昭和44年

年次世界経済報告

国際交流の高度化と1970年代の課題

昭和44年12月2日

経済企画庁


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第1部 1969年の世界経済の特色

第1章 1969年の世界経済の概要

1. 世界の生産,貿易活動

(1)世界経済の拡大とその特色

1)足並みの乱れはじめた経済拡大

この1年間,先進工業国の生産活動は,ひきつづき,活発な拡大テンポを維持したということができる。

OECDの推定によると,OECD全体の実質GNPは,67年下期に上期の停滞から立直って前期比年率4.5%増(季節調整済み)となったあと,68年上期に6.0%増,下期に6.1%増と,増勢を高めた。また,69年上期も5%台になると推定されており,いぜん高い拡大テンポを続けている。

鉱工業生産活動をみても,第2表のように67年の2.4%から68年上期には年率6.2%,下期には8.4%,さらに69年にも8.0%と高い伸びを続けていて,先進国の経済活動は全体として,高い拡大テンポを持続していると判断できる。

しかし,69年の工業国の経済活動は,これまでとちがって,やや趣きを異にしてきたことが注目される。それは第1に,69年に入ってから,アメリカでは引締め政策の影響が徐々に現われた結果,経済活動の伸びが鈍化しはじめた半面,ヨーロッパ諸国では,国によって必ずしも同一ではないが,概していえばむしろ経済活動の拡大テンポが加速され,68年とはちがって,欧米の経済拡大にやや歩調の乱れが現われはじめた点である。すなわち,第1表に示したように,アメリカの実質成長率は68年上期の前期比5.8%から,68年下期には5.0%,69年上期には3.0%と次第にスローダウンの気配を強めている。さらに鉱工業生産では8月以降減産に転じたことが注目される。これに対して,ヨーロッパ諸国の成長率は68年上期の4.9%から,68年下期の5.7%,69年上期の6.5%へと,逆に拡大テンポを大きくしている。

第2表 OECD諸国の鉱工業生産

2)経済拡大を支えた投資ブーム

工業国の生産活動が69年に入って,趣きを異にしてきた第2の点は,その活動を支えた原因が68年と変ってきたことである。67年下期以降における世界的な景気拡大はアメリカと西ドイツの景気上昇を主軸としたものであった。このアメリカと西ドイツの景気拡大は両国の輸入増加を通じて他の諸国にも好況を波及させたが,他の諸国の景気が盛上るにつれて,その輸入も増え,それがまた他国の輸出需要を増やすというように,好況の相互的波及が68年中を通じて繰返された。したがって68年の上昇過程を通じて輸出需要の増加が諸国の経済拡大の重要な要因となっていたわけである。ところが68年下期頃から69年にかけて,多くの工業国では国内需要,とりわけ設備投資需要が増えはじめたため,最近では設備投資が輸出と並んで経済拡大の二大主柱となった点を見逃すことはできない。

OECDの推定によると,主要7カ国(アメリカ,イギリス,西ドイツ,フランス,イタリアカナダ,日本)における民間設備投資(住宅建築を除く)は,68年下期に年率12%の割合で増加し,69年上期にもその増勢が維持され,国内需要増加の3分の1余をしめたとされている。また主要国の民間産業投資に関する政府または民間研究機関の予測数字をみても,第3表のように,69年における設備投資の増加率はアメリカ10%,カナダ8%,イギリス5%(実質)のほか,西ドイツ,フランス,イタリアなどでは20%をこえると予想されている。

このように欧米主要国の設備投資が68年下期から69年にかけて盛上ってきた理由は,国によって多少事情が違うものの,好況の持続による企業利潤の増加,操業度の上昇による設備拡張への要請のほか,68年中にケネディ・ラウンドにもとずく関税引下げやEEC関税同盟の完成などによって国際競争が激化し,それに対処するために合理化および近代化投資の必要性がますます高まったためとみられる。

それと同時に,各国の政府が景気回復と競争力強化の見地から67年から68年にかけて,各種の投資刺激措置をとったことも見逃せない。たとえばアメリカでは7%の投資減税が67年6月に復活されたし,イタリアでも68年8月に特別投資控除制その他の投資刺激措置が導入され,またフランスでも68年10月に10%の投資控除制の導入,雇用税の廃止など一連の投資刺激措置がとられた。こうして,68年から69年にかけて,欧米諸国は,再び投資ブームを迎えているが,今回の投資ブームを過去のそれと比較すると,アメリカ,イギリスと西欧とではやや様相が異なっているようである。

