昭和43年

年次世界経済報告

再編成に直面する世界経済 

昭和43年12月20日

経済企画庁


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むすび

2 再編成に直面する世界経済と日本の立場

戦後の世界経済は大まかにいって,アメリカ,ソ連という二つの巨大な経済力をもった国を中心にして動いてきたといえる。しかし,その後,EEC諸国や日本などの経済力が著しい伸展をみせてくるにしたがって,アメリカソ連の世界経済における相対的地位は次第に低下している。その結果,従来アメリカ,ソ連によって占められていた「世界の工場」は,いまやアメリカソ連,EEC,日本の各国に分散し,世界の経済もこれら主要な数ヵ国の動向によって左右されるようになった。いわば,世界経済における多頭化時代の到来である。

こうした世界経済の多頭化傾向は前述した国際通貨問題だけでなく,経済構造,貿易構造の再編成につながる新しい胎動を呼び起している。

そうした動きの一つの現われは,世界の経済活動において次第に地域化の傾向が強まってきていることである。いうまでもなく,その直接の契機となったのはEECの結成であったが,その後,1960年には,EFTAが発足した。また,中南米諸国も60年以来LAFTAを結成し,中近東ではアラブ5カ国間でアラブ共同市場が1965年に発足した。さらにアジアではASEANなどが結成されており,社会主義国では周知のとおりコメコンがつくられている。

もちろん,これらの地域化は,自由貿易地域の設定から経済調整,経済協カなどに至るまで,内容はかなりまちまちだが,いずれも地域間の経済関係を強化しようとするものである点においては共通している。

このような地域化の背後には,さらに,それを促進する二つの要因がある。

第1は,低開発国に対する経済協力の問題である。戦後,低開発国援助に果してきたアメリカの役割は,その相対的な経済力の低下により,漸次,先進国間で分担ずる方向をたどっている。このことは,半面で,経済援助を通ずる地域的な連けいを強めることにもなる。現に,近年における経済援助の地域的関連をみても,アメリカの経済援助の6割はアジア地域に集中してきており,ヨーロッパの場合はやはり6割以上がアフリカ地域に,また,日本の場合は大部分がアジア地域に集中している。

第2の要因は,世界的に「市場の広域化」に対する重要性が著しく増大してきたことである。戦後20数年,世界経済の拡大は著しく,これにともなって需要構造もまた,大きい変化をとげた。そのうえ,戦後の急速な技術革新の進展は,生産財,消費財をとわず大規模生産の必要性と有利性を著しく高めることになった。

今後の技術進歩を考えると,これからの経済にとっては,ますます生産規模の大型化が必要となり,市場規模も一国だけの狭い市場では増大する製品を消化することは不可能になるであろうとみられている。

したがって,また,最近の地域化傾向は主として主要国の経済力格差の縮小と市場の広域化の必要性から生じた面が強いので,かつて第1次大戦後にみられたような「ブロック化」とは異なり,排他的な性質のものでなく,世界経済全体を一体として考えるIMF,ガット体制と必らずしも矛盾するものではないといえよう。

いずれにしても,国際通貨,貿易政策,経済活動の流れなど種々の面でいまや世界経済は新しい再編成を必要とする事態に直面しつつあるといえるであろう。

世界経済および貿易がこのさき来年にかけて大きな落ちこみはないとしても,国際通貨問題をめぐる情勢の変化には,予断を許さないものがある。わが国としては国際的な交流の増大や国際通貨の安定に協力する一方,当面の情勢変化に対応して,経済運営のいっそうの慎重さが必要である。しかし,より基本的には日本の経済力をいっそう強めていくことが重要である。それには,世界貿易の構造変化に適応して,産業構造の高度化を進める必要があることはいうまでもないが,また,地理的,歴史的に結びつきの強いアジア地域をはじめ,より広い地域にわたる多角的な経済関係を強化して,市場の広域化をはかることも肝要であろう。

このことは,単にわが国の経済力を強めるだけでなく,アジア地域の経済の発展にも寄与することができるし,さらに,今後の世界経済のいっそうの繁栄と進歩に従来以上の大きな役割を果す道にも通ずるのである。


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