昭和45年

年次世界経済報告

新たな発展のための条件

昭和45年12月18日

経済企画庁


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第2部 新たな発展のための条件

第4章 発展途上国問題の新展開

2. 発展途上国における新たな動きと課題

前節でみたように,1950年代から60年代にかけて,南北間格差の問題と並んで発展途上国間の格差拡大が表面化してきた。そして60年代における発展途上国の経済成長率と開発戦略との関連で言えば,食糧増産,工業化の進展,輸出の増大,援助の強化などを総合した開発戦略の重要性が一応明らかにされた。

以下の章では,こうした開発戦略との関連も考慮しつつ,60年代後半から発展途上国の経済成長率の加速化に寄与してきた食糧増産と工業化の進展に着目して検討を深めることとした。一方,工業化が進むにつれて,各国の貿易ならびに投資ギャップが拡大し,先進国に対する援助要請はますます増大する傾向にあるが,他方で対外債務残高が累積し,発展途上国の経済成長を制約するおそれが多分にある。この点についてもさらに検討を加えることとする。

(1)最近における食糧増産の動き

1)最近における食糧増産とその要因

発展途上国の食糧生産は,1950年代(53~60年,年率2.9%増)から60年代中頃(60~66年,年率2.1%増)にかけて,台湾,タイなどの若干の例外を除けば総じて停滞を続けてきた。とくに,アジアでは,65,66年のインド,パキスタンの干ばつによる不作もあって,食糧不足は深刻をきわけた(60~66年,年率1.5%増)。

しかし,67年に入ると発展途上国の食糧生産は増産に転じ,アジアでは第98図にみるように前年の生産を5.2%上回り,68年5.7%増,69年4.0%増と3年連続して増産を続けている。

こうした食糧生産の好転は,単に天候条件に恵まれただけではない。アジア地域についてみると,比較的天候に恵まれた62~64年と比べてみると,67年以降に米,小麦の平均収量がそれぞれ7%,21%の増収を示しており,土地生産性の上昇が食糧増産の大きな要因となっている。

このような土地生産性の上昇は,食糧増産に対する各国政府の農業政策,永年にわたる農業投資や試験研究,農業技術の普及などの開発努力が次第にその効果を現わし初めてきたことによるものであろう。

しかし,もっとも画期的なことは,在来の品種より飛躍的な収量増大をもたらす高収量品種の開発とその急速な普及であろう。

2)高収量品種の普及

高収量品種の開発はこれまで小麦,米に関して,進展がみられたが,その後トウモロコシ,大麦,雑殻類まで及びつつあるが,急速な普及は,おもに小麦,米の分野でめざましい。

小麦の高収量品種(メキシコ種小麦)は1965年に,メキシコからパキスタンに続いてインドにも移植されている。現在,小麦の高収量品種はインドからトルコに至るまでのアジアおよび中近東諸国まで普及しつつあるが,その中心はインド,パキスタンである。また,米の高収量品種(IR-8,工R-5など)は小麦よりやや開発,普及が遅れたがフィリピンを中心にインド,パキスタン,インドネシアなど食糧不足国に普及していった。現在,第77表にみるように,66年頃から高収量品種の急速な普及がみられ,米の新品種作付け比率では68年にインドネシア(米作付総面積の15.1%),フィリピン(同,14.2%)で,小麦はインド(同31.4%),西パキスタン(同41.6%)でそれぞれ急速に普及している。東南アジア全体の作付は,推計によると米が67年の3%から68年に7%へ,小麦は米の作付面積よりはるかに小さいが,その作付け比率は米より高く,68年には,16.0%に達したものとみられている。(いずれもアメリカ農務省のJeseph:W.wilet氏の推計による)。

このような高収量品種の普及が,アジアでは一般的に天候に恵まれた67年,68年に急速に普及したことから,各国における食糧生産はかなりの増産を記録した。新品種の採用が食糧増産に果した役割をインド,フィリピンの米生産についてみたのが第78表である。フィリピンでは新品種の単位当り平均収量が在来品種に比べて大きく全体の生産量に対する新品種による生産量は推定によれば,67年で21%となっている。これに対してインドではフィリピンより平均収量が低いことから全生産量に対する新品種による生産量は11.3%をしめている。

