であろう。

以下では,これらの観点を踏まえて,石油危機が当面先進各国経済にどのような影響を与えつつあるか概観することにしよう。

(国により異なる影響)

まず石油の不足状況をみよう。中東の石油専門誌MEESの見通しによると,73年11月中旬のアラブ産油国の生産量は1日当り約1,570万バーレルと9月の生産水準(約2,050万バーレル/日)を23.5%下回っているといわれるが,これは10月初めの世界の原油取引量(約3,300万バーレル/日)の14~15%,自由世界の消費量(約4,500万バーレル/日)の約11%の不足に相当する。9月以前において,これら産油国が需要見込みに合わせて,年率10~30%以上の著しい増産体制をとり,その時点ですでに自由世界の需給が均衡に近い状況にあったこと,今後もさらに減産が拡大されていく可能性もあること等を考慮すれば,世界的にみた現実の不足状況がさらに強まる恐れもある。

主要消費国の当面の石油不足状況は,各国の石油輸入依存度とアラブ産油国依存度,アラブ諸国の扱いの程度(友好国か禁輸対象国か中立国か等),メジャーズの供給度とその供給政策等により,国により大きな差が出ている。例えば,禁輸対象国とされているアメリカは,石油輸入依存度約30%,アラブ依存度約10%と西欧諸国に比べはるかに影響の少ない構造であるが,石油製品を西欧諸国から一部輸入していることもあって,当面10~17%の石油不足(全エネルギー消費の5~8%,大統領11月25日演説)を予想している。総供給の3分の2以上をアラブ諸国に依存しているオランダは,禁輸国とされたため不足度合は最も大きいが,一方で輸入石油の80%近くを西ドイツ,イギリスを中心とする西欧,北欧諸国に再輸出しているので,その影響は近隣諸国にも及ぶ。石油輸入量(73年1~6月)のそれぞれ63%,77%をアラブに依存するイギリスとフランスは,友好国とされたものの,メジャーズの供給政策やオランダ禁輸の余波等により,必ずしも影響をまぬかれているわけではない。石油供給の7割以上をアラブに頼る西ドイツでは,オランダからの供給減も加わり,政府が12月初めには原油の15%,石油製品の20%不足(11月22日経済相表明)を見込んでいる。

一方,石油エネルギーの最終消費構成は,国によりかなり差があるため,石油消費抑制策の内容如何によってば需要抑制効果も異なり,不足の緩和状況にも差が出てこよう(第3-18図)。例えば交通用消費の比率は,アメリカ60%,西欧34%,日本27%であるため,自動車の速度制限や休日ガソリン販売禁止,非効率航空機の減便等交通部門の節約効果はアメリカで最も大きい。逆に産業用ではアメリカが天然ガスに圧倒的に依存していることもあって,節約の余地は最も乏しい。「家庭,その他用」は各国とも似かよった比率であるので,暖房温度引下げ等各種の浪費チェックや節約措置によって同程度の需要が抑制されよう。概してアメリカは交通用を中心に不急不要の燃料節約を積み重ねることによって需給緩和を図ることに自信を持っているようである。

(景気・物価動向への影響)

一般的には,電力等エネルギー不足による操業短縮,石油化学等産業の原材料不足の深刻化などから,供給面の制約が強まる一方,エネルギー,原材料価格高騰によるインフレ促進作用等が考えられる。このため経済成長が減速するとともにインフレ圧力はさらに強まることが予想される。

欧米諸国の景気は,73年第2四半期以降,基磯資材など供給面での制約と財政金融引締め政策の浸透によって次第に拡大テンポを鈍らせている。今後もインフレ傾向が続くなかで石油危機によって供給上の制約が一段と強まり,さらに石油消費規制等需要抑制作用も加わって景気は悪化に向うとみられる。アメリカでは,74年に実質成長率2~3%,物価上昇率5%以上,失業率5~6%と73年の好況に比べ経済情勢の悪化が予想されていたが,石油危機によってそれ以前に比べ成長率で1~2%の低下,失業率の急激な上昇,物価上昇圧力の強まりが見込まれ,スタグフレーションの懸念が強くなっている。民間ではすでに自動車産業を中心に,急速に広がり始めたレイオフ(一時解雇)等現実に景気悪化の兆しが一部でみられる。産業界への影響では,最も石油を多く消費する化学産業をはじめ,自動車,ゴム,一次金属,ガラスなど基幹産業や影響力の大きい自動車産業等に打撃を与えるとされているので,石油不足の長期化はアメリカ経済にとっても深刻な問題となりつつある。

