昭和41年

年次世界経済報告 参考資料

昭和41年12月16日

経済企画庁


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第7章 中国

2. 1965~66年の経済動向

(1)工農業生産

1964年12月に開催された第3期全国人民代表大会第1回会議で「調整政策の基本的な完成」が強調されたが,65年は第3次5ヵ年計画(1966~70年)発足のための最終的な調整の年となった。

国連の「世界経済報告」によると,65年の工業生産は前年比11%増,農業生産は約3~4%増,国民所得は約5%増となり,国民経済規模は経済後退前の最高水準の年(1959年)にほぼ近接することができたようである。

1)工業生産

66年にはいっても経済の好調が続き,1~8月間の工業生産は前年同期比で20%の増加となった。業種別の生産動向をみると,前年と同様に農業増産に関連した化学肥料,農業機械の増産が中心となっており,とくに化学肥料については需要増に対応して全国的に小型肥料工場が建設されている(全国窒素肥料生産中に占める小型窒素肥料の比重は65年12.4%,66年推定18%)。小規模生産方式は58~59年の大躍進段階で,生産の拡大と雇傭吸収を目標として,鉄鋼,セメント,機械,紡織など近代工業分野で全国的に普及されたが,投資効率や生産コスト面で問題がありかなり整理淘汰されてきた。合成アンモニア分野で小規模生産方式がふたたび採用されているが,投資効率やコスト面で大規模プラントに比べいちじるしく有利になるとは考えられない。しかし土法鉄鋼の場合とちがって,品質にさほど問題もなく,量的確保という面ではかなり寄与している(第7-3表参照)

またエネルギー(石炭,電力,石油),鉄鋼,工作機械,精密機械,動力機械,トラック,紡織品の生産も本年上半期にはいって増産に転じた。第3次5ヵ年計画期にはいって設備投資の高まり(1~8月間の粗固定投資は前年同期比18%増)と,輸出の増加とに見合うものである。

なお,中国の工業生産面における最近の重要な成果は,技術開発が促進されている点であろう。

中国の科学技術は,理論的分野では西欧および日本の先進技術を吸収するだけの基盤は十分形成されているという。また外国製品のコピーから出発しながらも設計技術はかなり進み,こんごこれに応じる材料技術の進歩および設備操作技術の向上が進めば,中国の技術水準は飛躍的に向上するものとみられている。こうして,外国の設計の模倣から独自の創造段階へと各産業分野で技術開発が進展していることが注目されるがその直接的な動機となったのはソ連の経済技術援助の停止であった。

第7-1図 工業生産の推移

第7-2図 穀物生産の推移

第7-2表 中国の主要工業物資の生産

2)農業生産

つぎに農業生産は,65年に停滞前(1957年)の水準を超えたが,穀物生産の回復テンポは比較的緩慢である。計画当局の発表によると66年上半期における小麦および早稲の生産は62年以来連続5年目の増産であったとしているが,たとえばイギリスのQuarterly Economic Reviewなどでは,本年初頭の干ばつ発生と,緑肥栽培面積の拡大のため,小麦および早稲の作付面積が減少して前年の小麦,早稲生産量をやや下回ったのではないかとしている。また9月末現在の穀物買付量も前年同期に比較してわずか4%増にすぎないところからみても,中,晩稲の増産テンポもさほど大きくないようである(第7-4表参照)。

しかし,綿花,ジュート,甘蔗など経済作物(Cash Crop)は,作付面積の拡大,土地生産性の上昇(品種改良,肥料増投などによる)によって大幅な増産になったことが指摘されている。

一方,中国経済が高成長を維持するためには,農業増産が前提となるので,天候に左右されない安定した農業づくりが当面,政策の中心課題となっている。

農業増産対策は人民公社投資を基礎にし,それに国家からの財政投資を加,えて,全国的に農地造成,水利建設,耕作技術の改善,品種改良など農業近代化が進められているが,農業近代化の達成にはすくなくとも今後25~30年を必要とするという長期プログラムが立てられている。

農業増産対策で注目されるのは,第1に作物栽培体系の整備である。作物栽培体系の面ではとくに土地生産性の高い米の増産に着目し,かつて自然条件を無視して画一的に米作北上化が試みられ結局は失敗に終ったこと。また中部楊子江沿岸地域で米の2季作を試み,一部の地域で減収を招いたことなどの経験を総括して,調整段階では高級品種の導入,灌漑工事の普及,緑肥栽培の奨励など,より長期的な観点からする改善が試みられ,最近では,北方米作化の企ての再開,中部地区における米の2毛作栽培の定着化に一応成功したようである。

第2に,灌漑排水事業の急速な展開が注目されている。最近の水利事業の特徴の一つは,「大衆的小型水利工事」が全国的に展開されていることであり,農村電化の普及と併行して動力灌漑が大幅に利用されている。小型水利工事の多くは,財政投資負担の軽減をもねらって,主として人民公社の各生産隊の経費負担で進められている。

第3に,農業近代化のいちじるしい特徴として指摘されるのは,化学肥料の増投である。経済の停滞期にも化学肥料の生産には重点がおかれてきたが,同時に輸入品目の選択のうえでも化学肥料の輸入は優先的な取扱いをうけて,国内消費量は目にみえて増大してきた。

第4に,農業機械の導入が最近急速に増加していることである。トラクターの導入は土地生産性の上昇にも役立ち,畑地ばかりではなく耕地面積の大半を占める水田にも利用されようとしている。また中国の自然条件に適した各種の水田用機械が開発され,人民公社の全耕地面積に対する機械耕作面積は,62年の5%から,いまでは30%以上に引き上げられた。しかし,現在のところ,トラクターの導入は収支バランスと余剰労働力対策の目安がついた人民公社においてのみ利用され,全国保有台数は13万台強(15馬力換算)にすぎない(第7-5表参照)。