3)食糧増産の影響

第77表 アジア諸国の高収量品種の普及状況

第78表 高収量品種の役割

農業部門のウエイトが大きい発展途上国にとって,食糧増産が経済成長に及ぼす影響は大きい。一般に,発展途上国における農業部門の進展は農業所得の増大,食糧価格の安定,雇用の増大,外貨節約などをもたらすことによって経済成長へ寄与するものと思われる。今,こうした事例をインドネシアについてみてみよう。

インドネシアでは1960年から65年にかけて農業部門の成長率は1.4%(年平均)にすぎなかったが,66年から68年にかけて3.2%(同)とその成長テンポは高まっている。これは米の生産が60~65年間には収獲の変動が大きかったが,66年以降は恒常的に増産を続けていることによる(第99図)。

米の生産が60年代後半に入ってやや改善したことによって米の輸入量も60~65年代の年平均輸入量100万トンから66~68年には34万トンヘ減少し,貴重な外貨節約{こなったことはいうまでもない。農業部門の好転に加えて工業部門も回復したことにより,インドネシアの経済成長率は60~65年の年平均成長率2.Q%から66~68年にzよ3.6%へ上昇している。さらに,インドネシアの場合,食糧事情の改善は,急上昇していた物価上昇の抑制に役立っている。物価上昇率は赤字財政の縮小などもあって66年の消費者物価の上昇率1,144.8%から67年269.5%,68年225.3%,69年6.2%と低下傾向をたどったが,なかでもウエイトの高い食糧品(63.4%)の物価上昇率は66年の1,061.6%から67年280.5%,68年239.1%,69年3.1%へと低下している。

インドネシアにみられる食糧増産の経済の内,外面への影響は,影響の度合こそ異るものの他の発展途上国にもみられることである。また,最近における食糧増産が各国の輸出入構造を大きく変えつつあるということであろう。

アジアで最大の食糧輸入国であるインドとパキスタンでは,65,66年の2年連続の食糧生産の不作から輸入が66,67年にかけて急増したが68年には米の輸入がインド,パキスタンとも前年の半分以下となり,小麦の輸入も前年のそれを15%余り下回った。69年にはこうした傾向がさらに進んだ模様である。この結果,輸入総額に占める食糧輸入の比率はインドでは65~66年の24.1%から,68~69年には19.9%へ,パキスタンも66年の16.7%から68年16.4%,69年10.9%へそれぞれ低下している。

このような食糧輸入の減少傾向は他のアジア諸国にもみられることでありフィリピンでは,68年に米の輸入がゼロとなった。

一方,アジアで最大の米の輸出国であるタイの米輸出は64,65年の189.5万トンの輸出量から減少傾向をたどっていたが,68年には前年を39.8万トン下回って,108.4万トンに止まった。また,ビルマの米の輸出は66年の112万7,600トンから67年54万トン,68年35万1,700トンへと減少している。ビルマの米輸出の減少は,国内の流通組織の不備によるところが大きい。しかし,これら両国とも輸出相手国がアジア諸国に限られていることから,近隣諸国の食糧事情の改善が食糧輸出の伸び悩みをもたらす一つの要因となっている。

第100図 米,小麦の生産と輸出入の割合

以上のように最近の食糧増産による影響は国民経済的にかなり広範化しつつ,国際的関係にまで影響を及ぼしている。

なお,農家段階においては次のような問題点もある。

高収量品種の採用によって農業所得が費用をはるかに上回るものと予想されていた。しかし,フィリピンでは高収量品種米が地方品種米より市場価格が安く,ヘクタール当り費用が増加し,また,インドの新小麦品種の市場価格も総じて安く,肥料の使用水準が相当増大したため農業所得の増大は予想を下回った。