アメリカでは,64~66年間に年々15%前後も設備投資が増え,戦後最大の投資ブームを現出したが,その後,67~68年に比較的沈滞気味に推移し,69年に再び投資増加の時期を迎えたわけである。しかし,今回の設備投資の盛り上りは64~66年期よりも小幅であったし,またおそらく,70年には伸びを低めるのではないかとみられている。その理由は,金融引締めなどの抑制措置がとられているからであるが,それと同時に最近の景気スローダウンに伴い企業利潤が悪化してきたことも悪材料の一つとなっている。

またイギリスでも,68年末から急速に投資がふえたが,これは66年に導入された投資特別補助金制度がその後68年末までという期限付きで補助率を投資額の20%から25%へ引上げたこともあって,68年末に駆け込み投資があったからである。69年にはいってからも投資の増勢はつづいているが,その伸び率は実質5%程度で,あまり強いとはいえない。

これに対して,西ドイツその他のヨーロッパ大陸諸国では60~61年と64~65年の投資ブームに匹敵する設備投資の高揚がみられる。とくに西ドイツの場合には,資本財の受注数字などからみると,前2回を上回る投資需要の高揚がみられる。これは1つには66~67年と2年つづけて設備投資が停滞したことの反動もあるが,同時に,ヨーロッパ諸国全般に,国際競争力の強化を目的とした本格的な近代化投資ブームが波及しつつあることが大きな原因となっている。したがって,ヨーロッパ諸国の場合は投資の内容も,合理化投資が主流である。

第3表 主要国における民間設備投資

(2)世界貿易も著増

先進国の景気の高揚に伴い,世界貿易もこの1年間,近来まれなほどの大幅な増加をみせた。

IMFの統計によると,自由世界の輸入は1967年には,前年比わずか5%増だったのが,68年には11.2%も増え,さらに69年上期には前年同期を13.3%も上回った。このような世界貿易の著増は主として工業国の輸入増加によってもたらされたもので,工業国の輸入は68年には13.4%の増加,さらに69年上期には16.0%もの増加となった。この伸び率は60年代としては最高であるし,先進国の工業生産の伸びをはるかに上回るテンポで伸びたことになる。

これを地域別にみると,この1年間の世界貿易の拡大も従来と同じく先進国間貿易の拡大という性格がつよかったが,それと同時に先進国と低開発国間の貿易も近年になく増加したことが1つの特徴となっている。

すなわち,OECD加盟国の域内貿易をみると,68年に前年比14.0%増,69年上期に17.6%増(前年同期比)といずれもその輸入総額の伸び率をやや上回っているが,同時に,域外諸国(主として低開発国)からの輸入も著しく増え,その増加率は68年10.2%,69年上期11.0%に達し,これまた60年代における最高の伸び率を示している。

また,この1年間の世界輸入区にみれるもう1つの特色は,68年のそれが主としてアメリカと西ドイツを中心とした輸入増加であったのに対して,69年には他の西欧諸国の輸入が次第に増勢を高めたことである。ヨーロッパ大陸諸国の輸入はいずれも69年に加速化し,69年上期の前年同期比増加率をみると,フランス36.3%,ベルックス31.5%,西ドイツ24.0%,イタリア21.9%と軒並みに非常な増勢をみせている。一方,アメリカの輸入は68年は約24%増えたが,69年上期には港湾ストの影響もあって前年同期比7.4%増にとどまったし,イギリスの輸入も68年7.1%増,69年上期6.2%増と比較的小幅であった。こうして世界貿易拡大の中心は68年のアメリカ,西ドイツから69年には西ドイツを含むヨーロッパ大陸諸国へ移ったといえる。

他方,主要国の輸出実績をみると,これもアメリカ,イギリス両国の伸びが比較的小幅であったのに対してヨーロッパ大陸諸国の伸びが大幅であったことが目立っている。たとえばアメリカの輸出の伸びは68年の9.1%から69年上期の7.1%へと鈍化しているが,ヨーロッパ大陸諸国の輸出実績は,特殊事情で伸び率の大きかったフランス(69年上期27.7%増)を別にしても,イタリア22%増,ベルックス20%増,オランダ19%増,西ドイツ17%増,といずれも工業国の平均を上回った。

なお,日本の輸出増加率は,68年24,3%,69年上期25.1%とこれら欧大陸諸国の伸びをさらに上回り,先進国中最高の伸びを示したことが注目される。

第4表 世界貿易の推移

第5表 世界貿易の推移


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