昭和44年

年次世界経済報告

国際交流の高度化と1970年代の課題

昭和44年12月2日

経済企画庁


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第1部 1969年の世界経済の特色

第3章 国際収支黒字国と赤字国の発生

4. 国際収支不均衡の是正策

以上で,ある程度明らかになったように,最近における国際収支の黒字国と赤字国の格差の拡大傾向は,各国がかなりの政策転換を行なわないかぎり,今後も容易に変化しそうもない性質をもっている。

しかし,このような傾向が続くことは,赤字国にとっては勿論,黒字国にとっても望ましいことではない。赤字国の場合は,国際収支赤字の継続は,金外貨準備の減少,それに伴う当該国通貨に対する不信認,為替投機などによる資本流出の増大,平価切下げ圧力などを生ずるだけでなく,それが他国にも波及して,国際貿易の不安定化要因となるからである。黒字国にあっても,大幅な国際収支黒字の継続は,金外貨準備の累積,通貨切上げをめぐる為替投機の発生,それによる金外貨準備の累増をもたらす。したがって,この黒字国赤字国の格差拡大傾向を是正する政策がとられなければならない。この対策としては,一般的にいえば,大きく分けて,構造政策,総需要対策,資本対策,平価調整対策の4つが考えられる。

まず第1の構造対策としては,各国の輸出の所得弾性値に示される格差を解消するための産業構造政策がまず考えられる。すなわち輸出の所得弾性値の低い国は,世界需要の動向に輸出構造がうまく適応していないのであるから,輸出構造を変える政策,ひいては産業構造を変える政策をとらなければならない。世界需要の増加テンポの急速な分野に,輸出,産業のウエイトを移していくことにより,輸出の所得弾性値を高めることが必要である。

同様に,輸入面においては,黒字国が輸入の所得弾性値を高めろことによって貿易黒字幅を減少させることである。このためには,黒字国が,輸入制限品目の撤廃や関税引下げにより,輸入弾性値を高め輸入を拡大する政策をとる必要がある。

第2は,国内需要の伸びに関する総需要対策である。黒字国にあっては,世界の平均成長率を大きく上回るよう成長政策をとることにより,輸入の増加をはかり,貿易黒字幅の縮少を実現すると同時に赤字国では,内需を抑えることによって輸入を抑え貿易収支の改善をはかることである。

第3に,資本収支面における政策によって不均衡を解消する方法である。

経済発展段階からみても,貿易収支が大幅な黒字を示す傾向のある黒字国にあっては,積極的な資本流出対策をとることによって金外貨の累積を防ぐ一方,資本の関連収支の赤字である国は積極的に外資をとり入れることを考える必要がある。

最後に第4は,為替レートの調整である。各国の経済発展段階が異なり,生産性の上昇率,賃金,物価の上昇率等に差があることは否定しがたいので,国際収支の基礎的不均衡が発生しないよう。各国における国際収支調整努力が必要であるが,それにも拘らず基礎的不均衡が明らかになった場合には,,それが重大なものになる前にIME協定に従って平価を変更することが適当となろう。この場合も価格効果を有効に働かすために,たとえば,輸入制限を撤廃するなど各種の制度的対策をまず十分に実施することが前提となると思われる。

以上のように,一般的にいえば各国間の国際収支の不均衡を是正する対策には,いくつかのものが考えられるが,注意しなければならないことは,これらの対策のうち,どの対策に重点をおくかは,それぞれの国の特性に応じた対策をとることが,効率的であるという点である。


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