昭和43年

年次世界経済報告

再編成に直面する世界経済 

昭和43年12月20日

経済企画庁


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第3章 世界貿易構造の変化

2 世界貿易に占める主要先進国の地位の変化

世界貿易の地域構造,商品構造が変化するなかで,主要先進国の相対的地位もその国の経済力の相対的地位の変化に応じて,変化してきてぃる。

(1) EEC,日本の比率の増大

まず,主要先進国の輸出規模の大小を比較してみると 第57表 のようになっている。この表から明らかなことは,まず,アメリカの貿易規模が一貫して最も大きいが,2位との開きが次第に縮小しつつあることである。すなわち1955年にアメリカの輸出額と2位のイギリスとの間には2倍近い開きがあったが,1960年には2位の西ドイツとの開きが,44%に縮小し,さらに66年には33%にまで縮小した。一方,この間に,アメリカにつぐ輸出規模を誇っていたイギリスは,58年以降,それまで3位であった西ドイツと順序が入れ代った。また,この間に,日本の輸出規模は著しく拡大し,55年の8位から,66年には5位になった(67年は再び6位)。さらに,EEC諸国全体の輸出規模は54年にアメリカを上回り,60年にはアメリカの1.5倍に,66年には1.8倍に達した。

このような主要先進国の輸出順位にみられる変化に対応して,世界貿易に占める主要国の比率も変化してきた。すなわち, 第19図 のように,アメリカの比率は57年頃を境に低下の方向にあり,また,イギリスの比率も一貫して低下傾向を示している。これに対し,EEC諸国および日本の比率はほぼ一貫して高まっている。

(2) 相対的地位の変化の要因

以上のような,アメリカ,イギリスとEEC,日本との間にみられる対照的な傾向は,この間における世界貿易の地域構造,商品構造の変化に対する適応力の相違に基因するものであったといえよう。

まず,商品構造の変化に対する適応が主要国でどのように行なわれたかをみてみよう。すでにみたように,1955年から66年にかけて,世界貿易の商品構造は工業製品,とくに化学品,機械類の比重が高まる方向への変化を示してきた。こうした世界的な需要構造の変化に対応して,第2章でみたように主要国はいずれもその生産構造を適応させたが,このことは必然的にその輸出構造をも変化させてきたわけである。

世界貿易の商品構造変化に対する適応度係数を算出してみると, 第58表 にみられるように,アメリカ,イギリス,EEC,日本のいずれにおいても,適応度係数はプラスになっており,程度の差こそあれ,各国ともに商品構造の変化に対して,その輸出構造を変化させて適応してきたことを示している

このことは,また, 第20図 の特化係数の推移にも現われている。すなわち55年から66年にかけて,主要国の特化係数は比較的安定した推移をたどっており,世界全体としての輸出構造の変化に見合って,みずからの輸出構造を変化させてきたことが看取される。

しかし,そのなかでも,国によって,適応の程度が異なっていることも事実である。55年から66年に至る間に,日本はもっとも高い適応を示し,EE C,イギリスが日本につぐ適応を示したが,アメリカの適応はかなり劣っている。また,特化係数については,アメリカにおいて機械類の特化係数が低下し,食料の特化係数がやや上昇したこと,また,イギリスでも機械類の特化係数がやや低下したこと,これに対し日本では機械類の特化係数がやや高まったこと,EECではいずれの商品の特化係数も目立った変化を示さなかったことなどの違いもみられる。特化係数の推移にみられる相違は,EECが世界貿易の商品構造変化に見合って,輸出構造を十分に適応させたのに対し,アメリカ,イギリスでは機械類の適応が弱く,反対に日本は機械類の適応が強かったことを示している。

こうした特化係数に現われた相違は,例えばアメリカの食料輸出が低開発国,社会主義国向けを中心に大幅に増大し,そのことが結果的に輸出に占める機械類などの割合を低めたというように,他の商品との相対的関係において変化したという面もあったが,より基本的には, 第59表 にみられるようにそれぞれの商品の輸出拡大テンポとの関連で変化したものと考えられる。すなわち,アメリカ,イギリスの輸出は,化学品,機械類,その他の工業品など工業製品全般にわたって世界輸出を下回る伸びに止まり,世界全体の需要の伸びに十分に適応できなかったのに対し,EEC,日本では世界輸出の伸びを上回る伸長がみられ,需要構造の変化に対する適応が十分に行なわれたためであった。

