昭和40年

年次世界経済報告

昭和40年12月7日

経済企画庁


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第1章 世界経済の成長と循環

1. 世界経済の成長と景気の現局面

(1)成長の持続と景気局面の多様化

序章で指摘しておいたように,1964~65年における世界経済の成長は,全体としてみると,かなりのテンポですすんだといえる。

これはアメリカ経済の高度成長の持続と西ヨーロッパ全体としての拡大継続が主因となっているが,64年と65年とではかなり様相がちがう点に注意すべきである。64年のOECD全体としての成長率は,実質5.8%という,55年,59年につぐ高率を示しており,64年が工業諸国の成長率の循環的ピークの年であったことがわかる。しかし,65年には,アメリカの成長率がやや鈍化し,西ヨーロッパの成長率もかなり低くなり,また,日本の成長率も大幅な低下が予想されるので,OECD全体としての成長率はおそらく鈍化するものとみられる(65年8月現在のOECDの見通しによれば,65年の成長率は4.3%程度としている)。

もちろん,この65年の4.3%という成長率も過去の指標からみればかなり高く,いちおう満足すべき成長率であることに変わりはない。近年,工業諸国の成長率は50年代後半よりも高まる傾向にあり,これは,世界主要地域の平均成長率を50年代前半,50年後半および60年代前半について示した第3表から明らかである。

これに対して,低開発国の成長率は50年代前半から長期的には低下傾向をみせており,社会主義諸国についても,60年ごろから鈍化傾向が出てきているが,世界の経済活動の水準と景気循環に決定的な役割を果たすものは先進工業国であり,その成長率の高まりが64~65年の世界的活況を導いたといえる。

60年代における先進国の成長率の高まりは,次節で述べるように,アメリカの成長政策の成功によるところが大きいのであるが,戦後の期間をふり返って,世界経済が比較的順調な拡大を続けることができたのは,一つには,各国のとった経済政策が戦前に比べて景気変動の振幅を小さくし,資源の完全利用を達成する方向で策定実施されたからである。また,国際的な協力関係が,とくに先進国間で進んだこと,貿易為替の自由化が世界貿易を拡大させたことが,各国の成長を促進したといえる。

この各国の拡張的政策と貿易自由化がうまく結びついて,世界経済の比較的安定した成長を実現することができた一つの理由としては,各国の景気局面の間に相当のずれがあり,貿易を通じて相互にならし合う形をとったことも見逃せない。1957~58年には,戦後はじめて主要な先進国の景気後退の時期がほぼ一致し,先進国だけでなく,低開発国にも大きな影響を及ぼしたが,その後,60年代には,景気のずれがまた拡がって,世界的な経済成長の安定化に寄与している。

第8図は,工業国14ヵ国の鉱工業生産,および工業国と非工業国38ヵ国の輸入について作成したディフュージョン・インデックスである。世界全体の動きをとらえるためには,各国の経済規模でウエイトをつけた総合指数を用いればよいが,景気の国際的波及という観点から世界景気の浸透度をみるにはディフュージョン・インデックスが便利である。

まず鉱工業生産をみると,主要工業国7ヵ国については,比率が低下している時期は48~49年,51~52年,53~54年,57~58年,60年の5回である。他の7ヵ国を加えた工業国全体でみると,大きな循環変動を示しているのは朝鮮動乱の反動不況期(51~52年)と,世界的景気後退期(57~58年)の2回だけであり,60年にはいってからは高水準が続いている。

ここで特徴的なことは,比率が50%の水準へ低下するか,またはそれを割った時期は,全体としてみればごく短期間で終わったということである。各国経済の拡張期が長く,後退期が短かったことと,各国の景気変動のパターンやタイミングの相違による景気の相殺作用があって,世界経済が大きな落ちこみもなく発展したことを示している。国際波及をもっと直接的に示す輸入では,比率は生産のばあいとほぼ対応して変動するが,振幅は大きく,51~52年と57~58年には50%水準を大きく割りこんでいる。

ここで注意すべきは,工業国と非工業国の比率が,全期間を通じて,ほぼ半年間のタイム・ラグをもって変動していることである。これは先進国の景気変動が原料供給国である非工業国に,貿易面で半年のずれをおいて波及することを示している。

このように,先進工業国がそれぞれ高い成長を達成し,景気の波を相互に相殺し合って発展したことは,先進国間のみでなく,一次産品を輸出する低開発国に対しても好影響を与えたのであり,世界経済の拡大を持続させるのに力あった。

(2)主要工業国の成長と景気変動パターンの特徴

世界経済の安定的成長を達成するためには,まず各々の国が成長率を高め,景気循環の波を小さくすることが第一である。このために,各国の景気局面のずれが有効にはたらいていることは上に述べた。つぎに,世界の主要工業国が成長と循環の点で,戦後どのようなパターンを示してきたかをみよう。

第4表は,世界経済が,戦後復興期と朝鮮動乱を経て,ほぼ平常の状態に復した1953年から64年までの期間につき,主要工業国の経済成長率と変動の振幅(対前年比の標準偏差)を比較したものである。この表からわかるように,成長率と変動の振幅の間には,「山高ければ谷深し」という一義的な相関関係はない。分類すれば,つぎの四つのタイプとなろう。

① 成長率も変動の振幅もきわめて大きい(日本)。

② 成長率の高い割りには変動の振幅はかなり小さい(EEC諸国)。

③ 成長率も変動の振福も,きわめて小さい(イギリス)。

④ 成長率は低いが,半面,変動の振幅は大きい(アメリカ,カナダ)。

このような各国それぞれの変動パターンが,戦後の期間にわたって,どのように変化し,現在の景気局面にどのように関係しているかを明らかにするため,第9図を描いてみた。

各国の景気局面はそれぞれ異なっているから,画一的な期間分割はむずかしいが,48年第1・四半期から65年第2・四半期までをほぼ等分に4分割し,各期における鉱工業生産の成長率と変動の振幅とを比較した。一般的にみて,第1期(48~52年)には戦後復興期という性格に朝鮮動乱が重なって,成長率と変動の振幅いずれもきわめて大きいが,その後の時期には国によって異なった変化を示している。

西ドイツでは,成長率と変動の振幅の双方が期を追って低下しており,日本は成長と振幅の間に明瞭な共変関係が認められる。しかし,他の国のばあいはそれほど明瞭にあらわれていない。

1961年第1・四半期から最近までにいたる第4の期間をとってみると,まず従来,低成長,大振動型であったアメリカが,成長率は前期より倍増,変動の-振幅は逆に3分の1以下に減少し安定的な高い成長を続けており,カナダもこれと似た経過をたどっている。西ドイツの成長率は他のEEC諸国と同じ高さにまで下がったが,変動の振幅はいちじるしく小さくなった。これに対し,イタリアは,第3・四半期まで成長率を高めてきたものが,64年初めから大きな景気後退に見舞われ,成長率の低下と振幅の増大を示した。この時期にとられたイギリスの成長政策は,成長率のいくぶんの上昇と,振幅の多少の低下をもたらしたが,大勢を大きく変えるにはいたらなかった。

図に掲げた国々を全体としてみれば,最近は変動の振幅が減少し,工業国の経済成長はそれだけ安定度を増したといえるし,景気局面の多様化と相まって世界経済の拡大を持続化・安定化させる作用を果たしているのである。


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