昭和47年

年次世界経済報告

福祉志向強まる世界経済

昭和47年12月5日

経済企画庁


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第2部 世界の福祉問題

第2章 先進国―生活の質の追求―

6. 自由を育てる余暇

(1) 余暇は福祉の重要な部分

われわれの生活時間は

に分けることができる。フランスの社会学者デュマズディエがいうように,この自由時間の増大は,相反する利害関係に立つ諸勢力の間で,絶えず行なわれる闘争の中で実現されるところの社会的福祉である。

自由時間における人間活動は,今日レジャーとして一括されるが,その定義には二つの流れがある。一つはギリシャ時代の「スコーレ」という言葉に代表されるものである。これは文化あるいは精神活動といったものまで含まれそれ自体で完結する一つの創造的な活動である。もう一つの流れは,イタリアで定着した概念で,ラテン語でいう「オティム」(何もしないこと)である。この両者からも連想されるように,レジャーとはかっては,大衆とは異なった有閑階級や貴族のみが享受し得た活動である。ちょうど,所得を中心にした福祉が,一部の資産階級のみが享受し得た物質的豊かさを,大衆に解放する役割を果たしているように,自由時間の増加,すなわち余暇の増大は文化,スポーツあるいは無為の民主化をもたらすものであった。

自由時間の増加は,主として労働時間の縮小によってもたらされる。労働時間の縮小を可能ならしめた経済的条件は技術進歩であるが,労働時間の歴史をみると,技術進歩は産業革命初期の段階で,労働時間延長の方向に機能したが,その後は労働生産性の向上にともない短縮の方向に機能した。そして最近,オートメーション技術の発展はさらに労働時間の短縮を可能にした。

(2) 労働時間の短縮

1866年,国際労働者協会は8時間の労働,8時間のすいみん,8時間の余暇を重点項目としてとりあげたが,20世紀初頭までは1日10時間労働が一般的であった。1919年のベルサイユ平和条約に基づき創設されたILOは,運動の主要な柱として8時間労働をかかげ,1920年頃には,これがヨーロッパ,豪州,ラテン・アメリカで一般的な労働慣習となった。

1926年,アメリカのフォード社はより多くの自由時間と所得が車の需要を増大させると考え,週40時間労働を打ちだした。これがさらにアメリカで注目されるようになったのは1930年代の大不況時代である。その理由としては,①不況に対処するため企業は労働時間の短縮によって合理化をすすめたこと,②1人当たり労働時間を減少させることで雇用需要を増大させ,賃金の低下傾向を阻止しようとしたことがあげられている。その後第2次大戦をへて,戦後の著しい経済成長の過程で生産性向上の成果を,賃金上昇と共に一部は労働時間の短縮という形で配分することが,労使交渉の中で求められるようになり,週休2日,週40時間労働のパターンが定着することになった。

戦後,西欧では1950年代中ばから60年代の初めに週40時間労働が一般化したが,その他諸国でも週40時間労働をめざす運動が続いている。この週40時間労働は1日当たりの労働時間の短縮ではなく,週休2日制という形で進められている。さらに最近,アメリカの一部企業は週休3日制を実験的に行なっているが,この場合は4日40時間ということで,必ずしも労働時間は短縮になっていない。しかし,通勤時間が1日分節約できるといった利点もあり,自由時間は実質的に増大することになる。この週休3日制について,西ドイツでは時期尚早であるとし,中小企業における週休2日制の完全実施こそ当面の課題であるとしている。

このように西欧諸国では,週労働時間を短縮するという形よりも,年次有給休暇を増加させる形で労働時間の短縮をはかっているので,自由時間の国際比較には有給休暇,有給休日も含めて考えなければならない。主要国の年次有給休暇の実態をみると,アメリカでは全労働者のほぼ半数が2週間以上,さらに20%が3週間以上の有給休暇を得ている。イギリスでは男子筋肉労働者の85%が6~15日,男子非筋肉労働者の65%が11~20日の有給休暇を得ている。西ドイツでは工場労働者の40%が,また職員の50%が24日の有給休暇を与える労働協約によってカバーされている。

