昭和42年

年次世界経済報告

世界景気安定への道

昭和42年12月19日

経済企画庁


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第2部 世界の景気変動とその波及

第3章 国際貿易と景気波及

4. 海外景気の日本への波及

(1) 海外景気と日本の輪出

戦後の日本経済はきわめて高い成長をとげた半面,かなり大きな景気の波を繰り返してきた。これまでに数回の景気後退を経験したが,それらはいずれも国際収支の悪化に起因する景気引締めに端を発しており,他の工業国にくらべて景気変動と国際収支変動との関係はきわめて密接である。また,近年における日本経済の国際化の進行に伴って,海外景気から受ける影響も大きくなってきた。66年の世界的高金利傾向によって生じたわが国の短資流出,67年に入ってからの海外景気の停滞化による輸出不振とそれによる国収支の悪化など,海外景気と日本経済との直接的結びつきが一そう強まってきた。

いま,世界の輸入変動と日本の輸出変動との関係を調べでみると,両者の関係はかなり密接である。わが国の輸出は年次ベースでは52~53年,58年に減少,また,61年,67年に増勢が大幅に鈍化したが,これらはいずれも海外景気の停滞期に当たっている。ただ,輸出は国内的要因によってもかなり左右されるから,輸出の変動を海外景気だけで説明することはできない。

たとえば,63年には世界の輸入は大幅に伸長したにもかかわらず,日本の輸出増勢はかなり鈍化し,同年における輸入の急増と相まって国際収支を悪化させた。これは,当時の日本経済が上昇局面にあり,国内需要の増大が輸出余力の鈍化をもたらしたことによる。また,67年上期における輸出の停滞にもこのような事情がかなり影響しているとみられる。しかし基本的にはわが国の輸出は海外景気によって左右されているといえる。そして,他の工業国に比べて特徴的なことは,わが国は工業国の中では低開発国に対する輸出依存度がとりわけ高いため,海外景気のわが国への波及は,他の工業国からの直接的ルートだけではなく,低開発国の貿易変動を経由して間接的に伝波してくるパイプもそれだけ大きいといえる。

第96図 世界の輸入と日本の輸出

(2)日本の地域別輪出変動

日本の輸出を地域別にみると,停滞の時期や度合はそれぞれ異なっている。そのうち,最もシャープなのは対米輸出で,かつ輸出総額のパターンときわめて類似している。換言すれば,わが国の輸出変動の基調は対米輸出変動によって作られているといえる。それは,対米輸出は輸出総額の3割を占め,同時に,アメリカの輸入自体も従来からきわめて景気感応的な変動を示しているからである。また,EECやEFTA向け輸出もそれらの地域の景気動向にほぼ対応した変動を示しており,66~67年の西ドイツを中心としたEEC経済の停滞期にも対EEC輸出はかなり悪化した。

第97図 日本の地域別輸出変動

一方,低開発国向け輸出も対米輸出ほどではないが,かなり循環的な変動を示しており,変動の振幅も一般に大きい。そのうち,アメリカに次ぐ有力市場である東南アジア向け輸出は,数回の減少期を経験しているが,これらの時期はいずれもアメリカなど工業国の景気後退期より若干ずれている。これは前節で明らかになったように,ある工業国の景気変動が若干のタイムラグをもって低開発国の輸入変動に波及し,それが同時に,他の工業国の低開発国向け輸出の減少をひき起こすという一つの事例を示すものといえよう。つぎにこれを国別にみると(98図),わが国の輸出変動と相手市場の輸入変動とは工業国,低開発国を通じてきわめて密接な共変関係を示している。また,両者の変動幅を比較してみると,日本の輸出の方が各市場ともほぼ2倍前後大きい。このことは,わが国の輸出が相手市場の景気変動に敏感なだけではなく,しかもそれが増幅されてわが国に波及していることを示している。しかし,北米などの場合には相手市場の輸入停滞期においてもわが国の輸出はかなり下方硬直的で,伸びの鈍化にとどまっている。

第99図 アメリカの輸入変動と対米輸出変動

このように,わが国の輸出変動と海外の景気変動との関係はきわめて密接であり,わが国もそうした景気の国際的波及のメカニズムの中に組み込まれているといえる。とりわけ,アメリカの景気変動の影響が最も大きい。わが国の対米輸出は66年には輸出総額の3割を超え,また,アメリカの輸入総額に占める割合も12%まで高まった。またそれだけに,対米輸出がアメリカの景気変動から受ける影響も一そう強まったといえる。

第99図にみられるように,アメリカの輸入変動とわが国の対米輸出変動とはかなり類似したパターンを示しており,対米輸出がアメリカの景気変動の影響を強く受けていることがわかる。しかし,両者の変動のタイミングや振幅は必ずしも一致していない局面もある。両者の間にこのようなギャップが生ずるのは,輸出は相手市場の景気変動だけでなく,国内の生産能力や輸出圧力などの国内的要因などによっても左右されるからである。対米輸出とわが国自体の景気変動との間にもかなり関係が深いように見受けられる。

いま,日米両国の景気局面の相対的な関係を指数化したものと対米輸出を比較してみると,両者のパターンはきわめて類似している。すなわち,相対的な景気指数が上昇すれば,対米輸出の増加テンポも高まり,反対に低下すれば増加テンポも鈍化ないし輸出水準の減少がみられる。さらに,両者の山谷もほとんど一致している。また,66~67年における対米輸出の停滞期についても同様である。

したがって,このような事実から,海外景気だけがわが国の輸出変動を規定しているのではなく,同時に,国内の景気によって生ずる輸出圧力の強弱も,それにかなり影響を与えているといえる。換言すれば,海外景気と国内景気のすれ違いということも,輸出変動と密接な関係をもっているわけである。

以上のように,各国の景気変動は好・不況両局面を通じて他の諸国に広範囲に波及している。各国経済と国際経済との結びつきが緊密化するにつれ,その傾向は一だんと強まってきた。そして,従来は各国ともかなり高い成長を示してきたこと,多くの期間を通じて各国の景気変動がずれていたことが国際間の波及過程を通じて世界全体の安定的成長を可能にした。その半面,今回のように,多くの国,とりわけ主要工業国がほぼ同時に景気停滞に入ると,自由化の進展によって太くなった貿易のパイプを通じて,それが直ちに他の諸国に累積的な悪影響を及ぼし,世界景気の不振を招いた。しかし,経済体制や景気対策の改善によって,各国の景気変動の小幅化が現実のものになったと同様,国際協力や共同景気政策の展開によって,世界景気の波を平準化するのも決して困難ではない。またそれは,世界経済の持続的成長への道につながっているといえる。


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