昭和42年

年次世界経済報告

世界景気安定への道

昭和42年12月19日

経済企画庁


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第1部 1966~67年の世界経済

第2章 海外諸国の経済動向

6. 東南アジア

(1) 1966~67年の経済動向

1966年の東南アジア経済は全体としてみると,欧米工業諸国の景気上昇やベトナム要因に支えられ,かなりの拡大をみせた。しかし国別にみると,タイ以東の諸国はベトナム要因を背景にして順調に推移したが,インドおよび周辺諸国は2年続7きの農業生産の不振によっだ前年に引続き停滞を余儀なくされた。そのため,東南アジア諸国の明暗の差は65年に引続き拡大した。 しかし,67年に入ると,先進国の景気停滞の影響を受けて輸出が大幅に鈍化するなど悪化要因も現われてきた。

まず,66年における経済成長率を国別にみると,台湾,韓国,タイの3ヵ国はそれぞれ8.1%,12.8%,8.6%の伸びを示し,ここ数年の高水準を依然持続しており,とりわけ韓国の著しい伸びが目立った。また,マレーシア,パキスタンも5~6%でほぼ前年の伸びを維持することができた。これに対して,インド,セイロン,ビルマなどは輸出不振と国内経済の沈帯により,成長率もかなり低下したとみられている。

第33表 東南アジア諸国の実質経済成長率

このような66年における成長率の格差拡大は,主として食糧生産の豊凶とベトナム要因の大小に基いているが,これをさらに生産,貿易,物価などから検討してみよう。

農業生産では,東南アジア全体としては66年は前年比3.0%増を示し,生産の回復気配がみられた。そのうち,食糧生産の伸びは3.8%増と推定されており,前年よりかなり増大した。しかし,世界全体の伸び(4.5%)に比べると,なお小幅にとどまっている。

鉱工業生産は6.1%増を示し,前年の伸びをやや上回った。これは,インドの不振にもかかわらず韓国,台湾,パキスタン,フィリピンなどがいずれも8%を上回る大きな仲びを示したためで,とくに前年に引続ぎ韓国の著しい伸び(17.6%増)が目立った。これに対し,インドは農業生産の不振や外貨不足などから僅か3.5%増にとどまり,東南アジア全体の伸びを著しく減殺した。また,インド周辺諸国も外貨準備の激減により,65年に資本財や原材料輸入がきびしく抑えられたため,機械設備の稼動率は大幅な低下を余儀なくされた。

貿易面では,輸出が台湾,韓国などタイ以東の諸国において,おおむね順調な増加をみせたが,インド周辺諸国は総じて著しい不振を示したのが目立った。他方,輸入は輸出が好調を続けた諸国においてはかなりの増大を示した。これに対して,輸出不振を示した諸国は外貨事情の悪化からきびしい輸入制限を続けたため,輸入は一部の国を除いて減少した。しかし,67年に入って先進国の景気停滞から,輸出は著しい伸び悩みをみせている。一方,金・外貨準備は東南アジア全体としては65年に引続き増加傾向を示し,67年第2四半期には40億ドルを超えた。これは,輸出増大を続けてぃる諸国の外貨準備が増大していることによるもので,加えて,ベトナム要因にょる貿易外収入の増大も大きな役割を果しているものとみられる。

物価面では,戦乱のベトナムをはじめ,インドネシア,インドなど65年に深刻な物価高を経験した諸国においてーだんときびしさを増している。他方,66年に入ってから新たにパキスタンやフィリピンなどにおいてもインフレが進行し,この意味で物価の上昇は東南アジア諸国において,当面の重要課題となっている。これに対し,数年来高騰を続けた韓国の物価は政府の強力な物価対策によって,落着きをみせている。このような全般的なインフレ傾向の中にあって,セイロン,マレーシアの両国はこの数年来比較的安定した物価水準を維持しているのが目立っている。

このように,66年の東南アジア経済は,国によってかなり様相を異にしている。この明暗の差は,とくにベトナム要因を背景にタイ以東と以西の諸国に色分けできる。

しかし,67年に入って,とくに2年続きの食糧生産不振を続けたインドでは生産の回復が見込まれ,それに伴って工業生産も上向き気配を示すなど明るい材料もみえ始めてきた。また,アジア開銀の発足やASPAC(アジア大平洋閣僚会議),ASEAN(東南アジア諸国連合)など地域協力の動きが急速に芽生えてきた。