一方西欧では,西ドイツ政府が供給削減が短期の場合実質2~3%の成長と削減以前とあまり変らない見通しを明らかにしているものの,長期化した場合成長率ゼロもあり得るとし(11月22日政府見通し),当面引き締め政策を堅持すべきであるが,若干の分野では一部緩和がすでに必要になっている(首相11月29日)と表明している。イギリスでも10%の生産削減により平均3.5%生産低下,大企業のコスト上昇6~7%(国民経済社会研究所),石油価格上昇による消費者物価の0.5~1%の上昇が予想されている。フランスでは政府は,74年の実質成長率を当初5.5%としていたが,最近では成長率は2.5~3.5%に鈍化するとの見方もあるほか,消費者物価も石油製品の値上りから0.6%程度の上昇は避けられぬとしている。

このように石油危機により,主要国経済は程度の差はあってもスタグフレーションにおちいるおそれがある。その結果先進諸国では,財政金融政策の機動的運営の必要性が高まるとともに,緊急措置として,石油等の広範な統制措置の導入が避けにくいものとなっている。こうしたなかで各国政府は,統制の弊害を最小限にとどめながら,資源の適正配分,所得配分の公平,福祉の向上等の実現を図ることが緊急の課題となっている。

(国際収支への影響)

石油危機は各国の国際収支や国際金融通貨情勢にも影響を与え,新たな問題をもたらす可能性がある。

供給削減が解除されても石油価格の高騰は,消費国にとっては(たとえ輸入量の伸び率が鈍化するとしても)かなりの輸入額増大を招き,他方,産油国には石油収入の急増,貿易収支黒字の累積,対外準備の著増をもたらす。

主要工業諸国の石油輸入額は,すでに71年で各国とも20~35億ドルを記録しているが,今後石油輸入量の増大と原油実勢価格高騰の影響を受け,これが急速に増大することになろう。例えば,イギリス政府は石油価格急騰を主因に74年には6~10億ポンドの輸入増と予想しているが,他の諸国についても今後輸入量が横ばい,価格上昇が73年10月の30%アップという単純な仮定のもとでも,石油輸入額の年間30%増は避けられない計算となる。石油輸入国である主要工業国にとって相当の負担となろう。もっとも金融センターを抱えるアメリカやイギリスなどにおいては,産油国からの相当量の資本流入を期待できることもあり,国際収支への悪影響はかなり緩和されようが,他方,それができない諸国においては,主要工業国といえども石油輸入顛増大を賄うために輸出促進等国際収支均衡努力も必要になろう。東南アジアでは石油消費規制を実施したり,経済開発計画を予定通り進められなくなる国も出始めている。

一方,OPEC諸国の石油収入(現行の価格システムでは1バーレル当り原油公示価格の約6割が産油国の石油収入)は,アラブの大産油国を中心に増加を続け,70年の約75億ドルから,72年には倍増の約150億ドルに達しにものと推定されている。73年10月の公示価格の70%引上げによって,74年にはたとえ生産量が73年と同程度としても300億ドルを下回らないとみられる(第3-19図)。しかも当面石油需給のひっ迫基調が続き原油価格の上昇は避けられないため,長期的にみても産油国の収入は年々増え続ける可能性が強い。この巨額の石油収入はイラン,インドネシア等国内の経済開発に熱心な多くのOPEC諸国によって,経済開発の原資として使われよう。しかしサウジアラビア等一部の大産油国では,すでに外貨過剰の状態にあり,その規模は国際金融面で無視できない巨額なものになる可能性が強まっている。72年末より欧米諸国の石油専門家の間では,80年に産油国の余剰外貨累積1,000億ドルの予想があったが,今回の原油価格高騰はその実現を早めることになる。

こうした余剰外貨の累積は以下のような問題をなげかける。

第1に,多くの国際金融専門家が観測しているように,現時点でも産油国にはIMFの公的準備に計上されない余剰外貨が相当量累積し,しかも産油国の資金の多くがユーロダラー市場やアメリカの金融市場で,主として極めて流動性の高い短期資産として運用され,国際金融面で攪乱作用を起す可能性の高いことである。このような状況で今後さらに余剰資金がいわゆるオイル・ダラーとして短期間に急増すると,国際通貨制度の不安定度を増す恐れがある。

