昭和47年

年次世界経済報告

福祉志向強まる世界経済

昭和47年12月5日

経済企画庁


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年次世界経済報告の刊行にあたって

ここに第10回目の年次世界経済報告(世界経済白書)を発表します。

本年度の白書は,「福祉志向強まる世界経済」という副題のもとに,第1部では通貨調整後の世界経済の動き,第2部では世界における福祉の問題について述べています。

白書の公表にあたり,私は次の諸点を強調いたしたいと存じます。

1. (回復進む世界景気)

多角的通貨調整が成立してからほぼ1年を経過しましたが,主要国の景気は,昨年の沈滞した気分を一掃して,順調な拡大過程にあります。また,先進国の景気回復を反映して,世界貿易も再び増勢を強めています。

こうした申で,インフレーションが再び強まるきざしをみせており,多くの国が何らかの物価統制を行なっている点が注目されます。

2. (国際金融情勢)

多角的通貨調整の効果は,現在のところまだあまり十分には現われていませんが,米国と西欧・日本との景気局面のすれ違いの解消などにより,今後は次第に改善に向うものとみられます。わが国としても,さきに決定した円対策を積極的に推進していくことが必要であると考えます。また,国際通貨制度の改革に関する検討も開始されたので,今後の成果が期待されます。

3. (世界の福祉問題)

新しい福祉社会の実現は,わが国最大の政策課題でありますが,世界経済においても福祉志向が近年とみに強まっています。

世界経済は,今日,福祉充実に役立つ経済成長のあり方,貴重な天然資源の有効な利用,地球的な汚染の防止などの課題に直面していますが,わが国は,世界各国との密接な協力のもとに,国内の福祉充実とあわせて,世界の福祉向上に積極的な役割を果たすことが必要であります。

4. (今後の進め方)

今年は,ニクソン米大統領の訪中,訪ソ,わが国にとって長年の懸案であった日中国交正常化の実現,ベトナム問題の解決への進展などにより,世界平和が大きく前進した年でありましたが,これらの出来事は,今後の世界経済に明るい影響を及ぼすとみられます。

わが国は,今日,国内的には福祉充実,対外的には国際協調の推進を進めていかなければなりませんが,激動する世界経済の中で,その指針を誤らないよう,本白書がいささかでも役立つことができればまことに幸いです。

昭和47年12月5日

有田 喜一

経済企画庁長官


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