(2) 回復し始めた農業生産

FAOの推定によれば,1966/67年の東南アジアの農業生産は前年比で3.0%増を示し,著しい停帯を示した前年度の実績をかなり上回った。そのうち,食糧生産は3.8%増で前年の生産不振から立ち直ったことを示してぃる。

これを商品別にみると,まず米の生産は2年続きの干ばつや洪水のため,66/67年は僅かに0.4%増にとどまった。地域別にみると,65/66年に極端な不振を示したインドが再び干ばつのため生産不振を続け,東パキスタンと南ベトナムでは収穫期における洪水のため,大幅に減産した。また,主要米産国であるビルマでは悪天候に加えて国内の政治不安などから,66/67年の生産は640万トンと推定されており,前年より19%減少した。これに対して,インドネシア,フィリピン,韓国,タイなどでは65/66年を上回る生産が見込まれている。しかし,東南アジア全体としてみると,人口の増大にもかかわらず,生産の不振が続いたため米の需給関係はーだんとひっ迫した。これを1人当りの生産でみると,64/65年以降低下傾向をたどっている点が注目される。

第54図 東南アジア諸国の食糧生産の推移

米と同じく小麦生産も干ばつの影響により,インド,パキスタンなど小麦生産国では軒並み不振を示した。これは,北米やソ連など他の生産地域における増収傾向とはきわめて対照的で,この点でも東南アジアの食糧需給の悪化に拍車を加える結果となった。

つぎに雑穀生産では,米や小麦と同じく悪天候による地域差が目立った。 すなわち,インド,パキスタンを中心とした地域では生産不振が目立った半面,タイにおいてはとうもろこしやリーガンが65/66年に引続いて増収を示した。しかし,東南アジア全体では,減産を示した模様で,このような不振は播種期における好天候にもかかわらず,その後の干ばつの悪影響が尾を引いたもので,67/68年の生産見込みも明るくない。

つぎに,東南アジアにおける主要輸出商品作物をみると,茶は73万トンと65/66年に引続き増収が見込まれている。これは,干ばつのため主産国セイロンにおいて前年比で3.5%減と減産が見込まれるもののインド,パキスタンがそれぞれ2.3%増,6.6%増と好調を示したためとみられる。砂糖生産は,66/67年は世界的にも増大したが,その中で東南アジアは911万トンと前年を5.8%上回る増収が見込まれている。これは,主としてフィリピンやインドネシアの増収によるところが大きい。半面,インドにおいては干ばつによる打撃に加えて,砂糖農園の転換により生産が激減したと伝えられる。

また,農産原材料の生産動向をみると,綿花は主産国であるインドやパキスタンの干ばつによる生育不良やアメリカの低支持価格のため66/67年は前年(6.5%減)に引続き不振を示した。ジュートはパキスタンが播種期の悪天候のため,5.0%の減少と推定され,とくに洪水による打撃により栽培面積は7%近くの減少を伝えられている。これに対し,65/66年にきわめて低水準に落ち込んだインドは著しい回復を示し,前年比で20.4%増を記録した。

ゴムもマレーシアを中心にして,全体で64%増を記録した。

以上にみたように,66/67年の東南アジアにおける農業生産はやや好転の見込みであり,地域的には,とりわけインドの回復により,かなり明るさを増した。しかし1人当りの生産は,人口増が大きいため60年代に入ってからの著しい伸び悩み傾向が続いている。

(3) 増勢鈍化した鉱工業生産

1966年の東南アジアの鉱工業生産は前年比6.4%増を示したが,前年の伸び(8.7%)よりは低下し,また低開発国地域全体の伸び(7.8%増)に比べるとかなり低い。これを業種別にみると,一次金属,繊維,飲料,タバコなどは前年の伸びを上回ったのに対し,金属製品,産業,紙,パルプなどはかなり低調であった。また,鉱業(4.7%増)の増勢鈍化が,66年の東南ナジアの生産動向を左右したといえる。

第34表 東南アジア諸国の鉱工業生産増加率

つぎに国別にみると,66年を通じて著しい拡大を示した国としては台湾と韓国が挙げられる。台湾の鉱工業生産は前年比12.7%増を示したが,このような拡大基調は67年に入ってもなお変っていない。この増勢は主としてベトナム需要の増大によるアメリカと低開発国向け輸出の好調によるところが大きい。品目別にみると,セメント,合成繊維,プラスチック,合板などが大幅に増加した。韓国の好調も目立った。66年は17.6%の著増を示し,また,67年第1四半期にも前年同期比で18.1%増を示すなど拡大基調が依然続いている。この好調な生産拡大は台湾の場合と同じくアメリカ向けなどの輸出の増大に大きべ依存している。また海外要因と並んで,単一為替レートの設定や投資に対する租税特別措置,農業の豊作などにみられる国内経済に負うところも大きい。

