昭和43年

年次世界経済報告

再編成に直面する世界経済 

昭和43年12月20日

経済企画庁


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むすび

1 国際通貨の動揺と今後の課題

この1年,世界景気は好調な推移をたどり,貿易も拡大したが,半面,国際通貨,金融面では近年まれにみる動揺が相ついで起った。

最近1年間にみられた各国通貨の動揺は,直接的には思惑にもとずく投機的動きに起因したものであったが,こうした動揺は,今後とも国際的な協力によって切抜けていくものと期待される。

国際通貨の動揺に対処する方策として,最近では,国際収支の不均衡をただ単に国際収支赤字国の問題としてでなく,同時に国際収支黒字国の問題でもあるという観点から積極的な協力が行なわれるようになっている。しかし今後の世界経済,貿易の拡大に暗い影を投げかけるものとして注目しなければならないのは,アメリカ,イギリス,フランスなど赤字国において緊縮的な経済政策がとられただけでなく,一部には輸入担保制度や付加価値税の調整など,直接的な輸入制限措置に訴える動きが現われたり,保護主義的な考え方が抬頭していることである。

また,こうした動きに関連して,国際通貨体制そのものについて,その基本的体制は変えないものとしても新たな角度から再検討しようという気運が生じている。その一つは,国際流動性の増強という問題であり,その点については,来年,その発足が予定されているSDRの創設に期待されるところが大きい。このSDRの創設は,金,ドル体制から次第に多数国通貨による準備体制へ,将来,体制を移行させて行くための一つのステップと考えてもよいであろう。また,もう一つは,各国経済力の相対的変化に応ずる各国通貨の再調整とか,変動為替相場制の採用といった問題が論議されるようになってきたことである。

以上のような国際通貨及び各国の経済政策をめぐる新しい動きの背景には最近における国際通貨の動揺が単に各国の国際収支の一時的な不均衡に基づくだけでなく,より基本的な問題を内在していることを見逃すことはできない。すなわち,過去20年間,貿易の自由化,国際通貨の安定のイニシアティブをとってきたアメリカの経済的地位が相対的に低下してきたこと,IMF体制が発足し,金およびドル・ポンドを基軸としたいわゆる金・ドル体制が確立した1947年当時にくらべて,現在,各国の経済力の格差に大きな変化がおこり,各国通貨の格差との間に不均衡を生じてきたことである。こうした経済力の相対的変化は,主として,世界の需要構造の変化に対する各国の貿易・産業構造の適応力の差異に根ざすものといえよう。


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