昭和48年
年次世界経済報告
新たな試練に直面する世界経済(資源制約下の物価上昇)
昭和48年12月21日
経済企画庁
第2章 先進諸国の物価問題
(1) 戦後における先進国の物価上昇
戦後高度成長の持続するなかで,先進国はたえずインフレの脅威をうけており,朝鮮動乱時をはじめとして物価高騰期をいく度も経験してきた。
とくに,インフレ圧力の高まりがみられたのは,終戦直後の混乱期を除いても,①朝鮮動乱時(1950年6月~53年7月),②57~58年,③60年後半,および④70年以降の4つの時期がある。このなかで,現在進行中の物価上昇は,物価上昇率やその広がりからみて,平時としては最も深刻であり,朝鮮動乱時のそれにせまるきびしいものとなっっている。
まず,朝鮮動乱は,戦後復興の途上にあって供給力のまだ十分でなかった先進諸国に,大規模な特需をもたらし,需給ひっ迫を強める一方で,鉱産物を中心とする一次産品価格が高騰したため物価急騰を招いた。しかし,動乱のピークが過ぎた51年後半には,物価の騰勢は急速に衰え,その後,景気が世界的に後退に向ったため物価は鎮静化した。
次に,57~58年の物価上昇は,アメリカにおいてとくに顕著であった。これはスエズ動乱(56年)の影響も一部にないではないが,平時に,しかも景気後退下でおこったものとして注目された。その背景として先進各国でコスト・プッシュ要因,物価の下方硬直性などの強まりが指摘され,new type of in flationとも呼ばれた。しかし,59年以降の景気回復過程で生産性が伸びたため,コスト増は吸収され,物価の上昇率は鈍化した。
60年代後半の物価上昇は,65年以降のベトナム・エスカレーション,アメリカの景気過熱によるアメリカのインフレが大きな要因となった。とくに68~69年には西欧・日本とも景気が過熱し世界的にインフレが進行した。その後先進各国は69年から70年にかけて一斉に引締め政策をとり,景気が停滞に転じたものの,物価上昇はむしろ加速した。この結果,高水準の失業とインフレの併存という,いわゆるスタグフレーションという現象に見舞われた。
そして72年以降各国で積極的なリフレ政策がとられ,景気が回復に向うとともに,物価上昇率は一段と加速し,最近1年間では朝鮮動乱時にせまる高騰となっている。
このように,欧米の物価は戦後いくっかの時期において大幅な上昇をくりかえしてきてはいるが,その推移をOECD加盟国全体のGNPデフレーターでみると,第2-1図に示されるとおりである。その上昇テンポは60年代前半2~3%,60年代後半3~4%となった後,69年以降は5%台をこえるなどすう勢的に高まっており,先進国でインフレ圧力が年々強まっている。
(2) 現在の物価高騰の特徴
現在の先進国の物価高騰の特徴は,第1に,72年央以降の加速が始まる段階ですでにかなりの物価高騰がみられたことである。
第2に,72年央以降の物価上昇率が戦後最高の物価急騰期である朝鮮動乱時のそれにせまる上昇となっていることである。なかでも,イタリア,日本の消費者物価は2桁の大幅上昇となっており,その他の国でも,60年代平均の上昇率の2~3倍にも達する早いテンポとなっている(第2-1表)。
第3に,物価上昇が各国で同時に進んでいることである。これまでの物価急騰期には,比較的物価の安定した国があって,これが世界的なインフレの波及を緩和する役割を果していた。しかし今回は,各国とも大幅な物価上昇を示している。たとえば,60年代には平均して3%弱の上昇率にとどまっていたカナダ,アメリカ,西ドイツなども6~8%の上昇率となっている。
第4は,消費者物価,卸売物価,輸入物価の上昇率をみると,多くの国で輸入物価の上昇が著しく,またこれまで消費者物価に比較して小幅の上昇に止まることが多かった卸売物価が,消費者物価を上回る大幅上昇となっていることである(第2-2図)。
第5は,消費者物価,卸売物価を通じて上昇の中心となっているのは食料品価格の値上りであり,ほとんどの国で50%をこえる寄与率となっていることである。