上記のような商品構造の変化に対する適応の違い以上に著しかったのは,地域構造の変化に対する適応の違いであった。 第60表 にみられるように地域構造の変化に対する適応は,EECで十分に行なわれたほかは,アメリカ,イギリス,日本ともに十分ではなかったが,とくにアメリカ,イギリスの適応の程度は悪かった。こうした傾向は,化学品,機械においてとくに著しかった。

地域構造の変化に対する適応の違いをさらに具体的にみると,第61表のように,EEC,日本の輸出は,アメリカ,イギリスを上回る増加を示したがとくに北米,EEC,日本など輸入需要が著しく伸長した地域に対する輸出の伸びがアメリカ,イギリスのそれを上回った。ただ,日本とEECとを比較すると,EECの場合は,第62表にみられるように最大の輸出市場であるEECの輸入需要が,日本の最大の輸出市場である北米の輸入需要よりもはるかに急速に拡大したために日本に比べて相対的に有利であった。また,アメリカについては,この間に著しく輸入需要が伸長したEECに対する輸出が関税面でEECに比べ不利な立場におかれた一方で伝統的な輸出市場である中南米,カナダ向け輸出の伸びが低かった。また,イギリスの場合は,アメリカと同様に,EEC向け輸出が不利な立場におかれ,また,伝統的輸出市場であった南アフリカ等や東南アジア向けの輸出の伸びが低かったことが地域構造の変化に対する適応を不十分なものにした要因であった。

以上みてきたところから明らかなように,世界輸出に占める主要国の相対的地位の変化は,EECにおいては商品構造,地域構造の変化に対する適応が十分に行なわれたこと,日本においては,地域構造の変化に対する適応はEECほどではなかったが,商品構造の変化に対する適応でこれを補ったこと,これに対し,アメリカ,イギリスの場合は商品構造の変化に対する適応はある程度行なわれたが必ずしも十分ではなく,地域構造の変化に対する適応の不十分さを補うことができなかったことなどによるものであったといえよう。こうした適応力の違いの背景としては,すでに第2章でみたような産業構造,価格競争力が変化していたことが影響していた。

第61表 地域別輸入増加率と当該地域向け輸出の伸び

第62表 輸出先別構成比

第21図 アメリカ,イギリス,EEC,日本の輸出額の推移

(3) 最近における変化

しかしながら以上みてきたような商品構造,地域構造の変化に対する主要国間の適応力の違いは,1960年頃を境にして,その前後で若干異なった様相を示しつつあることも事実である。

55年から60年に至る間の輸出増加率と,60年から66年に至る間のそれとを比べると, 第63表 のように,アメリカ,イギリス,EEC,日本ともに増加率の高まりがみられるが,これを商品別にみると,アメリカでは,原材料の伸びが著しく低下した半面で,機械類の伸びが著しく高まり,反対に,EECでは,食料,原材料の伸びが高まった一方で,機械類の伸びがかなり低下している。日本については,この間に化学品の伸びが一層高まった。このような商品別の動きを中心として,アメリカの工業製品輸出は,60年代に入ってから伸びを高めたのに対し,EECにおいては,伸びが若干低下した。

60年代に入ってからこのようにアメリカの輸出に50年代とは異なった様相がみられるに至ったのは,第2章でみたように経済成長政策によってアメリカの成長力が高まり,需要構造の変化に適応して産業構造の変化,価格競争力の好転がもたらされ,輸出適応力が50年代後半より増大したためであるといえよう。

このことは,OECD諸国の主要工業製品輸出を輸出増加率の高低をもとに,高成長商品,低成長商品,停滞商品の三つに区分して,62年から67年までの輸出拡大状況をみると一層明らかである。すなわち, 第64表 にみられるように,いずれの区分においても日本の伸びが圧倒的に高くなっているが,高成長商品についてはアメリカの伸びが日本についで高く,EEC,イギリスの伸びはOECD平均の伸びを下回っている。また,低成長商品についても,アメリカの伸びはEECとほぼ同じ伸びであった。これに対し,停滞商品については,アメリカの輸出は減少をみた。

