昭和45年

年次世界経済報告

新たな発展のための条件

昭和45年12月18日

経済企画庁


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第1部 1970年の世界経済動向

第3章 小康を見せた国際金融情勢

1. 国際金融情勢の安定

過去1年間における国際金融情勢をふりかえってみると,その最も著しい特徴は,60年代後半に激化した国際通貨不安,とりわけ,67年秋以降の主要通貨調整をめぐる激しい動揺が,69年8月のフラン切下げ,同じく10月のマルク切上げを契機に一応の落着きをとりもどしたことである。

国際通貨危機が発生するたびにみられたポンド,マルク,フランを中心とする為替相場の大幅な変動や短資の大量移動は平価調整によって鎮静化しているが,この平価調整のほかにも安定化を促進する要因がいくつか作用していたとみられる。

第1に,主要国の国際収支不均衡が69年下期以降それぞれ異なった理由によってではあるが,概して改善を示しており,黒字国,赤字国の格差がかなり是正されたことである。なかでも,イギリスにおいて,69年には国際収支が大幅な黒字を計上し,ポンド相場も堅調化したことである。

第2は,本年初にSDROMF特別引出権制度)が発足し,第1回の配分(約34億ドル)が新たな国際流動性として順調に流通をはじめたことである。国際流動性の増強については,このほかにIMF増資(約75.8億ドル,1969年12月)が決定され割当額総額が289億ドルに増加することになったことも重要であった。

第3は,金市場において,68年3月以降導入された金の二重価格制が定着し,金に対する投機がなくなってドルの信認を支えたために金相場が比較的安定した動きを示したこと,また,南ア連邦の産金問題が解決されて(69年12月),一定条件で金をIMFに売却することが合意され,70年上期に約3億ドルがIMFに売却されたことも安定要因として作用したとみられる。

しかし,西ドイツでは貿易収支がマルク切上げ後もかなりの黒字を続けていること,金融引締め政策が行われたことなどにより,本年に入って再び大規模な短資流入がみられるようになり,また,イギリスでは貿易収支が春以降,赤字化傾向を示すようになってポンド相場が再び軟化を示し,さらにアメリカの国際収支は69年末から貿易収支の改善がみられたものの長短資の流出が続いているため大幅な赤字となっている。このような事実を反映して各国の為替相場も最近再び動意を示しており,主要国通貨にかなり大幅な平価からのかい離が見られるようになった。とくに,マルク,フランが新平価の介入上限に迫って堅調を続けている (第12図)。 このように国際金融情勢が全く鎮静化したわけではないことが注目される。

こうした国際金融情勢のなかで,その激しい変動による悪影響をできるだけ小さく食い止めるための国際協力がいろいろ試みられてきた。たとえば,EECでは域内における国際収支赤字国に対する多角的短期的資金援助取決めが合意されており(70年1月),中期的資金援助についても具体化がすすんでいる。こうした事後的援助措置ばかりでなく,今後の世界経済が安定した拡大を続けるために,国際金融機構改善についての検討が進められている。


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