フランスでは,69年に法律上の有給休暇制度が従来の18日から24日こ増加され,実際の団体協約では24日を超えて30日,あるいはこれ以上の休暇期間をきめているものもある。夏期に4週間以上事務所を閉鎖する企業は,全産業で65%,製造業では75%を超えている。

労働時間の国際比較は,統計の定義等が異なるため種々の制約があるが有給休暇,休日を考慮したうえで,実質の週当たり労働時間をみると,西欧では平均して36.9時間,わが国では43.1時間となっている。この10年間にわが国では労働時間がかなり減少したとはいえ,現時点では欧米先進国に比してなお長時間労働であるといえる。

(3) 余暇の増大とその活用

労働時間の短縮はただちに自由時間の増加に結びつくものではなく,各国とも職住遠隔化による通勤時間の増加で生活時間がくわれていることが指摘されている。わが国でも平日をとってみると,60年,65年,70年では自由時間は5.17時間,6.17時間,5.49時間(NHK「生活時間調査」から推計成年男子)と必ずしも一律に増加していないが,それは主に通勤や身の回わりの用事に要する時間がふえていることによるものである。一方,工場においてとくにそうであるが,事務所においても近年ますます分業化,機械化,スピード化がすすみ,その結果,労働者の神経的疲労が増大している。

したがって,疲労回復のための休息は,肉体的のみならず精神的にもますます必要なものとなっている。

しかし今日,レジャーの重要性が指摘されるのは,労働者の再生産能力にとって不可欠なものという認識を超えて,レジャーにもっと積極的な価値が認められるようになったからである。これは所得と自由時間の同時的増大に恵まれた先進国において,はじめて可能なことである。これを第2-18図によって図式的に示すことができる。

通常,所得水準が1,500ドルを超えると,衣食,耐久財に対する支出意欲は頭打ちになるが,自己実現欲求と結びついたレジャー活動の支出はむしろ増大するといわれている。

第2-19図は各国における余暇の使い方を示したものである。レジャーを行動的なレジャー (スポーツ,旅行,散歩,外出,観劇,スポーツ観覧,趣味,娯楽)コミュニティ活動(交際,談楽,会合,奉仕活動),静的なレジャー(教養,読書,ラジオ,テレビ,休養)にわけると,行動的なレジャーの占める割合は西ドイツ23%,アメリカ,フランス17%に対して,わが国では13%,交際,会合,奉仕活動等のコミュニティ活動も.その他の諸国では.行動的なレジャーとほぼ同じウエイトを持っているのに対して,わが国では10%弱ときわめて少ない。一方,静的なレジャーは,アメリカ64%,フランス65%,西ドイツ57%に対してわが国は78%とかなり高い。うちテレビ視聴の占める割合は,欧米諸国が20%前後であるのに対して,わが国ではほぼ2倍の42%である。

1週間当たりの余暇時間を比べてみると,アメリカの54時間に対して,わが国は49時間と西ドイツとほぼ同一でフランスを僅かに上回っていることから,こうした余暇活動のパターンの相違は余暇時間の長短よりも行動的な余暇活動のための空間の整備の差や,都市化現象の進展の速度の相違,それからくるコミュニティ意識の差,それに余暇活動に対する意識の相違によるところが大きいと考えられる。

以上は夏休み等特別な休日を含まない週についての調査であるが,長期休暇制を入れると余暇活動はまた違った様相を示してくる。支出面から国際比較をすると,第2-9表にみるように,欧米では旅行支出の割合が大きく,アメリカ,フランスはそれぞれ34.1%,41.7%に達している。スポーツ支出ではアメリカについで日本が大きい。商業娯楽支出ではわが国が11%とずばぬけて大きい。

