昭和44年

年次世界経済報告

国際交流の高度化と1970年代の課題

昭和44年12月2日

経済企画庁


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第2部 世界経済の発展と国際交流の増大

第4章 企業活動の世界化と産業政策の変化

3 産業政策の変化と課題

以上のような,企業活動の世界化に伴なって,当然,各国の産業政策にもかなりの変化が生じてきている。これは大ざっぱにいえば,第1に,国際競争力の強化がますます重視されるようになり,そのために企業合併を促進する政策がとられるようになったこと。第2に,先端産業の育成,技術開発の促進などを各国ともより積極的にすすめていること。第3に,外資系企業の進出について,基本的には受入れ国にとって有益であるとする立場がとられているものの,重要部門における中心的企業の外国支配にたいしては政府による規制がやや強まる傾向を示していることである。

そこで,以下,これらの点について,その主な動きをみてみよう。

(1)企業合併に対する政策

60年代に入って,企業合併に対する政策の変化は,主として3つの面にあらわれてきた6第1は,税制面を中心とした制度的な優遇措置による合併の促進である。第2は,合併に政府が直接介入する度合が大きくなり,この傾向は60年代後半に一段と強まったことである。第3は,合併の進展に伴なって,そのへい害を規制する意味での独禁法の強化をはかるという,やや混乱した動きがでてきたことである。

1)租税制度の改正による合併の促進

企業合併を促進するために税制上の優遇措置をとるといううごきがヨーロッパ各国でみられた。合併に関連した主要な税制面での問題は,固定資産の移転に伴なう資産再評価から生ずるキャピタル・ゲインに対する課税をどう扱うかという点である。もしも,キャピタル・ゲインに対して,通常税率で一時に課税するならば,合併企業にとってかなりの経費増となることが予想され,したがって合併を躊躇する原因となりがちである。このため,各国は合併にともなうキャピタル・ゲインに対して大幅な優遇策を導入して合併を阻害する要因を取除くよう努力している。たとえば,西ドイツ,イタリアなどではこれを免税としており,フランスでは税率を軽減するとともに長期の分割払いを認めている。また,EEC委員会も租税制度の改正による合併促進を支持しており,67年2月の「税制統合計画に関する覚え書」のなかでキャピタル・ゲインに対する課税の優遇措置を提案している。

イタリアにおける免税措置は,1965年3月の「事業会社の転換,合同および集中の際の課税法」にもとづくものであり,合併に伴なうキャピタル・ゲインが別掲される場合に限り非課税とされる。西ドイツでは「企業形態変更と合同に対する租税軽減措置法」(69年6月)が基礎となっている。

フランスでは1967年の税法改正によって優遇措置を導入した。その主内容は長期キャピタル・ゲインについては,軽減税率10%の法人税を4年間に分割して納付することを認め,短期キャピタル・ゲインについては,普通税率50%を10年間に分割納入できることとし,また,最初の3年間については徴収を猶予することを認めている。このほか,地方公共団体による合併企業に対する営業税の免除や,会社の組織がえに伴なうキャピタル・ゲインに対する課税の延期,転換により不要となった資産の清算拠分)で発生した短期キャピタル・ゲインに対する法人税または個人税の分割納付(10年間)など幅広い措置がとられている。

2)政府介入による企業合併の促進

ヨーロッパ各国政府は最近さまざまな合併促進措置をとるようになったが,なかでも,イギリス,フランス,イタリアなどでは,政府機関を通じて直接的介入を行ない,資金的な支援を与えるなど強力なバック・アップを行なうまでになっている。さらに,最近では,社会的市場経済の原則をかかげて民間経済にできるだけ干与しない方針をとってきた西ドイツにおいてさえ,航空機産業の一連の合併を政府介入によって促進し,2大企業への統合化を達成したほどである。