第2に,余剰外貨の急速な累積は,産油国の増産意欲を抑える方向に作用する。すでに産油国には,世界的なインフレの高進と石油需給のひっ迫を背景に,主要国の需要に見合った石油増産は,自国の将来の収入源を早期に失わせることになるほか,減価していく外貨を蓄積するよりも石油を地中に温存して生産を調整した方が有利であるという意識が急速に浸透している。

この2つの問題点を解決するために,産油国の余剰資金をどのような形で活用するかを世界的規模で十分に検討する必要性は一段と高まったといえよう。

(5) 各国は緊急石油消費規制措置を採用

欧米諸国は,石油供給削減という突然生じた困難な事態に対して,当面の緊急対策としで石油消費規制措置を実施している。

石油消費規制措置については,アメリカはすでにニクソン米大統領が73年4月及び6月にエネルギー教書において,国民に対しエネルギー節約を呼びかけていたが,10月の中東戦争ぼっ発以降,イギリス,フランス等主要国も同様な呼びかけを行った。その後アラブ産油国の生産削減措置の早期解決の可能性が薄れるにつれ,強制的な消費節約のための法令を整備し,アラブ産油国の自国に対する削減状況等を勘案しながら,自主規制措置ともあわせて必要な節約措置を逐次実施に移している。

まずアラブ産油国の禁輸措置を受けたオランダは,戦時中の配給法を復活させ,11月4日には自動車の日曜日運転禁止及び最高速度制限を実施に移している。また,スイス,デンマーク,ベルギー,ルクセンブルグ,西ドイツ等の諸国がこれに追随している。

各国の実施状況は,第3-4表に示されているとおりであるが,このうち主要国についてみることにしよう。

アメリカについては,大統領はエネルギー消費規制に関する緊急立法を議会に要請し,また石油及び石油製品の強制割当てを卸売段階で行う石油割当法を発効させた。緊急立法措置は,夏時間制採用,自動車の速度制限,航空機,船舶等の減便等に重点を置いており,ガソリンスタンドの休日閉鎖等については自主規制措置をとっている。

西ドイツは,11月10日エネルギー保全法を発効させ,エネルギーの生産,販売,最高価格等についての規制を政令で行うことができるようにし,船舶,航空機を含む乗物の日曜運転禁止,最高速度制限を実施した。このほか石油業界が自主規制により石油製品の公正割当,給油制限等を行っている。

フランスは,石油消費規制のための政令を制定することによって,自動車の休日運転禁止,最高速度制限,ガソリンの割当制等が実施できる態勢にあるが,石油供給に比較的余裕があるため自動車の最高速度制限等を自主規制の形で実施している。

イギリスでは,電力,石炭部門における労使間の緊張もあって,石油,電力等の消費を規制するため11月13日非常事態宣言を発表した。更に,政府は包括的な石油・電力規制法を成立させ,これにより石油,石油製品の販売,価格の統制等を実施していく意向である。現在,石油会社,ガソリンスタンドに対し石油製品の販売につき10%削減を実施し,広告用照明等の全面禁止措置を講じている。

以上のように,欧米主要国の消費規制措置は,まず浪費をつつしむとの観点から,最終消費部門の節約を進め,失業の増大を最少限にとどめるため生産活動にはできるだけ影響を与えないように配慮し,また自国の不足状況をみながら,機動的に対処している。

(6) 主要国の中長期の石油・エネルギー対策

過去において,イギリスは67年に燃料白書を発表し,石油,石炭,天然ガス及び原子力の4エネルギー時代への移行を明らかにした。また,アメリカも71年に国内資源開発,新技術開発,環境対策を柱とするエネルギー教書を発表した。だが石油が豊富かつ安価に入手できた時代には,それほどの関心を呼ばなかった。

しかし,72年末からアメリカにおいて顕著となった石油需給ひっ迫は,73年10月6日の第4次中東戦争ぼっ発,ひき続くアラブ産油国の生産削減措置によって,消費国の中期的石油・エネルギー対策に大きな転換を迫ることとなった。

欧米の主要先進国の対策は,石油・エネルギー資源の賦存状況,輸入依存度,外交上の立場等の違いによって異なる。アメリカは豊富な国内資源を有し,輸入依存度も低いが,国際政治上,強力な立場を保持する上から,石油・エネルギー資源の自給体制の確保に重点を置いている。西ドイツ,フランス,イギリス等の欧州諸国は,国によって代替エネルギー資源の賦存度に差はあるにせよ,石油の大半を海外,特に中東に依存しており,弾力的な産油国対策,国内及び海外開発の促進,国内市場への介入等によって石油・エネルギー資源の安定供給の確保に努めている。

