昭和41年

年次世界経済報告 参考資料

昭和41年12月16日

経済企画庁


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第6章 東南アジア

4. 物価動向とインフレーション

65年においても,台湾,マレーシアを除くと,他の諸国ではいぜんとしてインフレ傾向を続けた。その主因は赤字財政による通貨の膨張と外貨難から輸入規制を強化した結果,輸入品や消費財を中心に物価が騰勢を強めたためである。経済開発を遂行するため,東南アジア諸国では巨額の開発資金を財政に求めており,またインドネシア,韓国,南ベトナムなどのように軍事費の膨張も財政規模の拡大に大きな圧力となっている。加えて資本財や原材料を中心とした開発資財の輸入もきびしい外貨規制のため困難をきわめており,このため卸売物価は,インド(8.2%増),韓国(10.0%増)やパキスタン(8.3%増)などにおいていちじるしい上昇を示した。

まず台湾については,工業化の進展を反映して,輸入増加のほとんどは機械,輸送機器,原材料および小麦などの輸入増によるものであった。

消費財については,64年に輸入制限の解除があったにもかかわらず,微増に止まった。

カンボジアは粉乳,波形トタン,セメントなどを中心に輸入は増加している。

南ベトナムはベトナム戦争の影響を反映して,鉄鋼,機械,繊維類が著増した。

韓国については,外国援助による輸入は減少したが鉱工業生産の活況を反映して,原材料の輸入増が目立っている。

タイも,機械設備の輸入増がいちじるしいが,国内産業の開発が進んでいるので,石油製品,オートバイ,繊維などの輸入は減少した。

輸入の減少した国は,セイロン(25.3%減)とビルマ(9.2%減)のみであった。

セイロンの輸入減は,64年にみられた食糧と繊維の大幅な輸入増加が減少したことと,原材料や機械に対する輸入規制によるものである。このため65年には前年の貿易赤字(21百万ドル)は31百万ドルの黒字に転じた。

インドネシアについては,公式統計は得られないが,輸出は,石油および石油製品は増加したが,全体としては前年に比べて9%減と推定される。食料品,油用種子の輸出は減少し,ゴム,錫の輸出は比較的良好であったようである。輸入についても統計が入手できないが,相手国側の統計から判断すると,日本,ニュージーランドからの輸入が急激に増加した。とくに日本からの繊維,機械設備,化学製品が伸びている。その半面,アメリカからの金属製品の輸入が激減した。

また消費者物価も食糧生産の低下をみせたインド(9.2%増)やベトナム(16.3%増),韓国(13.4%増),パキスタン(5,4%増)などを中心にいぜんとして上昇傾向が続いている。またインドネシアの首都,ジャカルタでは消費者物価の値上りはいぜんとして衰えをみせず,65年には前年の7倍になり,57年に比べると実に360倍にも達した。しかも66年にはいってからもいぜん衰えをみせず,5月には,1,000倍を超えており,物価騰貴はいちだんと深刻化している。これは巨額の国防費と払底した外貨事情のため,通貨は膨張する一方,食糧不足を含めた消費財の需給は完全に崩れて,消費者物価は加速的に上昇を続けている。このため財政インフレーションは,すでに破局的な段れにはいっているとみられている。しかし,10月の政変の結果,従来の軍事優先の体制から,経済開発優先へと局面の転換が図られ,また軍事政権は極力,事態の収捨に努めているので,その成果は,66年以後のインドネシア経済の方向を左右することになろう。これに対して台湾,マレーシア,セイロンなどでは通貨の膨張が極力,抑えられた結果,物価の上昇は64年のそれを下回わり,安定化の兆しをみせている。また慢性的な財政赤字を続け,30%を上回わる物価騰貴を続けてきた韓国は,64年の豊作と65年における輪入原材料の増大と,それに伴う生産の拡大によって消費財需給がかなり緩和した。加えて金利引締め策がとられたため,物価の上昇率は64年に比べて,かなり鈍化した。

ところがインドの物価動向は64年に比べて若干,騰勢は鈍化したものの輸入原材料の不足や国産農業原料の価格騰貴によって,工業製品を中心に卸売物価は8.2%上昇し,また,これに食糧不足も加わって消費者物価は9.2%の上昇を続けた。しかし66年にはいって,消費者物価の騰勢はやや鈍化した。

これはアメリカからの小麦輸入や金融引締めの影響によるが,またこれには多分に季節的な要因も加わっている。したがって66年第1・四半期の動向が何らインド経済の前途を占うものとはいえないことは,同年6月のルピー切下げにはっきり現われているといえよう。

このようなインフレ傾向はベトナムでもいっそう,深刻な形で問題となっている。このためベトナムでは同じく6月にピアストルの切下げを実施しているが,戦乱の渦中にもあるだけに,その前途はきびしいものと思われる。

またタイにおいては,ベトナム情勢による特需収入増加を主因に,外貨準備が66年5月末現在786百万ドルと61年の2倍近くに達したため,バーツの対米為替相場は強調を続け,市中流動性は大福に増加し,これが最近の物価騰勢を強めていることから,8月にバーツの切上げが断行されている。

第6-5図 東南アジア諸国の貿易および金・外貨準備高の動向

第6-6図 東南アジア各国の物価,財政赤字および通貨供給の増加率


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