ヨーロッパにおける最も典型的な政府介入機関としては,イギリスの産業再編成公社,イタリアのIR工などの国家持株会社があり,また,フランスでも,第5次計画実施のための産業発展委員会に加えて,最近,産業開発公庫の構想が示された。

a)産業再編成公社による企業合併の促進-イギリス

イギリス政府は,1966年末に産業再編成公社(The Industrial Reorgani-zation Corporation,IRC)を設立し,重要な企業合併を促進するとともに,必要な場合には資金的な援助を行なうこととした。公社が業務をはじめてからまだ日が浅いが,その後,産業拡大法(Industrial Expansion Bill,1967年11月)が制定され公社の活動範囲が拡大されたこともあって,合併に対する態度は一段と積極化し,公社の支持と援助をえて合併が実現する場合が増加している。公社が支持した合併については独占委員会(The Monsp-olles Commission)への付託が免除されることも,公社を媒介とした合併を促進しているとみられる。

IRCは国庫による1.5億ポンドの出資金を基礎に運営されており,69年3月末までの2年半の間に,合併促進のために1,350万ポンドの株式投資と約4,400万ポンドの融資が行なわれた。これまでIRCが介入して実現した企業合併は30件をこえており,いずれも大型合併で,とくに,自動車,電機,一般機械,電子産業など技術集約産業における中心的な企業の合併を優先的にすすめているのが特徴である。

たとえば,67年9月のGECによるAEI買収および68年9月のGECとEnglish Electricの合併は,電機および電子工業部門における世界的に強力なグループを誕生させた。また,自動車部門では,ルーツ・グループに直接参加したのをはじめ(67年1月),リーランドとBMの合併(68年1月)を2,500万ポンドの資金援助によって促進した。また,68年6月のケントによるケンブリッジの取得にたいする介入も,計器産業における合理化を目的としたものであった。

b)国家持株会社と企業集中-イタリヤ

イタリヤにおける企業合併には,その他の産業政策の場合と同様に,IRI(Istituto per la Ricostruzione Industriale,産業復興公)とかENI(Ente Nazionale Idrocarburi炭化水素公社)のような国家持株会社のグループ網が重要な役割を果している。とくに,IRIは多産業部門にわたる活動を行なっているだけに影響力が大きく,その傘下会社と民間企業(外資系を含む)の合併ばかりでなく,グループ内の集中化を積極的にすすめている。とくに,66年10月以降は,経済計画各省委員会(CIPE)によるIRI再編成計画にしたがって,造船,原子力,自動車,産業設備・機械など多くの部門で統合が行われた。

IRIのような国家持株会社組織では,統合に必要な資金をグループ内における株の持ちあいによって調達することが容易であり,したがって,企業の支配権が分散しないという特徴をもっている。これは,とくに外資系企業による買収にたいして強い抵抗力をもつものとして外国からも注目されており,イギリスのIRCをはじめ,フランスの産業開発公庫の構想などもほぼ同様の機能を果すことを期待されている。

c)第5次経済社会発展計画による企業再編成一フランス

フランスでは,第5次経済社会発展計画(1966~70年)に示された提案にしたがって企業の再編成が進められている。計画は,各産業ごとに少数の国際的な規模をもつ企業ないしはグループを創設,強化して国際競争力を強めることを中心的な政策としている。そうして,とくに重要な工業部門(アルミニウム,鉄鋼,機械,電子,自動車,航空機,化学,薬品など)については1~2グループに再編成することが必要であるとし,そのために必要な資金は国際競争の条件のきびしさに応じた優遇条件で「経済社会開発基金」から優先的に融資することをきめている。

このような企業の再編成は,民間が主体となってすすめることを基本としているが,それを阻害している制度的要因を除去し,政府の介入を集中化してより効果的にするために「産業発展委員会」(いわゆるオルトリ委員会)が66年に設立された。

産業発展委員会は,国がとくに関心をもつ大規模な企業集中を推進するために積極的な活動を行っており,すでに,鉄鋼,電子計算機,化学,航空機などの分野において具体的対策をすすめている。

このほか,最近,ポスト・ドゴールの産業政策の主要な柱として,民間出資(2~3億フラン)による産業開発公庫の構想が打ち出されている。これはイタリアのIRIや,イギリスのIRCに類似した国家投資機関であり,主要業務は,①企業合併のための株式取得に対する融資,②長期低利融資などによる成長性のある中小企業の育成と規模拡大の推進,③大企業については,多国籍企業への発展のための思い切ったテコ入れ,④外資系企業に対し,フランスの産業政策に合致した行動をとらせるなどがあげられている。