このように,石油の需給がひっ迫している中にあって,ソ連,中国等の共産圏諸国は,石油・エネルギー資源の保有国であり,将来供給国として期待される面がある。

これらの点について,以下主要国の状況をみることにしよう。

(アメリカ)

アメリカは,国内に豊富なエネルギー資源と開発技術を有し,石油輸入は急速に増加しつつあるものの,全消費量の1/3で,アラブ産油国へはさらにその1/3を依存しているに過ぎない。現在,アメリカは今世紀初めの自給体制への復活を指向している。

アメリカの基本的なエネルギー対策は,73年4月及び6月のエネルギー教書に明らかにされている。その特色は,第1に,現在及び将来における包括的なエネルギー対策を示したもので,短期的には対外依存の増大はさけられないとしつつも,国内資源の開発により自給率の向上を図る。第2に,アメリカの安全保障,環境保護,合理的な価格でのエネルギー供給の確保という諸目標間の調和を図るとしている点にある。

具体的には,短期的目標として,国内石油産業保護のために設けられている輸入割当制度を撤廃し,その代わりに輸入手数料制度を導入し,中長期的目標としては次のような対策を講ずることによって,国内資源の開発促進をめざしている。

    ・天然ガスの井戸元価格の規制緩和

    ・大陸棚開発の促進(79年までに連邦政府所有の石油,天然ガスの利権供与面積を3倍に増加,サンタ・バーバラ沖開発の再開)

    ・アラスカ,ノース・スロープ石油のパイプラインに関する規制撤廃

    ・オイルシエールの埋蔵量6千億バーレルのうち採堀の容易な8百億バーレルの開発促進

    ・地熱発電計画に基づき,連邦政府所有地の貸与促進

    ・石炭資源開発へ最優先順位の付与(具体的には,環境保全立法の早期成立,大気汚染防止法の適用緩和)

    ・原子力発電所の建設許可手続きの簡素化,国内採鉱活動を促進するため投資税額控除制度の拡充

さらに,新エネルギー源の開発と利用技術の研究が必要であるとの見地から,74年度予算において研究開発費の大幅な拡充を図ったが,75年度から5年間100億ドルの研究開発計画を立てることとしている。

前述の国内資源開発については,議会の個別法案審議に当り環境保護を主張する人々からの強い抵抗が予想されているが,中東戦争による危機感の高まりを背景に,ピーク時日産2百万バーレルというアラスカ・パイプラインの建設法案は議会を通過し,74年春着工3年後の完成が見込まれ,今後エネルギー研究開発法案等他の法案の審議も促進されよう。

(西欧主要国)

西欧諸国は石油のほとんどを輸入に依存しており,とくにアラブ産油国への依存度が高い(第3-20図)。しかし,国別にみると,石炭産業を有する国(イギリス,西ドイツ)と有しない国,メジャーズを有する国(イギリス,オランダ)と有しない国,原子力開発を積極的に推進する国(イギリス,西ドイツ,フランス)とそうでない国など,エネルギー供給条件の違いがみられ,さらにエネルギー政策の運営についても,ドイツのように市場メカニズムに依存して経済政策を追求する国と,フランスのように市場に対し国家の介入を積極的に行なっている国とではかなりの違いがある。しかし,最近では,ドイツでもエネルギー供給確保のため,政府の介入が必要であるとの見解をとっている。

① 西ドイツ

西ドイツの長期エネルギー政策は,73年2月の73年度年次経済報告及び8月発表の長期エネルギー政策大網に明らかにされている。これをみると,エネルギー源に占める石油の地位はゆるがない(構成比でみて,72年の55%から85年には54%にやや低下する)が原子カエネルギー,天然ガスの割合は高まり,石炭の地位はかなり低下するとみている。

原油の安定的確保のためには,産油国,消費国及び共産圏諸国との国際協力に努力するとし,また,ドイツの石油産業を強化するため,石油企業の再編成を行なうとしているが,国際石油資本の役割り(現在市場シエア75%)は依然重要であるとみている。