また,経済的,その他の理由から高収量品種の利益に加わることのできない農民層もあり,インドのマドラス州などでは社会的緊張が高まった。

4)食糧生産の見通しと課題

ここ数年,食糧増産が続いてきたことから,アジアで恒常的に食糧輸入に依存してきたいくつかの国で,食糧自給化の方向を打ち出すまでになっている。

すでに,フィリピンでは1968年頃に食糧自給を達成し,パキスタンでも西パキスタンで米の自給を達成している。

現在,なお米の輸入を続けているセイロンでは農業生産計画による米の生産見通し年平均7.0%増をはるかに上回る米の生産(1967年前年比20.4%増,68年17.3%増)実績から,この傾向が続けば1973年までには米の自給が可能になるとしている。

インドは,第4次5カ年計画・(1969~74年)で,従来の第2,3次計画に比べて農業重視の方向がみられるが,この計画では正式に1973~74年に食糧自給化を目標としており,この達成のために新品種の普及に重点をおいている。農業優先を打出したインドネシアの新5カ年計画(1969~74年)でも,1973~74年を目標に食糧自給の達成を図っている。

このように,これまでの食糧輸入国の一部で自給化の方向をたどるとしても世界的にはなお食糧の増産が必要とみるむきが多い。

FAO(世界農業機構)が1969年に策定した農業の「世界指標計画」によると(第79表)1985年までの発展途上国の食糧需要は年率3.9%(基準年1962)食糧生産の伸びを年率3.7%(過去10年間の実績2.7%)と想定し,食糧の増産は今後なお重要な課題だとしている。しかも,ここ3年間の実績を考慮しても年率3.7%の食糧増産の達成にはかなりの努力を必要こするであろう。

食糧増産に応えてゆくためには,現在進行中の高収量品種の普及をさらに促進してゆかなければならない。

しかし,すでにみたように高収量品種の普及はアジアを中心として急速なテンポで進行しているものの,つぎのような理由で,今後このテンポを維持することはかなり困難であろう。

ここ数年,高収量品種が急速に普及している要因は,①農業の開発努力によってかんがい,排水施設の整った耕地が累積されていたこと(新品種が主に作付された)②戦後20年間の先進国援助によって,ある程度,農業技術者が養成されていたこと,③先進国援助や,国内蓄積資金によって肥料,農薬,農機具などの農業投資財が供給されたことなどによるものである。これらの要因は,戦後20年間に蓄積されたストツクとしてその効果が現われてきたものといえる。したがって,今後は,現在の高収量品積の急速な普及に見合って,こうしたストツクへの追加投入がなければ,高収量品種の普及速度は鈍化せざるをえないだろう。また,高収量品種の採用を経済的側面からみると,すでに指摘したように新品種価格の在来品種に対する相対的安価と費用の増大がみられるが,現在のところ費用の面では,政府の補助,先進国の援助があって採算を有利にしていたが,今後もこれが期待できる保証はない。

今後,高収量品種の普及は,やや鈍化する恐れもあるが,これが着実な普及過程を歩むためには,なお,以上のような諸点に対する対策が重視されなければならないだろう。とくに先進国のこの面での援助,協力は今後とも必要とされよう。

(2)最近における工業化の進展

1)最近における工業化の推移

発展途上国の工業生産は1950年代(1948~60年)の6.5%増(年率)から60年代(60~69年)の6.2%増(年率)と着実な増加を続けており,68年7.8%増,69年7.2%増と最近の増加テンポに高まりがみられる。

このような工業生産の上昇を反映して,工業製品の輸出に占める比率も高まっている。

第101図にみるように,工業生産の伸びが高い国において輸出にしめる工業品の割合が高く,韓国,台湾がその代表例となっている。イスラエルなどは工業品の輸出比率が高い割には工業生産の伸びが低く,タイでは逆の関係にある。また,アルゼンチンなどでは工業垂産の伸びも低く,工業品輸出の比率も低い。工業化がもっと進展している台湾,韓国や香港では軽工業品を中心に先進国市場への進出が著しく他の先進国との競合をもたらしているほどである(第102図)。他方,インドやパキスタンでは,50年代から60年代にかけて,輸出に占める工業製品輸出比率に高まりがみられるものの,依然として一次産業品主導型の輸出であり輸出の伸びが低い。このように各国の工業化の進展には大きな違いがみられる。以下では工業化の進展の相違についてみよう。