3)企業合併と独占禁止政策

以上のように,ヨーロッパ諸国では企業の合併を積極的に進める政策が進行しているが,最近では一面で独禁法の強化をはかつて,合併の進展を阻止するような動きも一部に現われはじめており,企業合併をめぐる政策にはやや混乱した事態も生じてきている。たとえば,イギリスにおける,65年の「独占および合併法」の制定や西ドイツのカルテル規制の強化などはその典型的なものである。

イギリスの「独占および合併法」は,従来も行なわれていた独占状態にたいする調査,規制を強化したばかりでなく,合併を事前に調査し,必要な措置をとりうることにするなど,イギリスの独禁政策にとって画期的な立法とされる。これによって,商務省は合併後のシェアが1/3以上となるか,取得資産額が500万ポンドをこえる合併案については,調査のために6カ月以内に独占委員会に付託できることになった。独占委員会は,その合併が調査の結果,公共の利益に反することが明らかとなった場合,予想される弊害を是正ないし防止するために必要な措置を勧告することができる。

また,商務省は独占委員会の報告書を議会へ提出する義務をもち,報告に指摘された弊害を阻止するために,企業の解体,分割を含めて必要な措置をとりうるとされる。この65年法が成立してから68年2月までに,商務省によって独占委員会に付託されたものは10件であり,そのうち公共の利益に反すると判定されたものは,漁業,紳士洋服,銀行業の3件となっている。

西ドイツにおいても,過度の企業集中を懸念する声がたかまり,1960年に「経済集中調査に関する法律」が成立し,企業集中の実態調査が行なわれた。

さらに,65年における「競争制限法」の改正は企業間協力を促進する見地からカルテル規制が緩和される反面,市場支配的企業の濫用防止規定が若干強化された。すなわち,この改正で合理化カルテルの一種である専門化カルテルの結成が容易となったが,これは主として中小企業の企業間協力による合理化の促進を目的としたものであった。他方,市場支配的企業の濫用防止強化の見地からカルテル庁へ届出るべき企業合併の基準をよりきびしくし,従来の特定の商品またはサービスの市場シェアが20%以上を占める場合に加えて,①従業員数1万人以上,②年間売上高5億マルク以上,③資産10億マルク以上という3つの基準が新に付加され,これらの基準のひとつに該当する企業合併はカルテル庁へ届出の義務を負うことになった。

(2)先端産業の育成と技術開発

欧米諸国では,近年における急テンポの技術進歩と国際競争の激化,とくにヨーロッパ諸国ではアメリカ企業の進出,アメリカにたいする技術ギャップ意識のたかまりなどから,技術研究開発の推進の必要性がしだいに痛感されるようになった。こうしたことから各国政府も技術開発にたいして,第1に,財政的措置によって一般的に技術研究開発を促進する努力をより強化すると同時に,とくに先端的産業である航空機,電算機,原子力,宇宙開発,海洋開発などの関連産業については特別な産業助成措置を講ずるようにする。第2に,国家機関による研究開発を一そう強化する。第3に,ヨーロッパでは各国間の共同技術開発を積極的にすすめるなどの方法をとりはじめている。

1)主要国における技術開発と先端産業にたいする育成措置

最近における先進主要国の研究開発費は,アメリカをトップに巨大な額に達しており,GNPにたいする比率では1~3.5%程度となっている(第84表)。この研究開発費のかなりの部分が政府によって負担されており,その比率はフランス,アメリカ,イギリス,西ドイツの順に高く,いずれも6割以上となっている。

これらの研究開発費が全体としてどの製造業部門に投入されているかをみると,第85表のように各国とも先端産業である技術集約産業に重点的な投入を行なっており,とくに,アメリカ,フランスでは70%を上回る高率となっている。

各国の研究開発方式はそれぞれ特徴があるが,ヨーロッパ諸国では,民間企業の自主的研究開発投資に対する税制上の優遇措置(所得控除や特別償却制),投資助成措置などを主としているのに対して,アメリカでは政府の研究開発委託方式による産業,大学の共同プロジェクトを中心としている。しかし最近では,ヨーロッパにおいても,民間企業への助成を強化する一方で,アメリカの方式に近いような形で政府が直接的に開発をすすめる傾向が強まっている。