石油以外のエネルギーについては,原子力発電所の増設を促進する(85年までに700億マルク以上の投資額が必要)とともに,国内炭についても,コスト高ではあるが社会的,安全保障上の理由から,その供給を止めることはできず,特に,発電所用石炭を安定的に供給するものとしている。

西ドイツの石油政策で注目されるのは,石油企業の再編成の問題である。

西ドイツは戦後一貫して自由主義的色彩の濃い政策を追求し,ドイツ石油供給会社(DEMINEX)に対し財政補助を与えてきたが,石油の安定供給及び海外開発をさらに促進するため,民族石油資本を結集し,政府がこれに大幅出資して,74年に国策石油会社を設立するという構想が進められている。

すでに政府はゲルツェンベルク石油会社の株式48%取得を決定している。また,対外的には,ソ連から天然ガスを輸入し,イランと精油所建設計画の交渉を進めている。

② フランス

フランスは,石油市場に対する政府の介入が,西欧では最も厳しく,フランスの石油消費に見合う分をフランス企業が開発し,国内精製及び販売の半分以上をフランス企業が支配する等自主性の確保に力-を注いでいる。

フランスの海外石油開発は,フランス石油会社(CFP)及びELF石油事業研究公社(ELF,ERAP)を中心に進められている。もっとも71年2月アルジェリアが石油権益の51%国有化,72年6月イラクが国際石油資本IPC(CFP参加)の99%国有化を行ったため大きな打撃を受けた。しかし,その後CFPのアルジェリア再進出,イラクとの長期契約の締結(イラクからCFPの資本参加率23.75%分に対し有利な価格で10年間の供給保証を取得)等フランスが産油国に対して協調していくという柔軟な姿勢が続みとれる。

また,フランス政府は,72年秋精油所の設備拡張の認可は,原油の供給状況をみて決めることとしたが,さらに73年6月,政府は76~85年間の精製割当ての決定に当って,業者に対し一定の割当て分の原油供給を行なわなかった場合には,操業を許可しないとの通達を出しており,原油の供給確保に努めている。

③ イギリス

イギリスは,ブリティシュ・ペトローリアム(BP),ロイヤル・ダッチ・シェルのメジャーズを有し,国内石油産業の活動は民間主導を原則としている。

イギリスは,エネルギー需要の半分近くを国内石炭ならびに天然ガスに依存できるので,他の共同体加盟国に比べて有利である。石炭は欧州全体の生産量の約半分を占め,今後政府の補助が期待されるが,炭層の枯渇という心配がある。

イギリスは,最近,北海の石油開発に力を注いでいる。北海の石油は,未だ開発の初期の段階にあり,生産開始は75年からといわれているが,開発量は80年代初めにおける欧州の一次エネルギー需要の15%以上を占め,イギリスの石油消費量の50%を供給するものと期待されでいる。しかし,北海石油は,硫黄分が少なく良質である反面,海洋開発技術の困難に伴うコスト高,イギリス,ノルウェー間の政治的あつれき等の問題がある。

④ EC

EC共通エネルギー政策は,加盟国間の立場の相違によりはかばかしい進展がみられなかったが,国際情勢の変化に伴い,総合的な政策樹立の必要性が強く認識されるに至った。73年5月のエネルギー閣僚理事会において,E C委員会作成の基本方針は大筋において妥当であるとの評価を受けたが,具体的目標については,73年末までに委員会がさらに提案を行うこととされた。

基本方針の要点は,第1に主要輸入国間の協力が重要であり,協力は無差別,義務は相互的なものでなければならず,緊急時において,各国の需要に見合った割当制度を実施する。第2に共同体と輸出国との間の相互補完関係を発展させるためには,相互信頼の気運を醸成することが必要である。第3にメジャーズとの協力関係を確立し,産油国との重要な交渉に当っては,事前に打合せを行うというものである。

(共産圏)

現在OECD加盟の西欧諸国と日本は合わせて原油総輸入量の2.8%をソ連に求めているにすぎないが,西側諸国にとって共産圏からの開発輸入を増加するとともに,エネルギー供給源の多角化をはかることが必要になっている。

①ソ  連

ソ連はコメコン諸国のうちの主要な石油産出国であり,輸出国である。72年の原油生産量は4億トンに近く,その4分の1余りの原油と石油製品を輸出している。また天然ガスの採取は50年代後半から急増し,現在2,000億立方メートルに達しているが,その輸出も近い将来かなり拡大するものと予想される。ソ連のほかコメコン諸国で石油を自給しうるのはルーマニアだけである。

