昭和48年
年次世界経済報告
新たな試練に直面する世界経済(資源制約下の物価上昇)
昭和48年12月21日
経済企画庁
第3章 強まる資源の制約
(ロイター商品相場指数は2倍以上の高騰)
一次産品市況の著しい高騰は72~73年の世界経済にみられたもっとも注目すべき出来事の一つである。一次産品市況は72年7月以降騰勢に転じ,代表的な国際商品相場指数であるロイター指数は,最近1年間に約2倍の暴騰を示している。このように国際商品市況が高騰したのは,朝鮮動乱以来のことで規模としては最大である(第3-1図)。
今回の価格高騰は農産物にはじまった。これは72~73年にかけての異常気象により,72年の穀物生産が前年比3.6%減少したところに,ソ連・中国の大量穀物買付けがみられたため,国際需給がいっきに逼迫し価格高騰の発端となった。
72年末から73年初めにかけ,羊毛,砂糖が急騰し,さらにその後先進工業国の景気上昇を映じて,非鉄金属,綿花等も著しい高騰に転じた。こうして,73年5月以降は全面的な価格上昇となっている。朝鮮動乱時はゴム,非鉄,羊毛などの工業原料品と,ココアなど特定商品の急騰が市況に大きな影響を与えたのに比べ,今回の商品市況高騰の深刻さがうかがわれる(第3-1表)。
国際商品市況は8月中旬頃から10月上旬にかけ騰勢が頭打ちになっていたが,その後10月に勃発した中東戦争の影響から,非鉄金属,ゴム,小麦等はさらに著しい高騰を示している(第3-2図)。
一次産品価格は従来,工業製品価格にくらべ価格的に不利な立場におかれていた。これは第3-3図に示されるように67~68年まで世界的景気停滞下で一次産品価格が,低下を続けたことによるところが大きいが,今回の価格急騰により63年を基準とした場合,73年の第1四半期には工業製品価格を上回っている。
(一次産品高騰の原因)
全面的な一次産品市況の高騰の原因としては,上記の農産物需給の逼迫や先進工業国の同時的ブームによる影響が大きい。このほか一部商品については,国際通貨不安やインフレ心理のまん延にともなう換物買いや買い急ぎが行なわれたことも要因となっている。さらに,構造的には非鉄金属の場合,賃金上昇や公害防止費用の増大などによって生産コストが上昇していることが市況を下支えする要因ともなっている。
(世界的インフレを加速化)
一次産品の高騰は,72年央以降の世界的な激しい物価上昇の主因になっているが,とくに輸入国に大きな影響を与えており,イギリスや日本のように食料や原材料の輸入依存度の高い国では,この面からの物価上昇を促進する効果が大きかった。発展途上国は経済基盤が弱いだけにその影響も深刻で,多くの国で食料不足と大幅な食料品価格高騰に悩まされ,一部の国では社会不安の強まりもみられる。
他方,輸出国にとっては国際収支面に好影響をもたらしている。農産物の大輸出国であるアメリカやカナダ等では,輸出価格高騰と輸出量拡大から貿易収支改善に大きく貢献している。また,東南アジアではマレーシア,シンガポール,フィリピン等の一次産品輸出国の貿易が好調に推移している。
以上のように一次産品市況の高騰は,国際経済にいろいろな影響をもたらしているが,このうちわが国にとってもとくに重要な問題となっている農産物と石油をとりあげ,検討することにしよう。