とくに,西ドイツでは科学研究開発に対する関心が最近とみに強まっている。1964~66年の3年間における西ドイツの研究開発費の増加率は35.8%で,ヨーロッパ主要国中最高の伸びとなっている(フランス33,1%,イギリス14.5%)。従来,西ドイツでは研究開発は主として民間による自主的研究にまかされていたが,最近では政府も積極的な姿勢を示しているためである。

これまで西ドイツでは企業の研究開発投資にたいして特別償却制(動産50%,不動産30%)が認められていた。さらに最近の「1969年税制改正法」により,70年から研究開発投資にたいして新たに10%の投資助成金が与えられることになった。また連邦政府の科学研究費も大幅に増額され,中期財政計画(1968~72年)のなかで,現在の19億マルクから40億マルクへと年平均20%の急激な増加が見込まれている。

先端産業の育成のために西ドイツがとくに力をいれているのは航空機・宇宙産業および電算機産業であり,それぞれ5カ年計画を作成して財政援助を継続的に行うほか,個別研究にたいする各種の特別補助措置をとっている。

また,イギリスでも,民間企業の研究開発にたいする税制上の助成措置を強化するとともに,政府機関による研究開発を積極的にすすめている。たとえば,科学集約産業における研究を助成するための研究開発公社の活動は最近ますます活発化しており,非軍事研究については開発契約制度を導入している。また,国立計算センターが,プログラミングや計算機利用法の改善を目的として設立された。

フランスにおける先端産業の育成は,65年に新設された開発援助制度による企業の自主的技術開発の助成とともに,第5次経済社会開発計画のプロジェクト研究が中心となっている。このプロジェクト研究は,科学技術研究総務庁による公私研究機関への委託によって行なわれており,国家的に重要なものにたいしては科学技術研究基金から資金が与えられる。

2)ヨーロッパにおける技術開発共同プロジェクト

こうした先端的技術開発は多額の資金を要するばかりでなく,その成果の利用についても大規模な市場を必要としているため,いくつかの国が共同作業を行なうことは大きな利益であることはいうまでもない。といっても,多数国による共同プロジェクトの遂行には,現在行なわれているコンコルド計画が予想を上まわる資金を要することからトラブルがおきているように問題も少なくない。しかし,ヨーロッパでは戦後はやくから原子力部門で共同開発がすすめられたのをはじめとして,最近では第86表のように航空,宇宙,ミサイルなど多くの部門で共同開発が進行している。これは,アメリカにたいする技術ギャップをなんとかして縮少しようとするヨーロッパ各国の共通の意識のたかまりを反映したものとみることができる。

このほか,最近では,EECにおいても域内における共同技術開発を促進するために,72のプロジェクトを含む開発計画を検討しはじめている。

第86表 60年代におけるヨーロッパの技術開発共同プロジェクト

(3)外資対策の変化

外資系企業の進出に対してヨーロッパ諸国の多くは,主としてそれに伴なう所得創出効果,雇用機会の増大,技術の導入などのメリットから一般に歓迎の態度をとってきた。OECDの対内直接投資に関する自由化コードをみても,ほとんどの国が60年代初までに完全自由化を行なっていることがわかる。

しかし,進出企業のなかには受入国にとって必ずしも好ましくない企業もあり,とりわけ,最近,外資系企業の進出が急増するに伴なって,各国の外資対策は無差別な自由化から選別的導入の方針をとる傾向がしだいに強まっているようである。

もともとヨーロッパ諸国の外資にたいする態度は一般に原則的自由化,例外的規制という方向を示してきたとみられる。しかし,各国政府の態度をより立入ってみるとほぼつぎの5グループにわけることができる。①外資規制が全くないばかりか,むしろ外資をすすんで誘致する政策をとっているベルギー,ルクセンブルク,②外資規制がないか,それに近い自由化を行なっている西ドイツ,スイス,③緊急措置として為替管理などの規制を行なっているが,大部分の資本取引について事実上かなり高度の自由化を達成しているフランス,イタリア,オランダ,オーストリア,④制度上は種々の規制を行なっているが,その運用が比較的弾力的なデンマーク,ノルウェー,スェーデン,イギリス,アイルランド,⑤大部分の資本取引を規制し,実際上も選別的取扱いをしているギリシャ,トルコ,アイスランド,ポルトガル,スペインである。