ソ連の石油輸出は,コメコン諸国を中心とする共産圏向けが60%,自由圏,主として先進国向けが40%を占める。この石油輸出は輸出総額の13%と量的に大きいばかりでなく,コメコンの経済的結びつきの強力な手段であると同時に,先進国からの外貨の確保の主要な源泉でもある。その意味で,ソ連にとって国内需要を充足した上でコメコン諸国への供給を確保しつつ西側への輸出を増強するため配分の調整が重要となっている。ところで第3-21図に示すように,60年代の前半には西側向け輸出が大きく伸びたのに対し,後半には共産圏向けが急速に増大して,両者のシェアが逆転している。

ソ連の石油および天然ガスの需給状況をみると,当面かなりの余力があり,電力を含む全エネルギーの産出量はその10%以上が輸出に向けられ,第9次5カ年計画(1971~75年)では33.7%の増加(66~70年は24.8%増)が予定されている。

ソ連では原油が約1,400億トン(オイル・アンド・ガス・ジャーナル誌推定),天然ガスが約18兆立方米(ソ連公表)という大きな確定埋蔵量があるが,これらの開発には,つぎのような問題が含まれている。

第1は長距離輸送の問題である。ソ連の石油および天然ガスの生産中心地は,シベリア,中央アジアの諸地域に移りつつあるが,これに伴いパイプラインによる長距離輸送が必要となっている。そのためパイプの需要は大きく,すでに西側からの大口径,高質の鋼管輸入とその見返りとしての長期にわたる天然ガス輸出の協定が成立している。この協定により68年からオーストリアに輸出され,73年10月西ドイツ向けパイプラインが稼動し,74年にはイタリア向けの輸出が始まる予定である。

第2は産出中心地の移動に伴う開発条件悪化の問題である。たとえば近い将来ソ連の石油,天然ガスの最大の産出地となる-といわれる西シベリアのチュメニは酷寒の沼沢地であり,またカザフ共和国のガス鉱床は砂漠地帯にある。したがってその開発には多額の資金と高度の技術を必要としている。現在問題となっているチュメニの石油およびガス,ヤクートの天然ガスなど,ソ連が日本,アメリカ,その他西側諸国から資金と技術を導入してエネルギー資源の開発を促進しょうと努めているのは,まさにこうした要請に応えようとするものである。

②中  国

アメリカの石油地質協会調べによると,中国には大慶油田,冷固油田,クラマイ油田,勝利油田など,内陸地区で確認された石油埋蔵量だけで27億トンあるといわれている。ほぼアブダビの水準でイラクに次いで世界第8位の埋蔵量である。うち可採埋蔵量は10億トン,可採年数は40年である。このほか巨大な油田が存在し,世界に残された数少ない有望地区とみられている中国沿岸の大陸棚は,現在やっと探査が始まったばかりだが,それでも,すでにぼっ海湾で,日本から購入した海洋堀削船「ふじ」号によって本格的採塀が開始されているという。

中国の原油産出量は,60年代初期,開発に成功した大慶油田および勝利油田によって増産幅を高め,72年に人造石油をふくめ年産3,000万トン(約2億4,000万バーレル)に達している。国内消費状況をみると,従来の軍事用および貨物輸送重点から,最近は,産業用(石油化学の発展),農業用(動力機械の普及),建設用あるいは旅客輸送用(民間航空網の増強)も含めて,ほぼ自給の域に達している。海外からの輸入は現在,イラク,イラン,クウエイトから少量の製品輸入が行なわれている。一方,62年以降,北朝鮮,北ベトナム,東アフリカ諸国に石油製品の輸出が行なわれてきたが,73年にはじめて日本向けの原油輸出がはじまった。さらに73年末の石油危機発生に際して,香港,タイ,フィリピンなど東南アジア諸国向けの輸出が開始された。

ぼっ海湾を始めとする大陸棚の海底油田開発について,中国は原則的に海外諸国との共同開発は行わないという方向で進んでいる。しかし,海外の技術たとえば堀削装置一式を買入れるとか,あるいは人的要員の確保という向では,多分に国際協力を意識しているようである。

(メジャーズの対応策)

国際石油産業において,7大メジャーズは原油の生産,精製・輸送,販売面を支配し,71年多国籍企業の売上高でみて(国連資料による),エクソン2位,シエル4位,モービル7位,テキサコ9位,ガルフ13位,BP14位,ソーカル16位と上位を占めており,まさに多国籍企業中の多国籍企業といえる。