第101図 工業生産の伸び率と工業製品輸出比率

第102図 アメリカの総輸入に占める発展途上国のシェア

2)工業化の進展過程

工業化の進展は1950年代から60年代にかけての発展途上国の共通した議題であり,各国とも経済開発計画の一環として工業化育成策をとってきた。その代表的な工業化方式は,国内の工業品に対する需要を国内で供給することにより,貴重な外貨を節約するという輸入代替方式による工業化であった。

しかし,輸入代替による工業化は,外貨の節約をねらいとしながら短期的には,工業生産に必要な機械設備や部品を確保しなければならず,また関連産業の育成,一般社会資本の充実が必要であることから輸入への依存度を増し,外貨需要がいっそう増大し,国際支収の悪化をまねく場合が多かった。しかも,優秀な経営者が不足したことから経営の非能率,コスト高のため競争力がなく,輸出産業への発展が困難であった。こうした事例はインド,ビルマ,セイロン,インドネシアなどの低成長国にみられる。インドでは第2次5ケ年計画(1956~60年)から第3次5カ年計画(1961~65年)にかけて重工業重視の工業化がとられたが,その結果第103図にみるように鉄鋼,機械などでかなり輸入比率の低下がみられるようになった。しかし,反面,紙,紙加工品などでは輸入比率が低下せず,輸入代替も進展しないままとなっている。もっとも特徴的なことは,55年から65年の10年間にかけて,総じてどの工業製品の生産も国内需要の増大をまかなう程度であって輸出向け比率が上昇しなかったことである。このことは製造業全体の輸出向け比率が上昇していないことにもよく現われている。むしろ,この期間には工業品の国内需要の増大による原材料等の輸入増大から輸入比率に高まりがみられ,インドが次第にこれらの外貨需要の増大で,′国際収支の悪化をまねいた事情を物語っている。

一方,台湾,韓国,タイなどでは同じように輸入代替による工業化を図りながらも,労働集約的な軽工業品を中心とした輸入代替からさらに進んで輸出産業として育成してきたことがうかがえる。台湾の工業化をみると,第104図にみるように,60年から66年にかけて輸入比率が20%を越える業種(輸出比率が10%以下)では,化学,輸送用機械,その他金属を除いて輸入比率が低下している。なかでも電機,機械などでは輸出比率が高まっている。

また,すでに輸出品となっていた食品缶詰,木材製品,セメント,繊維がその輸出比率をいずれも高めている。この結果製造業全体の輸出向け比率が高まっている。このような台湾の工業化の進展過程は労働の質と資本装備率からみた合理的工業化パターンと相応しているようである。

第105図にみるように繊維,電機,食品などでは資本装備率も低く,労働の質も低位の業種であるが,機械,鉄鋼などでは資本装備率も高く,労働の質も高く,化学がこれらの最上位にあるというパターンを描いている。

以上のように見てくると発展途上国では,一般に資本の量も労働の質も先進国に比べて低位である,先づ繊維,食品,電機などで工業化を図り,しだいに機械,鉄鋼など資本集約的な工業に移行することが発展途上国にとって有利であると言えよう。台湾の工業化はこうしたパターンに基づいて成功した好例である。

3)発展途上国における工業化の課題

発展途上国の工業化が,繊維などの労働集約的工業で進展することは増大する労働力人口を吸収する上から必要とされている。これまでの工業化をアジア諸国についてみると,付加価値の伸びに比べて労働投入量の伸びが必ずしも高いとはいえず,日本との比較でも労働投入量の伸びは相対的に低い1(第80表)。発展途上国の人口増加は著しく,経済活動人口比率も1950年代から60年にかけて急上昇している(第106図)。

今後の工業化は労働力の吸収をいっそう高めるような工業化でなければならない。その際,注意すべきことは,その国の労働の質にみあった産業を振興すべきことは先にみた通りである。