国民のレジャー選択のちがいは生活様式のほかに,レジャー器具,施設などハード面の供給状況にも左右される。

第2-8表 有給休暇・有給休日考慮後実質週当たり労働時間

第2-17図 所得水準と余暇時間

(4) 現代社会における余暇

余暇活用の形態は次のように分けることができる。

    ① 休息

    ② 気ばらし

    ③ 退屈しのぎ

    ④ 自己啓発

休息と気ばらしが労働時間が長かった時代のレジャーであるのに対して,退屈しのぎと自己啓発は労働時間が短くなった時代,自由時間の多い時代のレジャーであるといえる。国民の1人1人が,社会,職場,家庭の各生活面に積極的な参加意識をもっためには,余暇のこの4機能が自主的選択によってバランスを保っていなければならないし,政策としてはそのような状況をつくりだしていかなければならない。

アメリカでは1958年,ORRRC(戸外レクリエーション調査委員会)が設けられ,62年に報告書を提出した。その中で次のように述べている。

活動が自由に選択されるならば-何故なら,そうすることは爽快で楽しいことであるーそれはレクリエーションの基本的機能-人間の生命力に活気を与える作用-に役立つ。隠れたエネルギーに出口がつけられ,身心の使われていない力が使用され,想像力は新鮮な対象に働きかける-これらのすべてのことが起こったとき,人は回復感をもって仕事に戻るのである。全体として,戸外にいることは楽しい有益な健康的な余暇の利用である。危機から危機へ動く世界にわれわれが住んでいるという事実は,戸外活動への強まる関心を深刻なものにし,そしてそれの十分な供給を国の関心事としてふさわしいものとする。

このように,戸外レクリエーションが強調され,これからの大きな需要は水を基礎としたもの(泳いだり,釣をしたり,ボートをこいだり,湖畔の散歩,ピクニック,キャンプをしたり,ただ眺めたり)にあるとみているが,「回復感をもって仕事にもどる」という表現の中に,勤勉をとくビューリタニズムを感じとることができる。

フランスでは,「すべての人にバカンスを」という観念が社会の各階層に広くゆきわたり,バカンスの要求に応ずることは,もはや要求を満たしてやるという単純な問題でなく,政府の経済・政治・社会政策に係りあいをもつものであるという問題意識のもとに,63年に5ヵ年計画が提出され,その中に「ランゲドック・ルシオン」という地中海沿岸のレジャー開発計画がうたわれている。

西ドイツは1960年「健康,遊技,レクリエーションに対するゴールデンプラン」を発表した。これは1つには遊技,体育,レクリエーション旅設の不足から文明病がドイツ国内に不安を惹起するほど広範囲に広がりつつあり,特に青少年層に現われていることが将来の発展に不安を与えている点を指摘し,15年計画で総額63億マルクを投じて施設の拡充を計ろうとするものである。

欧米諸国のみならず,ソ連,東欧諸国までもが週休2日制をとっているとき,わが国はこれの早急な採用を準備しなければならない段階にきている。

40年前にケインズは「レジャーをいかに満たすべきか,いかに賢く,快く,幸せに生くべきか,人間が創造されて以来,初めて真実の永遠の問題に直面するであろう。」といった。わが国はこういった意味での新しい時代,多暇時代を迎えようとしている。

「余暇とは進歩繁栄する文明の恩恵でもあれば禍いにもなりうる。」この言葉は上述のORRRC報告の1節である。余暇は諸生活への自由な参加の土壌として必要であるが,反面,現実からの逃避あるいは反社会的な活動の温床にもなりうる,ヒッピー,マリファナ,暴力といった今日一部の先進国にみられる社会現象は多暇時代の産物といえないこともない。これらは巨大化する組織社会に対する抵抗といった評価もなしうるが,社会を崩壊させる面もまた見逃しえない。

加えて,増大するレジャー需要に応じてレジャー施設が無秩序につくられていけば,自然や生活環境は破壊されていく。余暇増大という福祉が国民の気力沈滞,社会不安,公害,などによって相殺されてしまわないよう,国も個人もわが国の風土に適した余暇利用の新しい方向を見出す必要がある。


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