昭和41年
年次世界経済報告 参考資料
昭和41年12月16日
経済企画庁
第6章 東南アジア
(1)低下した農業生産
FAOの推計によると,1965/66年の世界の農業生産は,64/65年に比べて0.8%増加した。しかし食糧生産だけについてみると,一部の地域を除いて軒並み減産を示したため,全体として64/65年に比べほぼ横ぱいとなっている。
65/66年における東南アジアの農業生産は64/65年に比べ1.5%減少したが,それは食糧生産の低下(1.5%減)による。
これはインド,パキスタン,南ベトナムなどの食糧生産国における減産が大きかったことを反映しており,それも主要食糧である米の減産が大部分を占めている。
つぎに主要商品別に65/66年の生産動向をみよう。まず米の生産は,東南アジア全体では1億2,200万トンと推定されるが,これ,は64/95年に比べて800万トンの減収である。これは主としてインドにおける減産による。すなわち未曽有の干ばつに襲われたインドの生産は,4,850万トンに落ち,64年に比,べて18%低下した。このため,インドでは深刻な食糧危機を招き輸入や食糧援助によって,これを切り抜けようとしている。またベトナムは戦乱の影響で60年代でも最低の水準に落ちこんでいる。その他の諸国では64年に比べて横ばいか生産を若干増加させたところが多い。
小麦生産は悪天候の影響によって世界の主要小麦生産国において軒並み低下したが,東南アジアでは,とくにインド,パキスタンの両国が,それぞれ12.1百万トン,4.6百万トンで記録的な生産増加が見こまれ,これによって,東南アジア全体の生産量も18.5百万トンとなり他の地域とは対照的に記録的な伸びが期待されている。しかし66年の見通しは2月に襲ったインドとパキスタンにおける干ばつの影響があるので見通しはかならずしも明るくはない。
つぎに雑穀生産は,東南アジアでは,とくに,タイにおいて,とうもろこし,ソーガム(あわの類)の生産が著増して,同地域の雑穀生産の増加に大きく寄与したが,その半面,インドにおけるとうもろこしなどの減産が大きかったため,東南アジア全体の雑穀生産は35.2百万トンと64/65年実績(36.4百万トン)に比べやや低下した。インドにおける減産は干ばつによるところが大きい。
農業原材料ではジュートがパキスタン(120.8万トン)とタイ(31.9万トン)において64年を上回ったが東南アジアの主要生産国であるインドが16%減少(11.9万トン)したため,アジア全体としての伸びは横ばいとなった。
パキスタンの伸びは栽培面積の増加にも促されて記録的な伸びを示した。
これに反してインドの不振は,やはり主として干ばつの影響である。またタイにおいてはケナフの生産が64年における価格の堅調に刺激されて,65/66年には64/65年の24万トンから31万トンに上昇した。
65/66年におけるゴムの生産も64/65年に比べて増加したが,この大部分はマレーシアとインドネシアの小農園における生産増加によるところが大きい。これに対して大農園における生産は両国において横ばい状態であった。
その他のゴム生産国であるタイとベトナムではいちじるしい減少を示している。
綿花の生産はパキスタンが気候条件に恵まれて,65/66年には41.8万トンと新記録を示したが,逆にインドは干ばつのため,60年代にはいって最低に落ち込んだのが対照的である。
つぎに輸出用商品作物をみよう。まず65/66年における茶の生産では,セイロンが22.8万トンで60年代にはいって最高を記録した。しかし,インドは南インドが同様に記録的な生産をあげたが北インドにおける減産がひびいて,インド全体としては64/65年に比べ,やや生産が落ちている。北インドにおける減産は天候異変によるものである。パキスタンも第2次経済計画の目標額(28,600トン)を下回った。インドネシアは外国人所有の農園を接収して増産に努めたが労働力と設備の不足によって思わしくなかったようである。