また,この間に,OECDの工業製品輸出に占める高成長商品の比率は32.1%から38.4%に高まったが,これに対応してアメリカが高成長商品の比率を27.0%から37.8%へと著しく高めたのに対し,EECは32.9%から36.1%へと若干比率を高めたに止まった。

このように,商品構造の変化に対するアメリカの適応力は60年代に入ってから工業製品を中心に著しく高まったが,地域構造の変化に対する適応は60年代に入ってからも十分には行なわれなかった。すなわち, 第65表 にみられるように,EEC,日本など60年代に入ってからも高い輸入拡大を続ける地域に対するアメリカの輸出はむしろ伸びを低めた。50年代後半には相対的に低い輸入増加しかみられなかった北米,中南米の輸入需要が60年代に入ってから伸びを高めこれら地域向けのアメリカの輸出増加率も高まったが,EE向け輸出における不利を補うには十分ではなかった。また,イギリスはEEC向けの輸出の伸びをやや高め,EFTA向け輸出もかなり増大したが,EECにつぐ輸出市場になった北米向けの伸びが鈍化し,東南アジア向けも減少するなど,地域構造の変化に対する適応はむしろ悪化した。一方,EECは域内輸出の伸びを一層高め,また,北米向けも増大して,50年代後半と同様の適応を示した。また,日本の適応力もかなり好転した。

(4) 商品構造変化に対する適応力と発展段階

こうした適応力の違いは,第2章でみたように,産業構造の適応力と価格競争力の相違を反映するものであるが,それを規定する要因としての資本,労働,技術等は一国の経済発展段階に大きく依存しているといえよう。経済の発展段階に応じて,資本,労働,技術等の要因がからみ合って生み出される比較優位分野が異なり,その変化する過程において,世界貿易に占める相対的地位の変化が生じてきたわけである。

こうした観点から,主要商品別に,主要工業国の輸出シェアをみると, 第22図 のようにいくかのパターンがみられる。

第1のパターンは,鉄鋼,電気機械,自動車,プラスチックなどのようにアメリカのシェアはすでにピークをすぎており,これに数年遅れて西ドイツフランス等のシェアもピークを過ぎたが,イタリア,スエーデン,日本などのシエアがなお増大しているものである。このパターンに属する商品は,主要国間の技術水準の開きが著しく縮小し,競争力がコストによって決まる傾向が強まったため,アメリカの優位性が失われた部門である。

第2のパターンは事務機械,航空機などのようにアメリカのシェアが最近ピークに達したが,依然圧倒的比重を占めており,西ドイツ,フランスなどのシェアがまだピークに達していないものである。このパターンに属する商品は,大規模な研究開発投資を基盤にした技術進歩の急速な部門に属し,アメリカの国際競争力の強さは他の追随を許さないものがある。

このような主要国のシェアの推移にみられる比較優位分野の変遷は,また輸出入バランスをみることによって一層明確になってくる。

第23図 にみられるように,アメリカの輸出入バランスは,鉄鋼においては1962年以降マイナスに転じており,しかもマイナス幅が大きくなっている。また,電気機械,自動車についてもプラスの幅は最近縮小傾向にある。一方西ドイツでは,鉄鋼のバランスはプラスであるとはいえ,鈍化する方向にあり,自動車については著しい増加傾向を示している。

第2のパターンに属する商品の輸出入バランスについては,依然アメリカが圧倒的なプラスを示しており,事務機械のようにプラス幅を拡大し続けているものもある。これに対し,西ドイツ等ではバランスが依然マイナスであるが,プラスであっても横ばいの状態にあるものが多い。

このように,主要国のシェアおよび輸出入バランスについてみると,鉄鋼,自動車など技術水準が主要国間で比較的接近しているものについては,コスト上の不利からアメリカの地位が低下しているのに対し,西ドイツ,日本などの地位が高まっている傾向がみられる。しかし,電子計算機などの事務機械や航空機については,アメリカが圧倒的優位にあり,これらの部門での需要が将来世界的に高まれば,商品構造変化に対するアメリカ輸出の適応力が今後著しく強まることが予想される。