もちろん発展途上国は,世界における需要構造の変化に対応して工業製品の輸出の増大を図らなければならないが,この場合,先進諸国が実施している貿易政策が発展途上国の工業製品の輸出に対して門戸を開放するようでなくてはならない。発展途上国に対する輸出機会の拡大は発展途上国の貿易ギャツプの縮小を図る上で経済援助とともに有効だどされており,国際分業の観点にたって貿易を通じて南北間の産業構造を調整することも必要であろう。の意味で先進国側がようやく,71年より特恵供与にふみきったことは注目される。

(2)債務累積問題

先進諸国の発展途上国に対する援助は,ここ10年年率6.1%(1961~69年年平均)で増加しており,69年には135億570万ドルと史上最高の援助額になった。

アジアの発展途上国に対する援助も5.8%(61~69年年平均)で伸びており,総じて増加してきた貿易ギャツプを埋め合わす形になっている(第107図)。

一方,援助量の増大の反面では,発展途上国の債務累積額が年率約12%の伸びで増加しでおり,68年末の公的債務残高は533億6,300万ドルに達したものと推定されている。

こうした債務増大の背景には,①援助供与国の先進諸国の公的援助に占める借款の比率が67年の44.1%から,68年48.8%へと最近高まってきていること,②政府貸付資金の条件が多少緩和されたものの条件がハードである輸出信用の援助に占める比率が67年の8.6%から68年の11.3%へと増大,したこと。③長期資本市場の資金コストが上昇し,世銀など国際機関の金利が1961年2(8月末)の5.5%から゛69年の7%へ上昇したこと。④世界の資本市場における高金利傾向のため資本財購入の信用コストが上昇したことなどがあげられる。しかし,問題は債務増大の割には債務返済が進まず(世銀推定によると,63年~68年間に債務返済額は7.8%で増加した),多くの発展途上国で債務残高が増加し,輸出に対する債務比率が高まったことである( 第81表 )。

アジア諸国をみると,68蘇の公的債務の残高は,インド77.3億ドル,インドネシア29.8億ドル,パキスタン32.6億ドル,韓国15.9億ドルなどとなっている(第82表)。

これら諸国では輸出に対する公的債務残高の比率が,輸出の約3倍になっている。しかも,これは公的債務のみであり,この他に民間の延払い等の債務残高が加わると債務比率はさらに高まる。

この比率の増大は,今後,輸出の伸びが現在の程度(66~68年平均)であるとすると,さらに増大し,1975年にはインド5.7倍,インドネシア3.5倍,パキスタン4.7倍に達することになる。「1975年の援助量については,ピアソン報告の勧告通りGNPの1%が実施されれば,アジアの発展途上国の貿易ギャツプを概ね賄うことが可能とみられる(1975年の推計,貿易ギャツプ50~61億ドル,DAC加盟国援助79.3億ドル)。

しかし,援助量の増大の一方では,債務累積がますます深刻化すると思われる。こうした債務の急増は外貨事情をいっそう悪化させ,そのことが工業化に必要な資本財などの輸入減退をもたらし,正常な経済成長を抑制することになりかねない。

これを打開してゆくためには,まず発展途上国の債務返済能力を高めなければならない。発展途上国の外貨受取りの約3割(1967~68年)は公的援助や民間投資ほどの援助によって賄われているが,これが支払い面における債務返済,投資収益の支払いの増加に充てられる。従って,これに当てる財貨サービスの輸出収入の増加がなければ外貨事情は好転しない。輸出力の増大が何よりも重要であろう。

発展途上国の輸出の増大という自助努力と並んで,援助供与国側である先進諸国の援助条件の緩和が,いっそう要請される。DACでは65年にDAC平均条件といわれるより緩和した条件を加盟国に勧告し,69年にはさらにこれを補足する勧告を行なっているが,現在なお,勧告に達しない国が多い。

援助における債務累積の問題は今後の南北問題の解決にとって,きわめて重要であり,発展途上国と先進諸国が共に解決に向って取組まなければならない問題である。