この両国についで,著しい生産回復を示したのはパキスタンで,66年の伸びは60%増,また67年第1四半期にも前年同期比19.5%という著増を示した。台湾や韓国と異なりベトナム要因が小さいとみられるパキスタンにおいて,このような拡大がみられた背景には,印パ紛争の解決による生産活動の回復が作用していると考えられる。またフィリピンも66年を通じて順調な拡大を示した。

このほか,好調を続けた国としてタイ,マレーシア,シンガポールなどのベトナム近隣諸国が挙げられるが,この中でとくにベトナム要因の大きいとみられるタイの場合,66年の製造工業の伸びは20%に達したものと推定されている。シンガポールも27%増という著しい増加を示した。これはインドネシアとの関係改善によるところが大きいとみられる。これに対して,インドは前年比で3.5%増を示したものの前年の伸びをかなり下回り,60年代に入って最低の伸びであった。これは国産原材料の不足と原材料輸入のきびしい制限のため,綿,ジュート,繊維などの農業関連産業が大きな打撃を受けたためとみられる。

このようなインドの伸び悩みから,66年の東南アジア全体の鉱工業生産指数は増勢をやや鈍化させる結果となった。

(4) 明暗示した貿易動向

1966年の東南アジア貿易は全体としてみるとかなりの増勢を示した。輸出は前年比5.2%増で,65年と同じ拡大基調を維持した。また,輸入も7.1%増と輸出を上回る伸びを示した。このような東南アジア貿易の拡大は,とくに,ベトナム要因に基ずく特需やアメリカの軍事支出の増大による対米輸出の増加と域内貿易の拡大によって支えられた。しかし,世界全体の伸びに比べるとかなり下回っている。その結果,世界貿易に占める東南アジアのシェアはとくに輸出面においてーだんと低下した。

第35表 東南アジア諸国の貿易増加率

このように,66年を通じて東南アジア貿易は全体として着実な拡大をみせたが,国別にみると,明暗の差が拡大した。これを輸出面でみると,概してタイ以東の東南アジア諸国は順調な拡大をみせたが,インドおよび周辺諸国における輸出不振はとくに目立った。一方,輸入面では輸出不振にあえいだインドおよび周辺諸国がきびしい輸入制限により停滞したが,輸出が好調を続けたタイ以東の諸国は総じて増大し,とくに66年下期以降から67年上期にかけて著しい増勢を示した国も多い。以下では,66年を中心にして各国の貿易動向をみよう。

まず,比較的好調を続けた諸国からみると,台湾は輸出が前年比で19.1%増を示し,65年の伸びを大幅に上回った。これには,第2四半期以降の急増が大きく寄与した。この背景にはベトナム特需によるアメリカ向け輸出の増大が挙げられる。品目別では砂糖輸出が相場低迷のため不振を示したが,米の輸出増とベトナムおよびアメリカ向け工業製品輸出が著しい増加を示した。一方,輸入は11.9%の伸びを示したが,前年の伸びに比べると,かなり鈍化した。

韓国の貿易は台湾以上に拡大した。輸出は42.9%増と64年来の高い伸びを持続しており,67年上期においてもこの基調は変っていない。この背景には台湾と同じくベトナム要因が大きいと思われるが,農工業生産の好調やその他政策的要因の果した役割も大きいものとみられる。品目別では食糧・原材料・化学製品など広範囲にわたっており,また輸出商品の国際競争力強化を狙いとして実施された為替レートの調整も66年の輸出拡大にかなり寄与しているものとみられる。他方,輸入は前年比で54.6%増と輸出を上回る伸びを示し,この増勢は67,年上期にも続いている。これは国内の活発な生産活動を反映したもので,65年6月における輸入制限の緩和も輸入の増大に寄与したものとみられる。

