昭和38年

年次世界経済報告

昭和38年12月13日

経済企画庁


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第2部 各  論

第4章 国際商品の動き

6. 補償融資スキームの展開

前項にのべたように,商品協定による一次産品貿易対策には多くの難点がある。最近,これを補うものとして,輸出変動に対する補償融資スキームがクローズアップされた。すなわち1961年国連の専門家グループにより開発保険基金DIF(Development Insurance Fund)設立案が提出され,また続く1962年には,OAS(米州機構Organization of American States)専門家グループによる別の試案が提出された。これらの制度ば主として低開発国の輸出額が急激に減少したばあい,その損失を相殺,補償するための資金を供与して国内開発計画の遂行を外貨収入の変動による影響から守ろうとするものである。国際収支の悪化に対しては従来もIMFによる融資が行なわれているが,補償融資スキームは,一定の数学的なフォーミュラによって自動,的に資金供与を行なおうとする点で異なっている。

国連の商品貿易委員会CICTはこの問題に関する作業部会を設けて,上記二案の実行上の問題点,効果などにつき検討を加えるとともに,IMFに対しても,本問題に対してどのような措置をとりうるか検討かたを要請した。

その結果63年初めの委員会に上記二案に関する報告書が提出され,また,ほぼ時を同じくして,IMF理事会により,貸出政策緩和措置の発表をみたのである。しかるに前記二案は,財源上の不安や,長期的な一次産品輸出の不振を補償するには不十分であるという欠点があるため,両案とも先進国,低開発国いずれの側からも支持をえられず,結局,CICTとしてはIMFの新措置の効果を見守るとの結論に達した。その後開かれた国連貿易開発会議の第2回準備委員会でもこれら諸案を検討の結果,大勢としては上記CIC Tの結論に従うこととなった。けれども上記報告の内容は1950年代(1953~61)について,補償融資を行なった場合の効果,問題点を実証的に分析したものであり,今後補償融資問題を考える上できわめて示唆にとんだものといえよう。

(a)DIF設立案

まずDIF設立案についてみると,その骨子は①加盟国は基金に保険料(Premium)を払込む一方②ある年の商業輸出額が基準輸出額(前数カ年の商業輸出額の平均)を下回ったばあいには,基金からこの損失の一定割合を補償するため,資金が自動的に支払らわれる。③この補償資金の性格は贈与,貸付,両者の併用などの案が考えられており,貸付の場合は,輸出額が基準額を上回った年に,その一定割合(上記の補償割合と同率)を返済する義務を負う。しかしこのような貸付であっても3年たって返済できない部分は贈与として扱われる。前記CICT作業部会は基準輸出額の算定方法,基準額との差額に対する補償(返済)割合,補償資金の性格などについてさまざまのケースを組合わせ15のスキームを作成しその効果を検討した。その結果もっとも意味があると思われたのは第4-10表にかかげるスキームNo.5で,これによると1953~61年の加盟32カ国の損失累積額は113億ドル,これに対する補償資金支払額61億ドル,その大部分は低開発国向けとなっている。

また上記61億ドルの補償融資中,返済されず結局贈与となる額は24億ドル,その全額が低開発国向けのものである。しかるに上記24億ドルに対する先進国負担分は17億ドル(輸出額基準)ないし19億ドル(国内総生産基準),他方低開発国負担分は7ないし5億ドルにすぎない。このような負担額と受取り額との国によるアンバランスはDIF案の保険的性格を示しているが,それはまた,先進国にとって新たな負担増加を示すものともいえよう。

第4-10表 DIF案スキームN0.5の効果想定

(b) OAS案

本案は基準輸出額との差額の三分の二を補償するものである。資金供与が数学的フォーミュラにより,自動的に行なわれる点はDIF案と変わりない。しかし,資金の供与先をはじめから低開発国に限定していること,最高期限5年で返済という完全な貸付方式によっている点で異なる。

ところで,本案のような完全な貸付方式では,輸出額が傾向的に低下するような場合この分についてまで融資することは理論上不可能となる。このような場合にあえて融資するならば,借入国は期限到来の際,返済に大きな困難を感じ,その外貨収入の安定性はかえってそこなわれるであろう。補償融資の対象は,輸出トレンドをめぐる短期の変動部分についてのみなされるべきであり,したがって,基準輸出額はその国の輸出トレンドを反映するものでなければならい。

以上のような見地から,CICT作業部会は輸出基準額の算定に当って,現年度に50%,前2年度に各25%のウエイトを付した加重平均値を採用したところ,これが,前3カ年の単純算術平均をとる当初案よりもトレンドをよりよく反映し,かつ,外貨収入の安定性をもたらす点で望ましいことを実証した。しかし,かかる方式をもってしては,従来憂慮されてきたような長期的な一次産品価格の低落による輸出不振に対処しえないことは明白である。

(C)  IMFの補償融資措置

IMFは,前記CICT作業部会との密接な協力のもとに補償融資問題について検討を進めてきたが,上記商品貿易委員会の報告が提出された直後,2月の理事会で,一定の条件のもとに従来の貸出政策を緩和することとした。

すなわち,①輸出収入の減少が短期的な性格を有し,かつ当該国の統制の及ばざる事情により発生したものであること,また,②当該国がこうした支払上の困難解決のためIMFと協力するものと認めた場合には,従来の貸出枠(クオータの12.5%)のほか,クオータの25%までを限度とする融資を認めることとしたのである。このようなIMFの新措置は,自動的な資金供与ではないという点で,前記二案より後退したかたちであるが,ただちに実行可能な現実的な案として,商品貿易委員会においても先進国,低開発国双方から好意的に受けとられた。従来補償融資については,否定的な態度をとってきたIMFが,一次産品問題,低開発国貿易問題についてこのような積極的な方策をうちだしたことは高く評価してよく,補償融資問題は,IMFの今後の経験にてらした上で発展せしめらるべきであろう。


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