このような外資対策のちがいは,それぞれの経済発展段階の差ないしは経済政策上の優先順位の差を反映したものとみられる。たとえば,第4グループでは,主として国際収支上の理由あるいは国内政策により大きい独立性を確保するために規制が残されており,第5グループは相対的に経済発展の度合がおくれているために,望ましい部門への投資を選別的にすすめる必要があり,外資導入についても行政的裁量がいるためとされている。

このように外資系企業はほとんどの国で,原則的には国内企業と無差別の待遇をうけてきた。しかし,多国籍企業の行動原理はもともと受入国の経済政策とは独立のものであり,親会社の経営方針にもとづいて運営されているため,その外資系企業が受入国にとって最適の位置づけを与えられるとは限らない。外資系企業は受入れ国の利益よりも先に自分のグループ内の利益を優先的に考えることが要請されるためである。この関連でとくに問題となるのは,外資系企業による重要企業の支配であり,これにたいしてはナショナル・インタレストの確保の観点から反対する意見が根強い。また,多国籍企業では,親会社と子会社の,あるいは異った国にある子会社間の取引価格を調整することによって資本の流出,流入を操作することが可能であるため,最近のように国際通貨面での不安が持続するような場合には,受入れ国の国際収支に重大な影響を与える可能性もある。

こうして,外資の進出が急増するに伴なって,各国政府の外資にたいする態度は,選別的規制の方向に傾き,その国にとって重要な企業の支配に結びつくような場合には政府による直接介入も行なわれ,条件つきで許可されるという例が増加している。

たとえば,63年におけるアメリカのGE社によるいわるマシン・ブル乗取り事件に際して,フランス政府はGEの株式取得20%の申し出を経営権全面掌握の意図ありとして拒否したが,その後マシン・ブル社に資本援助を行なって持株会社に再編した上で,GEの資本参加と技術援助を許可した。また西ドイツでは,1967年にアラル石油がアメリカのモビル石油の支配下におかれようとした時,政府の介入によってモビル・オイルの資本参加を28%におさえ,また,アラル石油全株主に対して同社のドイツ的性格を保持することに同意するとの協約をとりつけた。

また,戦前からアメリカ企業の進出がさかんであったカナダやイギリスでも最近では政府介入が行なわれるケースも増えている。たとえば,カナダ政府に対してワトキンス委員会はその報告のなかで外資に対する規制を強化することを提案している。イギリスでも,従来からいわれていた外資に要求される条件,すなわち,生産性を向上させ,国際収支に貢献し,地元の資本市場を攪乱しないということに加えて,政府はとくにつぎの点について特別の審査を行なうべきだといわれるようになった。すなわち,①1ないし2の外資企業によってイギリス産業の重要な部門が支配されるようになる場合,②イギリスの技術開発を阻害する場合,③政府による重要部門の合理化計画が損なわれる場合である。もしこれらの条件の1つに触れたら,適当な担当官庁に付託して調査し,取消しを求めるかあるいは若干のセーフガードを取付けることを勧告するというものである。このほか,65年の「合併法」による規制が外資系企業に対してもあてはめられるようになった。69年5月,スエーデンのSKFによるボールベアリング部門への進出が,IRCによって阻止されたのはその典型的な例とみることができる。

そのほか,最近,政府の介入によってヨーロッパ企業間の国際合併が阻止される例がいくつかみられた。たとえば,フランス政府がイタリアのフィアットによるシトロエンの有効支配権の取得を排除したこと,あるいは西ドイツ政府がフランス石油社によるゲルゼンブルク社株の32%取得を阻止したことなどである。これらはいずれも当事国にとって最も中心的な大企業であり,合併や吸収によって経営権の過半数以上が外国人の手に渡ることについて抵抗が強まったことを示している。


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