昭和41年

年次世界経済報告

昭和41年12月16日

経済企画庁


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第2章 1960年代における先進国の経済成長

1. 高成長持続の先進国経済

欧米先進国は1950年代にかつてないほどの高い経済成長を達成したが,60年代にはいっても,これまでのところ50年代をさらに上回る高成長を続けている。OECDの発表によると,OECD加盟21ヵ国の国民総生産は60~65年に年平均4.9%の伸びを示した。この成長率は,50年代全体の平均成長率4,3%を上回っただけでなく,戦後復興需要のためにとくに成長率の高かった50年代前半の5.2%にかなり近いものであった。また,61年にOECDが60年代の目標成長率として打出した年平均4.1%も大きく上回った。

50年代の経験を振りかえってみると,前半は戦後復興要因が大きく作用して成長率が異常に高かったが,この要因の消滅した50年代後半になると,成長率も低下して,しだいに歴史的,長期的な平均成長率へ近づいた(日本を除くOECD全体の成長率は前半の4.7%から後半の3.2%へ低下)。もちろん,50年代後半には貿易自由化の進展が貿易の拡大と投資の刺激を通じて経済成長に寄与したが,この貿易自由化も50年代末にはほぼ一巡しており,そのような事情から先進国の経済成長率は60年代には鈍化するであろうという見方が一般的であった。戦時中に開発された新技術の産業界への適用という形での技術革新も,50年代末までに一巡したという見解もあり,これもまた鈍化説を支持する一要因となっていた。

ところが実際には,前述のように60年代前半の成長率はむしろ異常な高成長といわれた50年代前半にほとんど匹敵するものである。この点はたしかに注目に値いする事実であり,もしも60年代前半の高成長が後半にも続くようであれば,60年代は先進国の経済成長にとって黄金時代となろう。

それでは,60年代前半における先進国の高成長は何によってもたらされたのであろうか。この問題に対する解答の手がかりとして,国別にみた成長パターンとその変化をみてみよう。

国別の成長率の変化で,まず第1に指摘される特徴は,各国の成長率がかなり接近して,国別の較差が小さくなったことである。50年代においては,いわゆる高成長国グループと低成長国グループとのきわだった対照がみられ,前者に属する国は日本を始め西ドイツ,イタリア,フランス,オーストリア,オランダなどであり,後者はイギりス,アメり力およびベルギーであった。これを50~60年間の平均成長率でみると,高成長グループの年平均成長率は日本10.9%,西ドイツ7.8%からフランスの4.5%までとひじょうに高かったのに対して,低成長国グループではアメリカ3,2%,イギリス2.7%という低さであった。

ところが,60年代にはいってからは様相が一変し,日本がいぜんとしてトップを占めていることに変りはないが,50年代の高成長国であった西ドイツ,イタリアおよびオーストリアの成長率が低下したのに対して,イギリス,アメリカなどの低成長国を含む他の諸国の成長率がすべて高まったため,先進国間の格差がいちじるしく縮小し,ほぼ年平均4~5%の線に肩をならべるにいたった。60年代前半の平均成長率が4%を割ったのはイギリスだけである。そのイギリスにしても,60年代前半の年平均成長率3.3%は50年代の2.7%に比べるとかなり高い。

以上のように,国別の成長パターンでみるかぎり,60年代前半におけるO ECD諸国全体としての成長率が高まったのは,①西ドイツやイタリアのような重要な例外があるとはいえ,他の西欧諸国の成長率がいずれも高まり,その結果,西欧全体として50年代の高成長を維持しえたこと,②アメリカの成長率が50年代の平均3.2%から60年代前半の4.5%へと,いちじるしい高まりをみせたことによる。とくにアメリカは,OECD全体の国民総生産の53%(64年実績)を占めているだけに,その成長率の変動がOECD全体の成長率に対して大きな影響を与えている。

第8表 先進諸国の経済成長率

このように,欧米先進諸国の経済成長率が高まった理由の一つとして,この時期に景気変動が比較的少なく,いわば持続的成長を達成しえたという事実も見逃がせない。すなわち,50年代においては,朝鮮動乱ブームの反動不況(52年)と58年に,ほぼ世界的な規模での景気後退があったのに対して,60年代前半にはそれと比較できる社うな大規模な不況現象がなかった。

さらに,主要国の景気循環局面にずれがあったことも,欧米全体としての経済成長を比較的安定的なものにした。すなわち,60年代の始めには,アメリカは軽度の景気後退,西欧はブームという米欧間の景気局面のずれがあり,その後は西欧内部で主要国間に景気局面のずれがみられた(第32図参照)。たとえば,61~63年には西ドイツの成長率がしだいに鈍化したのに対して,フランス,イタリアの成長率は高まり,さらに,64~65年には逆にフランス,イタリアが景気後退を経験したのに対して,西ドイツは力強い拡大を示した。さらに,66年になると再び情勢が逆転し,西ドイツの景気鎮静化に対して,フランス,イタリアが活発な景気上昇を続けている。このように,西ドイツとフランス,イタリアの景気局面のずれが,EEC全体としての比較的安定的な成長を持続する要因となっている。


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