タイおよびフィリピンもそれぞれ11.6%増,9.1%増と輸出は順調な拡大を示した。タイの場合はベトナム要因に加えて米,とうもろこしなどの域内輸出の増大が大きな役割を果たした。これに対して,フィリピンの輸出増はコプラと木材の増加が大きいが,さらに65年11月に公表された自由為替レートの採用が輸出の増天に大きな刺激を与えた。しかし,このように順調な輸出も66年下期以降かなり減少の兆しをみせている点は両国とも共通している。これに対し輸入ではとくにタイの51.3%という著増が目立った。フィリピンは66年の7.0.%増に対して,67年第1四半期は14.5%増を示したが,これは65年の金融引締めによる輸入鈍化の後だけに,必らずしも大きな伸びとはいえない。パキスタンは輸出が13.8%増とかなりの伸びを示し,67年上期にもこの拡大基調を持続している。これは印パ紛争からの立直りとジュートの価格堅調に負うところが大きい。一方,輸入は逆に13.7%減と激減した。これは印パ紛争によりひき起された援助の停止から,輸入制限を余儀なくされたためとみられる。しかし,その後援助の再開と輸入制限の緩和により,66年末から67年初にかけて輸入は増大し,67年第2四半期によ前年同期に比べ67.6%増を記録した。シンガポールは対インドネシア貿易の再開により,66年の輸出は12.3%増と伸びた。

つぎに66年を通じて著しい輸出不振を示した諸国をみると,インドの不振が目立った。66年の輸出は4.5%減と65年(3.8%減)に引続き著しい不振を示した。とくに,66年下期以降とくに著しい減少をみせ,67年上期にもなお輸出不振が続いている。これは茶やジュート製品の輸出伸長にかかわらず印パ紛争に引続く2年続きの農業生産の不振によって影響された面が強い。他方,食糧輸入の増大にもかかわらず外貨準備の激減や援助の中断により輸入ぱきびしく抑えられた。このような貿易規模の縮少に対処し輸出振興を図るため,66年央に政府はルピーの切り下げを実施した。しかし,その後,67年第2四半期に至るまで輸出の低下傾向はなお続いており,その効果を減殺するようないくづかの要因が指摘される。第1は茶やジュート,綿製品など主要輸出品に対する輸出税がルピー切下げと同時に賦課されたことであり,第2は農業生産の不振が続いたこと,そして第3には同国の主要輸出品に対する需要が非弾力的であることや他の低開発諸国どの競争,さらに合成代替品の普及などにみられる構造的な要因も輸出の拡大も阻んでいるものとみられる。

また,ビルマやセイロンの輸出不振も著しい。66年には両国はそれぞれ15.6%減,22.7%減と著しい不振を示したが,67年上期にも立ち直りの気配をみせていない。ビルマの場合は,輸出の大半を占める米の不振が66年の輸出動向を左右した。これに対してセイロンは同じく主要輸出品である茶やゴムの価格低迷が大きく影響している。また輸入をみると,ビルマが前年比で38.1%減を示したのとは対照的に,セイロンは,37.8%増と著しい増加を示した。ビルマの減少は同年の輸出不振による外貨不足が影響した。また,マレーシアは輸出入とも65年の伸びに比べると小幅に止まり,67年に入ってからも低調である。

このように国により明暗の差を画いた66年の貿易動向を四半期別にみると,とくに下期以降マレーシア,フィリピンなど原材料供給国を中心に輸出が減少する気配をみせ,67年に入って,この傾向はーそう強まっている。これは,海外景気の停滞に伴う需要減や原材料価格の低下を反映したものである。これに対しベトナム需要が大きいとみられる台湾,韓国などでは,輸出の増大傾向は67年上期にもまだ変っていない。その結果,金・外貨準備の面にも,このような国別の差がかなり明確に反映している。すなわち,輸出面で好調を続けた韓国,タイなどは輸入も激増を示したため貿易収支は依然赤字を続けたが,この両国は台湾と並んでベトナム特需に基く貿易外収支で好調を続けたため,66年を通じて金・外貸準備は増大を示し,この基調は67年上期にもなお続いている。とりわけ,タイの増加は著しく,67年第2四半期には10.9億ドルにも達し,東南アジア全体の4分の1を占めるに至った。これに対して,フィリピン,パキスタンは66年下期以降の輸出不振のため,外貨準備もしだいに低下傾向をたどっている。

一方,輸出の不振を続けたインドは,とくに66年央の平価の切下げにより同年下期に輸入が激減し,そのため同年の国際収支は若干の改善をみせた。しかし,67年に入って輸出がなお不振にあるため国際収支は再び低迷状態にある。セイロンは逆に輸入増が著しかったため,とくに,66年第2四半期以降外貨準備は低水準に落ちこんだ。