砂糖生産はインドや台湾を中心に65/66年には東南アジア全体で855万トンが見こまれ,60年代を通じて,もっとも高い収穫が期待されている。しかし主要生産国の一つであるフィリピンでは悪天候の影響で,平年作(200万トン)より70万トンの減産が見こまれている。
(2)増勢を弱めた鉱工業生産
65年における東南アジアの鉱工業生産は64年に比べて8%の増加を示し,低開発国平均(7%)を若干上回った。この結果,60~65年の5ヵ年で51%増と,低開発国平均(42%)を大幅に上回わる伸びを示した。これは,鉱業(49%),製造業(50%)が共に順調な伸びを示したことにもよるが,他の低開発地域と比較した場合,東南アジアにおける,製造業の伸び(50%増)がとくにいちじるしく,これが紙,化学,肥料,金属などにわたる工業生産の多様化によってもたらされている点に特徴がある。言いかえれば,60年代にはいって工業化の領域が拡がり,また,その速度も,それだけ早まってきたともいえよう。このような工業化を背景にして,65年の製造業の伸びは8%で前年と同率に止まったが,これは化学,石油,金属などの重工業部門の伸び(8%増)が鈍化したためである。これは,また64年における電力・ガスの伸び率(11%増)の減少に見合っている。これに対し鉱業の伸びは非鉄金属相場の堅調に支えられて64年と同率(10%)の増加基調を維持した。
つぎに主要国別に65年における鉱工業生産の動向を概観しよう。まずインドについてみると,65年の鉱工業生産の伸びは5.6%で60年代にはいってから,増加率は最低に落ちた。これは製造業の伸び(5.0%)の鈍化によるもので,63年(8.8%)以後,増加率が継続的に下降線をたどっているのが注意される。これは,また,電力の伸び悩み(9.4%増)に対応している。まず停滞気味にある製造業を業種別にみると,綿繊維(0%)製茶(1.7%減)の不振がいちじるしい。その中で合成ゴム(30.0%増),プラスチック(26.5%増),苛性ソーダ(17.0%)など化学製品が比較的好調な伸びを示したに止まる。このような製造業の不振は,外貨不足に基づく原料の輸入難と電力不足によるところが大きい。その結果,第3次5ヵ年計画(1961~65年)の実績についてみても,鉄鋼,化学肥料など目標を大幅に下回わる業種も現われている。これはかならずしも65年の生産不振にのみよるものではなく,むしろすでに63年頃から生産の不振に陥ったためであり,その主たる原因は公共部門における非能率なマネージメントや民間部門における資金難,原料不足など様々な要因が絡み合っている。65年における鉱業は,原油(37.0%増),ボーキサイト(18.5%増),鉄鉱石(13.0%増)を中心に,全体としても8.9%増と比較的順調な伸びを示した。しかし電力不足が数十年来の干ばつのため深刻化し,これが同年の生産活動に大きな打撃を与えたことが注目されよう。
パキスタンの鉱工業生産は1962年以降,増勢が衰えて11にるが,その中で65年の伸びは4.0%に止まり,前年(11.1%増)に比べいちだんと鈍化した。これは,外貨規制に基づく原料輸入の減少と,同年下期の印パ武力紛争の打撃によるもので,この影響は,タイヤ,チューブ,綿紡,セメントなどの製造業(4.0%増)に集中的に現われた。この中で国産原料を使用するジュート繊維,タバコ,化学製品などの業種が順調な伸びを示すなど製造業の中でも明暗の差が目立った。しかし,66年には援助の再開が約束されているので,全体として生産の底入れも間近いものと思われる。また,金属,機器も軍需の拡大によって活況を呈した。しかし印パ紛争による運輸施設の軍需使用や海運の停止は東西に分割された国内の商品流通をいちじるしく阻害する結果を生んだ。このような事情によって鉱工業生産は多かれ少なかれ影響を蒙ったことが65年の特徴といえよう。フィリピンも65年における製造業の伸びはわずかに2.8%増に止まり,64年(8.2%増)に比べて伸びがかなり鈍化したばかりでなく60年代でも最低に落ちている。これには鉱業の3.9%減が大きくひびいているが,また製造業でも機械を中心とする耐久財の生産が,64年の14.9%増に比べて,わずかに0.8%増と極端に不振だった点が特徴として挙げられる。
