昭和42年

年次世界経済報告

世界景気安定への道

昭和42年12月19日

経済企画庁


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第2部 世界の景気変動とその波及

第4章 景気変動と資本移動

2. 1960年代の短期資金移動と景気変動

つぎに,1960年代に現われた主要な短期資金移動と景気の関連をみよう。

50年代末から60年初めまでの数ヵ月間は,主要工業国の公定歩合は4%に足なみを揃え,58年に強まったアメリカの物価上昇テンポも弱まり,また過熱景気の心配された西ドイツでも卸売物価はほとんど動かず,安定色の強い時代であった。

しかし,60年1月のイングランド銀行の公定歩合1%引上げは,この安定的な金融環境に一石を投じることとなった。その引上げのねらいは,景気過熱を食い止め,国際収支の不安を除くことであった。

これに対して,6月3日に西ドイツが景気上昇にブレーキをかけるため,公定歩合を4%から5%へ大幅に引上げた。一方,アメリカは同じ日に景気下降を防ぐため4%から3.5%へ引下げた。そのため,西ドイツの公定歩合はアメリカよりも1.5%高となり,金融市場金利は西ドイツのコール・レート5.5%に対し,アメリカ財務省証券レートは2.75%前後となり,両者の開きは2%余まで拡大して,短資流出を誘うに十分であった。

6月になると,イギリスの公定歩合が再度引き上げられたため,米英の金利差はさらに拡大した。イギリスの引上げは景気の上昇によるインフレと貿易赤字の拡大,ならびに魔の9月に備えたものであった。こうして,短期金利水準は西ドイツを最高としてイギリス,アメリカとの格差が拡大した。つまり,英独の景気循環局面が上向いていたとき,アメリカは下降局面にあり,西ドイツの好況が金利の上昇をもたらしていたときに,景気引締め対策としての公定歩合引上げがさらに金利水準を引き上げ,他方,アメリカでは景気上昇刺激として引下げたため,米欧金利差は拡大した。これがアメリカからの短資流出を呼び起こす結果になった。

イギリスが60年6月に公定歩合を引上げて間もなく,アメリカは景気後退を防ぐ目的で公定歩合をさらに引き下げて米英の金利差は一だんと拡大し(8月),さらに10月には金価格の暴騰もあってドル不安が高まり,西欧通貨への逃避が起きて,第3四半期の短資流出は,実に5億ドルに達した。

つまり,景気局面の相違による短資移動に加えて,景気停滞下の弱い通貨から強い通貨への逃避が始まり,流出テンポが加速化される結果となった。

アメリカはドル防衛によって内外の立て直しをはかると同時に,各国にドル防衛への協力を求め,まずイギリスは10月,西ドイツが11月公定歩合を引下げて,米欧金利差の縮小につとめた。当時,イギリスの景気上昇力は衰えはじめていたときであったから,問題は少なかったにしても,西ドイツはなお力強い上昇期にあったため,1%の引下げはかなりの景気刺激となった。イギリスは12月初め,さらに公定歩合を0.5%引下げたため,それ以来イギリスに対する外国人所有の短資流入は減少したが,61年初めのマルクめ切上げの風説が再発し,60年秋,英独の対策によってやや鎮静化していた国際短資移動を再び促進させた。

第69表 主要国の公定歩合

第70表 1960年の民間短資移動

61年3月マルク,ギルダーの切上げと前後して西ドイツへの短資流入,イギリスからの流出がふえ,また,6月上旬ポンド切下げ説の再燃から60年中の高利目当てに流入したホットマネーが大量に流出した。しかし,イギリスは7月25日には5%の公定歩合を一挙に2%引上げたほか賃金ストップ,消費税,購入税の引上げによってポンド防衛の決意を明らかかにしたこともあって,それ以前に流出した短資の一部還流もみられた。

その後,64年のポンド危機など,景気変動とは無関係な短資移動が起きたが,こうした小波動を除いてみると,62~65年は米欧の景気がほぼ足なみを揃えて上昇傾向にあったため,金利差による短資移動は比較的少なかった。ただし,63年第2四半期には一時的に増大したが,これはベルギー西ドイツ,フランスなど西欧大陸の好況で資金需要が強まり,アメリカから資金流出をひき起こしたものと思われる。しかしそれも,63年7月にアメリカ側が公定歩合を引上げたこともあって流出テンポは鈍った。

64年に入って再び増勢が目立ったのは,一時縮小した欧米大陸間の金利差が西欧の好況によって拡大したためであったが,64年第3四半期にはポンド不安の再発によって,対欧短資流出は激減した。その後,第4四半期にややふえたが,65年2月のドル防衛による銀行融資規制は,これまでのように野放しな短資流出を規制したのと,規制前のかけ込み借入れの反動などもあって,ほぼ66年初めまで短資の流入がみられた(米銀資産の変動)。この間の流入原因としては,アメリカの投資ブームが進行してアメリカの資金需要が非常に強かったことも否定できない。


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