昭和46年
年次世界経済報告
転機に立つブレトンウッズ体制
昭和46年12月14日
経済企画庁
第4章 変貌する世界貿易
ガットはIMFと同様に戦後の世界経済という実体の上に規範として作られたものであるが,世界経済の歴史的変化をその柔軟な構造で受けとめながら,世界貿易の拡大に輝かしい役割を果してきた。しかし,その間,世界貿易の流れは終戦直後と大きく変わった。そして,現在世界貿易の13.7%(1970年)を占めるアメリカの経済力が低下して,ついに保護主義的措置の採用にふみきったことは,ガット体制を深刻な危機におとしいれている。それは金ドル本位制を崩壊に導いてIMF体制の枠組みを揺かしたのと対応している。
さらに,これからの世界貿易を方向づける重要な動きとしてECの拡大決定をあげることができる。イギリスの加盟決定を機に,この関税同盟は10ヵ国に拡大されることになっただけでなく,他のヨーロッパ先進国とは自由貿易地域を結成する方向に進むことになりそうである。そうなれば,73年には世界貿易の41.5%(1970年)を占める巨大な工業品無税地域が誕生して,域外に対する差別は増大しよう。他方,東ヨーロッパ諸国はコメコンをさらに経済統合にまで仕上げることを決定した。こうして,ヨーロッパは完全に二つのブロック経済に分割されることになろう。
発展途上国についてみると,年来の懸案であった一般特恵が,実施段階に入ったのではあるが,アメリカの実施が遅れて,その希望は完全には達せられていない。これとは別に,石油産出国は石油値上げ問題を中心にしだいに団結力を強めている。
東西貿易は引続き拡大気運にあるが,アメリカは対中国禁輸措置を全面的に緩和することによって,中国に対する差別廃止の方向に踏み切った。これは世界貿易発展の上で大きな意味合いをもっものである。
本章では第1節でガット体制を問い,第2節以下で世界貿易という実体がどのように発展してきたかを分析する。すなわち,まず世界貿易が輝かしく伸びた中で,しだいにアメリカの競争力が落ちたことを指摘したあと好3節でアメリカ保護貿易主義の台頭,第4節でECブロックの拡大という最近における自由貿易原則の後退あるいは差別の増大をとりあげる。さらに第4節からは一般特恵,OPECコメコン,米中貿易再開の順で,世界貿易がどのように変貌していこうとしているかをさぐり,あわせてブレントウッズ体制とのかかわり合いをみることにする。