これにはつぎのような要因が考えられる。すなわち,①同年に行なわれた大統領選挙による投資の全般的な差し控え,②金融引締めによる資金難,③水不足によるる電力の供給難などが,それである。このような要因によって,繊維を始めとする非耐久財の生産も僅か2.6%増に止まり,伸びとしては60年にはいって,いずれも最低の水準に落ち込んでいる。繊維の不振は良質,安価な外国品の大量密輸にも原因があり,歴代大統領の密輸規制にも,かかわらず,実効はあまり現われていないのが現状のようである。
タイ,マレーシアおよびインドネシアについては,65年の生産統計は得られない。その中でとりわけインドネシアは慢性的な外貨危機によって,工業化に必要な原材料や資本財輸入が思うにまかせず,このため,製造業は全般にいちじるしく停滞している。このような状態では,投資ば,製造業よりも15%から20%といわれる利益率の高い商業,流通部門に向う傾向にある。58年において,国民所得の13.3%を占めていた製造業が,65年には11.9%に低下を示していることは,同国における,このような製造業の低迷状態を端的に表現しているといえよう。
韓国における鉱工業生産は65年において,17.5%と前年(8.0%増)をはるかに上回り,60年代にはいって,最高の伸びを記録した。これは同年の国民総生産の伸びを(8.0%)支える起動力となった。この中で製造業の伸びは20.3%を記録し,従来,最も高かった62年の伸び(16.4%)をも更新している。これは,①繊維,印刷,出版,合板,などが内外の需要増と,原料の確保によっていちじるしい伸びを示したこと,②陶磁器,セメント,運輸機器が旺盛な投資需要に支えられて活況を呈したこと,③精油所の新増設によって石油製品の増大がみられたことなどが,その要因となっている。また近年停滞気味にあった消費財工業も個人消費の上昇に支えられて,大きな伸びを示した。電力部門も,このように消費,設備需要の増大によって20.4%と前年(22.6%)につぐ伸びを示した。65年において,このように活発な投資活動を招いたのは,5ヵ年計画の下で外資や財政投資が輸出産業や輸入代替をもたらす基礎産業に集中的にふり向けられたためとみられる。
これに反し鉱業の伸びはわずかに3.9%で60年にはいって最低に落ちた。
これは,タングステン,黒鉛,螢石,銀などの輸出不振のためいちじるしい減少を示したことによる。
台湾は,64年において異常な上昇(26.3%)を示した後だけに65年における増加率(5.8%)の鈍化が目立った。この内訳をみると,製造業が13.7%,電力・ガスが8.4%,鉱業が6.8%で,おおむね順調な伸びがみられる。製造業の構成をみると食品と繊維がそれぞれ17.5%を占め,いぜんとして製造業の中で中心を示しているが,生産の増加率からみると,自動車組立(81.5%)や造船の著増に支えられた運輸機器や肥料,薬品の需要増による化学製品(32.4%)の重要性が増大している,また国民所得の増加や生活水準の向上に基づく電気機器の伸び(28.1%)も大きく,この面でしだいに軽工業から脱皮していく傾向がみられる。これに対し,繊維は綿紡(4.4%増)を除くと輸出の増大,設備の近代化や品質改善などにより顕著な増大がみられる。食品加工も製糖,罐詰などの輸出増加によって着実に増加(9.4%増)した。鉱業では64年に比べて石油(115.1%増)と天然ガス(82.8%増)の増加が目立つが,とくに天然ガスの増加は,新鉱床の開発によるもので,工業原材料や燃料など用途が広いだけに,今後,急速な増加を期待される。これに伴なって,石炭の地位(0.5%増)は低下している。