第7-6表 主要国における肥料消費

以上のような農業近代化投資の展開によって,国営商業公司の売上高は本年1~8月間に前年同期比10.4%の増加となったが,うち化学肥料,農具,農薬など農業生産財の販売高は40%以上増加した。

(2)対外貿易

1)貿易の推移と特徴

中国の対外貿易は1963年に回復に転じたが,65年から66年にかけていっそう増勢を強め,66年には59年のピーク時の貿易規模に回復する見こみである(第7-7表参照)。

主な特徴をあげると,第1に東西貿易比率(市場別構成中に占める東西貿易の割合い)が増大し,とくにヨーロッパ先進国および日本の著増が目立つこと,第2に輸入商品構成の面で穀物輸入の割合いが低下し,工業品(鉄鋼,機械,化学品)の輸入比重が増大していること,第3に,輸出面で香港市場などにおける日中製品の競合が激化していることなどが指摘される。

東西貿易比率の増大は,主として,ヨーロッパ先進国および日本との貿易増大によるが,66年上半期における主要10ヵ国(第7-8表参照)との貿易の伸びは,前年同期比でみて中国の輸出17.7%増,中国の輸入46.4%増で,とくに輸入の増加がいちじるしい。なお中国の対先進国貿易は各国とも軒並みに増加しているが,これはFar Eastern Economic Reviewも指摘するように,「対ソ経済関係の経験によって一国あるいは特定の政治グループに過度に依存するということを止め,努めて多くの国と経済交流を計ろうとする]中国の最近の貿易政策を反映しているといえよう。

一方,中ソ対立の激化によって借款供与の停止,対ソ借款の完済(1965年1月完済)によって減少を続けてきた中ソ貿易は,65年にはいって機械(農業機械,トラック,部品)および鉄鋼,木材,火薬を中心に輪入が増加したが,輸出は前年を下回り,輸出入総額は減少した(第7-9表参照)。最近の両国間の関係からみて,中ソ貿易が大幅に拡大する見込みはない。東ヨーロッパ諸国では,アルパニアのほか,ルーマニア,ポーランドが64年来拡大に転じている。

なお,輸入商品の面では,穀物輸入は66年に前年並みの約510万トン程度の輸入が見こまれるが(FAO推計),米の増産により,これ以上輸入量が増加するとは考えられない。65年には東南アジア諸国,キューバ,日本に対し,約83万トンの米の輸出が行なわれ62年以来の輸出の増勢が続いている。また輸入商品構成の面に示されるもう一つの変化は,鉄鋼,化学品(化学肥料,合成化学品),機械およびプラント輸入が,ヨーロッパ先進国および日本から著増している点である。なかでも鉄鋼および機械の伸びは66年にはいっていちじるしく,第3次5ヵ年計画の発足とともに投資活動が徐々に高まってきていることを示している(第7-10表参照)。

つぎに輸出の面では外貨取得市場として,香港,シンガポール向け輸出が著増している。とくにホンコン市場では,輸出の伸びは66年上半期にはいって若干鈍ったものの,輸入総額の25%以上を中国品で占め,同市場における日中製品の競合関係が強まっている(日本のシェアは17%強)。日中製品でとくに競合が激しいのは,卵,生糸,合板,綿布,セメント,板硝子,棒鋼,ミシン,扇風機,ラジオ,旋盤など一次産品から機械製品にいたるまで広範囲に及んでいる。なお最近中国の輸出品のうち重化学品の伸び率が高まってきていることが注目される。また66年にはいって,日本およびヨーロッパ先進国向け輸出も著増を示しはじめた。

中国の主要輸出品の生産に対する輸出比率は,第7-11表にみられるようにそれほど大きいものではない。しかし,ソ連の経済援助が停止されてからは,国民経済の発展にとって必要な資本財輸入は,すべて輸出規模によって定まるといった事情にある。中国の食糧,衣料消費水準が低水準にもかかわらず,米および綿製品の輸出を増加させ,また輸出商品の多様化や収益性に深い関心を注いでいるのもこうした理由によるものといえよう。

2)日中貿易の推移

日中貿易は第7-3図に示されるように,65年には輸出入総額で4億6,974万ドル,66年1~8月には年率6億4,230万ドル(輸出3億2,830万ドル,輸入3億1,400万ドル)と急上昇が続いている。また,取引形態別にみると,LT貿易と友好取引との比重では,64年に輸出入総額で36.9%対63.1%,65年に38.9%対61.1%と,LT貿易の比重低下がみられる(第7-13表参照)。

これは取引形態の正常化という観点からすると必ずしも好ましいものではない。

輸出入商品のうえで,66年にはいって著増したのは化学肥料,鉄鋼,合繊原料の輸出と米,大豆,塩の輸入で,機械輸出は前年同期をやや下回っている。これは前年同期に各種プラントが集中的に輸出されたためで,こんご機械の伸長如何が輸出規模の動向を大きく左右するといってよい。

第7-12表 中国の国民一人当り繊維消費量

なお,日本の輸出入総額に占める日中貿易の比重は65年に輸出2.9%,輸入2.8%とまだ小さいが,特定の輸出・入商品のシェアをみると,すでにかなり高い比重を占めるものもあって,安定的な日中貿易の発展が期待されている(第7-14表および第7-15表参照)。