昭和45年
年次世界経済報告
新たな発展のための条件
昭和45年12月18日
経済企画庁
第1部 1970年の世界経済動向
第4章 主要国の経済動向
ソ連経済は1968年から69年にかけて成長鈍化の傾向を強めてきたが,70年に入って工業生産はかなり大幅な増加を示し,増産テンポは前年なみないしそれ以上となっている。その結果,比較的控え目に定められている年間計画が達成されることは,ほぼ確実とみられる。
近年におけるソ連の工業生産の不振は,国際緊張の影響,建設の未完了と操業開始の立遅れ,生産能力の利用の不十分さによるものであった。また政府首脳がしばしば警告したように,経済管理や労働の面で責任感の欠如や規律の弛緩がみられ,労働生産性の向上も緩慢であった。その上,69年初期には冬の異常な悪天候が不振に拍車をかけ,工業生産は著しい低成長に陥ったので,その後の回復にもかかわらず,69年間の伸び率は7%と計画の8.1%に達しなかった。農業部門でも主要農畜産物の生産が前年を下回り,総生産高は3%の縮小をみた。そのほか建設,運輸も不振で,国民所得の成長率は6%とまれにみる低率となった。
70年に入って工業生産はかなり大幅な拡大を示し,1~10月には前年同期に比べ8.2%増となった。これは一つには69年初期の水準が異常に低かったことからくるのであるが,また年初来共産党を中心に国家規律,労働規律の強化や節約と増産のキャンペーンが行なわれて,工業不振の打開に努力が傾けられたためとみられる。
他方,農業生産も前年にひきかえ比較的好調のようである。穀物と綿花の収獲は,66年の豊作を上回る史上最高といわれている。畜産部門でも畜産物の上期の国家買付量は前年同期より増加し,とくに養豚と養禽は大幅に拡大している。しかし一部の食料品の供給はなお不足がちで,政府は畜産物と野菜,果物について国家買付価格の引上げを含む増産措置を講じた。
つぎに固定投資と個人消費をみると,70年上期に国家計画の枠内の投資は前年同期比13%増と,近来まれな急増を示したが,これも一つには工業と同様,69年初期の不振の反動によるものである。これに対して消費の動きを示す小売売上高は8%と従来どおり高率の伸びを続け,依然として消費購買力の旺盛なことを物語っている。
貿易は70年上期に前年同期比12%増(輸出入合計)と近年にない伸びを示している。これにはコメコン貿易のほか,依然として活発な東西貿易,とくに西側工業国からの輸入の著増が大きく寄与したとみられる。
東欧諸国の経済をみると,69年には国により好調と不調の対照が目立っていたが,70年に入り不振に陥っていたチェコとハンガリーの工業生産も立直り,東欧全般として各国の工業生産はほぼ足並みをそろえて上昇している。