なお,67年11月のイギリスにおけるポンド切下げに伴い,香港,セイロンもこれに追随して平価切下げを実施した。また,マレーシアは現行の7.5%から8%へ公定歩合の引き上げを実施したが,インド,パキスタンと並んで平価の切下げはしない方針といわれる。これら3ヵ国はイギリスを輸出市場に相互に競争関係にあるが,しかし対英輸出のシェア(66年)はそれぞれ22.1%,12.8%と49年の切下げ時に比べかなり低下している。このような客観情勢の変化を背景に,インドは事態の推移をみながら,輸出税や関税の部分的な手直しによって当面の緊急事態を乗り切ろうとしている。

しかし,茶の輸出で競争する立場にあるセイロンが平価切下げに踏み切ったため輸出保証外貨制度を含む輸出政策の全面的な再検討が迫られており,ルピーの先行きはーだんとけわしくなっている。とくに66年央のルピー切下げ後,インドの輸出がなお不振を示している折だけにインド経済の前途は多難を予想される。

第55図 東南アジア諸国の金・外貨準備

(5) 懸念されるインフレ傾向

1964年以来,物価の上昇テンポを速めた東南アジア諸国は,66年に入って騰勢をーだんと増し,インフレ傾向を強めているのが注目される。このような物価高の背景には,とくにインドなどにおける食糧生産の不振と,それによる資本材,原材料を中心とした輸入制限などが挙げられる。半面,財政の膨張や対民間信用の増大などにより,これがインフレ傾向を強めている国のある点も指摘される。前者の典型はインドであり,後者はインドネシアなどにおいてみることができる。

66年の物価動向を国別にみると,インドの消費者物価は前年比で11.2%増を示し,64年来の騰勢を続けている。これは2年続きの食糧生産不振のため,食料品を中心に上昇し,また65年末の輸入統制による原料高と賃上げによる生産コストの上昇も影響している。また,この値上りの背景には通貨の膨張があり,これは対民間および政府に対する信用の増加に加えて,印パ,中印国境紛争による国防費の増大やかんばつ,洪水などに対する災害復旧関係費の増大などにより中央,地方の財政規模が著しく拡大したためである。このような物価高を沈静化させるため,政府は66年7月のルピー切下げと並行して,いくつかの具体的措置を講じた。その一つは機械,原材料輸入に対する輸入附加税の軽減と食料品,肥料,書籍などの生活必需財の輸入に対する課税撤廃である。他方,ディーゼル油,燈油などの値上りを抑えるため主要な石油製品に対する輸入税の軽減を実施した。また,67年6月には優先度の高い59業種の生産能力を高めるため,関連機械部品や原材料に対する輸入税制を大幅に緩和した。

また,パキスタンにおいても食糧品を中心に66年の消費者物価は7.7%高となり,騰勢はーだんと強まった。同国の場合もインドと同じく,食糧生産の不振と65年下期における輸入制限の強化が物価高の要因となったが,そのほか同期に実施された機械類以外に対する売上げ税の賦課や輸入税の25%の国防賦課金,援助輸入の遅延などが重なって物価高にかなりの影響を与えた。また,卸売物価は11.O%上昇し,前年からの増勢を強めた。これは最終製品を中心とした65年下期における輸入制限の強化がかなりの影響を与えたものとみられる。

フィリピンの物価騰貴も66年下期に入って目立った。66年の消費者物価は3.8%高にとどまったが,下期以降騰勢を強め,67年第1四半期には前年同期比で9.O%高となった。これは食料品の値上りが大きいためであるが,これと並んで金融引締めの緩和による需要刺激も物価上昇の一因となった。

63年以降激しい物価上昇を続けた韓国は,66年に騰勢がやや鈍化したものの消費者物価は12.3%高となお高い上昇を示した。このような情勢から,政府はインフレ対策に総力を集中し,一時は29.7%高(64年)を示した物価騰貴の沈静化にかなりの成果を収めた。これには通貨増大の抑制や単一為替レートの設定,輸入制限の緩和,政府保有米の放出などが影響しているが,加えて2年続きの豊作による食糧価格の鎮静化も大きい。

また,台湾,マレーシア,セイロンなどは,65年来の安定基調を維持している。この中から66年における特徴点を国別にみると,台湾は食糧品が前年比4.7%高となったため,消費者物価は2.O%上昇した。これに対し,セイロンは食料品が徴騰を示したものの消費者物価全体ではほとんど変動を示さなかった。また,タイの場合は食料品の値上がりが物価の徴騰に影響を与えたが,外貨の流入や駐留米軍支出の増大といったベトナム戦争に絡んだ海外要因の影響も大きかった。

第56図 東南アジア諸国の物価の推移


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