従来メジャーズは,産油国と消費国との間に介在し,石油の安定供給機能を果してきたが,前述のように産油国の価格引上げ,生産制限,事業参加,国有化によって,生産面においては後退を余儀なくされている。

これらの措置は,今後メジャーズに対し,利益減少による新規開発資金の減少,生産面の後退による安定供給機能の阻害等の面で大きな影響を与えることとなろう。

しかし,メジャーズはダウン・ストリーム部門において圧倒的優位を占めており,また原油価格の高騰を背景に,今後中東以外の石油及び代替エネルギー資源の開発が採算ベースにのってくるため,次に述べるような積極的な対策を講じてその地位の保全を図っている。

第1に,開発地域の多様化である。メジャーズは,世界各地で探鉱活動を行なっているが,原油獲得のフレキシビリティを維持するために,リスクの大きい中東,北アフリカ地域から,各国の沖合地域,西アフリカ,ペルーエクアドル等未開発地域へと投資先の転換が図られつつある。例えば,中東に大きく依存するシエルの北海開発,アメリカ系メジャーズのノース・スロープパイプラインの建設,アメリカ沖合地域の開発等である。

第2に,総合エネルギー企業化である。今後,石油価格が上昇するにつれて,代替エネルギー資源の開発が脚光をあびてくることになるが,メジャーズは石炭,タール・サンド,オイル・シエール,原子力エネルギー資源の開発に力を集中しつつある。

また,メジャーズの活動は,代替エネルギー部門にとどまらない。例えば化学部門への進出はメジャーズに基通した現象であり,なかには非鉄金属部門への進出さえみられる。

(7) 今後の課題

石油はこれまで豊富かつ安価なエネルギー源として最も経済性にすぐれていたため,先進諸国ではこれを最大限に利用することによって,経済成長を達成してきた。今や先進国経済は,産業活動,輸送,国民生活のすみずみにまで石油に大きく依存している。

しかし,石油の主な供給源は中東産油国であり,国際政治問題もからんでいるので今後も石油の安定供給および価格の面で問題が残ろう。したがって石油依存度の高い先進国経済には少なからぬ影響がでることが懸念される。

(資源節約をはかり省資源型経済成長を)

先進諸国のこのような石油資源への依存体制,とりわけ中東産油国への依存体制を短時日のうちに転換することはきわめてむずかしい。このため,各国とも当面は石油の不足状況をみながら,消費規制を実施せざるを得ない状況にある。欧米諸国ではできるだけ浪費的な消費を規制することによって,経済活動に与える影響を最小限にとどめるよう努めていることは注目される。しかし実施にあたっては,需要者間の公平な負担と節約の倫理を確立することが必要であろう。

中長期的には,先進諸国は人類に必要なエネルギー資源を確保する見地から,新石油資源の採鉱,開発,核融合をはじめとする原子力,太陽エネルギー,地熱等の代替エネルギー資源の研究開発を積極的に推進することが重要である。また,これまでの資源エネルギー多消費型の経済構造を改め,省資源・省エネルギー型の経済構造への転換を促進することによって,限りある貴重な資源を有効かつ適切に配分,利用し,もって適正な経済成長を維持していくことが必要であろう。

(国際協調の必要性)

輸入依存度の高い先進諸国としては,産油国と同時に,石油供給に独特の機能を果しているメジャーズと,さらには先進国間の協調を図っていかねばならない。

先進諸国は生産面において,今後その地位を高めていく産油国との協調を進める必要があるが,その際短期的観点のみならず,経済・技術協力その他長期的観点に立って,産油国の経済開発に貢献していくことが必要である。

また,先進工業国間の協調も重要である。OECDでは,73年6月の閣僚理事会において,十分なエネルギー供給が加盟国にとりきわめて重要性を有することが認識され,エネルギー政策に関するOECDでの協力を強化する必要のあることが表明された。また,石油委員会においては,緊急時石油割当制度の欧州諸国以外への拡大について協議が行なわれた。この制度はすでにOECD加盟の欧州諸国では制度化されているが,オランダがアラブ産油国から禁輸措置を受けているにもかかわらず,現在のところこの制度を発動できない状況にある。

また,中長期的にみて石油・エネルギー資源の新規開発,研究開発に当って先進国間の協力の余地は大きく,このための努力が推進されるべきである。